「なぜ、イスラム教徒は、イスラム過激派のテロを非難しないのか」という問いは、なぜ「差別」なのか。(2014年12月)

「陰謀論」と、「陰謀」について。そして人が死傷させられていることへのシニシズムについて。(2014年11月)

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2008年09月27日

ギャングランドは呉越同舟

「会議室で起こっているんじゃない、現場で起こっているんだ!」(<古い)的な何か、というか、もうね……。

26日のBBC NIに、「燃料の不正販売摘発」というヘッドラインがあった。

Arrests after city fuel dump raid
Page last updated at 17:34 GMT, Friday, 26 September 2008 18:34 UK
http://news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/northern_ireland/7638713.stm

「ギャングがパクられたのかな」と思って記事を見ると:
A woman and a man have been arrested and tens of thousands of pounds seized in a raid on an illegal fuel dump in west Belfast.

西ベルファストにある不法な燃料販売所に強制捜査が入り、男女それぞれ1人が身柄を押さえられ、数万ポンドが押収された。


「なるほど、西ベルファストですか、ということは映画『ディボーシング・ジャック』に出てきたみたいなIRA崩れのギャングですかね」とお茶飲みつつ次のパラグラフに行くと:
The dump, which had been under surveillance for months, was located in an industrial estate between the Crumlin and Shankill roads.

販売所は、数ヶ月に渡って監視されていたが、クラムリン・ロードとシャンキル・ロードの間に位置する工場群の中にある。


……「あっち」じゃなくて「そっち」の地域か、と思いお茶を飲み込んで次のパラグラフに行くと:
The fuel had been brought in from the Republic via south Armagh, where it was laundered.

燃料は、アイルランド共和国から持ち込まれたもので、サウス・アーマーで洗浄されていた。


……はぁ? ルートは「そっち」じゃなくて「あっち」じゃん。ということは……ああ、お茶飲み込んどいてよかった。

シャンキル・ロードって、「ベルファストの宗派対立の最前線」だよ。1993年に10月にIRAがUDA幹部のミーティングを狙ってボムろうとして、結果的に、標的のUDA幹部ではない民間人を9人殺した場所であり、そのずうっと前から「対立の最前線」だったところ。
http://en.wikipedia.org/wiki/Shankill_Road_Bombing

その、がっちがちのロイヤリストの拠点であるはずの地域に、リパブリカンが南から密輸入した燃料の不正販売所があるというのは、どういうことっすか。

つまり、ギャングランドという現場では「そっち」も「あっち」も仲良くやってるってことですかね、会議室(ストーモントの議場)ではものすごい対立しているけど。

これは、Slugger O'Tooleに直行すべき案件だとは思うけど、今ここであそこの人たちのものすごい「ユーモアのセンス」にさらされたら私の頭が爆発してしまうので、ちょっと冷却期間を置くことにして、とりあえずBBC NIの解説記事。

Old enemies smuggle fuel together
By Mark Simpson
http://news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/northern_ireland/7638598.stm

とりあえず地図:

大きな地図で見る

Mark Simpsonの解説記事は、「北アイルランドでは燃料の密輸はとてもおいしい商売になる。普通は敵同士だが、金になるから協力し合おう、というほどに」という内容の、黒い笑いを引き起こす文で始まっている。

そして、「ロイヤリストとリパブリカンが、共通の目的のために、政治的な違いをとりあえず脇においている」という、まあ政治系ニュースで「とにかく対話することから始めよう」的な「理想論」として出てきそうな文が続くのだが、その「共通の目的」が「平和 peace」ではなく「金銭的利益 financial profit」であるという、トホホ感というかニヤニヤ感というか、そういうものにあふれる文だ。

そしてこう続く:
To those involved, pounds are more important than politics.

In the latest raid by customs officials, illegal fuel was seized in a loyalist area, which had been supplied by a gang from a republican area.

現場の人間にとっては、政治より金のほうが重要だ。

国税当局の強制捜査で、ロイヤリストの地域で押さえられた不法燃料は、リパブリカンの地域のギャングによって供給されたものだった。


ここまで読んで、これはギャングランドという現場では「そっち」も「あっち」も仲良くやってる、という話なのだな、ということを再確認して、これは別の意味での「バルカン化」だ(バルカンの「民族対立」の裏で、それぞれの民族主義集団のギャングが手を結んで、人身売買などを組織的に行なっている)、とか、こんなことはおそらくずっと、現地では実は周知の事実だったに違いないが、BBC NIのヘッドラインになったのは初めてだろう、とか、いくつか考えて一服。

解説記事によると、燃料はリパブリカンの手でアイルランド共和国からサウス・アーマー(かつて英軍・情報部によってBandit Countryと呼ばれた地域。道路脇にSniper at Workの標識が立っていたような)に運び込まれ、そこからロイヤリストのシャンキル・ロード地域に輸送されていた。

こうして、国庫に入るべき燃料税分のお金(more than £100mと推計されているそうだ)を、ギャングが――リパブリカンのギャングも、ロイヤリストのギャングも――懐に入れ、さらには地域のほかの小売業者(普通に仕入れをしている業者)の収益を圧迫していたわけだが、リパブリカンはさておき、ロイヤリスト……。(笑)

英国を害する行為はロイヤリストの主義主張と完全に矛盾している。これが示しているのは、その「主義主張」とやらが、いかに自分に都合のよいときだけ持ち出されるものであるか、ということだ。

そこにこそ「北アイルランド問題」の現場の厄介さがあることは事実だ。2000年代前半にひどかった「ロイヤリストの内紛」(UDAとUVFとLVFの襲撃合戦)でも似たような雰囲気になっていたと私は思うけれど、どこまでが「政治目的のテロ組織」で、どこからが「利潤目的の犯罪組織(ギャング)」なのかがわからない。すべてに「政治性」がデフォルトでついてくるようなところでは、実はその「政治性」に「意味」などない、ということでもあるかもしれない。

ところで、BBCの解説記事には、「あるインサイダーの話」として、次のような言葉が紹介されている。
As one insider put it: "There's no religion on a £10 note."

「10ポンド札には、宗教は表示されていない」


ここでまたひとひねりだ。少なくともこの人にとっては、「宗教」と「政治性」は、この文脈ではシノニムなのだろう。でもたぶんそれは、「意味」を持たない。はなっから「そういうもの」としてそこに存在しているだけの記号で、「意味」はないけれども「機能」はある。

ある意味、表徴の帝国。なんちゃって。

BBC解説記事によると、ギャングはアイルランド共和国で農業用の税率の低いディーゼル燃料(緑色に着色されている)を大量に仕入れ、それをサウス・アーマーに運んで秘密の作業所で化学的処理をして着色料を落とす。これで見た目は普通のディーゼル燃料と変わらなくなる。これが北アイルランド各地に運ばれて密売される。(まあ、基本的には日本での不正軽油の転売と同じことかなあと思いますが。)

この輸送作業もヤミで、輸送に使われるトラックなどの車両は燃料輸送用のものではないから、万が一何かあったときには大変な災害となる、という問題点も指摘されている――「トラックが事実上時限爆弾になっている effectively ticking time-bombs」という言葉で。また、脱色の過程でいろいろやるので、エンジンに負担をかけたり、どうしても出てしまう有害物質をそこらへんに投棄して環境が汚染されたりといった害もある。

このようにして不正に販売される燃料は、正規の燃料スタンドより1リットル当たり15ペンスほど安い価格がつけられているそうだが、それでも密売者側には最高で30ペンスの利益をもたらす。

当局はこの密売に関わる人々を追跡しようとしているが、まだまだ先は長い、と記事には書かれている。

この記事は意図としては、単に「ほかより安いから」という理由でこういうヤミ燃料を買っている人たちに、「そのお金はギャングの資金源になる」とか、「あなたの車の寿命を縮める」とか、「環境を汚染している」とかいう警告を出す、ということもあるだろう。

記事の最後の一文は、
Smuggling in Ireland is as old as the border itself. The fuel scams will not disappear overnight.

アイルランドの密輸は南北のボーダーができたころからある問題だ。燃料のヤミ販売は一晩で消えてなくなるようなものではない。


ボーダーがあるからsmugglingがある、ということではないのだけれども、どうもそっちでスイッチが入っちゃったんで、自動的に電源が切れるまで突っ走ることにしたら、↓のようなものが。





このあと、sluggerに行ってみたこととか書いたんだけど、誤って消してしまったらしい。書き直すのもめんどいのでそのままで。

とにかく、ベルファストで逮捕者があったあと24時間以上を経過しても、もうひとつの拠点であるはずのサウス・アーマー、あるいはボーダーの南からは「強制捜査」「逮捕」の報道はない。これはメモしておきたい。

ひょっとしたら、末端の密売所を何ヶ月も見張りつつ元締めをトラックダウンして、一斉摘発、という話だったはずが……ということかもなあ、なんてちょっと思ってたり。

それと、BBC NIのニュースレポート:
http://news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/7638979.stm

2分少し。マーク・シンプソンのレポートで、密売所の中の様子もよくわかる。それにしてもこの建物、どう見てもただの倉庫で、ロイヤリストのミュラルがあるし……

"The government wants cross-community enterprises in Northern Ireland, but not smuggling and laundering." とかいう一節があって、お茶ふいた。

※この記事は

2008年09月27日

にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。


posted by nofrills at 23:50 | Comment(0) | TrackBack(0) | todays news from uk/northern ireland | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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【2003年に翻訳した文章】The Nuclear Love Affair 核との火遊び
2003年8月14日、John Pilger|ジョン・ピルジャー

私が初めて広島を訪れたのは,原爆投下の22年後のことだった。街はすっかり再建され,ガラス張りの建築物や環状道路が作られていたが,爪痕を見つけることは難しくはなかった。爆弾が炸裂した地点から1マイルも離れていない河原では,泥の中に掘っ立て小屋が建てられ,生気のない人の影がごみの山をあさっていた。現在,こんな日本の姿を想像できる人はほとんどいないだろう。

彼らは生き残った人々だった。ほとんどが病気で貧しく職もなく,社会から追放されていた。「原子病」の恐怖はとても大きかったので,人々は名前を変え,多くは住居を変えた。病人たちは混雑した国立病院で治療を受けた。米国人が作って経営する近代的な原爆病院が松の木に囲まれ市街地を見下ろす場所にあったが,そこではわずかな患者を「研究」目的で受け入れるだけだった。

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