ティム・ブッチャー記者の最新の記事はあまりに痛々しくて今は読めないのだが、彼によるひとつ(かふたつ)前の記事が、イスラエルの一方的武力行使停止宣言時にわかっていた「事実 facts」をまとめたものとしてかなり参考になったので、以下に。なお、この記事はエルサレム発になっている。
Israel's assault will leave a festering wound of resentment
By Tim Butcher in Jerusalem
Last Updated: 9:29PM GMT 17 Jan 2009
http://www.telegraph.co.uk/news/worldnews/middleeast/israel/4280073/Israels-assault-will-leave-a-festering-wound-of-resentment.html
ブッチャーの記事は次のような構成になっている。
まず、今回の攻撃でのパレスチナの人的被害の数値:
3週間にわたり、イスラエル軍はガザ地区を、1967年の6日間戦争(第三次中東戦争)以来見られなかった激しさをもって、重砲火で攻撃した。
パレスチナの病院関係者は、1,100人を上回る人々が遺体安置所への門をくぐるのを数えている。うち350人以上が子供で、女性は少なくとも80人。
さらに多くが、イスラエルの空爆にやられた建物の瓦礫の中や、地上戦が激しすぎて救急隊員によって回収されえない場所で、(死者数に)数えいれられぬまま、横たわっている。
パレスチナの死者のなかには、13人の救急車のクルーがいる。運転手や救急医療師、そして医師が少なくとも1人。
イスラエルが「敵」として認定しているミリタントなイスラム主義の集団、ハマスの幹部も何人か殺された。その中には、何人なのかわかっていない「兵士 (troops)」も、 事実上の内務大臣であるサイード・シアム (Said Siam)が含まれている。
死者数については、今日明日にかけてまたぐっと増えるだろうと思われる。例の「3時間の攻撃停止」の時間に何十体も掘り出されたという報道が何日か前にあったように、瓦礫の中に埋まったままになっているご遺体が多いからだ。また、病院に入院している重症患者が亡くなるケースも続出するだろう。そういったことは既にガーディアンの記事にも出ている(この記事もあとで紹介します)。
続いて、「戦争犯罪」の側面と国際関係について:
学校や支援物資配送本部など、はっきりと目印のつけられている国連施設を砲撃するなど、何件もの事例のあと、イスラエルは戦争犯罪で糾弾されている。
その行動は、欧州からイスラエルに対し意外なほど高いレベルの国際的非難を引き起こした。しかし米国は頑としてイスラエル(そのユダヤ人国家)を支持している。
ジョージ・ブッシュ政権は、その最後の数日間で、のっぴきならないほどはっきりと、「イスラエルを断固支持するアメリカ」という焼きごてをホワイトハウスに押していった。バラク・オバマの政権で中東政策が変わるかどうかという点については、政権の要に並んだ顔ぶれから判断するに「あんまり変わらないんじゃないの」と思っていたのだが、国連に対する攻撃とか医療機関に対する攻撃など、もうほんとありえないことが行なわれたので、さすがにちょっと変わるんじゃないかという気がしている。もし変わったとして、そのためにこんなことが必要だったのかというところで、非常にもやもやするけれども。
それから、ハマス側の行動について、およびイスラエルの死者数について:
ガザ地区内部のパレスチナ人ミリタントは、この作戦の間じゅう、ロケット弾をイスラエルに発射し続けてきた。ただし日毎の率としては、この3週間の作戦の期間におおよそ3分の2に減少している。
また、この3週間でイスラエル側は13人の死者を出した。兵士10人と一般市民3人である。
歴史家たちがガザにおける21日間の紛争から掘り出すことのできる議論の余地のない事実としては、こんなところだ。
以上が「事実」の列挙。以下は分析を含んだ今後の展望である。
議論が百出するのは、イスラエルによって、またハマスによって達成されたのは何かという点である。
イスラエル情報筋は数日前に、(パレスチナの)ミリタントがイスラエルにロケット弾を撃ちこむのをやめるということは「まず考えられない」と述べた。
イスラエル軍は、貯蔵されている(ハマスの)ロケット弾の「一部は破壊したがすべてを破壊したわけではない」と評価している。つまり、さらなるロケット攻撃が予想されてしかるべきである。
これらと同じ情報源が、キャスト・レッド作戦で殺されたハマスのメンバーの数がイスラエルの推計の最大値、つまり600であったとしても、武装したミリタントは19,400人も残されていることになる、とも述べている。
つまり、あれだけやってもハマスには大打撃を与えてはいないのではないか、という観測。
しかしながら、「やる時はやる」ということははっきり示せたではないか、という声がイスラエル内にはあるらしい。そのことについて:
イスラエルはガザで重砲火を使うことを差し控えたことなど一度もないのだということを考えれば、この議論はあまり説得力のあるものとは感じられない。 実際、イスラエルは2005年以降、1,400人のパレスチナ人を殺してきた。
この「1,400人」というのは直接的に手を下して殺してきた人数で、ほかにもイスラエルという国家がじわじわと、真綿で首を絞めるように苦しめている人たちはこの何十倍にのぼるし、その結果、本来なら死なずにすんだ人も死んでいるかもしれない(薬がない、などの事情で)。
ブッチャーの記事は最後のまとめで「国境の封鎖」について述べている。
この戦争でキーとなる帰結のひとつは、そしてその成功を判断するのは時期尚早であるのだが、ガザとエジプトとの国境の封鎖が見込まれているということだ。
もし、イスラエルが望むように、最終的に国境が封鎖され、イスラエルを傷つけるために使用される可能性のある物資や兵器、武器の密輸がストップしたら、キャスト・レッド作戦は重要な帰結をもたらしたと言ってもよいだろう。
イスラエルがこうなることを望んでいるのは確実であり、米国や英国、欧州諸国に対し、国境封鎖を実現する方向での提案を重要視してきた。
しかし歴史家たちは、エジプト国境を封鎖することによって、1948年以降ガザ地区のパレスチナ人が感じてきた、まだ生々しい感情の傷は、 いまだ癒えていないのだということをも知ることになるだろう。
……後略……
この「封鎖」が解除される方向に動くという希望は、イスラエルの同盟国である米国と「特別な関係」にある(あった)英国に託すしかないのかもしれない。英メディアを読んでいる限りは。(つまり、フランスやエジプト、トルコについては私はほとんど何も把握していません。)
イラクの経済封鎖を実行し続けたゴードン・ブラウン、イラク戦争を推し進めたゴードン・ブラウンにその「希望」を、というのは……控え目に言っても、暗澹たる気持ちだ。「そこだけは頼むから」という部分のストッパーとしてブラウンに「希望」をかけるとは。そして、そんなものは何ら根本的な解決(つまり「占領」の終了)にならないということをわかっていながら。
明らかに「過度の武力」で応じたイスラエルに対し、「過度の武力」と述べたEUやフランスはスルーされた。それを口にしてこなかった英国の足場は、今のところ、まだ固いだろう。そう思えばこそ。
タグ:2008年12月ガザ攻撃
※この記事は
2009年01月19日
にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。
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