先日「パパ」と「ママ」がどちらも「男性」であるというシヴィル・パートナーシップな「家庭」のあわただしい朝の光景を描いたハインツの「ほのぼのホームドラマ」のCMが、「男同士であんなこと、けしからん!」という勢力の苦情により、放送自粛になったということを書いたばかりだが、その続報。(一時的にコメント欄封鎖してる間にあったことだからコメント欄でのアップデートができず、今ごろアップデートすることに。)
ハインツが例のCMを放送中止(自粛)にした直後、今度はゲイ・ライツ運動関係者がハインツ製品のボイコットを呼びかけた。いわく、「bigotsがちょっときぃきぃ言ったくらいでCMを取り下げるとは何たるヘタレ、これでは、同性カップルをCMなどで使おうとしてもbigotsが騒ぐからやめておこうという風潮が確定してしまう」という主旨だ。
Gay rights supporters urge Heinz boycott after advert is pulled
Wednesday, June 25, 2008
http://www.belfasttelegraph.co.uk/news/local-national/article3833940.ece
※私が最初に読んだ記事が、たまたま、よりによってベルファスト・テレグラフなのだが、北アイルランドはUKのなかでも「宗教熱心な人々」と「レインボウな人々」との対立(というか、レインボウ側が何かをするとなると、宗教熱心側が声をでかくしてアクションを起こすことが多い)が顕著で、なおかつシヴィル・パートナーシップがUKの4プロヴィンスのなかで最初に施行された場所でもあり、いろいろと感慨深いものがある。
この記事によると:
The Advertising Standards Authority said yesterday that it had received 202 objections from viewers, a high number in such a short time but that total is only a quarter of the complaints that came in for a Volkswagen Polo advertisement that drew accusations of cruelty after it featured a shivering dog outside a car.
つまり、「広告標準機構 (ASA) では、視聴者から202件の苦情が寄せられたと述べているが、これは短期間では確かに高い数値であるにせよ、車の外に置かれてガタガタ震えている犬が出てきたフォルクスワーゲン・ポロのCMに対する『残酷だ』との苦情に比べれば、わずか4分の1である」。
そんな程度で、広告主のハインツがCMを打ち切ってしまったのだから、「ヘタレ」といわれてもしかたあるまい。ちなみに、ハインツのCMへの苦情は、「不快だ offensive」、「不適切だ inappropriate」、「子供に見せたくない unsuitable to be seen by children」などといったものだったという。けっこうなbigotryをどうも、という感じだ。
上記ベルテレ記事によると、ASA(と打とうとするとどうしても「SAS」と打ってしまうWho dares winsな指がイラつく)では、例のCMが広告基準を破るようなものかどうかの調査を行なうかどうかについてはこれから決定するとしながらも、「同性愛はそれ自体では基準違反ではないが、人々はそれを趣味とかデリカシーといった点から見るかもしれない」と述べている。趣味やデリカシーは基準じゃないっしょ。
一方でゲイ・ライツ運動をひっぱってきたStonewallのベン・サマーズキルは、「あのような無害な広告が、こういう形で取り下げられたということにショックを受けている。Stonewallでは、ひどく立腹した人たちからの電話が鳴りっぱなしだ。今回の苦情はおそらく組織化されたもののように見えるのだが、つまり、同性愛への言及があれば、それがどれだけほのぼのとしたものであろうとも、必ず怒り狂ってみせるという人たちがいて、そういう人たちが組織したキャンペーンだと思うのだが、それがこんなに素早い反応(放送中止)を得たことで、みなびっくりしているのだろう」とコメントしている。
実際、Stonewallが最近出した広告(ビルボード)で "Some people are gay. Get over it!" (世の中にはゲイがいる。それはそれで受け入れろ!) というキャッチコピーを使ったものは、3日間に100件ほどの苦情を受けたという。そしてそれは、組織化された反対運動(いわゆる「電凸」ですね)だったとStonewallは見ている。(Stonewallのこの広告は、学校での同性愛を理由にしたいじめをなくそうというキャンペーンの一環で、英国全体で600枚くらいは設置された。写真はflickrのユーザーネームamchuさんによる。CCライセンス。)
で、ハインツの例のCMは、前の記事にも書いたけれども、元々子供が見る番組では流せないことになっていた(商品が高脂肪・高塩分・高糖分食品だから)。だから「子供に見せられない」という電凸実行者の言い分は、まったく意味を成さない。自分が「不快」なんだろうっていう。
(Stonewallのサマースキルさんは、「電凸のおかげで、ハインツのあのマヨネーズは健康的な食品ではないということが知れ渡ってしまった」と苦笑しているのだが、確かに。)
ベルテレさんの記事の末尾には、ハインツUKの広報のコメントもあるけれど、まあ典型的な「ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」系のテンプレなので飛ばします。
で、同じ6月25日のガーディアンの記事だが:
Heinz: Gaydar Radio calls for boycott after 'men kissing' ad pulled
http://www.guardian.co.uk/media/2008/jun/25/advertising
こちらではGaydar Radioがボイコットを呼びかけているということが報じられている。
Gaydar Radio presenter Simon Le Vans said the food company's decision was "gutless, to say the least, and extremely homophobic".
"Come on, Heinz. Stand by your morals, if you have any, and don't back down to the bigots!" said Le Vans.
"Unless, of course, you'd prefer it if gay people around the world didn't buy your products in future. It's your choice. Would you rather keep your bigoted customers happy or your gay ones?"
「ヘタレ」、「ホモフォビア」、「モラルというものはないのか」、「最悪、同性愛者は今後一切ハインツ社の製品は買わなくなるが、それでいいのか」など、かなりきつい口調です。
で、ガーディアンのこの記事では、ハインツがCMを打ち切ったことを非難する内容のオンライン・ペティションにも言及があるのだが:
http://www.petitiononline.com/heinz/
記事が出た25日の時点で「2,000件」だった署名(これだけでも電凸の10倍)は、今日(日本時間で7月1日夜)には、12,000件を超えている。(セクシャリティが理由で亡命を希望している人の難民申請を認めろという内務大臣宛てのペティションでもこのくらいに熱くなってくれると心強いんだけどね、現実はそうではない。なんか、とても複雑な気分だな。乾いた笑いが……)
ハインツとしては、商品が売れればそれでよいのだろうけれども、「bigots御用達ブランド」という称号をもらっちゃったりしたら商売上プラスにはならないないことは確かだ。ハインツ社自体がアンチ・ゲイな保守派なら別にいいのかもしれないけれど、既にハインツは、理念でどうのこうのという規模のビジネスではないよね。
さらに続報@場外乱闘開始のお知らせ。7月1日のガーディアン記事:
Heinz 'men kissing' ad: US Christian group urged firm to pull commercial
Mark Sweney
guardian.co.uk, Tuesday July 1, 2008
http://www.guardian.co.uk/media/2008/jul/01/advertising.usa
The American Family Association, a powerful Christian group, has emerged as a key player pressuring Heinz to pull its Deli Mayo commercial featuring two men kissing – even though it was never broadcast on US TV.
Heinz's US HQ was flooded with emails complaining about the Deli Mayo ad, which was only broadcast in the UK, after the AFA found out about it via the internet and mobilised its 3.5 million strong-membership
米国で放映されてもいないCMのことを「けしからん」といってメールをし、そのCMの放送自粛を求める米国のクリスチャン団体……うはは、ブッシュも真っ青のpre-emptive strikeだ!
※以下、書きかけ部分を7月2日に書き上げて投稿。
The American Family Association (以下「AFA」)は、英語サイトで検索すると一番上に表示される公式サイトのサマリーを引くと:
The American Family Association exists to motivate and equip citizens to change the culture to reflect Biblical truth and traditional family values.
つまり、「聖書に書かれていることは事実である」派で、「伝統的な家族の価値」派で、それらを社会全体の基盤とすべきであるということで活動している。ひとことで言えばキリスト教保守派、もっと言えばファンダメンタリスト(以下「ファンダメさん」)だ。(大統領選挙前の大事な時期に、外国のテレビCMで動員かけていられるほどヒマなのかな。)
詳細は、公式サイトを見るより、ウィキペディアを見たほうがわかりやすい。
http://en.wikipedia.org/wiki/American_Family_Association
ちなみに、AFAのロゴ:
これはキリスト教の「魚(イクトゥス)」に基づいているが、これをパロディ化したものが:
である。(関係ないけど、人力検索はてなでの「空飛ぶスパゲッティモンスター教に入るにはどうすればいいですか?」という質問、おもしろいですよ。)
で、何の話だっけ……ラーメンの話じゃなくて……そうそう、ハインツのマヨネーズのCMだ。
「男同士の家庭」と「男同士のキス」が出てくるハインツのCMに対し、AFAは、そのCMがUK(UKは、2004年発効の法律で、「シヴィル・パートナーシップ」として事実上の同性結婚を認めている)でしか放映されていないにも関わらず、メンバーに「行動呼びかけ (action alert)」のメール(ニューズレター的なものだろう)を送信した(6月24日付け)。そのメールの文面は、ハインツUKの例のCMは、「カリフォルニア州で同性結婚の採決 (vote) が行なわれるときに見ることになるであろうCM」だとして、「このメールをご家族・ご友人に転送して、ハインツが同性結婚を推し進めようとしていることを知らせてもらいたい。このCMは、今はイングランド[原文Englandの直訳。語の選び方が古いなあ]で放映されているが、間違いなく、もうすぐUSでも放映される」などと書いている。で、アクション・アラートだから当然なのだけど、苦情の窓口も書かれているのだが、それがハインツUKではなく、米ハインツであるという。
AFAの広報責任者は、AFAメンバーからのメールでハインツ社のシステムがダウンしたことをハインツ社が認めている、とも述べた。
で、AFA的には今回ハインツUKがCMを取り下げたことで勝利宣言、ってな感じなのだろうが(たぶんガーディアンにもそういうメールがどっさり来ているのだろう)、そこはガーディアン(英国の新聞)、遠慮なく削りに行って、「ハインツUKがCMを取り下げたのは6月20日であり、それはAFAが絡む前のことだ」と書いている。しかしながら「ただしハインツUKが公式ステートメントを出したのは6月23日だった」とも書き添えている。時差を考えるにしても、ハインツUKの判断は、AFAとは関係ないだろう。
しかしながら、AFAのメール攻撃を受けた(らしい)ハインツ社は、23日よりもっとはっきりした言葉を使ったステートメントを出すことになった。
"Heinz apologises for its misplaced attempt at humour and we accept that this ad was not in accordance with our longstanding corporate policy of respecting everyone's rights and values," said the statement, which was put out by Heinz US the day after the AFA galvanised its members to protest.
これは、日本式に超訳すれば、「弊社といたしましてはユーモラスなものととらえたのですが、ああいったものをユーモラスとはお考えにならない方々がいらっしゃいまして、もちろん弊社はすべての人々の権利と価値観を尊重してまいりましたが、それに照らし合わせて不適切なCMであると、こう判断いたしました」みたいな感じかな。
ハインツ社のグローバル広報部門の責任者は、苦情の数も、あるいは賛同の声の数も、明らかにしようとしていない。いわく、「ユーモアのつもりで作ったのであって、(ゲイ・ライツの)運動のつもりではない。AFAからの連絡をいただく前に、あのCMは取り下げるという判断をしていた」。
で、USAではテレビ番組にThe Truth Wins Outというゲイ・アドヴォカシー団体の人が出て、「AFAが圧力をかけて」云々という話をしている。
つまり、場外乱闘というか、本来「英国でのCM」には関係のなかったアメリカの人たちが主役になりつつある、らしい。ガーディアンの記事はそれを「へー、すごいですねぇ」と言いつつ眺めているような感じすらする。
ところで、AFAが鼻息荒くしてるようだけど、「カリフォルニア州の同性結婚」ってもうvoteするとかしないとかの段階はとっくに超えてんじゃないの? まだこれから何かあるのかしらん(アメリカの法律の手続については私はほとんど無知なのでよくわかっていません)。実際、芸能人の「同性結婚」の確定も相次いで報じられているし、6月には「挙式」も行なわれている。
カリフォルニアの同性結婚式、第1号は80代カップル
2008年 06月 17日 14:22 JST
http://jp.reuters.com/article/idJPJAPAN-32300120080617
サンフランシスコの市庁舎での「同性結婚式」第一号となったのは、80代の女性カップルだった、という記事なのだが、最後に「同州最高裁判所は先月、同性愛者同士の結婚を認める決定を下し、この日に施行された」とある。
タグ:LGBT
※この記事は
2008年07月01日
にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。
【todays news from ukの最新記事】
- 英国での新型コロナワクチン認可と接種開始、そして誤情報・偽情報について。おまけに..
- 英ボリス・ジョンソン首相、集中治療室へ #新型コロナウイルス
- "Come together as a nation by staying ap..
- 欧州議会の議場で歌われたのは「別れの歌」ではない。「友情の歌」である―−Auld..
- 【訃報】テリー・ジョーンズ
- 英国の「二大政党制」の終わりは、「第三極の台頭」ではなく「一党優位政党制」を意味..
- ロンドン・ブリッジでまたテロ攻撃――テロリストとして有罪になっている人物が、なぜ..
- 「ハロルド・ウィルソンは欧州について中立だった」という言説
- 欧州大陸から来たコンテナと、39人の中国人とされた人々と、アイルランドのトラック..
- 英国で学位を取得した人の残留許可期間が2年になる(テリーザ・メイ内相の「改革」で..
全国のサイト、ブログへ書き込みを行っています。
※2008年8月27日午前0時半ごろ:以下、管理者権限で削除。代わりにひとしきりお茶ふいてってください※
Man: Well, what've you got?
Waitress: Well, there's egg and bacon; egg sausage and bacon; egg and spam; egg bacon and spam; egg bacon sausage and spam; spam bacon sausage and spam; spam egg spam spam bacon and spam; spam sausage spam spam bacon spam tomato and spam;
Vikings: Spam spam spam spam...
Waitress: ...spam spam spam egg and spam; spam spam spam spam spam spam baked beans spam spam spam...
Vikings: Spam! Lovely spam! Lovely spam!
...
Wife: Have you got anything without spam?
Waitress: Well, there's spam egg sausage and spam, that's not got much spam in it.
Wife: I don't want ANY spam!
http://www.detritus.org/spam/skit.html
「瀬尾佳美(せおかみ)准教授」って誰? エントリと関係ある?
……ああ思い出した、殺害事件について赤ん坊の人数は0.5人分とかぶっこいてたリスク管理のできてない経営学の人だよね。このエントリと関係ないじゃん。ってかその人についてこのブログで書いてある?
何かこのエントリにこれを投稿する必然がおありなら、水曜日の午前0時までに説明を投稿してください。それがない場合、単にスパムとして削除し、相応の対策を講じます。
> 全国のサイト、ブログへ書き込みを行っています。
当ブログのコメント・ポリシーをお読みの上、ご投稿ください。っていうか明白にスパムです。
http://uk.youtube.com/watch?v=anwy2MPT5RE
説明がなかったのは、全国のブログに書き込みを行っていたからです。まず、お詫び致します。大変申し訳ありませんでした。私が本人の電凸データ999管理者です。一通り書き込み、一万ブログ管理者様のご同意を頂いたようです。地道な活動を現在も行っております。一言申しあげます。瀬尾は反省などしていません。
関係ない記事へテンプレした事、心よりお詫び申しあげます。失礼致します。
これをもってこのエントリのコメント欄は閉めます。本当にこの記事に用があってコメントしたい方には申し訳ありません。
なお、「電凸データ999管理人」さんの投稿にあったURL(1uifgname.blog95.fc2.com)は、管理者権限でリンクを外させていただきます。お気持ちはお受け取りしましたが、当方はあなたがたが対象としておられる個人および大学とは関係ありませんので。