「なぜ、イスラム教徒は、イスラム過激派のテロを非難しないのか」という問いは、なぜ「差別」なのか。(2014年12月)

「陰謀論」と、「陰謀」について。そして人が死傷させられていることへのシニシズムについて。(2014年11月)

◆知らない人に気軽に話しかけることのできる場で、知らない人から話しかけられたときに応答することをやめました。また、知らない人から話しかけられているかもしれない場所をチェックすることもやめました。あなたの主張は、私を巻き込まずに、あなたがやってください。

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2008年12月29日

【ガザ空爆】あの空爆の意味――BBC分析、ガーディアン社説など

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一つ前のエントリを翻訳している間の進展をいくつか。

BBC, 今回の軍事作戦についての中東エディターの解説。

Israelis look for knockout blow
By Jeremy Bowen
BBC Middle East editor
http://news.bbc.co.uk/2/hi/middle_east/7802477.stm

イスラエルは、ガザ地区からのロケット砲の射程圏内に住むイスラエル人を守るため、「新たなセキュリティ環境 a new security environment」を作りたいのだと述べたそうです。ある高官によると、イスラエルは、もう二度とイスラエルに砲撃しないよう「ハマスの民兵たちを中立化する」ことを求めているとのこと。

(「中立化」ってのは、何のユーフェミズムですかね。「無力化」? それとも「殲滅」? それと、2005年でしたっけ、2006年でしたっけ、イラクで「IED」が問題視されて、いわば「IED脅威論」みたいなふうに展開したことを思い出します。英国の右翼メディアが、それまではダーティ・ボムだのなんだのと言っていたスペースで「IED」を語る、みたいになっていて……確かにIEDは大変な被害をもたらしていたのだけれど、IRAのカーボムの波状攻撃と銃撃を受けていたイングランドの右翼メディアがこんなものでうろたえるなんて、と意外に思いました。)

BBC記事によると、空襲は、可能な限り多数のハマスの戦士を殺し、ハマスがガザ地区を掌握して以来築き上げようとしてきた権力と統治の基本構造を破壊することを目的としていたそうです。

ピカソの戦争戦士を殺すことは、100億歩ほどゆずって、よしとしましょう。つまり、「これは戦争だ」と前提します(無理やり)。しかしそこで生じるのは、そのときに戦士以外に誰を殺すのか、という問題と、「都市のインフラへの攻撃」という問題。ていうか、「都市町村の恣意的な破壊」は戦争犯罪でしょう。実際、警察学校の卒業式に出ていた警官が何十人単位で殺されています。イスラエルは「ハマスのミリタント」と言い張っていますが、ハマスのメンバーであり、なおかつ警官ということを問題にしたいのなら、使うべきはF16とミサイルではないはずです。そんなに「ミリタント」が問題だというのなら、彼らがHamasの武装組織であるIzz ad-Din al-Qassam Brigadesのメンバーで戦闘員であるということを証明すべきです。

BBC記事は続きます。土曜日の攻撃は中東紛争では前代未聞の規模のもので、これまでは事前に予測されて「ミリタントの拠点」は攻撃したときはもぬけの殻だったといったことがあったが、今回はそうではなかった、と。そしてそれを成立させたのは、clever psychological warfareによる準備だった、と。

オルメルト首相がアラビア語のマスコミに対し、ハマスがロケット砲攻撃を止めなければ流血になると警告し、一方で同時に報道官らが「戦争の計画は内閣の承認を得ていない」と記者に語り、その実、内閣の承認は既にでていた、と。こうして、まだもぬけの殻になっていない施設を攻撃することに成功した、と。

また、イスラエル軍は予備役を招集しており、つまり地上部隊投入の準備が進んでいる、と。それがどの程度の規模でどのくらいの期間になるかはわからない、と。

そして、今朝のイスラエル情報機関のブリーフィングでは、ガザ地区のパレスチナ人の多くが、ハマスには辟易している、と語られた、と。

……これはclever psychological warfareなんですかね。"Better dead than red" かよと思いますけど。ていうか、ハマスに辟易としているというその人たちは、イスラエルの戦闘機とかミサイルとか経済封鎖とか検問所とか壁とかにはもっと辟易としていると思います。

BBC記事の最後の方に、米国の動きについての観測があります。観測だから、奥歯に野沢菜の筋が詰まったみたいな言い方になっているけれども。
The United States is already providing its usual diplomatic cover for Israel at the UN.

But a new American President is sworn in next month. As President, Barack Obama will give Israel firm support.

But he will not want to take office in the middle of a raging crisis in the Middle East.


(「オバマ=反ブッシュ=反戦」っていうイメージで薔薇色の未来を想像している人がもしいたら、首席補佐官がラーム・エマニュエルだということを思い出してください。中東問題に関しては現政権の方針をそのまま引き継ぐと見るべきでしょう。)

次。ガーディアン社説。

Killing a two-state solution
Editorial
The Guardian, Monday 29 December 2008
http://www.guardian.co.uk/commentisfree/2008/dec/29/israel-palestine

Two-state solutionはもうありえないということはかなり前から言われていたことですが(オスロ合意を何らかの基準とする立場の人たちは今もtwo-state solutionを前提にしているかもしれないけれども)、ここまではっきり言い切っているのはあまりないかもしれません。

概要:
土曜日午前11:30に攻撃が開始されてから、何人の一般市民が死亡したのかを私たちは知らない。というのは、イスラエルは外国の記者もイスラエルの記者さえも、ガザ地区に立ち入らせないようにしているからだ。しかしそれでも、今回の空爆がガザ地区においてはこの40年間では最大の死者を出したことは知っている。230人以上のパレスチナ人が死亡した。昨晩までに死者数は290近くにのぼり、700人以上が負傷している。これは、6ヶ月間に1人のイスラエル人を殺したハマスのミリタントのロケット砲数百発への返答である。換算式はいつもこのような感じだ。

私たちはまた、土曜の昼間、貧しいガザ地区の街路が人であふれているときに攻撃することを選択したことは、人命などどうでもいいということを示しているのだということも知っている。イスラエルはハマスに人命軽視だと非難をし、同じことをしている。自爆者がカフェや商店で今回の件の返答をするときには――必ずそうするだろうが――、イスラエルは恐怖 (horror) に包まれるだろうが、この週末にイスラエルの戦闘機がガザ地区に流させた血のことは思い浮かべもしないだろう。リヴニ外相は、ロケット砲攻撃をやめないのならハマスを妥当すると声高に警告している。しかしリヴニ外相もバラク防衛相も、150万人がひしめきあう狭い土地の100の標的に100トンもの爆発物を降らせた張本人である。まさにイスラエルは、テロライズ (terrorise) したのだ。

四肢を吹き飛ばされた子供たちの遺体を見たガザ地区の学者、ハイダー・イード博士は、ハアレツのジャーナリストであるアミラ・ハスにこう語っている。「11:30などという時間を選んで市街地を爆撃するなど、何ということか。殺戮の規模を最大限に大きくしようと意図したののだ」

標的はハマスの武装組織の訓練キャンプではなかった。それらは空爆時には誰もいなかった。標的は警察署だった。ハマスが行政の基盤とし、同時にミリタリーの基盤としているインフラストラクチャーを破壊することを意図した攻撃だった。しかしそれは、ロケット砲を組み立てて発射するミリタントだけではなく、警察官を殺すということを意味している。きっと判事も役人も、医師も標的にするということを意味しているだろう。

リヴニ外相は西岸地区のパレスチナ自治政府との交渉役だ。彼女はパレスチナ国家樹立という目標に、他の政治家たちよりも多くの政治的資本を注ぎ込んできた。外相が、人口の半分の指導部を物理的に殲滅しようとすることで穏健なパレスチナ国家を作るための道を切り開いていると考えているのだとしたら、勘違いもはなはだしい。ガザ地区ではハマスへの支持は衰えてなどいない。イスラエルの封鎖政策の結果だ。ハマスへの支持は今回の空爆の結果としてさらに上昇しても当然だ。パレスチナには常に、イスラエルに対する妥協を一切許さないという強硬派の勢力があった。これまで長きに渡ってそれはファタハに代表されていた。イスラエルにもまた、パレスチナ国家というものを拒否する勢力がある。入植者の多くはそうだ。こういった強硬派を殺すことによって解決方法が見つかると考えることは、中東の歴史がどう流れてきたかを否定することである。ハマスのロケットに対して、軍事的な解決方法などない。地上軍を投入したところでロケット攻撃は止まないだろう。しかし地上部隊が展開すれば、ハマスは東エルサレムのパレスチナ人を使う戦術に出るかもしれないのだ。

ハマス指導部はまた、勝ち取ろうとしてきた条件をついに手にしている。11月にエジプトから交渉の話があったがそれを拒否し、イスラエルの国境の軍ポストを攻撃するためにトンネルを掘り、イスラエル領内に数百ものロケット弾を撃ち込んでいる。ハマスの戦術と戦略は、レジスタンス以上でも以下でもない。しかしながらこれはパレスチナ人を団結させるものではないし、ハマスにPLO内での居場所を与えることもない。それはパレスチナ指導部内部の危機を深刻化させうるだけだ。パレスチナでは単一の勢力だけがリーダーシップを取れるということはないのだから。そして分裂が深まり、「パレスチナ国家」の可能性は遠ざかる。イスラエル流の衝撃と畏怖は、イスラエル人とパレスチナ人がともに平和のうちに生存し続けていくために必要としているプロセスを、麻痺させただけである。


※この記事は

2008年12月29日

にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。


posted by nofrills at 15:14 | TrackBack(0) | i dont think im a pacifist/words at war | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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【2003年に翻訳した文章】The Nuclear Love Affair 核との火遊び
2003年8月14日、John Pilger|ジョン・ピルジャー

私が初めて広島を訪れたのは,原爆投下の22年後のことだった。街はすっかり再建され,ガラス張りの建築物や環状道路が作られていたが,爪痕を見つけることは難しくはなかった。爆弾が炸裂した地点から1マイルも離れていない河原では,泥の中に掘っ立て小屋が建てられ,生気のない人の影がごみの山をあさっていた。現在,こんな日本の姿を想像できる人はほとんどいないだろう。

彼らは生き残った人々だった。ほとんどが病気で貧しく職もなく,社会から追放されていた。「原子病」の恐怖はとても大きかったので,人々は名前を変え,多くは住居を変えた。病人たちは混雑した国立病院で治療を受けた。米国人が作って経営する近代的な原爆病院が松の木に囲まれ市街地を見下ろす場所にあったが,そこではわずかな患者を「研究」目的で受け入れるだけだった。

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