「なぜ、イスラム教徒は、イスラム過激派のテロを非難しないのか」という問いは、なぜ「差別」なのか。(2014年12月)

「陰謀論」と、「陰謀」について。そして人が死傷させられていることへのシニシズムについて。(2014年11月)

◆知らない人に気軽に話しかけることのできる場で、知らない人から話しかけられたときに応答することをやめました。また、知らない人から話しかけられているかもしれない場所をチェックすることもやめました。あなたの主張は、私を巻き込まずに、あなたがやってください。

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2008年06月13日

「リスボン条約」、アイルランドのYes or No(仮)→ No で決まり

※結果出てないんですが、まずエントリだけ立てておきます。→@14日午前0時ごろ、結果出ました。No です。詳細は記事末尾。

条約条約条約で、ちょっと気を抜いていると何が何の条約だったかわけわかんなくなりそうなEU(欧州連合)で、現在また、新たな「条約」がスポットライトを浴びている。「リスボン条約 the Lisbon Treaty」だ。13日午後(日本時間)現在、アイルランド共和国で国民投票の開票作業が進行中である。13日夜(日本時間)には結果が発表されるだろう。

Ireland in crunch EU treaty vote
Page last updated at 23:16 GMT, Thursday, 12 June 2008 00:16 UK
http://news.bbc.co.uk/2/hi/europe/7449313.stm
Some reports suggest Thursday's voter turnout was about 40%. Results are expected later on Friday.


この条約は、EU加盟27カ国すべてで批准される必要があるが、批准の手続に国民投票を要するのはアイルランド共和国だけである。これは憲法、つまりthe Constitution of Ireland: Bunreacht na hÉireann の修正が必要となるため。なお、アイルランド憲法はこれまでに27回修正されていて、1998年ベルファスト合意(グッドフライデー合意)でのArticle 2 and 3の修正("the whole island of Ireland" についての問題。憲法が修正されても地図は修正されてなかったりするけど)や、EU関連での修正のような「国際関係」上の必要での修正もあれば、国内での妊娠中絶の禁止(1983年)や離婚の解禁(1996年)など、そんなことまで憲法が規定しているのかというような点での修正もある。

アイルランドで「No」の結果が出れば、「リスボン条約」は発効要件を満たさないことになるが、現状、報道を見ていると、かなりの接戦ではあるが「Yes」の見込み、らしい。。。のだけど、上に挙げたBBC記事の次に出たBBC記事ではトーンが微妙になってきているなあ。結果は金曜日の 1530 (1430 GMT) 過ぎに発表されるとのことで、つまり日本だと深夜ですね。

で、2007年12月にポルトガルのリスボンでEU加盟27カ国の代表者の署名を得た「リスボン条約」(の案)は、あの「EU憲法 the EU Constitution」(または「欧州憲法(条約)」)を大幅に改めたもので、内容的には「マーストリヒト条約(欧州連合条約)」(1993年発効)と「ローマ条約(欧州経済共同体設立条約)」(1958年発効)を修正するもの。

「EU憲法」は――うーむ、これって2003年から2005年の話なのか、光陰矢のごとし――、批准に議会採決ではなく国民投票を要した国が複数あった(国民投票に法的拘束力なしという国もあったのだが)。今改めて各国での批准の状況を見ているのだが、議会採決で批准の意思を決定した各国では、圧倒的多数で「賛成」というのが多かった(イタリア、ドイツ、ギリシャ、ベルギーなど)。少しでも「行方やいかに」的な数字が出たのは、キプロスの「賛成30、反対19」だけだ。しかしながら国民投票では、2005年5月29日にフランスが「反対」(英メディアが「またフランスがNON」ってはしゃいでいた。「UKのEC加盟」のときにぐりぐりやられたのが忘れられないのだろう)、その数日後、6月1日にオランダが「反対」で、結局、「EU憲法」は署名はされたが批准されず、発効は断念された。(UKやアイルランドなどでは、国民投票の実施そのものが断念されている。)

こうしてポシャった「EU憲法」を大幅に改めたのが、今話題の「リスボン条約」で、「EU憲法」とは異なり、国民投票はアイルランド共和国でしか行なわれない。ちなみに英国では3月11日に下院で「賛成」の結果(346対206)になっている。(上院での採決はまだ。)

で、今知ったんだけど、英国でも国民投票をという話が保守党から出されてたのね。6月11日に上院で否決(280対218)。
http://news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/politics/7448003.stm

この条約については、ウィキペディアの日本語版の解説が詳しいが、さすがに読むのが大変で、読んでも頭に入ってこない。例えばこんな具合だ。
政策分野
リスボン条約では、EUの3つの「柱」構造(引用注:「共同体 EC」と、「共通外交・安全保障政策 CFSP」と、「警察・刑事司法協力 PJCC」)は廃止されることになっている。EUの2つの大きな「柱」にたとえられる政策分野、すなわち共通外交・安全保障政策 (CFSP) と警察・刑事司法協力 (PJCC) に関するEUの権能は拡張されることになる。ところがイギリスは条約の是非を問う国民投票の実施を回避するためにこれらの分野について、EUの超国家的権限の拡大に反対していた。2007年6月の合意によって、イギリスは内務・警察分野でのEUの協力体制への参加義務を免れることになった。外交政策や防衛に関して、各国政府には拒否権が残されたが、一方で欧州憲法条約からはほかの分野の変更点が継承されている。……

……こりゃ、英語版のほうがわかりやすいかも。イギリス関連のあれこれは、あの国には成文憲法がない(コモン・ローである)ということが大きな要因で、どうやっても「わかりやすく」はならないかも。というか、正直私ではお手上げです。リスボン条約が草案の段階で、英国のEU懐疑派の「もうめんどくさいからEU脱退してしまえ」的な意見を、どっかのサイトで読んだことがあるのですが(新聞社のブログのコメント欄とかかも)、覚えている限りでは(つまり非常に単純化されていると思いますが)、「我が国のかたちを変えるなどまっぴらごめんだ」という主旨で、最終的にはそういうところでいろいろと「妥協」みたいなことになっている、というのを短く記載しているのがウィキペディア日本語版の記述なのかもと思います。(英国がどう反応したかとかどうネゴしたかなんて「政策分野」で扱うべき本題じゃないのではと思うけどね。)

むしろ、BBCの解説記事のほうがわかりやすいか。

Q&A: The Lisbon Treaty
http://news.bbc.co.uk/2/hi/europe/6901353.stm

で、アイルランドでのレファレンダムだが、BBCのまとめを参照すると、「Yes」でキャンペーンを張っているのが連立与党(つまりFF & PD)と、その他主要政党、つまりFG, Labourで、労組・実業界・学界・政界をカバーする組織、Irish Alliance for Europeも「Yes」陣営だ。つまりメインストリームは全体として「Yes」。ただしGreen Partyは人によって「Yes」だったり「No」だったりしているらしい。

一方、「No」でキャンペーンを張っているのは、国会に議席のある政党ではシン・フェインだけ。政党ではない組織では、Libertas(「自由」の意味。リバタリアンでしょうね)という実業界のロビイ団体と、Coirという団体(BBC記事に "a group called Coir" とあるだけで詳細がわからないのだけど、BBCで書くにはちょっとアレげな人たちか。Youth Defence絡み?)。さらに国会に議席のないthe Socialists(「社会党」か。名称が紛らわしいのだがトロツキスト)も「No」陣営。

つまり、「右翼・左翼」の定義を乱暴に扱うけれども、「No」陣営にいるのは真ん中からずっと右の「右翼」と、真ん中からずっと左の「左翼」と、シン・フェイン(左翼ナショナリズム)という状況。

これで「Yes」と「No」が拮抗してるというんだから(6月6日のアイリッシュ・タイムズの世論調査で「Yes」が30パーセント、「No」が35パーセント、「まだ決めていない」が35パーセントだった。→source)、「Yes」が苦しみすぎだ。

で、4日のBBC記事(アイルランドの人たちのご意見紹介記事)に、下記のような写真が添えられていた。

lisbonirelandposter.png

左側(青っぽいもの)のVote Yes! のポスターは、Fianna Gaelのポスターだと思う。右下に党名が入っている。

で、右側(白地に赤)のVote Noのポスターは――私はこれを見てお茶ふいた――1916年イースター蜂起のときの「アイルランド共和国宣言 Proclamation of the Irish Republic」の印刷された紙の一番上の部分に、People Died for your Freedom. Don't throw it away. (あなたの自由のために人が死んだのだ。それを投げ捨てるな)という文言が大きく書かれているのだが、党名や団体名が見て取れない。写真が小さすぎて細部がつぶれているのかとも思ったが、やはり無記名の、言ってみれば「アングラ」なポスターであるらしい。(こういう無記名のポスターは違法だそうです。)

ちなみに、シン・フェインのNoキャンペーンはこんなふう。(色だけ見たらスウェーデンかと。)

lisbonirelandpostersf.png

「Yes or No」の論点については、シン・フェインのジェリー・アダムズの記者会見での発言がわかりやすいかも。
http://www.no2lisbon.ie/en/press-centre/entry/180
"The fact is that if the Irish people vote no on Thursday the Lisbon Treaty cannot go ahead. And in the negotiations that will follow the Irish government has a responsibility to act on the concerns of the Irish people and secure a permanent Irish Commissioner, stop the undermining of workers pay and conditions, protect neutrality, copper fasten key vetoes, get opt outs from increased military expenditure and maintain the absolute right of Irish citizens to take the final decision on any significant changes to future EU treaties.

つまり、EUに対するアイルランド共和国の発言権を確保しておけるかどうか、アイルランド共和国の中立(軍事的な)が守れるかどうか、労働者の待遇が悪くならないかどうか(これは「ほっとくとどんどんネオリベな方向に行く」ということで、フランスでの国民投票のときにも大きな争点となっていたもの)、など。

【おまけ】マニアに大ウケ、「交渉魔」な件:
"A better deal is possible. A 'No' vote on 12 June will give the Irish Government a strong mandate to negotiate a better deal for Ireland, the EU and the developing world."


投票所からのレポート:
Worlds collide at Irish EU poll
Page last updated at 19:27 GMT, Thursday, 12 June 2008 20:27 UK
http://news.bbc.co.uk/2/hi/europe/7451710.stm
But deep ignorance about what they have voted on is the unifying theme of their responses.

"I voted Yes because I feel that it probably is the best thing for our country," one voter said.

"The truth of the matter is I don't know the guts of [the treaty], so I basically left it to the politicians."

Mother and daughter Annette and Emma Brindley both voted Yes.

Emma because a friend who knew about the treaty told her to, and Annette "because we are part of Europe and we should stay part of Europe".

"I was," she adds, "disappointed that we didn't have more information about it."

"I voted Yes," says another woman voter who was reluctant to give her name.

"We have to move onwards and we are part of it all and we've been part of it for a long time. That's the way to be."

"Oh, I voted No," Elizabeth O'Connor, 76, says doughtily.

"I didn't know anything about it and it is immoral to ask someone to vote on something they don't understand."

Voting No because you do not know has pedigree in Ireland.

ははは……「よくわかんないけどYes」か、「よくわかんないからNo」か。「よくわかんないから投票行かない」が多くなりそうなものだけど、投票率40パーセント超。ロンドン市長選挙くらいにはなってるのか。すごいなあ。



※以下、結果が出たら書き足す予定。

※書き足し
@14日午前0時ごろ、結果出ました。答えは No です。

3.30pm BST update
Irish voters reject EU treaty
http://www.guardian.co.uk/world/2008/jun/13/ireland

The Guardian News Blog
Ireland votes No No. No No, No No ...
http://blogs.guardian.co.uk/news/2008/06/ireland_votes_no_no_no_no.html
(ちょっとしたリンク集になっています。)

News Blogから引用@お茶ふき警報出しておきます:
Adding saliva to injury, an MP has just been spat at by triumphant anti-EU campaigners singing Eurodance group 2 Unlimited's 1992 hit No Limits (a 'song' that repeats the word "No" 72 times, just to make the point).


No, no, no, no, no, no, no, no, no, no, no, no, there's no limit! って曲ですね。当時無駄に頭をぐるぐるする曲ナンバーワンだった。鮮明に覚えてます。。。あったあった。
http://uk.youtube.com/watch?v=gzyFmilkd80

ははは。No, no limits, won't give up the fight. We do what we want, and we do it with pride. とか言ってるし。("No surrender" の歌っすかね、これ。笑)

BBCはまだ記事が落ち着いていなくて、どのURLで読めばいいのかがイマイチわからないので、とりあえずガーディアンだけで。

Noキャンペーン陣営唯一の考慮に足る政党、シン・フェインの「リスボン条約」ブログ:
http://voteno2lisbon.wordpress.com/

↑に貼られていたリンクから、アイルランド(南北両方)の選挙のデータベース(これは重宝するかも):
http://electionsireland.org/ (選挙も国民投票も全部)
http://electionsireland.org/results/referendum/index.cfm (国民投票)

※この記事は

2008年06月13日

にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。


posted by nofrills at 17:00 | Comment(1) | TrackBack(1) | 雑多に | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
中間発表@うはははは:

11am BST update
Irish voters look set to reject EU treaty
http://www.guardian.co.uk/world/2008/jun/13/ireland

'Strong show' for Irish No vote
http://news.bbc.co.uk/2/hi/europe/7452171.stm
→上書きされた場合に備えて、魚拓 http://tighturl.com/84y

ガーディアンから:
University College Dublin politics professor Richard Sinnott said the yes camp required close to 50% turnout to feel confident of a win, given that at least one-fifth of Ireland's electorate was strongly anti-EU and most determined to vote.

Turnout below 45% would prove "dangerous territory" for the pro-treaty camp, he said.

「投票率が40パーセント程度」というのがlowなのかhighなのかがBBCではよくわかんなかったのですが(「低投票率による不成立ではない」という記述があったので「低い」のだろうとは思ってたのですが、アイルランドでの選挙の投票率の平均値を知らないので判断できませんでした)、結局は「40パーセント」はlowということですね。
Posted by nofrills at 2008年06月13日 20:40

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「リスボン条約は発効する、さて、英国はどうする」&「ブレアがEU大統領に」説
Excerpt: 2009年10月、アイルランド共和国のレファレンダムでリスボン条約にYesの結論。
Weblog: tnfuk [today's news from uk+]
Tracked: 2009-10-05 00:57

【2003年に翻訳した文章】The Nuclear Love Affair 核との火遊び
2003年8月14日、John Pilger|ジョン・ピルジャー

私が初めて広島を訪れたのは,原爆投下の22年後のことだった。街はすっかり再建され,ガラス張りの建築物や環状道路が作られていたが,爪痕を見つけることは難しくはなかった。爆弾が炸裂した地点から1マイルも離れていない河原では,泥の中に掘っ立て小屋が建てられ,生気のない人の影がごみの山をあさっていた。現在,こんな日本の姿を想像できる人はほとんどいないだろう。

彼らは生き残った人々だった。ほとんどが病気で貧しく職もなく,社会から追放されていた。「原子病」の恐怖はとても大きかったので,人々は名前を変え,多くは住居を変えた。病人たちは混雑した国立病院で治療を受けた。米国人が作って経営する近代的な原爆病院が松の木に囲まれ市街地を見下ろす場所にあったが,そこではわずかな患者を「研究」目的で受け入れるだけだった。

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▼当ブログで参照・言及するなどした書籍・映画などから▼