「なぜ、イスラム教徒は、イスラム過激派のテロを非難しないのか」という問いは、なぜ「差別」なのか。(2014年12月)

「陰謀論」と、「陰謀」について。そして人が死傷させられていることへのシニシズムについて。(2014年11月)

◆知らない人に気軽に話しかけることのできる場で、知らない人から話しかけられたときに応答することをやめました。また、知らない人から話しかけられているかもしれない場所をチェックすることもやめました。あなたの主張は、私を巻き込まずに、あなたがやってください。

【お知らせ】本ブログは、はてなブックマークの「ブ コメ一覧」とやらについては、こういう経緯で非表示にしています。(こういうエントリをアップしてあってもなお「ブ コメ非表示」についてうるさいので、ちょい目立つようにしておきますが、当方のことは「揉め事」に巻き込まないでください。また、言うまでもないことですが、当方がブ コメ一覧を非表示に設定することは、あなたの言論の自由をおかすものではありません。)

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2008年06月26日

the Timesの紙面アーカイヴがすごすぎる件。

いつもお世話になっております「ブリスタ@はてな」さんの26日エントリ、「ロンドン・タイムズ紙の無料デジタルアーカイブ公開」で今日になって知ったのだが(かなり間が抜けた話だ)、1785年から1985年まで200年分のThe Timesの紙面(のスキャン画像とテキストデータ)が、ネットさえあれば誰でもアクセス可能になっている(はてブで見ると、遅くとも今月14日から)。

そのことの持つ意味は「ブリスタ@はてな」さんにお任せするとして(また、私のブログよりずっと落ち着いて読める紹介記事がメディア・パブさんの16日エントリにあるのだが)、ひとこと、「すっげー!!」

アーカイヴのURLは:
http://archive.timesonline.co.uk/tol/archive/

今はまだお試し期間であるらしく、何もしなくてもアーカイヴを閲覧することができています。そのうちに閲覧には登録が必要になるらしいけど、登録は無料、つまり利用は無料で、その上、何がすごいって:
Save, print, e-mail favourite articles
好きな記事を保存したり印刷したり、メール送信したりできます。

ひょーーー! ヴィクトリア朝のあんなニュースやこんなニュースが紙面で!! それだけじゃない。1985年までということは……インターンメントとか、IRAと英国政府の秘密交渉(←これは報じられてないと思うが)とか……。

というところでとりあえずサイトに行ってみます。

まず、ページ全体の構成がおもしろい。今のthe Times(オンライン版)の紙面(ページ)と同じようなレイアウトになっていて、「カーナヴォン卿、エジプトの秘宝を発掘」のトップニュースに「ロゼッタストーン」の解説記事がついていて、2番目のニュースは「ネルソン・マンデラに終身刑」(1964年)、これにも「ロンドンで抗議デモ」などの補足記事があり、記事を列挙した左列の隣は、写真(archive photographs)とかスポーツ(マッケンロー対ボルグ!)とか……。

ページトップの右上の「今日のことば」のようなところも、通常のthe Timesサイトでは有名記者・コラムニストや政治家などのことばが表示されているのだが、アーカイヴでは、フローレンス・ナイチンゲール、バイロン卿、チャールズ・ディケンズ、ナポレオン、ウィンストン・チャーチルなど……作りこみが細かすぎてほんとにすばらしい。(なんでこういうことはこんなに凝るのに、政府系機関が大事な個人情報の入ったディスクをなくしたり、巨額の費用をかけて新規オープンした空港ターミナルがグダグダだったりするかね、英国ってのは。←あまりにも乱暴な一般化。笑)

で、ページトップのTimes Onlineのロゴの下に検索窓があり、その下にflashで年表っていうか、勝手に動く時間軸みたいなのがあるんだけど、何しろ1785年からだからすごい。"1793: Marie Antoinette goes to the guillotine" (1793年、マリー・アントワネット、断頭台の露と消える)とか、"1805: The death of Nelson" (1805年、ネルソン提督戦死)とか、"1847: Famine in Ireland" (1847年、アイルランドで飢饉)とか、"1851: The Great Exhibition" (1851年、ロンドン万博)とか、見ているだけで泣けてくる(だってこんなの、特別な努力をしないと自分には見られないものだったから)。しかし、"1973: Led Zeppelin 20-minute drum solo" は、ほかのに比べると「えーー」だ。



このflashに示されているトピックは、単にクリックするだけでスキャン画像に飛べます。ここにないトピックは、このflashの年表の上の検索窓に語句を打ち込んで探す。検索は、The Times本体の検索と同じ感じ。

というわけで、とりあえず "dante gabriel rossetti" (1828-1882) という文字列を、日付指定せずに検索窓に打ち込んでSearchしてみると……出てくる出てくる、305件!!



検索結果には、紙面のどこのどのくらいの大きさの記事なのかを示した画像と、記事の冒頭部分が表示されているので、読みたいものをクリック。

例えば February 27, 1883, "To the editor of the Times. Will you kindly insert the following ..." とかいうのは明らかに読者の手紙だから飛ばそうかな、でも1883年、ロセッティが亡くなった翌年のだから誰か関係者かな、一応見てみるか……とクリックすると、ページが出てくる(表示速度はけっこう速い)。検索した語句は背景色と文字色が少し色がついた状態で表示されているので、紙面の中で語句を見つけるのも容易だ。



記事の画像が示されている枠の下に、"SAVE/PRINT" というのがあるから、それをクリックすると自分の手元に保存できる。保存される画像は自分が読みたい記事だけで、周囲の記事は入らない。記事が2ページにわたっている場合もまとめてひとつの画像になっている。ファイルサイズはかなりでかいものもある(800kbとか)。写真は、私が試しに保存してみた記事ではついてこなかった。

また、"SAVE/PRINT" の横の "EMAIL" でメールでURL送信、その下の "READ FULL TEXT" で、記事がテキストデータで表示される。

で、このロセッティについての「手紙」をざっと読んでみると、うむ、これは強烈なファンか支持者かパトロンの書いたものだろうか……と手紙の署名を見ると、
ROBERT COLLINSON, late Director of the Figure and Painting Schools, Science and Art Department, South Kensington.
20, Hereford-square, South Kensington, S.W.

とあって、コリンソンって確か1848年のPRB結成時にいたよな、と思って確認するとそのコリンソンはJames Collinson (1825-1881) で、でも1832年生まれの「ロバート・コリンソン」という画家もいる……ということまでネットだけで簡単に調べられる。ひょっとしたらジェイムズの弟がロバート、ということかもしれないが、その先を調べるほどの興味はないので「なるほどなるほど」と言ってお茶を飲みつつ、the Timesの1883年2月27日号の、ロバート・コリンソンの投書が掲載されているページを何となく眺めると、「故ハインリヒ・ハイネ夫人について」というドイツ人の投書があり、天気予報があり……楽しい。とても楽しい。

……っていうか、この "IRELAND. Dublin, Feb 26" ってのは何ですか……
Judgement was given to-day in the Exchequer Division, upon the application of Dr. Webb, Q.C., on behalf of Sir Edward Synge Hutchinson, raising an important question respecting the jurisdiction of the Land Commissioners. Dr. Webb applied for a writ of prohibition directed to the Irish Land Commissioners, prohibiting them from acting upon or enforcing an order confirming a decision of the Sub-Commissioners in fixing the fair rent of the holding of John Finlay, on the appellant's estate, in the county Wicklow. ...

なるほど、要するに「地方のニュース」なんだけど、これは生々しい。これは「本」では知ることができないんじゃなかろうか。ダブリンのセクションの下には "Cork" のセクションもあり、鉄道建設のこととかが書かれている。

その下のセクションでは、ニューリーで傷害事件の裁判がどうたらとかいう記事があるのだけど……その次、これはすごい。「俺はアイルランドで一番のフィニアンだ」と言った男が1ヶ月投獄。その男、警官を襲ってもいたということなのだけど、警官襲撃より「フィニアン」発言のほうが前に来るって……(^^;) (ああ、マグナカルタの国の市民的自由!)
Edward Downey was sentenced to a month's imprisonment at Newry yesterday for proclaiming himself "the best Fenian in Ireland," and for having also assaulted the police.

その下にも「Lord Lieutenant (アイルランド総督) に小包爆弾」とかいう話がある。記事に出てくる人物の肩書きや爆発物の名称はさすがに時代がかっているけれど、報じられていることそのものは、何というか……ははは。

で、最初にこの紙面を見たきっかけが「ロセッティ」だったことなどすっかり忘れて読みふけってしまうわけだ。1883年の世界を。

この調子で200年分……この先一生かかっても全部読むことは不可能な量だな。

で、まあ全部読もうとかいうことはもちろん考えちゃいないわけで、こういうアーカイヴがある以上は「あれ」も検索してみましたよ。はい。

"internment" で1971年8月:

※これはさすがに来る。記事署名はMarcel Berlinsだけど、この時期はロバート・フィスクも北アイルランドに入っていて書いていたはずだから、あとで探してみよう。絶版で手に入らないあの本の一部が見つかるかもしれない。

"londonderry" で1972年1月30日から2月3日:

※これは「来る」なんてもんじゃない。Times New Romanが突き刺さる。記事署名はBrian Cashinella and John Chartresになっている。

"Brighton" で1984年10月:




The Timesの日曜版であるThe Sunday Timesについては、アーカイヴ化はまだのようだ。「メディア・パブ」さんのエントリから:
http://zen.seesaa.net/article/100573762.html
また, the Sunday Timesについても,1822年から2000年までの記事のデジタルアーカイブ化を進めているという。


特に80年代のサンデー・タイムズはスゴかったから(タイムズは保守寄りだが、サンデー・タイムズはそうでもなかった)、北アイルランド関係はもちろん、国際情勢、とくに中東情勢について当時の「新聞」で確認できるのは、非常にありがたい。

しかしこのアーカイヴ、資金はどうなってるんだろう。メディア・パブさんの記事にあったガーディアン・メディアの記事にもその話はないみたいだし……。



もう一点追記。

アイルランドの重要な出来事については、the Irish Timesのアーカイヴと相互に参照できる。
http://www.ireland.com/search/timeline.html

例えば1916年の「イースター蜂起」についてのthe Irish Times紙面:
http://www.ireland.com/newspaper/archive/1916/0502/Pg002.html#Ar00202


メインの記事が蜂起なんですが、その左側、毎日の固定枠だと思うけど、軍(当時はもちろん「英軍」のこと)の犠牲者のリストがあるんです。これはアイルランドでではなく戦争(1916年だから、第一次世界大戦中)での犠牲者なのだけど、そういう記事と「シン・フェインの蜂起」が同じ紙の上で並べられてるのを最初に見たときは、何と言うかその、やっぱショックでしたよ。


タグ:メディア

※この記事は

2008年06月26日

にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。


posted by nofrills at 23:55 | Comment(0) | TrackBack(1) | todays news from uk | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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British Newspaper Archive がすごい。300年分の歴史!
Excerpt: 既に日本語圏でも大きな話題だが、英国の過去300年分の新聞のスキャンが、一般人にも利用可能な形で、オンラインで公開された。ブリティッシュ・ライブラリーの仕事。(「英国」が「ブランド」であり続けているの..
Weblog: tnfuk [today's news from uk+]
Tracked: 2011-12-02 04:05

【2003年に翻訳した文章】The Nuclear Love Affair 核との火遊び
2003年8月14日、John Pilger|ジョン・ピルジャー

私が初めて広島を訪れたのは,原爆投下の22年後のことだった。街はすっかり再建され,ガラス張りの建築物や環状道路が作られていたが,爪痕を見つけることは難しくはなかった。爆弾が炸裂した地点から1マイルも離れていない河原では,泥の中に掘っ立て小屋が建てられ,生気のない人の影がごみの山をあさっていた。現在,こんな日本の姿を想像できる人はほとんどいないだろう。

彼らは生き残った人々だった。ほとんどが病気で貧しく職もなく,社会から追放されていた。「原子病」の恐怖はとても大きかったので,人々は名前を変え,多くは住居を変えた。病人たちは混雑した国立病院で治療を受けた。米国人が作って経営する近代的な原爆病院が松の木に囲まれ市街地を見下ろす場所にあったが,そこではわずかな患者を「研究」目的で受け入れるだけだった。

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