英軍に、今なお武装闘争を信じて活動を続けているアイリッシュ・リパブリカニズム信奉者が浸透していた、ということになる。それも単なる「英軍」ではない。海兵隊だ。軍隊でのエリート集団に非主流派リパブリカンのテロリストが入り込んでいたのだ。唖然とするよりないよね。

テロリストの名前はキアラン・マックスウェル。30代に入ったばかりでFBなども普通に使っている「いまどき」の若者だ。FBには軍隊での訓練中に笑顔を見せる写真などがアップされていた。



2016年に発覚したこの事件の判決が出たのが、今からちょうど1ヶ月前の2017年7月31日だった。そのときからずっとブログに書こうとしていたのだが、どうにもまとまらずにずっと下書きのままになっていた。判決から1ヶ月になるし、そのタイミングでUTVのドキュメンタリーも出たので、もう無理にでも公開しておこうと思う。以下、事件発覚時までさかのぼってみていくので、記述はとっちらかったものになるかもしれない。

これは「ディシデント・リパブリカン組織のやったこと」というより、「ディシデント・リパブリカン組織に参加する個人のやったこと」だ。そしてその個人は、もしも何も発覚せずに活動を続けていたら、たった1人でも北アイルランド和平プロセスをひっくり返していたかもしれない。大げさに煽るのではなく、彼、キアラン・マックスウェルのやっていたことは、本当にそういう重大性を持っていた。

判決を受けて、英国政府の北アイルランド担当大臣は、この件を解決に導いた捜査当局に敬意を表し、「人命を救ったことは間違いない」と評価し、「この個人(被告)がなそうとしていた害は、(禁固18年と保護観察5年の計23年という)量刑を見れば、いかほどの規模になろうとしていたかがわかる」と述べている(原文は下記)。



本来ならば、判決のあったタイミングで北アイルランド自治政府の2トップ(ファーストミニスター&副ファーストミニスター)からも自治政府の司法大臣や各党の警察担当者からもコメントが出るところだが、あいにく北アイルランドの自治議会・自治政府は、今年1月に瓦解して以来、ストップしたままだ。その自治のシステムを再起動させる話し合いも、7月のプロテスタントのパレード・シーズンを前に決裂し、そのまま夏休みに入っていた。北アイルランドの政治家たちは、この厄介なテロ事案について、特に発言する必要に迫られることなく過ごしているということになる。

ただ、仮に、キアラン・マックスウェルの判決が出たときに自治システムが通常通りに稼動していたとしても、政治的にはさしておおごとにはならなかっただろう。「IRA」という看板につい目を奪われて、「シン・フェインの身内」と思ってしまうかもしれないが(実際、そのように位置づけてわめきたてているロイヤリスト過激派もいる)、今「IRA」という看板で武装活動を続けているのは、北アイルランド紛争期に「IRA」だったProvisional IRAではない。Provisional IRAの方針に反対し、離反していった分派組織だ。キアラン・マックスウェルが関わっていたContinuity IRAは、そういった「非主流派リパブリカン武装組織 (dissident Republicans)」の主要組織のひとつだが、そういった非主流派のことは、ユニオニストだけでなく、シン・フェイン(リパブリカンの主流派)も厳しく非難している。実際、「厳しく非難」などという言葉では生温いほどだ――2009年3月、時代遅れの「武力至上主義」を貫こうとして警官を撃ち殺した非主流派に対し、故マーティン・マクギネスが発した言葉は、これ以上厳しい非難の言葉はないというくらいに厳しいものだった。
http://www.irishnews.com/news/2017/01/21/news/widow-of-murdered-officer-stephen-carroll-hails-mcguinness-for-denouncing-traitors--895619/
Mr McGuinness, speaking as deputy first minister, received a death threat after branding the killers "traitors".

He said: "These people, they are traitors to the island of Ireland. They have betrayed the political desires, hopes and aspirations of all of the people who live on this island."


マクギネスはそれまでにも何度もディシデンツから脅迫を受けていたのだが、この発言のあとはますます深刻な脅威にさらされることとなっていた。ネット上には今も、自分たちを「アイルランドにとっての裏切り者」呼ばわりしたマクギネスに対するディシデンツの反発・中傷・脅迫の言葉が残っている(新聞記事の一部として、あるいは彼ら自身のブログやYouTubeなどに)。

閑話休題。

事件が発覚したのは2016年3月だった。その後容疑者が逮捕・起訴され、最初の報道から約1年4ヶ月後の2017年7月に裁判が終わり、禁固18年という刑が言い渡され、事件の全貌が明らかになったのだが、当初は軍人が絡んでいるなどということは誰も思いもしなかっただろう。私もだ。

■発端~武器庫の発見
1916年のイースター蜂起から100年という記念の年である2016年の3月、北アイルランドの自然公園(Carnfunnock Country Park)内、雑木林みたいなところの地面に掘られた穴に、ガチでやばいものがいろいろ蓄えられているのが発見された。発見は(垂れ込みなどによるものではなく)偶然で、通りすがりの人が異状に気がついて警察に通報した、と報じられていた。

北アイルランドには、周知の通り、今でも活動を続けている武装組織がいくつか(いくつも)ある。往時に比べれば規模は小さいし、社会における広範な支援もないが、紛争終結後の武装解除最終期限を過ぎても、武装を放棄していない集団が複数ある。また、かつての紛争期に密かに作られた「武器庫」がそのまま忘れ去られていたケースもある(そういうのが発見され、70年代のソ連製のRPGが出てきたりとかしたことも実際にある)。だから最初に「武器庫発見」のニュースの見出しを見たときは「紛争期の遺物かなあ」と私は思った。紛争期どころか、ひょっとしたら100年前の異物かもしれない、とも。

しかし、記事を読んでみたら明らかにそうではなかった。この脅威は現在のものだった。

Weapons cache found in Carnfunnock country park, Co Antrim
Sunday 6 March 2016 14.42 GMT
https://www.theguardian.com/uk-news/2016/mar/06/weapons-cache-found-in-carnfunnock-country-park-co-antrim