Take a look around you all is dead
A good look around makes me see red
What have they done to us
Taken all the fun from us
We might as well stay all day in bed
―― Stiff Little Fingers, "Bloody Sunday"
デリー出身のカレン・マギガンさんは、この夏、アルスター大学でPhDを取得する。専門分野は心理学。彼女の博士論文は、1972年1月30日のブラディ・サンデー事件で家族を殺されたり負傷させられたりした人の心理状態を調査したものだ。
事件から36年が経過したが、事件が「終わった」と感じている人は誰もいない、というのがカレンさんの論文の結論だという。
カレンさん自身、祖父のバーナードさんを事件で亡くしている。
Bernard McGuigan (41). Shot in the back of the head when he went to help Patrick Doherty. He had been waving a white handkerchief at the soldiers to indicate his peaceful intentions.
バーナード・マキガン(41歳)。撃たれて倒れていたパトリック・ドハーティを助けに行こうとして後頭部を撃たれた。バーナードは英軍兵士たちに対し、白いハンカチを振って平和的意図を明示していた。
http://en.wikipedia.org/wiki/Bloody_Sunday_(1972)#The_deceased
後頭部を撃たれ、コンクリートの上の血だまりの上に仰向けに倒れたバーナードさんの写真は、ブラディ・サンデー事件を扱った本によく掲載されている。下記はその一例。Eamon Melaughさんの写真。
http://cain.ulst.ac.uk/melaugh/portfolio7/f7p11.htm
バーナードさんの「白いハンカチ」は、この2月に東京で開催された北アイルランド映画祭で上映されたマーゴ・ハーキン監督の『デリー・ダイアリー』の冒頭に出てきた。
カレンさんは、家族に残されたブラッディ・サンデー事件の爪あとから、事件を経験したほかの家族の心理状態の調査をしてみなければと考えた。そして5年をかけて論文をまとめた。
「サヴィル・インクワイアリーが進行していたので、事件の実相が明らかになるのと同時に論文のための調査を進めることができました」とカレンさんは述べている。
この点でもマーゴ・ハーキン監督の『デリー・ダイアリー』と少し共通する点がある。(もちろん、あの銃撃の現場にいたハーキン監督の経験と、カレン・マキガンさんの家族の経験とは、完全には重ならないにせよ。)
カレンさんはこの先も調査を続け、サヴィル・インクワイアリーの最終報告書が出たときに(来年早々にも予定されている)、事件が「終わった」と感じられるかどうかを調査していきたいと考えている。
カレンさんの研究では、あの事件の世代を超えた影響について、トラウマにさらされたことによる心理的・肉体的な結果について、そして『終わり』について調査。調査の参加者は、事件で殺された人たちの直接の家族(兄弟、親など)と二代目の家族、また、事件で負傷させられた人たちで、5年という期間にわたって4度の面接調査を受けた。調査に当たっては一般的に採用されているPTSDの診断基準を採用した。その結果、直接の家族と負傷者の相当数が、PTSDの診断基準を完全に満たしていた。また、下の世代にもPTSDの症状がみられた。
「ご家族に聞き取り調査をした結果、ブラッディ・サンデー事件の影響は今もまだ感じられているということがわかりました。この段階で事件が『終わった』と感じていると回答できた人は誰もいませんでした。事件の影響は深く、健康と生活に対する満足度に影響を与え、世代を超えて引き継がれてもいるということが示唆されています」とカレンさんは語る。
カレンさんは現在、職場の精神衛生の専門家として仕事をしている。
Bloody Sunday families 'still suffering'
Last Updated: 27 June 2008 1:32 PM
The Derry Journal
http://www.derryjournal.com/journal/Bloody-Sunday-families-39still-suffering39.4230809.jp
マーゴ・ハーキン監督の『デリー・ダイアリー』は、できればもう一度見たい映画だ。東京で見たときは、あまりの密度の濃さについていくのが精一杯だったり(事件について、またウィジャリー・インクワイアリについて、サヴィル・インクワイアリについて、中途半端に知っていると、あふれんばかりのディテールに圧倒されるドキュメンタリーだ)、ときどきついていけなくなったりしてしまった。
映画を見て4ヵ月半ほど経って、ようやく、自分のなかで落ち着いてきた(整理されてきた)ような感じもする。
ハーキン監督は確か、サヴィル卿の最終報告書が出たら映画をアップデートするということもおっしゃっていた記憶がある。今の予定通り、2009年初めに出るのだろうか……2004年12月にすべての証人の聞き取りが完了し、2006年夏に出るとか、2007年中には出るとか、いや2008年になるとかいう具合にどんどん遅れて、今のところは2009年初め、ということになっている。
事件の責任者である英国政府は、このインクワイアリーに巨額の費用(国費)がかかったことをやたらと強調している。2005年7月7日のロンドンでの事件についてのパブリック・インクワイアリを行なうべきだとの声に、「パブリック・インクワイアリにはお金がかかるのです。サヴィル・インクワイアリのように」と言い抜けた、ということがウィキペディアに記載されている。こういうふうに「ブラディ・サンデー」という事件が英国政府によって利用されることは、デリーの人たちにとって不快なことだ。極めて暴力的なことだ。
http://en.wikipedia.org/wiki/Saville_Inquiry
※この記事は
2008年06月30日
にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。
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