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2008年05月12日

ある「殺人」の記録――無数に起きている同種の「殺人」の一件の

以下、非常にショッキングな話である。なるべく感情を交えずに(感情を封印して淡々と)書くつもりだが、実際に泣いているので、どうしても表面に出てきてしまうものがあるだろう。それでも私は、「宗教のせいでこんなことになったのだ」とは思っていないし、そう書くつもりもない、ということは最初に書いておく。「宗教」のせいではない。これは「宗教の解釈」のせい、「部族の名誉を守ること」を「神のご意志」だと弁解して起きることなのだ。「宗教」のせいではない。

4月27日、オブザーヴァーに衝撃的な記事が出ていた。イラク南部、シーア派の民兵組織が群雄割拠状態のバスラで、17歳の女性が、父親によって殺された、という記事だ。

Her crime was to fall in love. She paid with her life
Afif Sarhan in Basra, Mark Townsend and Caroline Davies
The Observer, Sunday April 27 2008
http://www.guardian.co.uk/world/2008/apr/27/iraq.military1

「彼女の罪は恋に落ちたことだった。彼女はそれを生命で支払った」という見出しにあるとおり、彼女は、「許されざる恋」をしたと見なされ、「家を穢した」と断罪され、実の父親に絞め殺された。いわゆる「名誉殺人」である。

こういう形で女性が殺されている、という報道は、バスラから、これまでにもいくつもあった。私はガーディアンのサイトでそれを読んでいるのだが、今、記事が見つからないのでFrance24から。
Forty women killed in Basra for not following Islamic tradition
18/12/2007 > IRAQ
http://observers.france24.com/content/forty_women_killed_basra_not_following_islamic_tradition

なお、「名誉殺人」はもちろんバスラだけではないし、「イスラム教」に限った話でもない。インドでも頻繁に起きている。
http://www.stophonourkillings.com/

話を元に戻す。

4月27日のオブザーヴァー記事では、この17歳の女性がどうして父親に殺されたのかが詳しく報告されている。多少ショックバリューを狙ったような書き方も見受けられるが、記事が「事実」として書いているのは次のようなことだ。

17歳のランド・アブデル=カデールさん (Rand Abdel-Qader) は、親友に「チラ見しただけですごく好きになっちゃった人がいるんだ」と語っていた。その5ヵ月後、ランドさんは殺された。実の父親に踏みつけられて窒息させられた上に刺されたのだ。

ランドさんはバスラ大学で英語を学んでいた。彼女が「恋愛感情/あこがれ (infatuation)」を抱いた相手は、ポールという名の22歳の英軍兵士だった。

事件後、家の周りに近所の人たちが集まってきたが、ランドさんを殺した父親は、「名誉を挽回するために」娘を殺したのだと言った。

ランドさんの遺体はただ埋められた。正式な葬儀も行なわれていない。家族に恥をかかせたとして、父親の兄弟たちは彼女の遺体にツバをはきかけた。英国人の兵士に恋をして、人前で話をするなど、想像することもできないほどの罪なのだ。

ランドさんは3月に殺害された。彼女とポールとの間には何もなかったということは何の助けにもならなかった。ふたりで仲良さげに言葉を交わしていたのを見られていた、それだけで十分すぎた。ポールが英国人でクリスチャンであり、「侵略者」で「敵」であったからだ。

ランドさんとポールは、バスラ市内での武力衝突を逃れてきた避難民に支援物資を運ぶ作業で出会った。ポールは英軍の一員として、ランドさんはボランティア・スタッフとして、その作業に関わっていた。出会ってから数ヶ月にわたり、ふたりは支援活動を通じて会い続けた。最後に会ったのは1月のことだ。

3月16日、ランドさんの父親が、警察周辺で働いている友人から、ボランティアの仕事でランドさんとポールが仲良くしていることを知らされる。父親は家に直行し、どういうことなのだと娘を問い詰めた。

母親の話では、家に戻ってきた父親の目は赤く充血していて、身体は震えていたという。「心配になりましたので、夫と話をしようとしたのですが、娘の部屋に直行してしまいました。そして娘をどやしつけて」。娘が殺されたことを語る彼女の目からは涙がぽろぽろと零れ落ちていた。

「英軍兵士と関係があるというのは本当かと夫が問い詰めましたら、娘は泣き出しました。夫は娘の髪をつかみ、何度も何度も踏みつけにしました。私は2人の息子を、大変だからちょっと来てちょうだいと呼びました。お父さんを落ち着かせてほしかった。でも夫が事情を説明すると、息子たちは娘を殺すのを手助けしたんです」

父親はランドさんの喉を強く踏みつけ、窒息させた。それからナイフを持ってこいと言い、ランドさんの身体を刺した。父親はこの間ずっと、名誉を回復するのだと叫んでいた。

母親は「耐え切れず、気を失ってしまいました」と語る。「意識を取り戻したときには、うちには近所の人や警察が詰めかけていました」。

父親はいったんは逮捕されたが、2時間後には釈放された。「名誉殺人」だったからである。

オブザーヴァーの取材に応じた警官は、「残念なことですが、これはイラクの男にとっては誇りとすべきことなのです。名誉殺人の場合にはできることはあまりありません。イスラームの社会ですから、女性はイスラム法にのっとって暮らさなければなりません。父親はバスラ行政当局内部にコネがあり、釈放はたいしたことではありませんでしたし、彼がしたことも忘れられるでしょう。申し訳ないのですがこれ以上はお話できることはありません」と述べた。

事件から2週間後、母親は家を出た。娘を殺した人間と一つ屋根の下で暮らしていくことに耐えられなくなったのだ。彼女は離婚を望んだが、「夫に殴られ、腕を折られました」。彼女は「イラクでは、妻に出て行かれることを受け入れられる男などいないのです。でも私は、実の娘にあのようなことをできる男と同じベッドで眠るくらいなら殺されたほうがまし。父親のことを無条件に愛していた娘にあんなことをできるなんて」と語った。

現在、母親は、友人の家を転々としながら、名誉殺人をなくそうと活動する女性団体で仕事をいている。「ほかのお嬢さんたちに、うちの娘のようなことになってほしくないのです」。

母親の同僚は言う。「標的にされないよう、2週間ごとに居場所を変えています。彼女は夫の親族から脅迫を受けて、非常におびえています」。

ランドさんがポールに恋心を抱いたことを打ち明けた相手は、ひとりだけだった。親友のゼイナブさん(19歳)だ。「慈善活動に別の意味もできた、って言っていました。ランドは困っている人たちを助けていたのだけど、そのランドをポールさんが助けていたんです。彼が単ににっこりと優しく笑うだけで、イラクでのひどい生活のことをぜんぶ忘れられたんです」。

ランドさんとゼイナブさんは何時間もポールのことを話していたという。「きれいな金髪で目は蜂蜜色だとか、肌が白いとか、話し方が優しいとか、そんな話を楽しそうにしてました。ここらへんの人とは違うんですよね、根本的に。やたらマッチョで頭も悪いから、地元の男は。ランドがポールの話をしてると、私までうれしくなって、まるで夢の世界みたいに思えました」。

「でも私はいつも言ってたんですよね、彼は英軍兵士だしクリスチャンでしょ、結婚とか無理じゃん、家族が許すはずがないよって。それがほとんど耳にはいってなかったみたいで、ランドの気持ちは現実を離れて、絶対にありえない夢のほうに近づいてたんです」。

ポールはランドさんにプレゼントをしていた。彼女は家族にばれないようにしており、プレゼントはゼイナブに預かってもらっていた。「かわいいぬいぐるみをもらったんだけど、家に持っていくわけにはいかないから、預かってて、って。つらいです、今もうちにあるから」。

ランドさんは、ポールとは4度しか会っていないとゼイナブさんに伝えていたが、彼女はそれはどうだろうと思っている。ふたりはいつも人のいるところで、ポールの隊の平和維持任務のときに会っていた。ランドさんは英語が非常に上手く、だから周囲の人たちにふたりが何を話しているのかを知られずに自由に言葉を交わせたのだろうとゼイナブさんは語る。「英語がしゃべれるのはランドだけだったから、それで『言葉を通じて』ポールと仲良くなれたんじゃないかと」。

やがて、ランドさんはボランティア活動を続けるために多種多様な口実を家族に伝えるようになった。父親には、「私がいないと困っている人たちを助けられない」と言って説得した。そうして避難民キャンプや病院に通うのが毎日になった。

ポールはランドさんに、イングランドのことをいろいろと話していたという。「お父さんは病気で亡くなったとか。ほんとに悲しい話でした」とゼイナブは語る。そして、「イングランドではカップルはどういうふうに生活しているのか、なんてことをよく話していました。ポールはランドに、どの街角にも花が咲いているんだとか、いつかロンドンに連れて行ってあげるとか話していたそうです。ランドはロンドンが好きで、ポールは観光名所のことを話してくれたりしてたとか。でも、ランドが一番うれしそうに話していたのは、ポールが君は綺麗で頭がいい、と誉めてくれることでした。『プリンセス』って言われたんだ、とか」。

もしばれたらどんなことになるか、わかってはいたけれども、ポールへの思いはどんどん強まっていった。「ランドはポールさんと話をしただけ、それ以上のことはしていません。結婚するまで処女でいるんだから、っていうタイプの子でした。でもそんな彼女が動物扱いされた。何であんなことを。ランドはごくふつうの、甘い夢を持った女の子だったのに。イスラームの教えは片時も忘れたことはなかったのに。薔薇の花びら一枚だって傷つけたりしない子だったのに」。


この記事によると、昨年バスラで殺された女性は133人。うち「名誉殺人」で殺された女性は47人で、その47件のうち殺人で有罪となったのは3件。今年(2008年)1月からこの記事が出た4月27日まで、バスラでの女性の死者数は36人。3月25日くらいからイラク政府軍による武装勢力(ムクタダ・サドルの民兵組織)に対する掃討作戦が始まって、バスラでも特に貧民街でかなり激しい戦闘になっていたようだから、それに巻き込まれて命を落とした女性もいるかもしれないが、この36人のうちの何人かは「名誉殺人」だろう。

そしてこの記事が出た2週間後の5月11日、同じくオブザーヴァーに、ランドさんを殺した父親のインタビューが掲載された。

'My daughter deserved to die for falling in love'
Afif Sarhan in Basra and Caroline Davies
The Observer, Sunday May 11 2008
http://www.guardian.co.uk/world/2008/may/11/iraq.humanrights

「アブデル=カデール・アリが後悔しているのはただひとつ、娘が生まれたときに殺しておかなかったことだけだ」という書き出しで始まるこの記事は、「名誉殺人」というものについて「外部」の者が語ること、語ろうとすることの難しさと、そんな難しさには関係のない、単なる残酷さを、包み隠すことなく伝えてくれる。

「娘が生まれたときに将来どうなるのかがわかっていたら、生まれ落ちた瞬間に殺していたのに」と、彼は言う。娘を殺したことについての自責の念は微塵もない。

バスラ市内、アル=ファーシ (Al-Fursi) 地区にある自宅は手入れが行き届いている。その前庭に座って、彼はインタビューに応じてくれた。

アブデル=カデールは46歳、行政の職員だ。事件直後に一時逮捕されたが、2時間で釈放された。警察は、すばらしいことをしたと讃えてくれたという。「男にはわかっているんですよ、名誉というものが」。


記事はこの後、事件のあらまし(4月27日の記事にあったのと同じようなこと)を述べる。4月27日の記事にはかかれていなかったが、ランドさんのお兄さんは23歳と21歳だそうだ。

「殺してもまだ足りないくらいですよ」とアブデル=カデールは言う。「後悔などしていません。子供のある友人たちはみな私を支持してくれています。イスラームの教えを大切にしているムスリムにとって、娘のしたことはとんでもないことなのだということを、友人たちはみなわかってくれています」

自分が植えたガーベラや白いデイジーに囲まれて、彼は自分のしたことは正しいことだったと主張する。「私にはもう娘はいません。そもそも最初っからいなければよかったんですがね。あの娘は、親族と友人の前で私に恥をかかせた。外国人の兵士と話をするなど、女にとって最も大事なことを忘れてしまっていなきゃできんことです。西洋の人たちはショックを受けるかもしれませんが、私たちの娘たちはあちらの娘さんたちとは違う。誰とでも簡単に寝て、結婚もせずに妊娠するようなのとは違うんです。私たちの娘たちは教えを大切にし、家族と自身の身体を大切にするものです」。

……あかん、耐えられん。「相手が異教徒である場合は、話をしただけで妊娠する」のだろうか。なぜそういう「宗教の解釈」が可能になるのだろう。

北アイルランドで、単に「カトリックだから」という理由で「プロテスタント」のガキどもに襲撃されて殺されたマイケル・マカルヴィーンのことを思い出したりしているのだが、NIの、ほとんど「カジュアル」ともいえる「連中」に対するセクタリアニズムと、実の娘を「異教徒と親しくなった背教者」として踏みつけにして殺せてしまうファナティシズムとは、やはり違うだろうか。

「これからは私には息子2人しかいません。あの娘は私の人生の誤りだった。ああいうことをしたことについて、神様は私を祝福してくださいます」と、彼は誇りに満ちた口調で語った。「息子らは私の味方です。そして息子らは、わが家に恥をもたらした者の息の根を止めるのを手伝ってくれた、立派な男です」


この後、ランドを殺した父親はシーア派で、といった記述が続くのだが、私はその短い記述を見て、2003年、2004年、2005年、そういった時期にRiverbend(昨年後半にイラク国外に脱出した)が「イラク人の女性のひとり」としてリアルな何かをとらえて書いていたことを――宗教右派の力が強まることによって、世俗的だったイラクでさえどのようなことが「現実」となりうるかについて――思い出す。そして、彼女が「シーア派原理主義はおそろしいものだ」と書いていたときに、彼女をdisるためだけにたちあげられたような米国人のブログ(複数)で、彼女が「サダム・フセイン支持者」とか「アルカイダのテロリスト」と罵られていたこと、イスラームについて、イラクについて何も知らないで、(アラビア語ではなく)英語で少し調べた程度の米国人が、「あの女は反米主義のスパイ」と平気で断定していたことを。「イスラームとは何か」を、イスラム教徒である彼女にキリスト教のファンダメさんと思しき人物がレクチャーしていたことを。どうして彼女が罵られたかというと、まあかなりばかばかしい話なのだけど、彼女が警戒していた「シーア派(原理主義勢力)」は「スンニ派ではないほう」で、つまり、その当時「サダムの敵、すなわちアメリカの味方」だったからだ。これはRiverbendに対するdisだけでなく、Raed blogのコメント欄(とっくの昔に封鎖済み)とか、ほかにもいくつものところで見られた。思い出すだけでも血圧が無駄に上昇し、胃液が上がってくる。

閑話休題。

オブザーヴァー記事には単に「シーア派」とあるほかは、「彼が暮らすバスラ郊外部では民兵組織の支配が行なわれており」といったことが漠然と書かれているだけで、それ以上詳しくは書かれていない。が、役所づとめで、家もなんか立派そうだ(前庭があって手入れが行き届いている)というあたりから判断して、この父親はサドル派ではないかもしれない。

で、この父親が「キリスト教徒と口を聞いた」から不名誉だ(「家を穢した」)として実の子を殺したのは、何よりも、その子が女の子だったからだ。その点では、これは「女性問題」である。そして実際に宗教右派が力を持ったときに最も制限されるのが女性だということは確かなのだけれども、「問題」はそこにとどまらない。

記事の少し下の方から:
バスラの中心部はイラク政府軍と英軍がおさえているが、周縁部では(掃討作戦が行なわれ、一応は停戦している)今もまだ民兵が検問所をもうけ、通りのそこかしこに立っている。彼ら民兵組織は地域の人々に対し、どのような服装をすべきか、どのような宗教上の行動をとるべきかなど、厳格な行動規範をしいている。男が盗みを働いたために手首から先を切り落とされているとか、女が売春を行なったとして殺されているといった報告が複数ある。

同性愛は死によって罰されることだ。アブデル=カデールはこれを熱意を込めて支持している。「うちのふたりの息子にはきつく言ってありますよ。万が一同性愛に染まれば、(ランドと)同じ末路をたどることになる、と。あのような犯罪には死罪が適当です。神の名において、死罪が」と彼は言う。


※こういうことを書いてしまうと、また、「これは宗教そのものの問題ではなく、宗教の解釈をめぐる問題だ」、「ゲイ・ライツの問題ではない、ヒューマン・ライツの問題だ」という点をクラリファイするのに異様に消耗することになるのかもしれないな、と思いつつ、たまたま一番近くにいた英国人と話をしてぬいぐるみをもらった程度で親に殺された英語学習者の17歳の女の子の事例を「女性問題」として回収させないために(またぞろ「タリバン化」などという乱暴な用語で語らせないために)、父親の「ホモなど殺されて当然」という発言も一緒に書いておくことにする。

記事はこのあと、ランドさんを殺した父親が「あの娘は母親から悪い遺伝子を受け継いだ」と言っている、とある。

これは、この世にある罵倒のなかで、最も薄汚い、下劣な罵倒だ。

記事では、母親については、父親と別れてから転々と居場所を変えて何とか暮らしていること、別れるといったときに殴られて折れた腕はまだ治っていないこと、などが書かれている。母親が身を寄せた親戚宅には「あの女は売春婦だ、ランドと同じように殺されて当然だ」というメモが投函されていたりしたそうだ。インタビュー取材を受けたときの母親の描写からは、非常に強くトラウマタイズされていることがうかがえる。(涙、震え、など。)

「娘はけだものに殺されたんです。毎晩ベッドに入るときに、父親と兄に殺されつつ助けを求めている娘の顔を思い出します。英軍兵士のことは娘から聞きましたが、娘は、神かけて友情以上のことはない、と言っていました。英語を話せるのが娘だけだったからその兵士と話をしたのだ、と。私は娘にはイスラームの教えをしっかり教えてきました。大学に入るまではひとりで出かけることもありませんでした。大学に入ってから、支援活動を始めたのです」

「今でも、元夫が娘を殺せたということが信じられません。悪い人じゃないんです。結婚して24年でしたが、一度も攻撃的になったことのない人だったんですよ。でもあの日はまるで別人でした」


母親は、「息子に会えなくて淋しいけれど、息子たちはランドをかばうなんて母さんはどうかしている、家に戻って立派な女性として生きるべきだという手紙をよこしたのです」と語り、今は外国に逃れるためのお金をためているところだという。

母親が仕事をしている女性団体の運営者のひとりは、ランドのような事例はバスラでは非常に多くあると述べている。ただし、ランドの場合は相手がイラク人ではなく外国人だったのが特異である、と。別の宗派の男性と恋に落ちたり、結婚前に処女を失ったりして「名誉のために」殺されている女性たち、あるいは売春婦になることを余儀なくされている女性たちは、英国人に恋をしたランドのように反響を引き起こすこともない(つまり、英国の新聞が取材に来たりすることもない)、と。

そしてこの女性団体の人は、「ランドがボランティアとして参加していた団体の人と話をした結果、ランドは本気だったけれども相手の英軍兵士(ポール)のほうはどこまで本気だったのかわからないような気がする、ただ「きれいで頭がいい」と言われたら若い女の子は舞い上がってしまうだろう」、とも。(「やっぱり」って感じはするんだけどね、単に話し相手が見つかってうれしい、的なものだったのだろう、と。)

しかしなあ……17歳なんだよ。17歳。英軍人も21歳。平和維持活動というか支援物資配布活動というきな臭くない方面での任務で、ほっとしていたかもしれない、おそらく軍人としては「エリート」ではない方面の人だろう。

そして、もっと救いがないのは、この父親が「凶暴でどうしようもない男」だったわけではない、ということだ。役所づとめ(保健省か保健所)で、家は綺麗に手入れし自分で前庭に花を植えて、妻も「あの人が荒んでいるのは見たことがない」というような立派な人。

オブザーヴァーの記事には、バスラの警察や地域社会がこの「殺人」をどう扱ったか、ということも書かれている。

父親自身の言葉によると、「名誉殺人は時として行なわざるを得ない、それを誰もが知っているから」一時逮捕されたもののすぐに釈放された、のだそうだ。警察では警官たちが父親に「でかした」的な声をかけていたそうだ。また、事件が報道され仕事は休職扱いになっているが給料は出ているらしい、とか、事件のほとぼりが冷めるまでの数週間国外で過ごしてはどうかとバスラの有力者(政治家)がカネを出している、とか(ほかの名誉殺人でもこうするのが通例だそうだが)。



日本で生まれ育ってすっかり慣れてしまうことのひとつに、「一家心中」のニュースがある。特に、親が子供を殺して自分も死ぬ、というのがこうも「当たり前」に起きていることは、冷静に見れば、とてもおかしなことだと思っていても、それでも今日もまた「娘を刺し殺して自分も死のうとした親」のニュースに「またか」と思い、「次のニュース」に進んだ瞬間に忘れてしまう。いちいち「問題意識」など持っていられないほどに、それは頻発している。なぜなのだろう。

で、前に「一家心中」について「日本は変だ」的な話になったことがあったのだけれども、バスラでの「名誉殺人」を「おかしなことだ」と私が言うのは、日本での一家心中のニュースをおかしなことだと英語圏出身者が言うのと、同じようなことなのかもしれない。

それでも、「わが子を踏みつけて殺した」親が、その殺人をまったく「正しい」ことだと言い、警察も、彼の属する共同体もそれをサポートするということは、やはり私には、「どっか狂ってる」と思えてならない。そして、その根底に「イスラム法」というシステムがあること――むろん、それだけではなく、その「法」がその共同体・社会のなかでどう解釈されているか、ということのほうが大きいのだが――を思うと、「宗教」が「人を幸せにし、(精神的に)豊かにする」ためだけではなく、「人を罰する」ための存在でもあるという社会について、やはり大きな疑問を抱かずにはいられない。

宗教違うけど、合掌。英語なんかしゃべれないほうが幸せだったかもしれない17歳のイラク人の女の子のために。そして、同じように「名誉を傷つけた」として殺されたほんとうにたくさんの人たちのために。



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posted by nofrills at 23:53 | TrackBack(0) | i dont think im a pacifist/words at war
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