1つ前のエントリで言及した山本正氏の『図説 アイルランドの歴史』(河出書房新社「ふくろうの本」)には、下図のような帯がかかっている(オレンジ色なのはシリーズ共通で、アイルランドの文脈でいう「オレンジ」とは関係ないと思うが、それでも何か笑ってしまう)。



歴史の荒波に翻弄された「妖精の国」「緑の島(エメラルド・アイル)」
古代から現代までを俯瞰する画期的通史!
(略)
豊かな文化を育むも苦難の歴史を歩んできた
アイルランドのすべてがわかる! 決定版!


「歴史の荒波」というのはただのクリシェ(常套句)だが、アイルランドを翻弄した「歴史の荒波」ならぬ、「リアル世界の荒波」の記事が出ているのに気づいたのは、8月5日の夜だった。本はまだ本棚から取り出したままになってて、この帯の「荒波に翻弄」の文字列に、しばしにやにやしていた(傍から見たら相当不気味だ)。

アイルランド島の西海岸、島の上半分(北半分)で一番出っ張ったあたりにあるメイヨー州アカル島 (Achill Island)。島だが本土とは非常に近く、橋でつながっている。この島の名で画像検索すると、うちら凡人が「アイルランド」と聞いて思い浮かべるような、丈の短い草が表面を覆っているだけの、でこぼこした岩肌っぽい土地に海、という写真が多く並んでいる(中には羊がもこもこしているものもある)。

アイルランド島の西海岸は大西洋からの強風で土が吹き飛ばされてしまうため、木が根を張ることができず、森・林や茂みのようなものがなく、ただ芝生のような草が地面を覆っているということを初めて知ったとき、ちょっとほっとくと木々の間に蔦やら葛やらが繁茂して濃密な空間をつくる日本のこの環境ではそこらに出るのは「お化け」や「妖怪」や「キツネ、タヌキ」だが(私の曾祖母は生前、「若いころに山でキツネに化かされたことがある」と言っていた)、アイルランドでは彼らが潜む木の陰もないから、「妖精」なんていう可愛いものがふわふわと飛んでたりするんではないか、などという他愛もないことを思った。

妖精が実在するとは、もちろん私は思っていない。しかし、妖精がいると考えた人々は実在した。その人たちがそう考えたのは、そういう考えにつながるような不思議な出来事があったからだろう。曾祖母が「キツネに化かされた」と考えたような不思議な出来事に遭遇したように。

そして、アイルランドで昔、人々が「妖精がいる」と考えたのは、こういうことがある(あった)からかもしれない、というニュースに私がネットで遭遇したのは、今年5月のことだった――メイヨー州のアカル島というところで、33年前、荒天の中消えてしまった砂浜(砂が全部なくなってしまった)が、一夜にして復活したというニュースだ。