「なぜ、イスラム教徒は、イスラム過激派のテロを非難しないのか」という問いは、なぜ「差別」なのか。(2014年12月)

「陰謀論」と、「陰謀」について。そして人が死傷させられていることへのシニシズムについて。(2014年11月)

◆知らない人に気軽に話しかけることのできる場で、知らない人から話しかけられたときに応答することをやめました。また、知らない人から話しかけられているかもしれない場所をチェックすることもやめました。あなたの主張は、私を巻き込まずに、あなたがやってください。

【お知らせ】本ブログは、はてなブックマークの「ブ コメ一覧」とやらについては、こういう経緯で非表示にしています。(こういうエントリをアップしてあってもなお「ブ コメ非表示」についてうるさいので、ちょい目立つようにしておきますが、当方のことは「揉め事」に巻き込まないでください。また、言うまでもないことですが、当方がブ コメ一覧を非表示に設定することは、あなたの言論の自由をおかすものではありません。)

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2008年10月30日

ロンドン、「自由」と「監視社会」

英国の「法」、特に「自由」や「民主主義」に意味の大きなものの文書の特別展と、「監視社会」をめぐる「アート」の現状(?)について――。

ロンドンのブリティッシュ・ライブラリー (BL) で、1215年のマグナカルタに始まり現代に至るまでの英国の法的文書が一堂に集められ、特別展 "Talking Liberties - the struggle for Britain's freedom and rights" で公開される(10月31日から)。BLのトップページには、19世紀の「デモ隊に棍棒を振り下ろす警官」の絵が(右図)。

各メディアがこの特別展について記事を出すだろうが、30日付ガーディアン掲載のトリストラム・ハントの文章。

Statutes of liberty
Tristram Hunt
The Guardian, Thursday October 30 2008
http://www.guardian.co.uk/uk/2008/oct/30/civil-liberties-exhibition-british-library

ハントの解説は非常に詳細で熱く、この特別展で直接見ることのできるような文書が基本的に「猫に小判」であるにすぎない私のようなド素人にも、「うわぁ、すげぇな、この特別展」と思わせる文章だ。

ハントの文章から、非常に気になる(というか「を」という)一節を抜粋すると(とりあえずお約束でそれ系ですが):
More controversially, the curators have also showcased the 1916 Sinn Fein Rebellion Handbook. In the month when the women of Northern Ireland were once again denied the same abortion rights as those on the mainland, the documents highlight that long tradition of strange things happening to British liberty as it crosses the Irish Sea.

ロンドンの博物館施設で、1916年イースター蜂起のときの "Sinn Fein Rebellion Handbook" が展示される……それが2008年。一方、同じ2008年、北アイルランドではやっぱり中絶は違法のまま(ブリテン島ではそんなことはありません。Slugger O'Tooleに「ユニオニズムだナショナリズムだで何についても対立するNI議会が唯一何のコンフリクトもなくまとまるのが中絶反対」という内容の乾いた笑いがあったけどね、NIの「ソドミー」反対とかは、こういう文脈で見てください)。

ともあれ、この特別展で見ることのできる文書の一部はオンラインで公開されているので、ロンドンに行けない私とかあなたとかはオンラインで拝見しましょう。
http://www.bl.uk/onlinegallery/takingliberties/staritems.html

BLのオンライン・ギャラリーのカテゴリとしては、次のようになってます。
-Rule of law (1215 Magna Cartaなど)
-Right to vote (1832 Reform Actなど)
-Four nations (1893 Gladstone's notes on Home Ruleなど)
-Freedom of speech (1611 King James Bibleなど)
-Parliament and people (1651 Hobbes's Liviathan, 1689 Bill of Rightsなど)
-Human rights (1791 Paine's Rights of Man, 1948 UN Declaration of Human Rightsなど)
-Freedom from want (1891 Booth's poverty map of London, 1941 Beveridge Reportなど)

「世界史の教科書に出てきたあれだ!」って感じ。絵画で「美術の教科書に載ってたあれの本物だ」という感動があるのと同じかも。もちろん、英国の歴史などを専門分野としておられる方にとっては、そんなレベルではないかもしれませんが。

話は変わって、トリストラム・ハントのガーディアン記事についている「イメージ写真」の話。これはぜひリンクをクリックしてご覧いただきたいのだけれど、ロンドン地下鉄駅構内のチューブ状の通路の壁面に、ロンドンの交通機関が統一して使っているフォント (New Johnston) らしきフォント(実際にはGill Sansとかかもしれないけど)を使って印刷されていると思われる、"I think I'm being watched." という言葉がある。「どうやら監視されてるみたいだ」という意味だ。すごいアイロニー。(ロンドンに行ったことがある方は、あの壁の大きさとあの空間を想像してください。より気持ちよくお茶をふけると思います。)

ロンドンは広く知られている通り、世界で最も監視カメラ(CCTV)の多い都市だ。元々はIRAが暴れていた時代に、IRA対策として、保守党政権が推し進めた「鋼鉄の輪 ring of steel」なのだが(少なくとも建前上は)、今では「元々IRA対策だった」なんてことは語られもしないかもしれない。ロンドン地下鉄が導入しているOystercard(首都圏でいうSuicaやPasmoのようなもの)も、導入のころ、当局が「乗客の動きを把握する」ことを明言していて、市民的自由の観点からブーイングが出されたが、当局(というか、ケン・リヴィングストン市政)が「オイスターカードを使わないと交通費がとんでもなく高い」という状況を作り出し、カードを拒否していられる状況ではなくなった。(保守党サイドから、だから市民的自由について「労働党左派」なんか信用すんなって話にもなってるのを見かけたこともある。たぶんGuidoかIan Daleのブログだと思う。)

Nine Inch Nailsが "Year Zero" をリリースしたときに「市民的自由が厳しく制限された世の中」というキャンペーンをやったんだけど、このときにNINのファンフォーラムでロンドナーが「NINが英国の状況に注目してくれててよかった。はっきり言って米国よりずっと深刻だ」という投稿もあった。映画『Children of Men』は「市民的自由って何ですか」状態になった近未来のロンドンが舞台のフィクションだけど、その「ロンドン」は、昨日や今日のしばらく後にああなってるかもしれないという点についての説得力という点でスゴいものがあった。

というようなことが、「監視社会、ロンドン」について言えるのだけれど、上記の地下鉄駅構内の "I think I'm being watched." のアイロニーをなおさら強くしているのは、これがTransport for London(ロンドン交通局)がやっている Art on the Undergroundという公的な「アート」だ、ということ。つまり、「お釈迦様の手のひらの上で踊る」状態がお膳立てされているのだが、その踊り方が非常に鋭いということだ。とても英国的。

で、ひとしきりお茶をふいてから、この "I think I'm being watched." (英語としては、この "I think" の使い方も極めて英国的な響き)は誰の作品だろう、ガーディアンの写真で中央で人影になっているところには何が書かれているのだろう、と検索してみたら、flickrでこんな写真が (ユーザーネームqwghlmさんによるCCライセンス作品)。

I think I'm being watched, a CC photo by qwghlm
* a CC photo by a flickr user qwghlm (Chris Applegate)

お茶を飲み込んでから、画面左隅に注目してください。

で、この写真のキャプションから、No2ID(UKのナショナルIDカード反対運動の超党派組織)とthe Open Rights Groupが、この10月11日にFreedom Not Fear Day 2008をやっていた(というかFNFDは国際的なものだそうだけど……東京の私はまったく気付かなかった)ということを知り、この写真のタグからflickrにアップされているFNFDの写真をいろいろ見て、また、やはりタグから、作者がAnna Barriballであることを知り、SpyBlog.org.ukで他の写真を見て、そのコメント欄で、あのフォント使いではやっぱり「TfLからのお知らせ」に見えるんだなとニヤリとしたり(これは単純なことなんだけど洗練されてるよなあ)。

下記は、flickrで見て非常におもしろかったもの。左は「防犯カメラ作動中/で?」みたいな感じかな、そのへんの表示板と落書き。右は、FNFDのパーラメント・スクエアでの集まり。CCTVなどを撮影したたくさんの写真で、ゴードン・ブラウンをモザイクで表現。

CCTV in operation, oh yeah? The Big Picture - Open Rights Group, by a flickr user RachelC

写真クレジット Credits:
LEFT: a CC photo by a flickr user *ade (Ade Rowbotham)
RIGHT: a CC photo by a flickr user RachelC (Rachel Clarke)

One Nation Under CCTV, Newman Street 22nd April 2008, by a flickr user Spy Blogそれと、「CCTVネタでニヤリ」といえば、何と言っても、Newman StreetのBanksyのこれ(左図: Spy BlogさんのCCフォト)なんだけど、これはもうすぐ見られなくなってしまうかもしれない……この壁のあるウェストミンスターの行政当局が、「壁の所有者が特定され次第、消す」と決定しました (the BBC, 24 October 2008)。「壁の所有者が特定され次第」っていっても、建物は基本的に「郵便仕分けセンター」で(同時に「怪しい郵便物の開封チェックセンター」でもあるとのことだけど)、ちょっと縦割り行政的なあれこれはあるにせよ法的な所有者の特定が困難を極めるということにはならないだろうから、消されちゃうんでしょう。もったいないよね。Banksyの「お芸術市場」での価格の話ではなく、「こんなにおもしろいもの」を塗りつぶすだなんて。(よりによってデイリー・メイルなんですが、壁の下の方がよくわかる写真をどうぞ。)

しかも納得いかないのは、「ほかのグラフィティ・アーティストに対しメッセージを送るために to send a message to graffiti artists in the city」消される(少なくとも建前上は)ってことなんだけどね……Banksyの次の「作品」は「スケープゴート」かもしれん。(笑)

flickrのBanksyグループのみんなが壁を監視(笑)してる。今から12時間前(日本時間で30日早朝)の段階で、まだ消されてないとのこと。
http://www.flickr.com/groups/banksy/discuss/72157608320445423/

場所はここです。誰でも見に行けるよ、ロンドンにいさえすれば。

View map of Greater London on Multimap.com
Birds Eye view of Greater London on Multimap.com
Get directions to or from Greater London on Multimap.com


蛇足ですが、One Nation Under CCTVの元ネタは、明らかに、ファンカデリックのOne Nation Under a Grooveです。Previewしかないけど:
http://www.last.fm/music/Funkadelic/_/One+Nation+Under+a+Groove

One Nation Under a GrooveOne Nation Under a Groove
Funkadelic


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Banksyめぐりのガイドブック。中見てないけど。
0955471222Banksy Locations and Tours
Martin R. Bull
Shell Shock Publishing 2008-04

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※この記事は

2008年10月30日

にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。


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【2003年に翻訳した文章】The Nuclear Love Affair 核との火遊び
2003年8月14日、John Pilger|ジョン・ピルジャー

私が初めて広島を訪れたのは,原爆投下の22年後のことだった。街はすっかり再建され,ガラス張りの建築物や環状道路が作られていたが,爪痕を見つけることは難しくはなかった。爆弾が炸裂した地点から1マイルも離れていない河原では,泥の中に掘っ立て小屋が建てられ,生気のない人の影がごみの山をあさっていた。現在,こんな日本の姿を想像できる人はほとんどいないだろう。

彼らは生き残った人々だった。ほとんどが病気で貧しく職もなく,社会から追放されていた。「原子病」の恐怖はとても大きかったので,人々は名前を変え,多くは住居を変えた。病人たちは混雑した国立病院で治療を受けた。米国人が作って経営する近代的な原爆病院が松の木に囲まれ市街地を見下ろす場所にあったが,そこではわずかな患者を「研究」目的で受け入れるだけだった。

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