ほぼ確実に「ゴードン・ブラウンの次」になるであろうと見られているデイヴィド・ミリバンド外務大臣が、30日、ガーディアンに寄稿している。労働党員に対し「意気消沈するな、私たちは間違っていない、団結して危機を乗り越えよう」と呼びかける内容らしい。あるいは「前回は労働党に投票したけど次はわかんないなあ」という「ミドル」層に「4649!」(笑)と呼びかける内容かもしれない。
Against all odds we can still win, on a platform for change
David Miliband
guardian.co.uk, Tuesday July 29 2008
http://www.guardian.co.uk/commentisfree/2008/jul/29/davidmiliband.labour
表面的に目を通しただけでちゃんと読んではいないのだけど、印象を一言でいえば「私は論客だ」と自認している人の書いたもの、というか「私が発言することで流れを変えられる」との信念&想定のもとに書かれたもの。内容についてはちゃんと読んでもいないときに言えることなどないのだが、「労働党必死だな」という感想。で、それを超えるものは、目を通しただけの段階では感じられない。それは私がミリバンドが「嫌い」だからだろう。客観的に読めば違うことが――つまり「ミリバンドのヴィジョン」が見えてくるのかもしれない。最後から2パラグラフ目の「政府の規制は自由競争社会でも必要だ」云々が色といえば色なのかな。よくわからん。とにかく暑いので頭が動かないのがデフォルト。(<情けない。)
先日ベルリンでバラク・オバマが演説したときに、「欧州は各地の紛争を解決しつつあります」というくだりで、もちろんバスク独立過激派(ETA)には言及せず、セルビアを含む旧ユーゴのことに触れ、北アイルランドに触れたらしいのだが、そこでオバマは「ベルファストでは分断の壁が取り除かれつつあります」と述べたらしい(その口で同じことをイスラエルに言えるのか、というのもあるけどそれは本題ではないのでスルー)。で、Slugger O'Tooleだったと思うが、北アイルランドの人の投稿で「それは単に事実と違う(実際には1998年の合意後に作られたピースラインの壁は、その前に作られた壁の数よりも多い)」という指摘があり、それに対し、「オバマは目標を語っていただけなのだから、あの発言はあれでよい」という意見があり、というのを読んで、スピーチライターは何をどう考えて原稿を書くのだろう、というところでぐるぐると考えてしまった。1分くらい。
それと同じようなことが、今回のミリバンドの寄稿にある。ミリバンドは本人が寄稿記事の原稿を書いていると思うのだが、この記事が、「事実」を述べることではなく、「ヴィジョン」を提示することが目的の文章であることは、社会的コンテクストから明らかだ。そして、そこで提示されていることが、「労働党は英国をよくした。それは保守党にはできないことだ」である場合、それは「事実」なのか「ヴィジョン」なのか、というと……うーん、なんていうのかな、古典的な「比較広告」みたいなんだよね、全体的に。例えば「犯罪は増えているといわれるが、統計数値を見れば減少している」といった、自身に都合のよい数字を持ち出し(それが事実であってもその数字を選ぶのは恣意的なことだ)、「保守党はダメだ、なぜなら保守党だから」といったことを書き(この人物が本当に「論客」だとはとても思えない)……。うむー。ここまでつまらなかったかなあ、ミリバンドって。
それと、ミリバンドのこの文章には、いわゆる「労働党左派」への目線は見て取れない。ミリバンドの頭の中にはもう「彼ら」はいないらしい。
あるのは、「ニュー・レイバー」というフレーズと、トニー・ブレアの路線を継承していくという姿勢だ。(それは必ずしも「イラク戦争」とかいったことではなく。)
で、えっと、何を書こうとしていたんだっけ……あかん、流れた。
いずれにせよ、「与党」たる労働党は「攻め」ではなく「守り」で勝負することが求められているわけで、鋭いツッコミとか歯に衣着せぬ批判といった「論客」の「芸」の見せ場はないのかもしれないが、そこで出てくるのが「保守党はラディカルではないから(=保守党だから)ダメ」の論法ってのはなあ……orz
解説記事(山のようにありそうなので見たものだけ):
http://www.guardian.co.uk/politics/2008/jul/29/davidmiliband.gordonbrown
http://news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/politics/7532215.stm
ガーディアンについては手抜きでkwoutで。それぞれのヘッドラインをクリックで記事に飛べます。
タグ:労働党政権
※この記事は
2008年07月30日
にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。
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