kafranbel-aug2011.jpgシリア緊急募金、およびそのための情報源
UNHCR (国連難民高等弁務官事務所)
WFP (国連・世界食糧計画)
MSF (国境なき医師団)
認定NPO法人 難民支援協会

……ほか、sskjzさん作成の「まとめ」も参照

お読みください:
「なぜ、イスラム教徒は、イスラム過激派のテロを非難しないのか」という問いは、なぜ「差別」なのか。(2014年12月)

「陰謀論」と、「陰謀」について。そして人が死傷させられていることへのシニシズムについて。(2014年11月)

◆知らない人に気軽に話しかけることのできる場で、知らない人から話しかけられたときに応答することをやめました。また、知らない人から話しかけられているかもしれない場所をチェックすることもやめました。あなたの主張は、私を巻き込まずに、あなたがやってください。

【お知らせ】本ブログは、はてなブックマークの「ブ コメ一覧」とやらについては、こういう経緯で非表示にしています。(こういうエントリをアップしてあってもなお「ブ コメ非表示」についてうるさいので、ちょい目立つようにしておきますが、当方のことは「揉め事」に巻き込まないでください。また、言うまでもないことですが、当方がブ コメ一覧を非表示に設定することは、あなたの言論の自由をおかすものではありません。)

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2016年10月26日

英デイリー・テレグラフが伝えた言語的に意味不明の域に達するWHOの新方針+「またスプートニク(元ロシアの声)の誤訳か」=カオス

「ねとらぼ」さんの下記の記事。「なんぞこれは」としか言いようがない。

「性的パートナーがいない人は障がい者?」誤訳を元に波紋広がる 元記事は不妊の定義変更を取り上げたもの
http://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/1610/22/news041.html

ざっと見て、なるほど、また例のメディアがデタラメを書いて、それを真に受けた日本語圏のネット界隈が盛り上がっちゃったんですね、という話ではあるようだが、この記事を読んでも意味がよくわからない。報じられている「不妊の定義変更」(WHOの基準が更新される)というものが、内容面で、言語的に意味不明の域に達しているからだ。かつて、知人が「メールマガジンの無料購読という日本語がわからない」と言っていたことがある。「購読」の「購」の貝へんは「貨幣」を表し、「購読」という漢字はすなわち「対価を払って読むこと」を意味しているはずだから、「無料で購読する」というのは意味不明のオキシモロンだ、というのだ。確かに言われてみればそうかもしれないが、実際には「言葉は生き物」であり、「購読」はメールマガジン以前から、有償・無償を問わず用いられていた(無料で配布されている企業のPR誌についても「定期購読」という言い方はなされていた。「本誌は無料配布ですが、定期購読をご希望の方は郵送代金分の切手を添えてお申し込みください」といった形で)。今回のWHOの「不妊 infertile」の定義変更には、「お金を払わないのに*購読*って言うのはおかしい」という感覚に近い違和感を覚える。数十年後の植物の研究者などは、一般人との感覚のずれに頭を悩ませることになるのではないか。

ともあれ、「ねとらぼ」さんの記事を、まずは参照しよう。この記事は、日本語圏でこの話題が(例によって)「まとめサイト」のセンセーショナリズムによって、間違った、歪んだ形でバイラルしたことを中心のトピックとしている。

では、その「まとめサイト」の曲解はどこから生じたのか、という点について、「騒動の発端は海外紙を引用して報じられた『性的パートナーを見つけることができない人は障害者扱いに』とするSputnikの誤訳記事」と述べ、「スプートニク」(旧称「ロシアの声」)の記事のスクリーンショットを掲載している。そのスプートニクの記事は:
Sputnikの記事は海外紙「The Telegraph」の記事をもとに、“世界保健機関(WHO)が不妊を障害とみなしつつ、性的パートナーを見つけられない人を障がい者と同一視することになった”とする内容となっていますが、元記事の「disability」を狭義での「障害」としているなど、正確な翻訳とはいえないものとなっています。


……ええと、「ねとらぼ」さんの地の文の意味がわからない。「保健 health」という文脈におけるdisabilityの「障害」という語義に、狭義も広義もないのでは。
http://www.dictionary.com/browse/disability

そして「元報道」であるDTの記事は、わかりやすいんだけど、わかりづらい。伝えられている話題がわかりづらいことが大きな原因だ。「今までfertileとは呼んでいなかったものも、今後はfertileと呼ぶことにしよう」と言い出したという話題なのでわかりづらくて当然なのだが、記事の最初の4パラグラフを二度読みして、ようやく咀嚼できるような内容である。

Single men will get the right to start a family under new definition of infertility
20 OCTOBER 2016 • 12:48AM
http://www.telegraph.co.uk/news/2016/10/19/single-men-will-get-the-right-to-start-a-family-under-new-defini/

Single men and women without medical issues will be classed as “infertile” if they do not have children but want to become a parent, the World Health Organisation is to announce.

In a move which dramatically changes the definition of infertility, the WHO will declare that it should no longer be regarded as simply a medical condition.

The authors of the new global standards said the revised definition gave every individual “the right to reproduce”.

Until now, the WHO’s definition of infertility – which it classes as a disability – has been the failure to achieve pregnancy after 12 months or more of regular unprotected sex.

But the new standard suggests that the inability to find a suitable sexual partner – or the lack of sexual relationships which could achieve conception – could be considered an equal disability.


つまり――ここからは「翻訳」ではなく私が咀嚼したように私の言葉で書くが――、これまでは「不妊の」というのは医学的な症状(というか、身体的な障害 disability……男性の無精子症、女性の排卵異常や着床障害など)について用いられていたが(ウィキペディアを引用すると、「世界保健機関による定義は『避妊をしていないのに12ヶ月以上にわたって妊娠に至れない状態』となっている」)、人間の生殖活動、というか「人が子供をもつこと」を、reproductive healthだけでなくreproductive rightsに関わる問題ととらえ直すにあたり、「不妊」の定義そのものを、「医学的な症状」(「不妊」という文脈では、日常語では「異常」とか「障害」などと呼ぶもの)の外にも拡大していこうということである。

そして、実際に《本人に「医学的な症状」という点で何も問題はなく、本人が子供を持ちたいと望んでいるにも関わらず、子供が持てない》という状態がどのように生じうるかというと、便宜上ヘテロセクシュアルに限定して考えると、「子供を作るためのパートナーがいない」ということになる。それが記事の書き出しの "Single men and women without medical issues" だ。

つまり、医学的ケア(治療)の対象となりうる「不妊」に、「子供ができない・できづらい体である」ことに加え、「子供がほしいのに、パートナーがいないために子供が作れない」ことも含められる、ということになる……とDTは書いているのだが、ここに二度読みしてなお残る疑問点がある。第4パラグラフをもう一度みてみよう。suggestだの仮定法のcouldだのが出てきている。第1パラグラフではwill beと断言調なのに、そのサポート文である第4パラグラフではこの及び腰。全体の意味がとりづらいのは当たり前のテクストだ。

But the new standard suggests that the inability to find a suitable sexual partner – or the lack of sexual relationships which could achieve conception – could be considered an equal disability.


「新たな基準は、適切な性的パートナーを見つけることができないこと、あるいは妊娠を実現させうる性的関係のないことが、(医学的症状と)同等の障害とみなされうるということを示唆している(示している)」

……ううむ。

これ、「WHOの新基準って、何かおかしくね?」っていう問題提起のテクストだよね。

DTは保守派(伝統的保守派)の新聞で、「カップルは男女から成り、家族はその男女と、2人の間に生まれた子供から成る」という認識を大切にしている人たちを主な読者層とするような新聞だ。同性カップルのシヴィル・パートナーシップは(「時代が変わった」と納得して)しぶしぶ認めても、同性結婚は認めたくない。ましてや同性カップルが(養子を迎えるのではなく)2人の子供を作るようなことは、人が手を出してよい領域なのかどうかと疑問を抱く。そういう立場の人たちだ。

DTの記事は、第4パラグラフで急に曖昧化したあと、第5パラグラフではWHOが何をしている機関かを述べ、その機関の基準の変更が英国に何をもたらすかを展望している。続く第6パラグラフでは記者の問題意識が出てきて、(記者が話を聞いた)法律の専門家(医療分野や保健の専門家ではないという点に注意)の意見として「商業的な代理母出産の導入が容認される可能性がある」といったことが書かれている。そして第7パラグラフはHowever始まりの、新聞によくある「物議をかもしそうだ」の文体で、「WHOが保健の分野を踏み越えて、社会的な分野にまで口を出しているのではないか」ということを言っている(新聞用語でいう「指摘している」)。

The World Health Organisation sets global health standards and its ruling is likely to place pressure on the NHS to change its policy on who can access IVF treatment.

Legal experts said the new definition, which will be sent out to every health minister next year, may force a law change, allowing the introduction of commercial surrogacy.

However the ruling is also likely to lead to accusations that that the body has overstepped its remit by moving from its remit of health into matters of social affairs.


その次、第8パラグラフはもっと直接的に、「ヘテロセクシュアルの独身の男女や同性カップルが、医学的に不妊の問題を抱えてIVFを受けようとしている(男女の)カップルと同様に、IVFを受けるようになるのではないか(。そんなことになったらIVFが大混雑して、本来子供を授かるべき男女カップルが後回しにされてしまう)」という主張を、わかりづらいwould(仮定法)で述べている。その部分はたっぷりとしたサポートつきで、それが第9パラグラフ以降長々と引用されているデイヴィッド・アダムソン博士(新基準策定者のひとり)の発言である。

Under the new terms, heterosexual single men and women, and gay men and women who want to have children would be given the same priority as couples seeking IVF because of medical fertility problems.

Dr David Adamson, one of the authors of the new standards, said: “The definition of infertility is now written in such a way that it includes the rights of all individuals to have a family, and that includes single men, single women, gay men, gay women. ...


そして、その下、第11パラグラフは "Critics last night called ..." で書き始められており、ここからがDT的には本題なのだろう。そして、その下が長い長い。「行き過ぎた人権!」「英国はどうなってしまうのか!」を延々と語ってる感じ……私はこのトピックにさほど興味はないし、ここまで読んだ時点でもう完全にこの「DT節」に飽きている。つか、この不明確なwouldだのcouldだのの多用、デイリー・メイルかっていうレベルだよ。

それに、ここまで見ておけば、スプートニクの「性的パートナーを見つけることができない人は障害者扱いに」とかいうトンデモ記事が「トンデモ」であることは十分に検証できるだろう。



スプートニクの日本語記事の最初の2パラグラフは、「誤訳」と呼ぶ気にもならない歪曲で、単なるデタラメ(「不妊の定義を拡大する」という話が、なぜこうなる)。第3パラグラフの書き出しの「専門家らは」は原文ではLegal expertsで、「何の専門家であるかを明示しない」という古典的なごまかし(例えば「工場跡地の土壌汚染について、物理学者が科学者として第三者委員会の一員となる」的な)。第4パラグラフは日本語が壊れている(「社会問題にも抵触する」って……)。

んで、スプートニクはTwitterでアンケートまでやってたんっすな。そして2,876件も回答を得た、と。

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なお、肝心な「WHOによる不妊の定義拡大」の文書そのものについては、DTの記事にリンクがなく(正式な公表前のリーク報道なのだと思う)、原文を見ることができていない。WHOのサイトを見たが、「ニュース」でも「パブリケーション」でもそれらしき文書が見あたらないし……というか、つらすぎるよ、WHOの「ニュース」……イエメンでのコレラとか、ナイジェリアの人道危機とか。
http://www.who.int/mediacentre/en/
http://www.who.int/publications/en/

"WHO infertility" でウェブ検索すると確かにWHOのページは出てくるが、DT記事が伝えているような「新基準」は現段階では掲載されていない。
http://www.who.int/reproductivehealth/topics/infertility/definitions/en/

※この記事は

2016年10月26日

にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。


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【2003年に翻訳した文章】The Nuclear Love Affair 核との火遊び
2003年8月14日、John Pilger|ジョン・ピルジャー

私が初めて広島を訪れたのは,原爆投下の22年後のことだった。街はすっかり再建され,ガラス張りの建築物や環状道路が作られていたが,爪痕を見つけることは難しくはなかった。爆弾が炸裂した地点から1マイルも離れていない河原では,泥の中に掘っ立て小屋が建てられ,生気のない人の影がごみの山をあさっていた。現在,こんな日本の姿を想像できる人はほとんどいないだろう。

彼らは生き残った人々だった。ほとんどが病気で貧しく職もなく,社会から追放されていた。「原子病」の恐怖はとても大きかったので,人々は名前を変え,多くは住居を変えた。病人たちは混雑した国立病院で治療を受けた。米国人が作って経営する近代的な原爆病院が松の木に囲まれ市街地を見下ろす場所にあったが,そこではわずかな患者を「研究」目的で受け入れるだけだった。

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