「なぜ、イスラム教徒は、イスラム過激派のテロを非難しないのか」という問いは、なぜ「差別」なのか。(2014年12月)

「陰謀論」と、「陰謀」について。そして人が死傷させられていることへのシニシズムについて。(2014年11月)

◆知らない人に気軽に話しかけることのできる場で、知らない人から話しかけられたときに応答することをやめました。また、知らない人から話しかけられているかもしれない場所をチェックすることもやめました。あなたの主張は、私を巻き込まずに、あなたがやってください。

【お知らせ】本ブログは、はてなブックマークの「ブ コメ一覧」とやらについては、こういう経緯で非表示にしています。(こういうエントリをアップしてあってもなお「ブ コメ非表示」についてうるさいので、ちょい目立つようにしておきますが、当方のことは「揉め事」に巻き込まないでください。また、言うまでもないことですが、当方がブ コメ一覧を非表示に設定することは、あなたの言論の自由をおかすものではありません。)

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2008年08月02日

SHOCK HORROR!! 「クイーンズ・イングリッシュ」に憧れているのは日本人だけではなかった! およびブラミーについて。

前菜:
役者さん(だと思う)が、"Supercalifragilisticexpialidocious"という語を、ブリテン諸島の12のアクセントでしゃべる映像(ご本人投稿、1分くらい):
British Accents
http://uk.youtube.com/watch?v=pdx3PP5XStc

内訳は、Birmingham, West Country (Deven, Cornwall), Scotland, Wales, Home Counties (London), Northern Ireland, Yorkshire, Lancashire, London, Geordie (Newcastle: 持ってるビール瓶が惜しい), Southern Ireland, Scouse (Liverpool).

メインディッシュ:
英国人が最もあこがれる話し方はエリザベス女王=調査
7月31日9時38分配信 ロイター
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080731-00000927-reu-int
もしも自分の話し方を選べるならば、英国人はエリザベス女王のようなアクセントで話したいと考えていることが調査で明らかになった。一方、最も嫌われた話し方は、英ロックミュージシャンのオジー・オズボーンが話すバーミンガムの訛りだった。


はい、どうぞ。
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ヘレン・ミレン
エイベックス・エンタテインメント 2007-10-24

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……「女王」はさておき、「ブラミー」。(笑)

なお、上記記事の日本語では、まるで「オジーさんが話すからバーミンガム訛りが嫌われている」ようにも読めるが、元記事を見るとそういうわけでもない。オジーさんはバーミンガム訛りの著名人、というだけだ。たぶん。
If Britons could choose the way they spoke, most would prefer to sound like Queen Elizabeth with rocker Ozzy Osbourne's Birmingham accent the most disliked, according to a survey on the wide variety of British accents.

...

The poll, conducted by voice-to-content company SpinVox, found the most disliked accent was from Birmingham, with so-called "Brum" made famous internationally by rocker turned reality TV star Ozzy Osbourne.


実際、私にも背景がよくわからないのだが、ブラミー (Brummie) の「バカにされ方」は尋常ではない。この機会だからちょっと調べてみよう。BBCのH2G2のサイトにある説明から。
http://www.bbc.co.uk/dna/h2g2/A496352
Why Birmingham?

Quite why this should be the case may at first seem unclear. The Birmingham accent - nicknamed 'Brummie' - is neither guttural nor difficult to understand. Unlike other UK dialects (Geordie or Glaswegian, for example) Brummie does not have a large collection of specifically local words which might alienate non-Birmingham people. And of course there is nothing specific in the character or behaviour of the average citizen of Birmingham to cause any offence. What seems to irritate the hell out of everyone is simply the sound of the thing.

つまり、「(ロンドンやその近辺のような)喉頭音でもないし、聞き取りづらいということもなく、ジョーディーやグラスゴー弁とは違って、外部の者にはわかりづらい独自の語彙というものも多くはない。バーミンガム人が特に変わった行動をするというわけでもない。単に音がイラつくというだけのようだ」。

H2G2のページにはこの記述のあと、次のような個別の点の解説と、例文がある。
●「イントネーション」
= 文末を下げる、抑揚がない、単調。
●「個別の音」
= [ai]音が[oi]音になるので、I quite like it. が「オイ・クウォイト・ロイク・イット」になる。
= "hut" の「ア」音が「ウ」音 (as in "took") になる(だからBrummieは「ブルミー」に聞こえるし、busは「ブス」に聞こえるんだよ)。
= [ou]音や[ei]音がだらしない(ロンドンのコックニーと似ている)。
= [ar]音もだらしない。はっきりさせないので単なる[a]になることがある。
= [i]音が[i:]音になる。(これは第一言語日本語の人の逆。うちらは[i:]音が[i]音になりがち。)
= [r]音が軽く巻き舌。
= [ng]音をいちいち個別に発音する。(んー、なんか「日本語訛り」の話を聞いてる気になってきたぞ。)
= [h]音や語尾の[t]音が欠落する。

また、ウィキペディアには「頭が悪そうな喋り方」としてのブラミーについての説明がある。
http://en.wikipedia.org/wiki/Brummie#Stereotypes
A study was conducted in 2008 where people were asked to grade the intelligence of a person based on their accent and the Brummie accent was ranked as the least intelligent accent. It even scored lower than being silent, an example of the stereotype attached to the Brummie accent.

黙ってるよりブラミーのほうが頭が悪そうだ、ってのはひどすぎる。ひどすぎるのだが、「イメージ」(より正確には「ステレオタイプ」)というのはそういうものだ。

さて、ブラミーのことはこのくらいにして、この調査について、ロイターの英文記事から。
http://www.reuters.com/article/lifestyleMolt/idUSL051508520080730

調査を行なったのは、SpinVoxという会社。音声認識技術(話した言葉をテキストに起こしてくれる)が専門だ。

調査対象となったのは2,181人の成人で、調査方法は「オンライン」だと記事では説明されているが、詳細は不明。このうち73パーセントが自分の声を好きではない(これは「英語」とは関係ない面がありはしないか。「声」だから)、そして女王のthe rounded vowels and precise speechを好む、と回答した。(うーん、この文の構造がイマイチわからない。「自分の声を好きではない」と答えた全員が「女王の話し方イケてる」と答えたのだろうか。)

そして、ここがワタシ的にツボったのだが:
The second most popular accent was Irish followed by Scottish.

この前提でいくと、アイリッシュとスコティッシュが混ざっている北アイルランドのアクセントは好感度高いということになるのではないか。あるいは「まぜるなきけん」なのだろうか。実際「彼女が喋ってるとかわいいと思う」とかいう意味での好感度は高いかもしれないが(<『クライング・ゲーム』)、どうなんだろう。

ブラミーについては、調査対象のうち「ブラミーで喋りたい」と回答したのはわずか1パーセントで、バーミンガム人の78パーセントが「自分のアクセントは嫌い」と回答した。(えー……)

自分の声(これ、ロイター記事でvoiceと書かれているのは「話し方」のことかもしれんね……)を好きだと答えた人は、スコットランド人、ジョーディ(ニュー・カッスルおよびタインサイド)、ウェールズ人。(これは濃い……お茶ふいた。)ロンドナーも「好きではない」と答えたのは14パーセントだけ。

SpinVox社の言語学専門家、トニー・ロビンソンさんは、地方の訛りを肯定的に受け止めていた時代は終わったようだ、とコメントしている。

ロイター記事だと編集されているので、SpinVoxのブログから:
http://blog.spinvox.com/2008/07/29/competition-time/
It seems Britain is being gripped by an epidemic of Accent Envy and Accent Self Loathing. After decades where dialect diversity has been celebrated, the majority of Brits now aspire to Received Pronunciation (RP) and to share the sound of their voice not only with The Queen but with celebs like Liz Hurley and Hugh Grant.

語の選択から判断すると、かなり高い確率で「ジョーク」(むしろ「サーカズム」か)だと思われるのだが……うーむ、調査の詳細がわからないので、こういう「結論」が妥当なのかどうかわからない。つまり、回答が本気で「女王のしゃべり方はすてき」という話なのか、「とかなんとかいってみちゃったりなんかしちゃったりして」という話なのかというのが無視できないんで。

さらにロビンソンさんのコメント:
Tony Robinson continued: "Accents are intricately tied into our own sense of identity. It's interesting that those with distinct cultural or class identities are more satisfied with the way they speak and it's precisely those accents that the rest of us want to acquire. ...

つまり、「アクセント(訛り)はアイデンティティの感覚に複雑な形で結びついているもので、文化的・階級的にはっきり特徴がある人ほど自分の話し方に満足しているのは興味深いことだ。そうでない人はそういう話し方をしたいと思っている」。

……こっ、これは、「ミドル・イングランド」……!
http://en.wikipedia.org/wiki/Middle_England

もしくは、えらく古典的な話になるけれども、「U (Upper class)」と「Non-U (Non Upper class, middle class)」の例のあれ……!
http://en.wikipedia.org/wiki/U_and_non-U_English
(同じことを表現するのでも、「U」は "They've a very nice house." と言い、「Non-U」は "They have a lovely home." と言う、というもの。)

※この話は、下記の本が新書でどこでも手に入って、内容もとても充実していたのだけど、品切れっすか。うーん、こういう基本的な本は品切れにしないでほしいなあ。。。
4121015894階級にとりつかれた人びと―英国ミドル・クラスの生活と意見 (中公新書)
新井 潤美
中央公論新社 2001-05

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ともあれ、SpinVoxのこの調査、「UK」や「Britain」ではなく、地域別にもっといろいろなデータがわかればおもしろいかもしれない。例えばスコットランド人で女王のように話したいと思っている人の割合と、ブラミーで(以下同)とを比べる、とか。


SpinVox社のブログを見ると、「ヴォイスメッセージを送ってくれた方のなかから抽選で最新の携帯電話をプレゼント」みたいな懸賞が行なわれていて、実際の人々のヴォイスメッセージとその認識結果のテキストが、下記にまとめられている。
http://lovetheaccent.com/Love_Your_Accent/

「個人的に、どこそこ訛りの女の子には萌えるなあ」とかいう話がかなり多いんだけど、中に、「仕事で今困ってるんですけど、ベルファストとサウザンプトンは何とかなりませんか」という女性の意見があって、これには心底同意。サウザンプトン訛りは手ごわい。ベルファストは、ニュース素材のおかげで最近慣れてきた気がするのだけれども(「気がする」だけだ)、ちゃんと聞き取れる気はしない。

拙著にも書いたのだが、各地から人が集まるロンドンでは、コックニーもいればブラミーもスカウズもいて、さらにはインド系のアクセントがあり、アフリカンのアクセントがありジャマイカンのアクセントがあり、という感じで、「アメリカンでない英語教材」といえば「RP」(BBCイングリッシュ)ばかりという環境から行くと、「これをどこそこに送りたいんですが」、「速達にしますか」、「いや、安いほうがいいです」といった単純なやり取りでさえ、「音」の障壁でスムーズにいかないことも珍しくない。

「女王のように喋る人」は、私はテレビで見た女王本人とチャールズ皇太子しか知らない。(ダイアナ妃はRPに近いエスチャリー、あるいはエスチャリーに近いRPで、クイーンズ・イングリッシュではなかった。)「クイーンズ・イングリシュ」は英国の上流階級語にスコットランドの特徴を少し入れたような音で本当に独特。



デザート(プディング):
「バーミンガム」といえば、個人的にはオジーさんよりもサバスよりもむしろ:
http://en.wikipedia.org/wiki/Godflesh
http://en.wikipedia.org/wiki/Napalm_Death
http://en.wikipedia.org/wiki/Duran_Duran (笑)
で、何か「音」の見本になるのはないかなと探してみたら、あったあった、Justin Broadrickのインタビュー。単に、非常に聞き取りやすいのだが。
http://uk.youtube.com/watch?v=6F-fVLuDXBg


(JesuよりGodfleshで頼む。)
タグ:英語 英国

※この記事は

2008年08月02日

にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。


posted by nofrills at 08:47 | Comment(1) | TrackBack(0) | 英語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
> この前提でいくと、アイリッシュとスコティッシュが混ざっている北アイルランドのアクセントは好感度高いということになるのではないか。

↑当たったらしい。
Northern Irish accent is 'sexiest in the UK'
http://www.belfasttelegraph.co.uk/news/local-national/northern-irish-accent-is-sexiest-in-the-uk-14011189.html

See below:
http://nofrills.seesaa.net/article/108742361.html
Posted by nofrills at 2008年10月30日 00:12

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【2003年に翻訳した文章】The Nuclear Love Affair 核との火遊び
2003年8月14日、John Pilger|ジョン・ピルジャー

私が初めて広島を訪れたのは,原爆投下の22年後のことだった。街はすっかり再建され,ガラス張りの建築物や環状道路が作られていたが,爪痕を見つけることは難しくはなかった。爆弾が炸裂した地点から1マイルも離れていない河原では,泥の中に掘っ立て小屋が建てられ,生気のない人の影がごみの山をあさっていた。現在,こんな日本の姿を想像できる人はほとんどいないだろう。

彼らは生き残った人々だった。ほとんどが病気で貧しく職もなく,社会から追放されていた。「原子病」の恐怖はとても大きかったので,人々は名前を変え,多くは住居を変えた。病人たちは混雑した国立病院で治療を受けた。米国人が作って経営する近代的な原爆病院が松の木に囲まれ市街地を見下ろす場所にあったが,そこではわずかな患者を「研究」目的で受け入れるだけだった。

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