「なぜ、イスラム教徒は、イスラム過激派のテロを非難しないのか」という問いは、なぜ「差別」なのか。(2014年12月)

「陰謀論」と、「陰謀」について。そして人が死傷させられていることへのシニシズムについて。(2014年11月)

◆知らない人に気軽に話しかけることのできる場で、知らない人から話しかけられたときに応答することをやめました。また、知らない人から話しかけられているかもしれない場所をチェックすることもやめました。あなたの主張は、私を巻き込まずに、あなたがやってください。

【お知らせ】本ブログは、はてなブックマークの「ブ コメ一覧」とやらについては、こういう経緯で非表示にしています。(こういうエントリをアップしてあってもなお「ブ コメ非表示」についてうるさいので、ちょい目立つようにしておきますが、当方のことは「揉め事」に巻き込まないでください。また、言うまでもないことですが、当方がブ コメ一覧を非表示に設定することは、あなたの言論の自由をおかすものではありません。)

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2008年12月29日

【ガザ空爆】「これは『報復』だ」という物語と包囲の心理、そしてpeace comes dropping slow

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「2008年12月ガザ攻撃」のタグ
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今の一曲:
"They've Got A Bomb", CRASS
No political solution so why should we bother?
Well whose fucking head do you think they're holding over?
FOUR. THREE. TWO. ONE. FIRE.

http://uk.youtube.com/watch?v=eKgJcg-Px3Y


B000001U0FThe Feeding of the 5000
Crass
Crass 1995-10-19

by G-Tools


ガーディアンが一気に「読むところ」が急増していて追いつけないのだが、とりあえずひとつ。Comment is Freeで書いているセス・フリードマンの投稿:

The recklessness of Hamas
http://www.guardian.co.uk/commentisfree/2008/dec/28/gaza-attacks-israel

セス・フリードマンについては11月18日のエントリを参照。ロンドン北部、ハムステッド・ガーデン・サバーブで育ち、シティで6年間証券会社で働いた後にイスラエルに移住、2004年から06年にかけてイスラエル国防軍の戦闘部隊。除隊後はライターとして活動中。エルサレム在住。

彼はイスラエルが不法占領しているパレスチナ (the Occupied territories) を訪れては「問題」を書き綴ってきた人で、自国政府(イスラエル政府)のやっていることにどうしても納得できないというのがコアにあり、彼のCiFの投稿には、「いい記事をありがとう。あなたが書いてくれなければ知ることができなかった」といったコメントのほかに、(おそらくアメリカから)「イスラエル人なのにイスラエルを批判するとは」といった基調のコメントが寄せられてきた。必要と判断した場合には彼自身がコメントに返信している。つまり、「熱心な書き手」だ。私は彼の記事をいくつも読んできたし、その「痛み」はときにあまりにつらいものだった。「ジャーナリスト」というよりは「ライター」の文章。

その彼が、今回の大規模攻撃はハマスの挑発のせいだ、と書いているのが、28日のCiFの投稿だ。

一瞬、あのセス・フリードマンがこれか、というのが信じられなかったが――彼は占領下の人々の苦境を知っているし、なぜ「テロ(テロ組織)への支持」(という言葉は私は個人的には使いたくないが)が衰えないのかということも知っているのだ――、実際、読んでみたら彼の言っていることははっきりとわかるし、そして私はちょっとショックを受けた。彼が感情的になっているのはわかるが、それでも。

What those militants sowed over the last few years, in the shape of thousands of rockets and mortars fired over the border at Israeli civilians, they reaped yesterday as the might of the Israeli air force came crashing down on Gaza. For all that I regularly sound off about almost every facet of the Israeli occupation and the government's policies towards the Palestinians, I struggle to see what option Israel's leaders had, other than to take the kind of action that they took this weekend.

つまり、ハマスのロケット攻撃があまりに激しく、スデロットなどでは一般市民が日々おびえて暮らしている状況で(後のほうで彼は、「ハマスは一般市民に対してロケット攻撃を仕掛けるという戦争犯罪をおかしている」とも書いている)、今回の大規模攻撃は、ミリタントが自分たちで蒔いた種を刈り取っているのだ、と。自業自得である、と。イスラエルの占領と政府の政策がどういうものかを書き綴ってきた自分でも、イスラエルの指導者に、土曜日から日曜日にかけての行動のようなもののほかに、どのような選択肢があるのか、わからない、と。記事の後のほうで、彼は今回の大規模な空襲を「イスラエルからの報復 Israeli retaliation」と書いている。イスラエルの大本営発表そのままに。

(「報復」という行為の是非はさておき、あれだけの規模の攻撃を、何かに対する「報復」と考えることはできるのだろうか。そして、「報復」とは「彼らが一般市民が殺しているから、私たちも一般市民を殺す」ということなのか? イスラエル軍がパレスチナの一般市民を殺していることには今さら驚きはしないし、そう指摘したところで「テロリストの支持者だから」と言って正当化するに違いないのだけれども。)

そして、今ある「イスラエルに対する批判」は、「ハマスの挑発(とまではいわずともハマスによる呼び水)にイスラエルがうっかり乗ってしまったことに対する批判」であると彼は考えている。これはフランスのサルコジの言葉だが、"strongly condemns the irresponsible provocations which led to this situation as well as the disproportionate use of force" 、つまり、「過度な武力行使と同様に、このような事態を招いた無責任な挑発を強く非難する」の「無責任な挑発」の部分と重なる。

つまり、19日に停戦の期限が切れたときにハマスがカッサム・ロケットでイスラエルに攻撃を仕掛けたことを「イスラエルの行動を呼び起こしたハマスの呼び水(挑発未満)」と位置づけ、その結果として、イスラエル政府には他に選択の余地がなかったので、イスラエルは今回の攻撃を行なったのだ、つまり、F16をガンガン飛ばして市街地にミサイルを何十発も撃ち込んだのだ、とセス・フリードマンは言っている。

セス君、冷静になれ……。自分の書いていることがわかっているのか?

彼はこんなことも書いている。
As Israeli spokesmen have reiterated time and again in the media, there is not a country in the world which would allow such assaults to take place on a daily basis without taking action to defend their citizens.

つまり、毎日毎日一般市民が攻撃にさらされているのに、それを黙って見ている政府などないのだ、と。イスラエルのスポークスマンが何度もそう強調している、と。

一体、イスラエルってのは英国から何を聞いているんだろうね。

過去記事:
2008年09月21日 「1998年8月15日、GCHQはオマーに車が向かっているのを把握していた」――9月15日、BBC Panorama
http://nofrills.seesaa.net/article/106935567.html

1998年8月15日のオマー爆弾事件は、北アイルランド紛争で単一の爆弾事件としては最大の殺戮となった(死者29人)。犠牲者は全員が一般市民だった。そして、この事件まではリパブリカンの間では「グッドフライデー合意は妥協だ、ジェリー・アダムズは魂を売った」みたいなムードがけっこう高かったのが、「いつまでこんなのを続けていくんだ」というムードに一変した(ということを、私はいくつかの記録で見聞きして知っている)。ゆえに、今年9月「GCHQは実は車が移動しているのを把握していた」というすっぱ抜き報道が出たときに、「すべては紛争を終わらせるための陰謀だったんだよ」という話すらも出たくらいだ。(個人的には、そこまで考えて車を押さえなかったわけではないと思います。単なる「縦割り行政」というか「所轄の違い」的なポカの可能性のほうがずっと高い。でも、実際に車に爆発物が積まれて隠れ家の車庫を出発する前に当局が動かなかったのは、少なくとも「泳がせて」いたのではないか、と思います。GCHQが傍受していたその携帯電話はReal IRAが使っているものだということは把握していたわけで。)

まあ、オマー爆弾事件を「紛争の本当の終結を導いた」などととらえるのは、後知恵というか修正主義に近いことだけど、「北アイルランド紛争の終結」についての後知恵は、英国政府の得意技のはず。「私たちは紛争解決の経験があります」って言う英国が、それを(遠回しに)得意気に吹聴していないわけがない。

しかも、英国政府は「北アイルランド和平」の当事者を中東に関わらせようとしてきた(今はポシャっているかもしれんが)。2006年にはジェリー・アダムズが中東を訪問している。イスラエル政府は面会を拒否したが、ハマスとは話をしているしファタハとも会っている。一方で同時期にブレアがイスラエル政府とファタハと話をしている。
http://nofrills.seesaa.net/article/23359109.html
※このエントリはコメント欄も含めてひとつ。

まあ、実際には英国政府のこの、かつてman of violenceだった「政治家」を中東和平(だけでなく、世界各地の「紛争」の解決、eg. ETA, LTTE, Iraq's sectarian conflict)に関わらせようという取り組みは、今ではすっかりフェードアウトしているみたいだし、そもそもイスラエルは全面的に受け付けなかったらしいのだけれども、セス・フリードマンのCiF記事を読んで、ここで必要なのはジェリー・アダムズではないかと私は本気で思った。

フリードマンは、金曜日にガザ地区のミリタントがイスラエルを攻撃するつもりで誤ってパレスチナ人の女の子を2人殺してしまったことを厳しく非難している。連中は一般市民の命のことなど何も考えていないのだ、と。

彼はここで、stating the obviousという愚をおかしている。「ハマスはその攻撃に際し、一般市民の命を尊重しているので支持します」なんて人はたぶんいない。ガザ地区でハマスへの支持が強いのは、彼らが「レジスタンス」であること以上に、人々の日常生活を完全に支えていることからだ。食料を調達して配給したりとか、学校や病院を運営したりとか。そういう「『テロ組織』が社会の維持に欠かせないものになる」ことを加速させているのが、イスラエルの政策だ。単に「一般市民の生命を脅かすか否か」という問題ではない。一般市民の生命というか生活を守り支えているのが、ハマスなのだ。その状況を、ガザ封鎖は加速させたのだ。

「占領」について、「入植地」について、あのものすごいレポートを書いてきたセス・フリードマンまで、「人道的義務がなんちゃら」とかいう甘ったるい政治の言葉にやられているとしたら、とても残念なことである。

それと、「一般市民の生命」という点については、あえて「主権国家の軍隊」も「非正規軍」もごっちゃにするけれども、イスラエル軍が民間人を殺したり死なせたりしていることはもちろん(フリードマンはそれについても書いていたはずだ……今は具体的にこれという記事を探している余裕がないけれど)、イラク戦争における米軍の "We don't do body counts." とか、ファルージャ包囲戦のときの駐イラク米軍トップの発言とか、IRAのボムメイカーの言葉を聞くといいと思う。例えば、ロバート・ベア(元CIA)の "Car Bomb" とか。

http://uk.youtube.com/watch?v=AptjgCbNJCo
※3:50くらいからがIRAのパート。4:55から、ボムメイカーだったショーン・オキャラハンのインタビュー。6:50くらいから、ボムの組み立て担当のトミー・ゴーマン(NIアクセントで、非常に聞き取りづらいです)。

http://uk.youtube.com/watch?v=0sl4-yjzjpo
※0:30くらいから、ロバート・ベアがショーン・オキャラハンにインタビューする中で、「あなたのカーボムで誰か死にましたか」、「いいえ」、「もし誰か死んでいたとしたら」、「それが英治安当局ならpretty happyだっただろう」、「一般市民なら」、「pretty pissed-offだっただろう」といったやり取り。このあと、1972年7月21日のブラッディ・フライデーのものすごい状況(ベルファストという、面積的にはそんなに大きくない都市で、22もの爆弾が設置されてほぼ同時に爆発、予告電話などはあったが中には予告より早く爆発したものもあり、一般市民9人が死亡、ベルファストはどの車がボムなのかわからないという疑念に満ちた滅茶苦茶な状態になった)。

2002年、ブラディ・フライデー事件から30年の機会に、IRAは "sorry" ステートメントを出している。
http://edition.cnn.com/2002/WORLD/europe/07/16/ira.statement/index.html
"While it was not our intention to injure or kill non-combatants, the reality is that on this and on a number of other occasions, that was the consequence of our actions.

"It is, therefore, appropriate on the anniversary of this tragic event, that we address all of the deaths and injuries of non-combatants caused by us.

"We offer our sincere apologies and condolences to their families. There have been fatalities amongst combatants on all sides. We also acknowledge the grief and pain of their relatives.

"The future will not be found in denying collective failures and mistakes or closing minds and hearts to the plight of those who have been hurt.

"That includes all of the victims of the conflict, combatants and non-combatants.

このとき、1998年の和平合意から既に4年が経過していた。

それまでも、個別の事件について、無関係の一般市民が死亡したときに "sorry" ステートメントが出たことは何回かあったけれども(Warrington bombingとか)、「すべての非戦闘員の死と負傷」についてIRAが謝罪したことはなかった。

「北アイルランド和平」についてはいろいろと思うところがあるのだけれども、ゆっくりゆっくりと進んで「成功」した「紛争の解決」の事例であることだけは間違いない。

http://findarticles.com/p/articles/mi_hb5037/is_/ai_n18297309
Peace comes dropping slow.(Northern Ireland)(Britain)
Economist (US), The, March, 1995

The cease fire has continued for six months in Northern Ireland, but no one believes that the two opposing terrorist groups have ceased to exist. ... NO ONE in Northern Ireland imagines that, because terrorists no longer shoot and bomb, either the IRA or their loyalist opponents have gone out of business.


※ "Peace comes dropping slow" の元ネタはイエイツ。
http://www.chiark.greenend.org.uk/~martinh/poems/yeats.html#lake

セス・フリードマンは結論部分で次のように書いている。
Those who have condemned Israel, loudly and unequivocally, for falling into the trap laid by Hamas ought to be just as vocal in their condemnation of Hamas for setting such a trap in the first place.

これを読んで頭に浮かんだのは、「包囲の心理 siege mentality」。なぜいつもこちらばかり非難されなきゃならないんだ、という形の。

イスラエルに非難が向くのは、イスラエルが主権国家だからだ。国連加盟国だからだ。パレスチナは国家ではない。その武装勢力は正規軍ではない。ここに「中東問題」の(非常に短期的な視野における)複雑さが潜んでいる。それ以前に、イスラエルがなぜそこに存在しているのかという点についての「反感」が非常に強くある。そのことを――その「反感」の「正当性」を、イスラエル人が自覚していないというのが「悲劇」なのだ。



セス・フリードマンのこの記事には、330ものコメントがついていたのだが、リロードしたらコメント欄が消えてしまっていた(投稿されていたものも非表示)。
→ UPDATE: 30日午後(日本時間)に見たら、コメント欄の表示だけ再開されていました。投稿は締め切られています。

sfcif330.png

フレーム化してまともに話ができる状態ではなくなったのだろう。私が見たときに既に、コメント欄1ページ目の50件のうち何件もが「管理者によって削除」になっていた(ただの罵倒、個人攻撃、いたずらなどが管理者権限で削除される)。しかし、冷静で内容のあるコメントもいくつもあった。残念だ。

中にはハアレツ(かエルサレム・ポスト)の報道で、イスラエルがこの攻撃を問題の「ハマスのカッサム・ロケット発射」より前から準備していたという記事へのリンクもあったし(クリックしておけばよかった!)、この8月の、ロシア対グルジアの軍事衝突と重ね合わせた分析もあった。セス・フリードマンの書いていることの誤謬を指摘するものもあった(コピペしておけばよかった!)

そのひとつが、フリードマンの次の記述へのツッコミだった。
Speaking on SkyNews to an Israeli embassy spokesman, Tim Marshall castigated Israel for responding to Hamas rockets ("which rarely cause fatalities") with an assault leaving around 150 people dead.

Tim Marshallという人はSkyNewsのForeign Affairs Editorで、ジャーナリストになる前は英空軍にいた軍事筋の人。アフガニスタン攻撃、イラク戦争では米英の「有志連合」の宣伝のようなレポートをして、基本的にはイスラエル支持の立場の人だ。
http://en.wikipedia.org/wiki/Tim_Marshall

そういうスタンスの人も、今回のイスラエルの大規模空爆は非難している。

だからこそ、セス・フリードマンは感情的になっているのかもしれない。「いつもはイスラエル政府の肩を持つような人まで、一斉に非難してくる」ということで。

もうひとつ、コメント欄にあったURLは――、これはたまたま即座にクリックしていたので(ちょうど、フリードマンの記事とコメント欄を読み終わったらZmagに行こうと思っていたので)手元で参照できるのだが:

If Gaza Falls...
December 26, 2008
By Sara Roy
http://www.zmag.org/znet/viewArticle/20056

11月5日からのガザ地区完全封鎖がどういうものだったのかを詳しく説明している記事で、これはすごい。あとで日本語化します。



このブログでは主に「英国の反応」を扱うことになります。ガザ地区からの一時情報、各種アクションについての情報は、下記の各サイトさんをご参照ください。

http://0000000000.net/p-navi/info/news/200812280126.htm
http://0000000000.net/p-navi/info/

ガザ空爆情報2
http://palestine-heiwa.org/news/200812290247.htm

想像を絶する大量の死と破壊 サファ・ジューデー (EIの記事の翻訳)
http://palestine-heiwa.org/news/200812290045.htm
今日の空爆で200人を超える人が死んだ。つまり、200以上の葬儀が行なわれるということだ。今日、葬儀が行なわれたのはわずかで、たぶん、大半が明日になるだろう。昨日、この家族たちはみな、食べ物と暖房と電気の心配で頭がいっぱいだった。でも、と私は思う。この人たちも(実際には私たち全員が)、こんなことが起こるのを絶対に阻止できていたというのなら、この数か月間、私たちが必死に求めつづけてきた本当に基本的な生活物資の供給をハマースがやめたとしても、喜んで受け入れていたはずだ。……


ガザ空爆情報
http://palestine-heiwa.org/news/200812280329.htm

29日、大阪で抗議集会の予定。
http://palestine-forum.org/doc/2008/12/29-action.html
日時:12月29日(月)午後3時〜
場所:駐大阪・神戸アメリカ総領事館前+JR大阪駅前

※この記事は

2008年12月29日

にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。


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【2003年に翻訳した文章】The Nuclear Love Affair 核との火遊び
2003年8月14日、John Pilger|ジョン・ピルジャー

私が初めて広島を訪れたのは,原爆投下の22年後のことだった。街はすっかり再建され,ガラス張りの建築物や環状道路が作られていたが,爪痕を見つけることは難しくはなかった。爆弾が炸裂した地点から1マイルも離れていない河原では,泥の中に掘っ立て小屋が建てられ,生気のない人の影がごみの山をあさっていた。現在,こんな日本の姿を想像できる人はほとんどいないだろう。

彼らは生き残った人々だった。ほとんどが病気で貧しく職もなく,社会から追放されていた。「原子病」の恐怖はとても大きかったので,人々は名前を変え,多くは住居を変えた。病人たちは混雑した国立病院で治療を受けた。米国人が作って経営する近代的な原爆病院が松の木に囲まれ市街地を見下ろす場所にあったが,そこではわずかな患者を「研究」目的で受け入れるだけだった。

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