「なぜ、イスラム教徒は、イスラム過激派のテロを非難しないのか」という問いは、なぜ「差別」なのか。(2014年12月)

「陰謀論」と、「陰謀」について。そして人が死傷させられていることへのシニシズムについて。(2014年11月)

◆知らない人に気軽に話しかけることのできる場で、知らない人から話しかけられたときに応答することをやめました。また、知らない人から話しかけられているかもしれない場所をチェックすることもやめました。あなたの主張は、私を巻き込まずに、あなたがやってください。

【お知らせ】本ブログは、はてなブックマークの「ブ コメ一覧」とやらについては、こういう経緯で非表示にしています。(こういうエントリをアップしてあってもなお「ブ コメ非表示」についてうるさいので、ちょい目立つようにしておきますが、当方のことは「揉め事」に巻き込まないでください。また、言うまでもないことですが、当方がブ コメ一覧を非表示に設定することは、あなたの言論の自由をおかすものではありません。)

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2008年12月24日

ウィタード・オヴ・チェルシー経営破綻

2013年4月追記
Whittard of Chelsea社様より、「日本版サイトリリース」のお知らせをいただきました。「サイトからご注文、Whittardのほとんどの商品を日本全国に発送できるようになります」との由。下記にて、どうぞ。
http://www.whittard.jp/

以下、投稿時2008-12-24のまま(最後のセクションのURL追記を除く)。


Whittard of Chelsea(ウィタード・オヴ・チェルシー)といえば、ロンドンなど英国の都市部でちょっとうろうろしたことがある人なら、例の深い青(「高貴さ」の色)を使ったストア・フロントを必ず一度は見たことがあるだろうといえるほど「シティ・センターの商店街の定番」系のチェーン店だ。

22日から23日にかけて、そのWhittard of Chelseaが経営破綻寸前というニュースが流れた。最初にテレグラフが報じ、ガーディアン、BBCなどほかのメディアもこれを追って報道している。24日朝には日本語での報道も出た(NNA)

テレグラフなどの報道にいわく、ウィタード社は2005年にアイスランドのBaugur(バウグル、ボーガー)という投資会社に買われたが、近年売り上げが低迷(「近年」がいつからのことなのか書かれてないのだけど、2005年に買ったときには大丈夫だったのかなあ)。この10月にはバウグルはKPMGに依頼して財務状況を調べていたが、この何日かの間にLandsbanki(アイスランドの銀行。国有化されている)が資金を止めてしまった。こうしてウィタード社はアーネスト&ヤング社を管財人として、破産手続きを開始することとなった。130店の店舗網は買い手を探している最中。(買い手探しは、後述のタイムズによると、希望はあるようだ。)

つまり、アイスランドの破綻が深く関係している。UKでアイスランド系といえば、Somerfield(食品スーパー)、Topshop(服)、Miss Selfridge(服)といったあたりが思い浮かぶのだが、ウィタードもそうだとは知らなかった。また、ウィキペディアを見ると、バウグルはウールワースにも投資してたとのこと(7パーセント)。また、名門のHamleys(玩具)もアイスランド資本になっている。

テレグラフ(最初の報道):
Whittard of Chelsea on brink of administration
By James Hall, Retail Editor
Last Updated: 8:12PM GMT 22 Dec 2008
http://www.telegraph.co.uk/finance/newsbysector/retailandconsumer/3902431/Whittard-of-Chelsea-on-brink-of-administration.html

ガーディアン:
Whittard of Chelsea poised to call in administrators
Julia Kollewe
guardian.co.uk, Tuesday 23 December 2008 10.37 GMT
http://www.guardian.co.uk/business/2008/dec/23/whittard-chelsea-tea-coffee

BBC:
Whittard 'nears administration'
Page last updated at 03:17 GMT, Tuesday, 23 December 2008
http://news.bbc.co.uk/2/hi/business/7796751.stm

最近「英国の景気悪化、ハイストリートから店が消える」という記事をがんがん出しているガーディアンは、テレグラフの報道に肉付けする感じで、「クリスマスの買い物は最後の最後にぐっと伸びているが、来年は数百の小売業が経営破綻するとの観測があり、商店街は歯抜け状態となるかもしれない。CD/レコード小売のZavvi(Virgin MegastoreのUK&アイルランド部門が別の会社に買われたもの)はかなり危ない」などといったことも書いている。(Virgin Megastoreは2009年1月で日本からも消えますが、もう何年か前にツタヤ傘下になってて看板しか残ってなかったからなぁ。)なお、Zavviはウールワース破綻のあおりを食ってオンライン・ショップがストップしている状態。ウールワースと一緒にさようならしたEntertainment UKという卸業者から仕入れていたためだ。そんなこんなで、ガーディアンの「先行きは不透明です」系の記事は2割引くらいで読んでおいてもよいというのが基本なのだけれども、この状況ではそれは呑気すぎるのかもしれないとも思う次第。

一方で、最新のタイムズの記事によると、ウィッタード・オヴ・チェルシーの店舗網の買い手はつきそうな雰囲気ではある(最終的にどうなるかはわからないけれども、ウールワースの買い手についての記事よりは記事内容が具体的)。管財人は既に複数の企業と話をしていて、その中にはPast Timesという雑貨店を保有している企業再生専門のEPICという会社がある。また、インドのお茶会社も情勢を見ていきたいと述べているとか。

December 23, 2008
Whittard collapses as EPIC plans a deal
http://business.timesonline.co.uk/tol/business/industry_sectors/retailing/article5388851.ece

タイムズではこの「インドのお茶会社」が有望と見ているのか、そのオーナーとのインタビュー部分をかなり詳しく掲載している。Sapatというこの会社は、創業110年の歴史を持ち(つまり英領インドの時代の創業。創業者は今の社長のおじいさんだそうです)、インドで最大級の製茶会社である。業績もよい。しかしインド国外ではブランドとして認知されておらず、そのため「クリッパー Clipper」の買い手として名乗りを上げたがそれはうまくいかなかった(Clipperは最終的にはフレミング家が買ったとのこと)。この会社にとって、ウィタード・オヴ・チェルシーというブランドは魅力的なのだろう。正直、ブランドとしての価値というと中途半端なんじゃないかと思うが、「ブルックボンド」とかを持ってるユニリーバのような巨大な多国籍企業が見向きもしないくらいに小さなブランドを買ってそれを大きくしていきたい、という方針ならぴったりなのかもしれない。

Sapatが本気で「英国ブランド」を欲しがっているのだと強調するかのように、タイムズ記事には同社がTaylors of Harrogateの買収も考えていると述べている、というくだりがある。

……いやぁ、こんなもんでしょうけれど、それにしても節操ない。Clipperはフェアトレード専門の新興ブランド(1980年代創業。思想的バックグラウンドとしてはBody Shopのアニータ・ロディックと同じような感じ)、「エシカル」な消費という点で訴求力が高いブランド。(そんなこと関係なく単にお茶としてもここのはとてもおいしい。)Taylors of Harrogateは、創業者はスイス人だけど、ヨークシャーでティールームをやってる「北部イングランド」のブランド(このブランドのお茶はヨークシャーの人をにやにやさせることができると思う)。そして今回のウィタードは……よくわからない。観光客がお土産を買いに来るところというイメージが強いし(ガーディアン記事には、2005年にBaugurが買ったときには7月7日の事件の影響で観光客が減り、ウィタードの売り上げが落ちた、みたいなことが書かれている)、英国人が買い物をする場合は、どちらかというとギフト向けだよね。Sapatの社長自身、「ウィタードには問題が山積している。中心的な問題は、お客さんがお母さんへの贈り物を買いに来るような場所であって、自分ではそこで買おうとは思わないということだ (it's a place you might go to buy your mum a present, but don't want to visit for yourself)」と述べている。

インド企業と英国の製茶会社という点では、2000年にTetleyをTataが買収、2005年にApeejay SurrendraグループがTyphooを買収しているとタイムズ記事にあるが(TataはClipperの買収にも名乗りを上げていたそうだ)、TetleyやTyphooのブランド力と、ウィタードのそれとは比べ物にならないと思う。そのお茶を扱っていない食品小売店はない、というくらいの「庶民派」のメジャー・ブランドと比べたらいけないのだけれど。

ウィタード・オヴ・チェルシーは、「商店街の定番」といっても、先日来ちょこちょこと書いているように完全にもう無理というところまで来てしまっている「ウールワース」とは違って、家賃が安めのエリアでも店舗を展開して日用品を売ってるわけじゃなく、よそ行きというか観光客向けというか、要するに「紅茶」ってより「お紅茶」的なブランド・イメージのある店で、正直に言うと、自分で買い物したことはない。店に入ったことはある。紅茶だけではなく、コーヒー、ココアとかハーブティーなども扱っていて店内は華やいでいるし、自社デザインの陶器、特にマグは普段使いによさそうというか、いかにも「イギリス的」でおもしろかったのだが(つまりミドルクラス的で、それもアンティーク専門のマーケットでいい値段になってるもののまがいものみたいだったり、いかにもミドルクラスっぽい「ナチュラル感」にあふれていたり)、それと同じ金額でマーケットでああいうのとかこういうのとか買えるし、紅茶はお上品な「お紅茶」よりもPG Tipsか、スーパーのオリジナルブランドのそこそこの品質のもののほうがおいしいというか気分が出る(<これとても重要)し、インフュージョン(ハーブティー)はLondon Fruit and Herb Company(元London Herb and Spice Company)のが好きだし、という理由で買い物するには至らなかった。端的にいえば「世界が違う」感じがしたのだ。

ウィタード社のサイトの「会社の歩み」のページはけっこうおもしろい。
http://www.whittard.co.uk/editorial-content/about-us/our-heritage/

いわく、創業者ウォルター・ウィタードは1886年、165 Fleet Streetで開業したが、この年は中国からの茶葉の輸入量が最大となり、インド(英領インド)からの輸入もあり、イングランドでの茶葉の商いの歴史上最も忙しかった年であった。

ロンドンの茶葉オークションは、1679年に開始されたときには東インド会社が行なっていたが、1834年に東インド会社の商業活動が終わり、茶葉が「自由貿易」商品となると(高校の「世界史」ですな)、オークションの会場がMincing Laneに新築されたLondon Commercial Saleroomsになった。Mincing Laneは 'Street of Tea' と呼ばれるようになった。ウィッタードは1901年にはこの通りに事務所を構え、その後1904年にMansell Streetに移転した。

創業の地のFleet Streetはシティのかなり西、SalesroomのあったMincing Laneはシティのかなり東、1904年に拠点を置いたMansell Streetはシティの東の外れ(イーストエンド)。

創業から数年でウォルター・ウィッタードはコーヒーも商うようになり、南米やインドネシアから豆を仕入れ、またセイロン(スリランカ)で病害でコーヒーが全滅する直前にセイロン・コーヒーを仕入れることができあ。インドや中国の茶葉のほか、当時「新興」だったセイロンから1898年に、ケニアから1903年に茶葉を仕入れた。
1940年12月29日の大空襲でシティとイーストエンドがやられ(→この空襲のときのセント・ポール大聖堂の写真)、ウィッタードの店も被害にあってロンドン西部のチェルシーに移転し、現在に至る。

1980年代にバースとオクスフォードに支店を出し、その次の5年で80店舗以上を展開、1996年に100店を突破。1998年にはウェブサイトを開設し、支店数は120に。2008年時点で130店舗を展開し、UAEやクウェート、シンガポール、南ア、チリ、米国などにも店舗あり。

日本にもあるはず、と思って見てみたら、今は福岡にしかないみたい。
h t t p://www.whittardjapan.com/shop.html
→2013年4月追記:日本語サイトが立ち上がっています。 http://www.whittard.jp/

2006年にロゴとパッケージを一新。

http://www.whittardjapan.com/index.html
ウィタードのお茶と言えば、青の缶と袋に入っていたのが定番でしたが、その伝統あるパッケージを一新した新パッケージが2006年9月15日登場!

……新パッケージには非常に本物に見えるリボンのプリントがあり、そのままでもギフトにもお使いいただけるようになっています。……

※この記事は

2008年12月24日

にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。


posted by nofrills at 09:05 | Comment(3) | TrackBack(0) | todays news from uk | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
本文中で言及したガーディアンの記事か、そのコメント欄で「次は」的に言及されていた小売店のひとつについて、ニュースがありました。

紳士服小売チェーンのOfficers Clubの店舗網が売却されたそうです。(少なくとも、このチェーン店の従業員の仕事は確保されました。)
http://news.bbc.co.uk/2/hi/business/7798565.stm
Posted by nofrills at 2008年12月24日 11:51
おおぉぉおお!ヒナキさんにもお勧めされた貴重な土産物屋(失礼)が!がーん.
Posted by hatto8107 at 2008年12月24日 15:53
お土産は次はClipperで、ぜひ。パッケージもいいし(現在リニューアル中のようですが、とてもいいデザイン)、中身もとてもいいです。

けっこう「店舗にはいつもお客さんがいる」というイメージがあったお店で(といっても私が見たのは2000年が最後ですけど)、ターゲットの客層も観光客かミドルクラスといった「付加価値」に金を払えるような層ですから、ウールワースの破綻とは違った意味で衝撃がありますよね、ウィタードは。業績云々もあるけれど、アイスランド関連という要素が大きいし。

一方で、Zavviがadministrationです。ボウシングデーは、店舗は平常営業の見込み、店舗は買い手を探している最中だそうです。リチャード・ブランソンの出発点だったレコード屋が、ウールワース倒産のあおりをまともに食らって完全に終了、ということになるかもしれません。

Zavvi goes into administration
http://www.guardian.co.uk/business/2008/dec/24/zavvi-administration-jobs

Zavvi placed into administration
http://news.bbc.co.uk/2/hi/business/6386153.stm

12日付ガーディアンによると昨年9月にMBOが行なわれてVirgin MegastoreがZavviになったときに、Virgin GroupがEUKからの仕入れを保証していたとのことです。
http://www.guardian.co.uk/business/2008/dec/12/retail-highstreetretailers
Posted by nofrills at 2008年12月24日 21:16

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【2003年に翻訳した文章】The Nuclear Love Affair 核との火遊び
2003年8月14日、John Pilger|ジョン・ピルジャー

私が初めて広島を訪れたのは,原爆投下の22年後のことだった。街はすっかり再建され,ガラス張りの建築物や環状道路が作られていたが,爪痕を見つけることは難しくはなかった。爆弾が炸裂した地点から1マイルも離れていない河原では,泥の中に掘っ立て小屋が建てられ,生気のない人の影がごみの山をあさっていた。現在,こんな日本の姿を想像できる人はほとんどいないだろう。

彼らは生き残った人々だった。ほとんどが病気で貧しく職もなく,社会から追放されていた。「原子病」の恐怖はとても大きかったので,人々は名前を変え,多くは住居を変えた。病人たちは混雑した国立病院で治療を受けた。米国人が作って経営する近代的な原爆病院が松の木に囲まれ市街地を見下ろす場所にあったが,そこではわずかな患者を「研究」目的で受け入れるだけだった。

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