ガーディアン(私は性格がとても悪いので、あえてガーディアンで):
Haltemprice and Howden byelection: Davis sees off Loonies and claims victory in 42-day detention battle
http://www.guardian.co.uk/politics/2008/jul/11/haltemprice.byelections1
見出しにあるDavis sees off Loonies and claims victoryが皮肉たっぷりである。つまり、「デイヴィス、泡沫政党候補を打破し、勝利を高らかに宣言」というような、あまり品のよくないイヤミ。記事のクレジットは "Martin Wainwright, Allegra Stratton and agencies" とあるが、この記者さん2人の名前はこれまでに見た記憶がほとんどないので(ウェインライトさんの名前は見たことくらいはあるかも)、どういうスタンスで書いている人なのかわからない。また、見出しをつけたのが記者さんなのかデスクなのかもわからない。いずれにせよ、この見出しはあまり好きになれない。デイヴィスの辞任にもこの補選にもなんら意味が見出せなくても、だ。
さて、補選の結果の数値だが、Electorate 70,266; Turnout 23,749の前提で:
Haltemprice and Howden byelection results in full
David Davis (C) 17,113 (72.06%, +24.60%) ←当選
Shan Oakes (Green) 1,758 (7.40%)
Joanne Robinson (Eng Dem) 1,714 (7.22%)
1,000票を超えたのはこれだけ。1位と2位の差が「10倍」で、2位以下はほとんど意味を持たない。2位はグリーンズ(緑の党)、3位はイングリッシュ・デモクラッツ(「イングランドにもスコットランドやウェールズ、NIと同様に自治議会を」という主張のイングリッシュ・ナショナリズム政党)。
イングランドでは選挙立候補の際の供託金(£500)が、得票率5パーセントに満たないと返還されないのだが(先日のボリス・ジョンソンの選挙区だったところでの補選では、労働党はBNPにさえ負けて、この供託金が返還されないところまで落ちていた。笑)、デイヴィスの「市民的自由」を問うた補選(笑)で供託金が返されたのはこの3人だけ。以下の22人の候補(多すぎ)は全員、£500をお上に納めたかたちになる。
で、この22人の「泡沫候補」の名前を書きとめておくことにさほど意味は見出せないので(22人全員の得票を足してもデイヴィスには遠く及ばず、彼らは£500を払ってお祭りに参加したのだ、という感じに見える)基本的にはスルーするが、544票(2.29%)を取って4位につけたのがNF、つまりNational Frontというのは、いかにこれがさほど意味のない数値であろうと、「(^^;)」という顔文字で語らざるを得ないことだ。BNPはまだ社会的コンテクストが見出せるのだが、NFは……。
なお、ガーディアンが見出しに持ってきた「Loony」はOfficial Monster Raving Loony Partyで、彼らについては6月15日に少し書いたのをご参照のほど。補選結果では7位、412票(1.73%)。
http://en.wikipedia.org/wiki/Monster_Raving_Loony_Party
それと、BBCでこの補選をネタにふざけている記事、「DD補選で、補選に関する新記録達成なるか」。
http://news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/politics/7498330.stm
これまでの補選での記録10件について、破られるかどうかを事前に予想している文と、結果が出てからの文(太字)の組み合わせになってます。(賭け屋じゃあるまいし。)
取り沙汰された「記録」とその結果は:
1. 投票率の低さ→新記録ならず
戦後の最低記録は1999年リーズ・セントラル選挙区でのヒラリー・ベン(労働党)の19.9パーセント。戦中を含めると、1942年のポプラー選挙区での9パーセントが記録のようだ。
2. 候補の最低得票数→新記録ならず
今回の補選での最低得票数は「8」(無所属候補2人)。現在の記録は、1980年の交通安全キャンペーン活動家、ビル・ボークスの「5」。
3. 最速開票→新記録ならず
選挙区が都市部ではなく田園地帯で、投票箱の回収だけでも時間がかかるからこれは無理、という観測。今の記録については記事に記載なし。実際に、今回の補選では2位と3位の確定のために数え直しがあり、夜中の3時ごろに結果が発表された。
4. 立候補者数→新記録ならず
今回の候補者数は26で、シティホールでの当選の告知の儀式(日本での「事務所で万歳三唱」に相当するもの)で床が抜けるのではと心配されている、とかいうふざけたことが書かれているだけで、今の記録が不明。
5. 候補者演説数→新記録ならず
希望すれば立候補者は演説をすることができるが、実際に演説したのは数名だけ。
6. 供託金返還なしの候補者数→新記録!
1993年にニューベリーで19人が立候補したときは、17人が供託金を没収された。これがこれまでの記録。今回は23人が没収となった。
7. ルーニー党の供託金没収記録→新記録ならず
Official Monster Raving Loony Partyは、これまで25年間に何度も立候補しているが、一度も5パーセントに達したことがなく、供託金は没収され続けている。党設立者のスクリーミング・ロード・サッチ(ミュージシャンとして有名)でさえダメだった。今回も1.7パーセントで没収となった。
8. 2位になるのは誰か→新記録!
保守党の他の党はこれまで一度も国会議員の選挙で2位になったことがないので、これはあらかじめ新記録達成が約束されていた。結果としてはGreensが2位。(GreensはMEPとかカウンシルの選挙では当選していたり2位になっていたりがそこそこ多い。)
9. もしもDDが落選したら最大のビックリ→不成立
これはBBCの文章がおもしろいので引用: "If he did lose, it would have been one of the biggest upsets in political history - and his decision to quit as an MP to fight a by-election on civil liberties would have gone down as one of British politics' greatest own goals."
10. DD自身の得票数→新記録ならず
2005年総選挙で22,792票を得たDD、今回は17,113票だった。2005年総選挙の得票数を上回ることがあれば、彼の言う「市民的自由」の議論は有効、次の総選挙で「市民的自由」が大きな争点のひとつになる、といえたかもしれない(まったくその通りだと思う。というかせめて労働党なりLibDemsなりが候補立ててれば、意味が違ってきたかもしれない)。
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タグ:保守党
※この記事は
2008年07月11日
にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。
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