kafranbel-aug2011.jpgシリア緊急募金、およびそのための情報源
UNHCR (国連難民高等弁務官事務所)
WFP (国連・世界食糧計画)
MSF (国境なき医師団)
認定NPO法人 難民支援協会

……ほか、sskjzさん作成の「まとめ」も参照

お読みください:
「なぜ、イスラム教徒は、イスラム過激派のテロを非難しないのか」という問いは、なぜ「差別」なのか。(2014年12月)

「陰謀論」と、「陰謀」について。そして人が死傷させられていることへのシニシズムについて。(2014年11月)

◆知らない人に気軽に話しかけることのできる場で、知らない人から話しかけられたときに応答することをやめました。また、知らない人から話しかけられているかもしれない場所をチェックすることもやめました。あなたの主張は、私を巻き込まずに、あなたがやってください。

【お知らせ】本ブログは、はてなブックマークの「ブ コメ一覧」とやらについては、こういう経緯で非表示にしています。(こういうエントリをアップしてあってもなお「ブ コメ非表示」についてうるさいので、ちょい目立つようにしておきますが、当方のことは「揉め事」に巻き込まないでください。また、言うまでもないことですが、当方がブ コメ一覧を非表示に設定することは、あなたの言論の自由をおかすものではありません。)

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2008年09月01日

ロシア政府批判のニュースサイト運営者が謎の「事故死」

イングーシで、ロシア政府批判のニュースサイトを運営している人が謎の「事故死」を遂げたらしい。「謎の事故死」といっても、「交通事故」とか「階段から転落」とか「山登りをしていて遭難」とかじゃない。

というか、ロシアでは、警察に連行されるときにこめかみに一発被弾して死んだら「事故死」として扱われるらしいんだよね。これは「ソビエトロシアでは……」の冗談ではなく、マジで。英国でも「事故死」や「事故的な死」にはいろんな背景がありがちなのだが(フィクションですけど『ナイロビの蜂』とか参照。フィクションじゃないものは……)、「こめかみに一発」を「事故ですよ」というのは聞いたことはない。方向的に逆のものならあるけど(「後頭部に一発」でもないのに「IRAによる処刑」と断言するとか)。

この「事故死」があったのは、イングーシ共和国。ロシアの領土内(ロシア連邦内)、南部連邦管区に属する。といってリンク先で略図を見ても、どこにあるのかよくわからないくらいに小さな地域だ(面積は4,000平方キロメートル。ちょっと検索してみたら「滋賀県や長崎県とほぼ同じ大きさ」との記述が)。主要都市はナズランという都市。東隣はチェチェン共和国、西隣は北オセチア共和国。南隣というか何というか、ちょっと接しているのはグルジアだ。イングーシという場所については、「チェチェン総合情報」さんに掲載されている「チェチェン人とは誰か」という文章(Johanna Nicholsさんによる)も参照。

で、このイングーシで、クレムリンが後ろ盾になった地域政府を批判しているニュースサイトがあり、それを運営していたのが今回、「謎の事故死」を遂げたMagomed Yevloyevさんだ。


ロイター(ガーディアン掲載):
Ingushetia website owner killed by police
Reuters in Nazran
The Guardian, Monday September 1 2008
http://www.guardian.co.uk/world/2008/sep/01/russia1

ニューヨーク・タイムズ:
A Journalist in Russia Is Shot Dead After Arrest
By ANDREW E. KRAMER
Published: August 31, 2008
http://www.nytimes.com/2008/09/01/world/europe/01ingushetia.html?ref=europe

モスクワ・タイムズ:
Ingushetiya.ru Owner Shot Dead
01 September 2008
http://www.moscowtimes.ru/article/600/42/370550.htm

Magomed Yevloyevさんは、ロイターの取材に応じた弁護士によると、年齢は30代(お写真を見るともう少し年長にも見えるので、30代後半だろう)。Ingushetiya.ru(Ingushetiyaは「イングーシ」のこと)というウェブサイトを運営していた。このサイトはロシア語で書かれていて(すみません、私には「キリル文字だ」ということしか弁別できません)、スポーツニュースのコーナーもあったりするようだが、一部の記事(主にロシア治安当局の暴力についての記事)がwordpressを利用して英語でパブリッシュされている。

ロイター報道は、地の文に「アンナ・ポリトコフスカヤ以来の大物ジャーナリスト殺害」みたいなことが書かれていてちょっとううむという気がするので、そういうところは読まずに重要なところだけ見ておこう。

まず、ロイター記事によると、Magomed Yevloyevさんのサイトについては、当局は何度も閉鎖しようとしていたらしい。Google Newsで見てみたところ、例えば今年8月7日にはモスクワ・タイムズが、「Ingushetiya.ruの編集長(注:運営者ではない)が欧州に渡航、亡命申請か」と報じている。
Roza Malsagova, 51, traveled to Germany three weeks ago with her three teenage sons, lawyer Kaloi Akhilgov said, though he refused to say in which country she would apply for asylum.

...

Malsagova, a former actress and the top director at the Ingush Dramatic Theater, claimed in an interview with Radio Free Europe/Radio Liberty last April that men dressed in camouflage had threatened her and her children at her home in Nazran, Ingushetia's main city.

Malsagova moved to Moscow last November after large-scale protests in the republic led to an intimidation campaign against the opposition leader by local law enforcers, Akhilgov said.

Tatyana Lokshina, a researcher with the Moscow office of Human Rights Watch, said Malsagova had told her in June that the crackdown on the web site could result in persecution of her relatives in Ingushetia.

※欧州連合ではアサイラム申請をするときは最初に入った国ですることになっているはずだから、「どの国で申請するのか」は自明だと思うのだが、シェンゲン協定のからみでいろいろあるのかもしれない。(そのへん、英国しかわからない者にはさっぱりわからない。)

つまり編集長(女性)は、何度も脅迫を受けており、ついに昨年11月に身の危険を感じてモスクワに移った。そしてこの6月、モスクワでHRWのモスクワ支局の人に、イングーシにいる親族の身が心配だという内容のことを話している。その時点では本人には亡命の考えはなかったようだ、とHRWの人は話している。

そしてこのモスクワタイムズの記事が出たころ、つまり8月上旬、彼らのサイトが主導して8万人から集めた、ロシアのメドヴェージェフ大統領宛の署名が提出されていた。
The Ingush opposition on Monday submitted 80,000 signatures to President Dmitry Medvedev asking him to dismiss Zyazikov and appoint former Ingush President Ruslan Aushev.

Ingushetiya.ru was a major organizer in the signature campaign, and its employees fear retribution from Zyazikov's administration, Lokshina said.

7日付の記事でMondayだから……カレンダー見ると4日か。Zyazikovというのは大統領(クレムリンの操り人形らしい)で、人々が彼の解任と前任者の再任を要求してロシア大統領に直訴した、ということだ。これによってウェブサイトの人たちは、現政権からの報復を心配している、という。

で、この週ってグルジアとロシアの軍事衝突が起きた週なんだよね。関係ないかもしれないし、関係あるかもしれないけれども、いずれにせよ、複数の事象が並行して起きていたことは事実だ。

また、同じくGoogle Newsで見つけたのだけど、モスクワタイムズは13日に、「モスクワ裁判所がIngushetiya.ruの閉鎖命令を支持」という記事を出している。ここに、今回「謎の事故死」を遂げたサイト運営者のコメントが掲載されている。閉鎖命令を受けて異議申し立てをしていて、それがまたダメだった、ということだ。
http://www.themoscowtimes.com/article/1010/42/369746.htm
"Our appeal was turned down," said Magomed Yevloyev, the founder of the web site, which is one of the only information sources criticizing authorities in the mainly Muslim region bordering Chechnya and is known for its investigations into local corruption.

Yevloyev called the ruling "unlawful" and promised that the web site would keep operating despite the court's decision, which came into force right away. He said the web editors should be able to keep the site open on a technicality.

"Only the web site's editors can decide on it being shut down, but they were not involved in the trial, so they are not planning to abide by it," he said.

The web site's editors will now file their own court appeal, he said.

...

He also has argued that the authorities have no right to shut down the web site because it is registered in the United States.

Ingushetiya.ru promoted and helped organize a January 2007 protest in Ingushetia in which demonstrators armed with Molotov cocktails clashed with police and burnt a pro-government newspaper office.

……ん? 見間違いだといけないから再読。
it is registered in the United States

なるほど。あと、ウェブサイトの編集・更新のスタッフは法務などとは別系統という組織にしてあるのね。それで粘れるだけ粘っていくという戦略だったのだろうけれども。

にしても、殺された人は運営であって編集ではなかったのなら、「ジャーナリスト」という扱いはちょっと違うような気がする。ロイターでは「ジャーナリスト」と書いているのだけれども。

「謎の事故死」についてのロイター記事に戻ろう。

Ingushetiya.ruの弁護士の話によると、殺された/死亡したYevloyevさんは、空路モスクワからナズランに戻ったところで、空港に到着したときに、待ち構えていた警察に車で連行された(降機するためのタラップから)。そしてその車内でこめかみを撃たれた。警察は彼を病院の近くで車から放り出し (threw him out of the car)、そこで発見されたので手術室に急いで搬送されたが、そこで息を引き取った。Yevloyevさんが乗っていた飛行機には、Zyazikov大統領(モスクワがバックアップしている政権のトップ)も搭乗しており、大統領は小規模な反乱(イスラム武装勢力によるもの)の鎮圧に苦心していた。

そして、インターファクス通信では、治安当局者@匿名の話として、Yevloyevさんの銃撃は事故だ、というのを掲載。検察は不注意から死なせてしまったということで捜査を行なっている。

「事故」とか「不注意」とかいう言い分については、NYT記事に出ているのを参照。
"While police officers were attempting to transfer M. Yevloyev to an Interior Ministry office, an incident occurred," said Vladimir Markin, a spokesman for the investigative committee of the prosecutor general's office, according to the Interfax news agency. "M. Yevloyev received a gunshot wound to the temple area."

つまり、検察のスポークスマンは、「警察官がYevloyev氏の身柄を内務省に移送しているときに事故が発生した。こめかみに銃創をおうことになった」と述べている。

最後、モスクワ・タイムズによると:
http://www.moscowtimes.ru/article/600/42/370550.htm

ここまで出ていない内容を箇条書きで:
- Yevloyevさんの支持者たちは大規模な抗議行動を行なうとしている。これにより、この地域の不安定な情勢が一気に、という可能性もある。

- モスクワからナズランへの飛行機で、YevloyevさんもZyazikov大統領もビジネスクラスに搭乗していた。Yevloyevさんの弁護士は、機内で口論があったかもしれないと述べている。

- Zyazikov大統領はFSS (Federal Security Service) を退役した将軍である。

- イングーシ警察は、今年ナズランで発生した爆発事件についての捜査の一環として、Yevloyevさんに事情聴取を行なうところだった(インターファクス)。

- Yevloyevさんはモスクワに拠点のある弁護士(法律家)で、以前はイングーシ検察庁の調査官(検事)だった。

- 警察の車両の中で、Yevloyevさんは警官の持っていたアソルトライフルを奪い取ろうとした。そしてもみ合いのなか銃が暴発して頭に被弾した、と警察は説明。(誰ですか、「2時間サスペンスドラマにありそう」とか言っているのは。)

- イングーシの反体制活動家は、こめかみに一発被弾したYevloyevさんはナズランの病院の近くで倒れているところを発見された、と述べている(インターファクス通信)。

- Yevloyevさんの遺体は日曜日の午後、親戚が引き取り、葬儀(埋葬)の準備をしている。上に出てきた「反体制活動家」は、「葬儀が済んだらイングーシは内戦になるかもしれない」とだけ述べた(詳細は語らなかった)。

- Ingushetiya.ru は、地域政府の汚職を調査報道することで知られており、「イングーシがどうなるかを気にかけている人」はナズランに集合するよう呼びかけている。

- ロシアで最も大きな人権組織、the Moscow Helsinki Group と Memorialは、Yevloyev殺害(murder)について当局は徹底的に調査し、実行者を罰するべきとコメント。

- イングーシでは、報執行部隊メンバー(つまり警察官など)に対する襲撃は日常茶飯事、警察・治安当局による反体制派への暴力的弾圧も日常茶飯事。

- サイトの閉鎖を命令したモスクワ検察は、Ingushetiya.ruは民族間の憎悪を煽動している、との批判もしている。


と、書いてる間にBBCきた。短いし内容も薄いけど。

Kremlin critic shot in Ingushetia
Page last updated at 19:37 GMT, Sunday, 31 August 2008 20:37 UK
http://news.bbc.co.uk/2/hi/europe/7590719.stm

英国では、昨日、ゴードン・ブラウンがオブザーヴァーで「ロシアとの対決」を熱く語ったばかり。その前はデイヴィッド・ミリバンド(外務大臣)がディベーターとして出てきて、底の浅さを見せ付けてくれたけど(純粋にディベートとして、あの人には無理だと思う)。その件は次の改めて別のエントリにします。



ロシア連邦の外だが、ロシアン・スタイルにちかい強権政治が行なわれているらしいウズベキスタンについて、昨年のエントリ。

2007年10月30日
ウズベキスタンでのジャーナリスト殺害
http://nofrills.seesaa.net/article/63428883.html

ウズベキスタンについては、元英国大使のクレイグ・マレーが書いた本(彼は、カリモフ政権による反体制派弾圧を直接目撃している)を元に、マイケル・ウィンターボトムが映画を作ることになっているが、IMDBで見る限り、in productionのステータスのままで軽く1年以上経過している。キャストも主演にスティーヴ・クーガンということが決まっている程度のようだ。「制作中止」のステータスではないが、スムーズに進んでいないことだけは確実。
http://www.imdb.com/title/tt0770788/
タグ:ロシア

※この記事は

2008年09月01日

にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。


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【2003年に翻訳した文章】The Nuclear Love Affair 核との火遊び
2003年8月14日、John Pilger|ジョン・ピルジャー

私が初めて広島を訪れたのは,原爆投下の22年後のことだった。街はすっかり再建され,ガラス張りの建築物や環状道路が作られていたが,爪痕を見つけることは難しくはなかった。爆弾が炸裂した地点から1マイルも離れていない河原では,泥の中に掘っ立て小屋が建てられ,生気のない人の影がごみの山をあさっていた。現在,こんな日本の姿を想像できる人はほとんどいないだろう。

彼らは生き残った人々だった。ほとんどが病気で貧しく職もなく,社会から追放されていた。「原子病」の恐怖はとても大きかったので,人々は名前を変え,多くは住居を変えた。病人たちは混雑した国立病院で治療を受けた。米国人が作って経営する近代的な原爆病院が松の木に囲まれ市街地を見下ろす場所にあったが,そこではわずかな患者を「研究」目的で受け入れるだけだった。

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