「なぜ、イスラム教徒は、イスラム過激派のテロを非難しないのか」という問いは、なぜ「差別」なのか。(2014年12月)

「陰謀論」と、「陰謀」について。そして人が死傷させられていることへのシニシズムについて。(2014年11月)

◆知らない人に気軽に話しかけることのできる場で、知らない人から話しかけられたときに応答することをやめました。また、知らない人から話しかけられているかもしれない場所をチェックすることもやめました。あなたの主張は、私を巻き込まずに、あなたがやってください。

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2008年10月26日

「飢饉は終わった」発言と「脅迫」――NIサッカー、場外乱闘(言語的に)

「またか orz」感満載。サッカー北アイルランド代表のエースストライカー、デイヴィッド・ヒーリーに対する脅迫があるそうです。(「またか」ってのは、ニール・レノンの件があるから。後述。)まあ、「脅迫」っていっても「冗談」のつもりの書き込みかもしれないけど、日本での「小女子」よりははるかに現実味があるし。

David Healy furious at death threats
Thursday, 23 October 2008
http://www.belfasttelegraph.co.uk/news/local-national/david-healy-furious-at-death-threats-14014722.html

ベルファスト・テレグラフのこの記事によると、先日の試合(対サンマリノ、4-0で勝利)でヒーリーが久々にNI代表でゴールを決め、試合後のインタビューで「飢饉は終わった」と述べて、それでネット上に「どうやらこの子は自分で自分の死刑執行命令書にサインしちゃったらしいな。どっかの頭のおかしい奴がやるだろう」とかいう投稿がなされた、とのこと。

……2回ほど、お茶ふいたわ!


「飢饉は終わった」っていうのは、先日このブログで書いたけど、グラスゴウのオールドファームの対立で、レンジャーズ(プロテスタント、スコティッシュ)がセルティック(カトリック、アイリッシュ)に対して浴びせる罵倒のお歌として使われている差別ソング(「じゃがいも飢饉はもう終わった、てめぇらの居場所はここにはねぇよ」という内容)の一節を連想させる。というかそこからの引用だろうと考えることに無理はない。それさえも「ユーモアのセンス」で「ネタ」にしてしまい、ヒーロー・インタビュー的な場でその「差別ソング」を「引用」しちゃったということなら、女王の配偶者もお茶をふくだろう(→この記事の最後の方を参照。実際にはもっとひどいのあるけどね、いろいろと)。でも本人は「あのお歌とは関係ない」と語っている。単にスランプだったことを「日照り、不作、飢饉」に譬えただけだ、という説明をしている。

でもどうなのかな……ヒーリーもちょっと調子ぶっこき過ぎじゃないのかという気がするんだけど。ベルテレ記事の最後の方に書いてあるのだけれども、この7月にフラムでプレイしていたとき、セルティックとのフレンドリーでやらかしているのだそうだ。
Healy attracted criticism in July when he mimicked playing the flute - a reference to Orange Order parades - during a friendly match between Celtic and Fulham, who he played for at the time.

Healy made an immediate apology for the incident which he said came after he was heckled by Celtic fans.

オレンジ・オーダーのパレード(7月12日)の象徴である「フルート吹き」は、かつてあるイングランド人がやってるんだけど(誰とは言いませんが、リンクだけしておく)、彼はそれでクラブから罰金を科されたんだよね。もちろん、「その筋」からの脅迫ももれなくプレゼントされた。これが10年前の出来事。知らないわけじゃないよね、ヒーリーの年齢から考えれば。

っていうか、私これまで、デイヴィッド・ヒーリーが「どっち側」かなんて、考える必要性も感じたことはなかったし、正直そんなことには興味はないのだけれども、彼が自分で「俺はこっち側」ということを主張しているみたいだから一応知識として頭に入れておく、というようなことになってしまった。残念だ。グッドフライデー合意から10年も経過しているのに、それどころかギャングランドではまったく呉越同舟だというのに、いまだに「どっち側」が意味を持っていることを、ひとつまたひとつとサッカーで知らされるのは、とても残念なことだ。

ヒーリーの実際のコメントはこんな感じ:
After the match a smiling Healy told Ulster Televison: "I am pleased to score, the famine, the drought, whatever people would call it is over, and am so pleased to be on the scoreboard."

「ゴール決めれたのがうれしいです。飢饉ていうか旱魃、まあいろいろ呼び方はありますけどとにかく、そおゆうのが終わって、スコアボードに自分の名前が出て、よっしゃーってことで」
※若干超訳しました。


彼の場合、自分が「ノーゴール」だった状態を「飢饉」と呼んでいるわけで、他人を罵倒するためにその語を使ったわけではない(ヒーリー自身、「飢饉」という語を使ったことがコンテクストから切り離されていることに大きなフラストレーションを感じているとかなり強い調子で述べているのだけれども)。でも、こういうのは「レンジャーズのサポの差別ソングからの引用かよ」ということで、ただでさえ最近ぴりぴりしているセルティック・サポの神経を逆なでするものだ、ということくらいわかっておいてもいいと思うけどね。普通にパブとかでしゃべってても場の空気を凍りつかせるよ、これは。もう29歳だし、MBEなんだから。

一方で、こういうのに対して「枕を高くして寝られると思うなよ」みたいなくだらない「脅迫」をする奴がいまだにいるというのも、もう何と言うか……。「プロテスタント側の誰かがその言葉を使った」というだけでこういうことになるんだから、そりゃ、映画『ハンガー Hunger』について、「ボビー・サンズは理想に燃えた若き革命家ではなく犯罪者だ。彼らは、チャンネル4が大々的に取り上げるべき集団ではない」とかいうボケたコメントをDUPの政治家が口にするのも納得だ(明らかに、映画を見もせずに題材がサンズというだけで反応している。もううんざり)。

まあ、実際、YouTubeの双方の「プロパガンダ映像」(私は「参考資料」として見ることが多い)のコメント欄は、中には激戦地になっているものもあるし、プロパガンダ・ポスターの掲示板と化しているものもあるし、今回の穏やかならぬ投稿も「はいはいまたですか」という類のもので、何か差し迫って深刻なものではないとは思うのだけれども(ベルテレ記事のコメント欄に、"Utube is breeding a new generation of morons" という投稿があるが、まったく同感)、その方面にしてみれば、ロイヤリストの武装組織を「標的」に認定してもあまり話題にもならないし(「あんな悪逆非道な人物が標的になったところで私たち普通の市民には……」となる)、何かのきっかけで事態が深刻になってしまうかもしれない。

だからこそ、ヒーリーにはできればもうちょっと大人になってもらいたいと思う。



というわけで、ヒーリーの件は一般的な新聞ではベルテレしか取り上げてないようだし(サッカー専門のオンラインメディアではいくつか取り上げている)、差し迫って深刻なこととは思えないのだけれど、実際に暴力が行使されている件――グラスゴウのオールドファームのときのお歌について書いたエントリのコメント欄に放り込んであるのだけれど、セルティックの元主将で、現在はセルティックのコーチをしているニール・レノン(北アイルランド人でカトリックで元北アイルランド代表)に対する暴行事件(パブから家まで200ヤードくらいを歩いて帰る間に罵倒され、頭を殴られて昏倒)について。
http://news.scotsman.com/glasgow/Sectarian--thugs-beat-Neil.4447284.jp
http://www.guardian.co.uk/football/2008/sep/01/celtic.scottishpremierleague1

ちょっと日付が古くなってしまっているのだけれども、先のエントリのコメント欄から:
2008年09月19日 23:23
8月31日にグラスゴウで、セルティックのコーチをしているニール・レノン(元セルティック主将)が夜、路上でボコられ意識を失うという事件があったのですが、それがどうやら、初期報道のとおり、セクタリアンなものだということで裏が取れたみたいです。

警察が事情を聞きたがっている男2人のCCTVの映像(暴行現場ではなく歩いているところ)を、警察が公開しました。

Images issued over Lennon attack
Page last updated at 12:58 GMT, Friday, 19 September 2008 13:58 UK
http://news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/scotland/glasgow_and_west/7625395.stm


それと、10月5日のエントリから:
http://nofrills.seesaa.net/article/107659374.html#more
つい数週間前にもセルティックの元主将で現在はコーチをしてるニール・レノン(北アイルランド人でカトリック)がボコられて病院にかつぎこまれて、ボコったのはレンジャーズのサポらしい、っていうようなことが起きているのだが、これだって突発的に起きたものではないと考えるのが妥当だし(加害者が起訴されて裁判中なのでまだ真相はわからないけれども)。
http://news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/scotland/glasgow_and_west/7633618.stm
http://news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/scotland/glasgow_and_west/7636828.stm


レノン襲撃事件については、10月7日に2人目の容疑者が起訴された、という報道があって、その後、26日の時点で続報はありません。
http://news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/scotland/glasgow_and_west/7657983.stm

起訴されているのは2人とも43歳の男です(いいトシをして……というか、ど真ん中であの世代か)。

一方で、容疑者2人が起訴された後の13日、ベルテレにまたひどい記事が出ていました。

Fury over "Punch Neil Lennon" game
By Stephen Breen
Monday, 13 October 2008
http://www.belfasttelegraph.co.uk/news/local-national/fury-over-punch-neil-lennon-game-14000399.html

実際のレノン暴行事件を模した「レノンをボコろう」というゲームがオンラインで公開されているそうです。これについてベルテレは "Scottish bigots have been slammed for glorifying a violent attack" と書いている。ものすごく強い表現です。

そしてこのゲームには、例の「じゃがいも飢饉は終わったんだから」のお歌がつけられているとのこと。

最低で幼稚で下劣です。セルティックのサポはもちろん、レンジャーズのサポも、ほんとにサッカーが好きでサポやってるような人たちは呆れているというか怒っているとのこと。レンジャーズのサポ組織では、誰がやっているのか情報提供を求めるという呼びかけをしています。

レンジャーズはたびたびサポの一部が暴れるなどして、UEFAから罰金を科されたりしています。
http://en.wikipedia.org/wiki/Rangers_F.C.#Old_Firm_and_sectarianism

幼稚で下劣なことが好きな「自称サポ」(幼稚で下劣なことができないことを「自由の抑圧」と言ってみたりするタイプ)の行動が原因となって、結果的にクラブが制裁を科せられたりすることがなければいいのですが。

同時に、レンジャーズ側のこういう動きで、セルティック側のそういう動きが誘発されることがなければいいのですが――「奴らがやるから反撃するのだ」は、「IRA系組織へのシンパシー」の土壌になりやすい。というかリパブリカンのプロパガンダが最も強いのはこの理屈に乗っかるときなので……。

ニール・レノンは次のように述べています。the IFAは北アイルランドのサッカー協会のことです。
The former Hoops captain has praised the IFA over its attempts to combat sectarianism among its fans.

But Lennon (37) believes there will always be a small minority of bigots who will bring shame on the game.

"I think the IFA have worked very hard but I do think there is an element there that, no matter what you do, you will never change their mindset," he said.

"It's just a small minority, but they will always be there to spoil the party. When I look at Windsor Park now there seems to be a better atmosphere.

"Maybe that's a kickstart from what happened to me.

"I hope maybe some good has come out of all that."

http://www.belfasttelegraph.co.uk/news/local-national/fury-over-punch-neil-lennon-game-14000399.html

あー、なんかむしゃくしゃする。「何をやったって彼らの考え方を変えることはできない」なんて言わすなよな。

彼は「カトリック」じゃねぇだろ。「フットボーラー」だろ。

デイヴィッド・ヒーリーは自分の発言がコンテクストから切り離されて取り上げられたと怒っているけれど、ニール・レノンは、たまたま生まれた家の宗教が、切り離されてしかるべきときにさえ貼り付けられて、そして怒る段階を通り過ぎてしまって、もはや「諦め」の境地を見ている。

ちなみに、ブログ検索をすると、「ヒーリーをレンジャーズに」みたいな主張がいくつか見られる(件数は数えるほどだ)。「それ系」のブログ(「反PC」と「反IRA」と「反シン・フェイン」と「反労働党」が、不思議なほど重なっているようなブログ)、「カトリック排斥」のポーズを、「われわれの伝統」とパラフレーズすることに何の違和感も抱かないような、むしろ、そういうポーズに「連帯感」を抱いてしまうようなブログだが。

ちなみに、ヒーリー本人が「ゴールがなかったこと」の比喩だと説明している「飢饉」については、一部のレンジャーズのサポの間では「うまいこと言うwww」扱いになっていたりする。それがとても自然な解釈だと私も思います。

(ていうか、「ゴールがなかったこと」をあえてfamineと言う必要はないでしょ。こういう「軽い」発言は、物事を深く考えることはしないけれどおもしろいことは言う、というタイプの発言にありがちなのだけど、それは何らかのソーシャル・コンテクストがあってこその発言で、だからこそこれは「ユーモアのセンス」なのだが。)

※この記事は

2008年10月26日

にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。


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【2003年に翻訳した文章】The Nuclear Love Affair 核との火遊び
2003年8月14日、John Pilger|ジョン・ピルジャー

私が初めて広島を訪れたのは,原爆投下の22年後のことだった。街はすっかり再建され,ガラス張りの建築物や環状道路が作られていたが,爪痕を見つけることは難しくはなかった。爆弾が炸裂した地点から1マイルも離れていない河原では,泥の中に掘っ立て小屋が建てられ,生気のない人の影がごみの山をあさっていた。現在,こんな日本の姿を想像できる人はほとんどいないだろう。

彼らは生き残った人々だった。ほとんどが病気で貧しく職もなく,社会から追放されていた。「原子病」の恐怖はとても大きかったので,人々は名前を変え,多くは住居を変えた。病人たちは混雑した国立病院で治療を受けた。米国人が作って経営する近代的な原爆病院が松の木に囲まれ市街地を見下ろす場所にあったが,そこではわずかな患者を「研究」目的で受け入れるだけだった。

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