UDAのステートメントは、ベルファストの新聞(ユニオニスト側)、The News Letterに届けられた。NLのサイトで編集された形で読める。
UDA campaign to defend Britishness
Published Date: 11 November 2008
http://www.newsletter.co.uk/news/UDA-campaign-to-defend-Britishness.4680179.jp
The UDA angrily accused Sinn Fein of agitation and propaganda across the Province aimed at "challenging our very (British] existence at every level".
UDAは、北アイルランド (the Province) 全域で「われわれの(ブリティッシュとしての)存在を、ありとあらゆるレベルで組み伏せること」を目的としたアジテーションとプロパガンダを行なっている、としてシン・フェインを非常に激しく非難している。
……ぽかーん。
ぽかーんとなるでしょ、「お前は何を言っているんだ」って。
「リパブリカンが」っていうんならまだわかる。でも「シン・フェイン」……ていうかもうめんどくさいなあ、UDAはTerrorism Actで特定されている非合法組織で、シン・フェインは合法組織(政党)で、ていうかこのステートメントを出したのはUDAなのか、彼らの政治組織(アルファベットスープの名称忘れた)なのか。
わけわかんなくなってきた。とにかくこれは「挑発」でしかない。
NLの記事はここで、「最近は両派が協力して、ピースラインの緊張も解けてきた」みたいな解説が入っている。私もそう認識している(ニュースを読む限り)。
しかしUDAの今回のステートメントは:
But the UDA said republican "racism, ignorance and bigotry" has been exposed, particularly during protests at the recent Armed Forces' homecoming parade.
UDAはリパブリカン側(ここではシン・フェインのことだろうが、不明瞭。地の文だし)の「人種差別と無知と偏見」が露呈された、特に英軍の帰還パレードのときにはっきりした、と述べている。
英軍に対する「沈黙」の抗議の何が、UDAというかユニオニスト・コミュニティに対する "racism, ignorance and bigotry" なのか、さっぱりわからない。あのパレードの日に大騒ぎしていたのは、ロイヤリストだったのに。リパブリカンは、少なくとも市中心部の再接近ポイントでは、ただ沈黙し、写真を掲げ、風船を飛ばし……私はSluggerのマークさんのリパブリカン側のホームビデオと、その反対側でロイヤリストの若いのがケータイで撮影したビデオと、パレードそのものを撮影したメディアのビデオを見ているけれど、リパブリカンが騒いでいる様子はカケラもなくロイヤリストが騒いでいるのをいやになるくらいに見たし、ウォーターキャノンが使われなかったことも聞いてる。
If unchecked, the Sinn Fein crusade was as dangerous to the Union as the 35 years of IRA violence, it added - warning the threat would be faced down "head-on".
もし何もチェックされなければ、シン・フェインの動きは、35年に及ぶIRAの暴力と同じくらい、「連合(王国)」にとって危険なものだっただろうと述べ、その脅威には「真正面から」対決することになると警告している。
……抽象的すぎてわからないのはこの手のステートメントにはいつものことなのだけど、これは抽象的どころか中身がない。紋切り型ですらないというか、IRAが "the British rule" と言うのよりさらに中身がない。
UDA leadership sources stressed they were entirely positive and peaceful in their aim and clarified they would retrain members for the fight on a new "battlefield": meaning developing skills in education, politics, social and community work, media promotion and business. "The violence is over," it was stressed.
UDA指導部筋は、完全に前向きで平和的な方針であると強調し、新たな「戦場」での戦いのため、メンバーを再教育すると明言した。つまり、教育、政治、ソーシャルワーク、コミュニティワーク、メディアでのPR、商業での能力を開発する、と。「暴力は過去のものだ」と強調されている。
……「再教育」て、今まで何やってたんすかという。コミュニティなんちゃら資金を政府から受け取りながら。「戦場」の比喩はスルー。
They also called for all unionist parties and loyalist groups to engage in roundtable discussions about a 10-year strategy to oppose the threat.
彼らはまた、すべてのユニオニスト政党とロイヤリスト(武装)集団に対し、(リパブリカンの)脅威に対抗する10年戦略について円卓会議を呼びかけている。
……10-year strategy! まだこの先10年もやるんすか。その前にthe United Kingdomが正式にBritainと改称する可能性のほうが高いんじゃないかとか、私の脳内の賭け屋がうるさいです。(冗談)
However, the statement, following yesterday's Independent Monitoring Commission (IMC) report, conspicuously did not mention if and when the UDA will decommission. The IMC suggested the Government may have to set a deadline for the destruction of loyalist arms in order to bring the issue to a head.
しかしながら、昨日のIMCレポートの後に出されたUDAのステートメントには、UDAが武装解除するのか、するとしていつするのかについては一切述べられていない。IMCは政府がロイヤリストの武器の破棄についてデッドラインを設けなければならないかもしれないとしている。
……今、一番長く積み残しになってる問題はまさにこれだと思います。
The UDA instead focused on republicanism stirring up community tensions and creating animosity.
しかしUDAは、リパブリカニズムがコミュニティの緊張を煽り、敵意を作り出しているということを集中的に述べる。
It said: "We need more of our members to participate in the challenges that lie ahead. They must understand that the threat from Irish republicanism and nationalism has not abated; they are challenging our very existence at every level.
「われわれは、この先待ち構える困難にともに挑んでくれるメンバーをより多く必要としている。アイリッシュ・リパブリカニズムおよびナショナリズムからの脅威は弱まっていないということを認識すべきである。彼らはすべてのレベルにおいてわれわれの存在そのものを打ち砕こうとしている」
"They are challenging through agitation and non-violence but it is every bit as dangerous and must be combated."
「彼らは煽動と非暴力を通じて挑んでくる。しかし依然としてそれは危険であり、立ち向かわねばならない」
……リパブリカンの書き物に比べるとライティングが「作文」だ。何このTheyの不恰好さは。何この具体性も根拠もない、本当に形骸化した言葉の羅列は。(愚痴)
The statement, issued to mark Remembrance Day, continued: "Our message to Irish republicanism and Irish nationalism is very simple - they must understand we have our own distinct identity and that we are British, and it is us who will define what we are and who we are, the same as we have come to understand that Irish republicans/nationalists must determine their own identity/nationality."
「われわれからアイリッシュ・リパブリカニズムおよびアイリッシュ・ナショナリズムへのメッセージは、非常に単純である。彼らは、われわれにはわれわれ独自のアイデンティティがあり、われわれは英国人であるということを理解せねばならない。そして、われわれが誰であるのかを決めるのはわれわれである、ということを。われわれの側は、アイリッシュ・リパブリカン/ナショナリストが自らのアイデンティティ/ナショナリティ(国籍)を決定すべきであるということを理解するようになっているのだから」
……つまり「統一アイルランド」に吸収されることを懼れているのだけど、ゆくゆくはレファレンダムで南北がひとつになることはおそらく避けがたいことなんだし、それに反対するために政治運動をしていくというのならまず武装解除しろ、話はそれからだ。政治運動でアイルランド共和国の憲法を改めるよう動かせばいい。デヴァレラ憲法の最も受け入れがたい部分を変えさせればいい。だいたい、ブリテン島ではNIのことより、England and WalesとScotlandのユニオンですらいつまで続くかという話題で盛り上がるのだ(たとえ「ネタ」としてであっても)という事実認識を、この人たちはしているんだろうか。
これが「包囲の心理 the siege mentality」。
The UDA said the "Sinn Fein propaganda machine" continues to press for human rights and recognition of the minority community's right to national self determination and identity.
"They should take a lesson out of their own manual and recognise the identity and national self determination of the British people in Ulster," the paramilitary group declared, alleging hypocrisy and sectarianism by Gerry Adams and others.
UDAは「シン・フェインのプロパガンダ・マシーン」が依然として人権と少数者コミュニティの民族自決とアイデンティティの権利を求め続けていると述べ、「彼らは自分たちのマニュアルから学び、アルスターの英国人のアイデンティティと民族自決を認めなければならない」とし、ジェリー・アダムズらの偽善と宗派性を指摘している。
……ツッコミ入れるのめんどくさいのでスルー。キリスト教根本主義の側が、パレスチナ・ゲリラなどとつながっていたIRAを「セクタリアン」だと批判するというナンセンスは、何度接しても、ベタなたとえだけど、エッシャーの騙し絵のようだと思う。
Specifically of the protests at the homecoming parade, the UDA said "Irish republican racism, ignorance and bigotry" had been exposed by Sinn Fein and Irish dissidents.
"They squandered a massive opportunity to reach out to unionism in a bid to understand us as a people and as human beings, whose only crime is that we are different to them," the statement read.
The statement then focused on unionist politicians - calling on them to do more to represent loyalist working class communities.
特に軍パレードについて、UDAは「アイリッシュ・リパブリカンの人種差別と無知、敵意」が、シンフェインとアイリッシュの非主流派によってむき出しにされた、としている。「われわれを人民として、また人間として理解し、ユニオニズムに手を差し伸べる絶好のチャンスだったのに、彼らはそれをふいにした。われわれの罪といえば、われわれが彼らとは違うということだけだ」。そしてステートメントは、ユニオニストの政治家に対し、ロイヤリストのワーキングクラスのコミュニティを代弁するようもっと努力すべきだ、ということに移る。
……さっきはナショナリストを「マイノリティ」と呼んでいたのに、ここでは自分たちが「マイノリティ」であるという意識になっている。これが「北アイルランド問題」、というか「アイルランド問題」で、ここが見えてないとIRAであれUDAであれ「ただのテロ集団」にしか見えないのだけれども、ここが難しいんだよね。このUDAのステートメントは、その点ではサンプルとしてすごくわかりやすいかもしれない。
ていうか武装解除してからどうぞ、なんだけど、すべてにおいて。
あと、UDAってやっぱ「シン・フェイン」と「非主流派リパブリカン」の区別はつけてないんだろうな、と思います。「ナショナリストで暴れる連中」の代名詞が「シン・フェイン」("Sinn Fein/IRA" という用語で表されるもの)なのでしょう。区別をつけてないのが天然なのか、作為なのかはわかりませんが。天然でこうだとしたらあまりに頭が(略
※この件、まだ先がありますが、UDAのステートメントはここまで。実際のところ、もういっぱいいっぱいですが。
ユニオニストについての必読文献:
![]() | 暴力と和解のあいだ 北アイルランド紛争を生きる人びと 尹 慧瑛 法政大学出版局 2007-04 by G-Tools |
これが日本語で読めるということは、非常に幸せなことです。
※この記事は
2008年11月11日
にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。
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