21日、東京国際映画祭の「ワールドシネマ」部門で上映されたスティーヴ・マックイーンの長編映画第一作、『ハンガー Hunger』を見てきました。夜7時過ぎからの上映で、120席ほどの小さなシアターは、8割以上は埋まっていたような感じ。今年2月の「北アイルランド映画祭」よりさらに若い世代が多いという印象(それはおそらく時間帯のせい)。英国での封切りが10月31日なので一足早く、20日のロンドンや16日のベルファストでのプレミア上映とだいたい同じタイミングで見られたことになります。
あと一度だけ、今週金曜日に上映されるので、見逃したくない方はぜひ。
10月24日(金) 11:20〜12:56(開場11:00)
TOHOシネマズ 六本木ヒルズ Screen5
http://www.tiff-jp.net/ja/lineup/works.php?id=169
※今日の午後9時まで、チケットぴあで前売りが買えるはずです。
映画そのものについては、すごく長くなるので、別のエントリにしますが……ひとつだけ。
字幕は、もし今後劇場公開やDVD化の予定があるなら、何とかしてほしい……北アイルランド関連は用語が大変であることは重々承知しているのだけれども(the Republican movementとか、それどころかRepublicanですら、「わかりづらい」ので)、あれはちょっといくらなんでも、という点が。
例えば、ボビー・サンズと神父が対話する例の「17分の長回し」のシーンで、神父が「君たちは闘争を続ければいい」というような内容のこと(うろ覚え)を言う場面で――ここ、全然聞き取れなかったから字幕を見たのですが、「テロをするのも自由だ」というように、「テロ」という語が使われていたんですね。でも、リパブリカン運動のサポーターである神父が、IRAのやっていることについて、誰かの言葉の引用以外で、IRAの「義勇兵」との真摯な会話で、「テロ」という言葉を使うことは、ありえない。IRAのやっていることについてこの言葉を使うのは、「敵」の用語法であるか、少なくとも、IRAを支持しない立場の用語法です。
映画の脚本は当然、そこはすごく丁寧にやってあって、この映画で「テロリズム terrorism」という言葉が、IRA側の人物の言葉として出てくるのは、サンズが「political terroristsって連中は言うよね」というようなこと(うろ覚え)を神父との会話で述べるときだけです。
ストーリーの根幹、というか映画の作り手のメッセージを伝えるために最も重要な部分で、「テロ」という用語がしれっと出てきたことには、心底ガックリ。同じ映画で、There's no such things as political violence, political murder ... っていうサッチャーのスピーチが使われていて、ボビー・サンズらの闘争はそれに対する闘争――「ポリティカル」を認めない英国政府に対する闘争である、というのが映画のコアなのに、IRAのサポがIRAについて「テロ」という用語を使うなんて……ないないないない。
で、私はこの「テロ」の箇所で字幕見るのやめました。3割くらいしか聞き取れないんだけど(ベルファスト訛り、早口、会話がリアルすぎて音声が聞こえづらい箇所がある、などなどで)、この「テロ」の使い方があまりに無神経すぎて腹立たしくて。スティーヴ・マックイーン監督がどれだけ綿密な取材をし、どれだけ神経を使ってこの作品を仕上げたか、ということをインタビューなどで知っているだけに。
日本の観客のための「説明」として単純明快な「テロ」という言葉が必要だったのかもしれないと後から思いはしたのだけど、それでも「闘争 struggle」というIRAの用語を使うなどすべき。実際には神父はその用語を使っていなかったかもしれないけど(これはマルクス主義の用語で、カトリック教会がIRAのそういう要素について微妙な態度だったこともまた事実なのだけど)、サッチャー政権側、もしくはUDAやUVFやDUPやUUP側の用語である「テロ」よりは、IRA側に近いので。
それと、刑務所の職員の指に「UDA」と刺青されているのが大写しになるシーンで、字幕が、あろうことか、「反カトリック」……orz
これじゃあ「字幕」じゃなくて「訳注」だ、と内心でツッコミ入れたのは、120席あまりのあの劇場で私だけじゃなかったと思います。「UDA」が何の注釈もなくわかる人がそんなにたくさんいるとは思わないけれど、それでもせめて「プロテスタント」で。北アイルランドが「カトリック対プロテスタントの対立」だったことくらい、お金払ってこの映画を見に来る観客は知っていると前提してよいのでは。
ってかこれは北アイルランド関係で何か書いてる側がもっと書くべきなのかも。「北アイルランドといえば」でIRAしか連想されない状況を変えるために。(書いたって「ニーズがない」から読まれないんだけどね……「反政府武装組織」は熟語化しているけれど、UDAのように「実は政府側の非合法武装組織」については熟語化しそうなフレーズすらないし。)
で、自分的には、日本語字幕はいらんから英語字幕つけてほしい、と心から思った次第です。これで気が散ったのも、映画を予想してたよりも楽に見ることができた一因かも。日本語字幕のクレジットは確か岡田先生でしたが、記憶違いかも。
※この記事は
2008年10月22日
にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。
【todays news from uk/northern irelandの最新記事】
- 【訃報】ボビー・ストーリー
- 【訃報】シェイマス・マロン
- 北アイルランド自治議会・政府(ストーモント)、3年ぶりに再起動
- 北アイルランド紛争の死者が1人、増えた。(デリーの暴動でジャーナリスト死亡)
- 今週(2019年3月3〜9日)の北アイルランドからのニュース (2): ブラディ..
- 今週(2019年3月3〜9日)の北アイルランドからのニュース (1): ディシデ..
- 「国家テロ」の真相に光は当てられるのか――パット・フィヌケン殺害事件に関し、英最..
- 北アイルランド、デリーで自動車爆弾が爆発した。The New IRAと見られる。..
- 「そしてわたしは何も言わなかった。この人にどう反応したらよいのかわからなかったか..
- 「新しくなったアイルランドへようこそ」(教皇のアイルランド訪問)