kafranbel-aug2011.jpgシリア緊急募金、およびそのための情報源
UNHCR (国連難民高等弁務官事務所)
WFP (国連・世界食糧計画)
MSF (国境なき医師団)
認定NPO法人 難民支援協会

……ほか、sskjzさん作成の「まとめ」も参照

お読みください:
「なぜ、イスラム教徒は、イスラム過激派のテロを非難しないのか」という問いは、なぜ「差別」なのか。(2014年12月)

「陰謀論」と、「陰謀」について。そして人が死傷させられていることへのシニシズムについて。(2014年11月)

◆知らない人に気軽に話しかけることのできる場で、知らない人から話しかけられたときに応答することをやめました。また、知らない人から話しかけられているかもしれない場所をチェックすることもやめました。あなたの主張は、私を巻き込まずに、あなたがやってください。

【お知らせ】本ブログは、はてなブックマークの「ブ コメ一覧」とやらについては、こういう経緯で非表示にしています。(こういうエントリをアップしてあってもなお「ブ コメ非表示」についてうるさいので、ちょい目立つようにしておきますが、当方のことは「揉め事」に巻き込まないでください。また、言うまでもないことですが、当方がブ コメ一覧を非表示に設定することは、あなたの言論の自由をおかすものではありません。)

=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=


2007年01月23日

【リトビネンコ事件】Blowing Up Russia再発

殺されたアレクサンドル・リトビネンコがYuri Felshtinskyと共に著した本、"Blowing Up Russia" のリイシュー(版元はGibson Square)が先週金曜日に出たとのことで、各紙が書評や抜粋を掲載しています。

英インディペンデント:
Litvinenko's Russia - Exclusive: The book Putin banned
http://news.independent.co.uk/europe/article2174988.ece
※本からの抜粋。

英ガーディアン:
Secrets and spies
http://books.guardian.co.uk/reviews/politicsphilosophyandsociety/0,,1995111,00.html
※書評。

英タイムズ:
Power and absolute corruption
http://www.timesonline.co.uk/article/0,,923-2542565,00.html
※リイシューが出る前、1月13日の記事。しかも記事を書いているのは毎度おなじみ、Oleg Gordievsky(オレグ・ゴルディエフスキー)。

あと、USのワシントンポストとかにも関連記事があったので、適当に検索してみてください。上の3件の記事については下のほうでちょっと書きます。

本は日本でも入手可能です。amazon.co.jpでは「在庫あり」(24時間以内に発送)になってます。
1903933951Blowing Up Russia
Alexander Litvinenko Yuri Felshtinsky
Gibson Square Books Ltd 2007-01-19

by G-Tools


ただ、新版を出した出版社のサイトで「イタリア、日本、ドイツ、フランス、ラトビア、エストニア、ウクライナ、フィンランド、デンマーク、オランダ」で翻訳があるようなことが書かれているので(まだ権利を売った、という段階の話ですが)、待ってれば日本語で読めるのかも。

一部だけなら、下記で読めます。英語。
http://eng.terror99.ru/publications/080.htm
※リャザン(Ryazan)での奇妙な「防災訓練」についての部分。

http://news.independent.co.uk/europe/article2174988.ece
※1999年のアパート爆破事件以外の、FSBの不法行為の具体例いくつかの抜粋。内容はけっこうえぐいです。

で、インディペンデントでは「ロシアで発禁(banned by the Kremlin)」ばかりか、「西側で初めての出版(is now published in the West for the first time)」と説明しているのだけど、これは単純な事実誤認か、チェックしてないか、the Westが「西ヨーロッパ」の意味であるか・・・そうでなければ、たいへんに奇妙。(なお、「ロシアで発禁(banned by the Kremlin)」というのは、新版の表紙にハンコで押されたようなデザインで組み込まれている。)

この本は2002年に米ニューヨークの小さな出版社から出版されていたし、ガーディアン書評によると、「発禁」とはいえ(新版を出した出版社のページに書いてあったんだけど、ロシア語版を積んだトラックがロシア国内で止められたそうで)、ロシア語版と英語版のどちらも、ネット通販では買える状態にあった。事件後には「個人出品のオークションなどで高値がついている」とかいう報道もあった。(下記。)まあ、ロシアで書店で並んでなかったのは事実。
http://nofrills.seesaa.net/article/28861541.html
リトビネンコの著書(共著)がバカ売れで、UKではものすごい高値がついているそうです。amazon.co.ukのマーケットプレイスでは£200以上をつけてる出品者もいるとか。

Litvinenko's Russian terror book 'selling for hundreds' on Internet
http://www.24dash.com/centralgovernment/13819.htm

この本、どうしても読みたい方は、版元(アメリカにある)に問い合わせれば、普通の価格($13.95+送料)で手に入るのでそうすべき、と記事では示唆しています。版元は下記。
www.spibooks.com

で、このspibooks版は現在は入手不可。amazonのカタログからも削除されていて(amazon.co.jpでもamazon.comでも。co.ukも「該当なし」でした)、紀伊国屋でも入手不能。となると丸善もダメかな。回収でもされたか? ISBNは「1561719382」なので、英語のページで「1561719382」で検索すれば見つかるかも。(以上、旧版と新版との比較をしたい方がおられたら役立ててください。新版は改訂新版のようです。)

なお、spibooksはニューヨークのSOHOにある小さな出版社だそうです(「スパイブックス(spybooks)」ではなく「エス・ピー・アイ・ブックス」と読むらしい)。この版元は、ロシア関係ではAlfred Kokhという人の著作(THE SELLING OF THE SOVIET EMPIRE)も出していますね。著者紹介の記述によると、Alfred Kokhは「まずはサンクト・ペテルスブルク市、続いてロシア政府の資産の私有化を行ない、エリツィン政権でロシア連邦副首相に任命された。また、国家資産管理委員会(the Russian Federation State Committee for the Management of State Property)の委員長も務めた。現在は、国際投資会社であるthe Board of Montes Auriの会長を務め、家族と共にモスクワ在住」だそうで。

リトビネンコ事件って、どこをたどっても「90年代ロシアの国有財産の私有化」に行き着くんだけど、出版社の筋からもそっちの線に行くとは。。。(<ちょっと「陰謀論」っぽく書いてみました。実際には、これだけで行ってるとまでは言えないって。)

んで、ちょっと余談になるけど、この出版社の名前で検索してると、こういう文書に行き当たったりするんだよね。2002年4月のもの。

http://jamestown.org/publications_details.php?volume_id=12&issue_id=520&article_id=23001
CHECHNYA WEEKLY, Volume 3, Issue 10 (April 1, 2002)
MORE ACCUSATIONS AGAINST BEREZOVSKY


On March 26, the director of the FSB, Nikolai Patrushev, told reporters in Petersburg that his agency possessed additional information concerning the involvement of oligarch Boris Berezovsky in the funding of illegal armed formations in Chechnya. "We have received even more information than we had expected," Patrushev revealed. Commenting on the Berezovsky-financed film "An Assassination Attempt against Russia," which aims to prove that the FSB was behind the September 1999 apartment house bombings in Moscow and Volgodonsk, Patrushev said that Berezovsky "can make a show, but in this case he could not produce a sufficient amount of facts" (Interfax, March 26). The following day, it was announced that former FSB employee Aleksandr Litvinenko, who had collaborated with Berezovsky and others in the making of the film, and who had recently requested political asylum in Britain, was to be summoned to Russia for questioning in connection with "abuse of office, forgery, and also the stealing and illegal possession of ammunition" (Interfax, March 27). According to the Russian websites Grani.ru and Kompromat.ru, the Berezovsky-financed documentary film "Pokushenie na Rossiyu" [Assassination Attempt against Russia] is available in Russian at: http://... . An English translation of the Berezovsky-sponsored book, entitled Blowing Up Russia, is available for purchase at the bookstore of spibooks.com. ...
要旨:
FSB長官のニコライ・パトルシェフが、サンクトペテルスブルクで、ボリス・ベレゾフスキーがチェチェンの不法な武装勢力に資金を提供するのに関わっていることについての新たな情報をFSBが手にした、と語った。ベレゾフスキーは、1999年のモスクワとヴォルゴドンスクでのアパート爆破事件の背後にFSBが存在するという『ロシアに対する暗殺の企て("Pokushenie na Rossiyu")』というフィルムに資金を出しているが、これについて長官は、「この件については十分な量の事実を提示しなければならない。フィルムは見世物としては成り立っているかもしれないが、事実の点でぜんぜん不十分」などとコメントした。

長官の会見の翌日、元FSB職員のアレクサンドル・リトビネンコ(Aleksandr Litvinenko)が、ロシア当局に、「職権濫用、偽造、弾薬を盗み、不法に所持している疑い」で尋問されることになた、との発表があった。リトビネンコは上記の映画制作でベレゾフスキーらに協力しており、最近英国に政治亡命を申請した。

ロシアのサイト、Grani.ruとKompromat.ruによると、ベレゾフスキーが資金を出したドキュメンタリー・フィルム、『ロシアに対する暗殺の企て』のロシア語版は、http://... で見ることができる。また、ベレゾフスキーがスポンサーとなった書籍、Blowing Up Russiaの英語版は、spibooks.comで購入できる。

# 最後のほう、「件の映画が見られる」とあるURLではもうその映画は見つからないので、URLは省略しました。あと、Graniはリトビネンコの本に関わっている出版社の名前で、Grani.ruはBlowing Up Russiaの詳細な紹介をしているterror99.ruと同じ登録者(<whoisってみた)、Kompromat.ruはロシア語なのでわかりません(<特に調べる気にならない)。

なお、この記事が掲載されているjamestown.orgは、米国のワシントンDCにある財団で、ユーラシア研究を行なっているところ。About UsからBoard Membersを見ると、ブレジンスキーの名前があります。(あとは知らない人ばかりだけど。)

んで、今回Blowing Up Russiaのリイシューを出した出版社、GIBSON SQUAREですが、こちらもSPI Booksと同様、小出版社のようです。どういう本を出しているかはサイトで確認できますが、例えばベルナール=アンリ・レヴィのAmerican Vertigo(邦訳は『アメリカの眩暈―フランス人哲学者が歩いた合衆国の光と陰』)とか、デイリー・メイルのメラニー・フィリップスの「テロ」本などが「近刊一覧」のところにあります。(リトビネンコの本なんてばかすか儲かりそうな本が、大規模な総合出版社ではなくこういう小さなところに行ったのも・・・おっと、「陰謀論」の思考のパターンにはまってる。(^^;)
http://www.gibsonsquare.com/

で、Gibson Squareでの紹介書き(というか宣伝)によると、米国での出版は著者たちの自費出版で(なるほど、そういう出版社か>spibooks。それで、お金持ちのベレゾフスキー[長いんで以下、ベレ氏]が出版費用を出した、ということかな)、さほど注目もされず、出版社への原稿持ち込みも失敗していたようです。その理由はいろいろと考えられるんですが(「英語圏ではこの問題についての関心が低いから出しても売れない」と出版社が判断した、なども含めて)、ガーディアンの書評に書かれていることが正しければ、こりゃ大手出版社は出そうとしないだろうなあ、という気がします。

ガーディアン書評から:
Blowing Up Russia - the book that supposedly marked Litvinenko out as a target - should be a gift to the amateur investigator. But anyone hoping to find a glimmer of a clue here will be sorely disappointed. His book rehashes the well-known argument that the 1999 terrorist bombing campaign that precipitated Russia's second war with Chechnya and propelled Putin to the presidency was in fact organised by Russia's own security services. David Satter, a former Moscow correspondent for the Financial Times, has written authoritatively on the subject, in particular in Darkness at Dawn: the Rise of the Russian Criminal State (Yale).

...

There is a story here, but Blowing Up Russia fails to tell it convincingly. The authors say they need to protect their sources, hence the ludicrous sentence in the introduction: 'We would like to assure our readers that the book contains no fabricated facts and unfounded assertions.' Even their trump card - an oddly-worded statement in the appendix from a man jailed for the Ryazan bombings, who claims he was set up by an old school friend-turned-FSB agent - falls flat. The book's lack of transparency makes it difficult to read it as more than conspiracy theory.

つまり、ガーディアン書評が言うに、この本は「真実はどうなのか」をほとんど語っていない。情報源の秘匿のために肝心なところが曖昧になっていて、読み物ではあってもそれが事実だと納得できるほどのものはなく、陰謀論以上のものと受け取ることは難しい。また、この本の主張(1999年のアパート爆破事件はプーチン大統領の地固めをするためのFSBの仕業だ、というもの)は、フィナンシャル・タイムズのモスクワ特派員だったデイヴィッド・サッターがDarkness at Dawnという本(イエール大出版:下記)などで書いてきたことである。(だから、変な言い方だけど「新味」がない、ということをガーディアンの記事を書いた人は言いたいのだろう。)
0300105916Darkness At Dawn: The Rise Of The Russian Criminal State
David Satter
Yale Univ Pr 2004-10-31

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なお、上のガーディアンからの引用の部分で中略としたところには、1999年9月のリャザン(Ryazan)での「防犯訓練」(2000年1月の田中宇さんの記事にNYTなどのリンクも合わせて掲載)についての記述があります。

で、ガーディアンの書評の結論は、「この本に書かれているのは信じがたいようなことばかりだ。ハリウッドは喜ぶだろう。しかしリトビネンコの死の真相を知りたいという人にはそれほど喜ばしいものではない」。

というように、ガーディアンの書評は「彼はこの本で真実を書いたから殺されたのだ」という論に対して大変に慎重なのですが、一方でタイムズのゴルディエフスキーによる書籍紹介記事(「書評」ではない)は、「彼は真実を書いたから殺されたのだ」論そのもの。

ゴルディエフスキーはこの記事をまず、どこかの雄弁会の弁士のような記述で始めています。つまり、「昨年末、イワノフ国防相はリトビネンコのことを『我々にとっては何ら意味のない1人のロシア人だ』と言ってのけた。それは大失敗だ。なぜなら、彼らの考えは、自分たちだけは特別であり、ロシアは自分たちの国であり、ほかの国民たちは『我々にとっては何ら意味のないただのロシア人』である、というもので、それこそがサーシャ・リトビネンコが戦ってきた相手だからである」。

ゴルディエフスキーが書いている『我々にとっては何ら意味のない1人のロシア人だ』というイワノフの発言(he "was just a Russian who meant nothing to us")について、タイムズ記事のコメント欄には「よく書いてくれた、イワノフは確かにそう言った」というコメントもあれば、「恣意的な誤訳だ」との指摘もあることを付記しておくべきでしょう。(つい最近も、「あるある大事典」でウソの字幕がつけられたとかいう話があったけど、こういうところはいろいろ起こりがちではあります。)

USのViktorさんからのコメント:
To my best knowledge Mr. Ivanov said "He was a spy who didn't know much"... remaking the well-known Russian phraze from a comedy "he knew too much".

私の知る限り、イワノフ氏は「彼はあまり多くを知らないスパイだった」と発言していた。これはロシアでよく知られた喜劇的台詞「彼は知りすぎていた」のもじりである。

私の勝手な判断ですが、両者を合わせると「彼はあまり多くを知っていたわけではないから、我々(ロシア政府)にとって意味のある人間ではない(から、我々が標的にするわけがない)」という発言になるんですよね。イワノフ国防相のそういう発言は、英語でですが、読んだ記憶があります。確かリトビネンコ死後の記者の質問で「ロシア政府がやったとの憶測がありますが?」というのに答えたもの。

The Man Who Knew Too Muchといえばヒッチコックですな(下記)。で、この映画でも、「多くを知りすぎた」男が、「知りすぎていた」ゆえに命を狙われるんですが。
B0009JQOE8知りすぎていた男
ドリス・デイ ブレンダ・デ・バンジー ダニエル・ジェラン
ユニバーサル・ピクチャーズ・ジャパン 2005-07-22

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なお、英語でもThe man who knew too littleというもじりがあります。

閑話休題。

ゴルディエフスキーが言うに、「リトビネンコはプーチンやイワノフのような者だけに意味があるというロシアの状況と戦い、そして斃れた」と。相当なアジ演説だと私は思います。そして「彼の後に残された私たちにこそ、最終的な勝者は私たちであるということをはっきりさせる義務がある。レーニンのボルシェヴィキ以来、時代ごとに名前を変えて続いてきたロシアの腐りきった犯罪者集団を、今こそ、解体させねばならない」。

(私は私なりに誠実に要旨を拾っているつもりですが、誤訳などの可能性もありますので、必ず、原文をご確認ください。)

その後、ゴルディエフスキーは、「2002年に本書が最初に出版されたあとに、より重要な研究書、『ルビヤンカのギャング(The Lubyanka Criminal Gang)』という本がニューヨークのGraniから出版された。こちらはまだ英語版が出ていないが、これら2冊は一緒に語ってよかろう」として稿を進めています。

このGraniからの本は、en.wikipediaの「FSB」の項で参考文献となっています―― A. Litvinenko and A. Goldfarb. Gang from Lubyanka (Russian) GRANI, New York, 2002。というわけで、アレックス・ゴールドファーブ(病床のリトビネンコのスポークスマン的な役割をしていた人で、NYCでベレ氏が設立した組織の事務局長)とリトビネンコの共著。(ゴールドファーブさんは、間違いなく、「プーチンの敵」として認定されているでしょうね。変なお茶を飲まされたりしないようにしてほしいです。)彼とリトビネンコ夫人との共著でリトビネンコの伝記本を出す話も決まっているそうです

# うーん、やっぱりこの事件、本を売るための出版社・製紙業界・インク業界・印刷業界etc etcの陰謀じゃないんだろうか。(冗談です。)

タイムズの記事に戻りましょう。ゴルディエフスキーは「Blowing Up Russiaを読めば、プーチンとリトビネンコの間の憎悪について、すぐに手がかりがつかめる」と言い、いくつか具体的な例を説明しています。
In his books, Litvienko asserts that after Vladimir Putin was recalled from his KGB posting in East Germany, he was quickly infiltrated into the St Petersburg mayor's office to keep an eye and ear on the new democratic mayor, Anatoli Sobchak. In their second book, Litvinenko and Felshtinsky describe how this "former" run-of-the-mill spy soon became involved in the illegal export of non-ferrous metals to the West, gaining some juicy kickbacks to the tune of $93 million.

概要:
著書のなかで、リトビネンコは、プーチンが東ドイツからロシアに戻ってきてすぐにサンクト・ペテルスブルクの市長のオフィスに入り込んだことを書いている。この市長、アナトーリ・ソブチャックは民主的な市長で、プーチンは彼を監視していた。2冊目の本でリトビネンコとフェルシュティンスキは、この「元」凡庸なスパイ(=プーチン)が非鉄金属の西側への不正輸出に関わるようになったことを詳細に書いている。この不正輸出でプーチンは$93 millionにも及ぶ多額のキックバックという甘い汁を味わっていた。

この市長さん、2000年2月に大統領選挙に際してのプーチンの応援演説をしていたときに、「心臓発作」で急死。享年62。いろいろと、疑わしい死であったようで。
http://en.wikipedia.org/wiki/Anatoly_Sobchak#Death

ゴルディエフスキーの記事には、その後も屍が増えていったさまが書かれています。まずは、今のFSB長官のPatrushevがカレリアでうはうはの日々を送っていた時期をよく知っているVasili Ankudinovが、56歳で急死したこと。

それから、Blowing Up Russiaが出た2年後の2004年に、ソブチャック市長やプーチン(当時副市長)のボディーガードだったことのあるRoman Tsepovが、サンクト・ペテルスブルクのFSB本部でお茶を勧められ、11日後に放射線病で死亡したこと。(1月7日の当ブログ記事の下半分も参照。)

そして本の内容についてのまとめは:
All 11 chapters of Blowing Up Russia are devoted to one phenomenon - how the security service of a huge state became a criminal, mafia-type organisation targeted against the population of its own country. With numerous examples the authors attempt to show how terrorist acts were carried out, money was laundered, people killed and shadowy businesses started up and closed down in the interests of Chekists who had managed to place their own man, Putin, at the top of the country's governing pyramid.

Blowing Up Russiaの全11章が、ひとつの現象を描いている――巨大な国家のセキュリティ・サーヴィスが、いかにして、犯罪者の、マフィアのような組織となり、自国民をターゲットとするようになったか。数多くの実例で、著者らはいかにしてテロ行為が実行され、資金が洗浄され、人々が殺され、自分の手の内の者であるプーチンを国家の統治構造の最上部に据えた「チェキスト」(秘密警察)の利益次第で、闇のビジネスが立ち上げられ、また閉じられていくのかを示そうとしている。

というわけで、ゴルディエフスキーは「読め!」と言っているわけですが、タイムズのこれまでの報道が結局はベル氏とゴルディエフスキー筋からの話に基づいていたことは明白だし・・・とかいったところからしか私は見ることができないので、ううむ。出版社がハーパーコリンズ(<マードック組)だったりしたら、何も考えるまでもなく「宣伝」目的の絶賛記事なのだけど、そういうわけでもないしなあ、と。

とりあえず、1985年に西側に亡命したゴルディエフスキーの記述を、額面どおりに受け取ってみましょう。

確かに、プーチンは「悪」かもしれない。プーチンやその一味は不正なことをして私腹を肥やしたのでしょうし、スターリンばりの粛清も行なってきたのでしょう。そして、さらに一歩踏み込んで、リトビネンコはプーチン一味という「巨悪」に立ち向かった「正義のヒーロー」であるというゴルディエフスキーの(明示されない)位置づけも、そのまま鵜呑みにしてみましょう。

ではその「正義のヒーロー」を資金などさまざまな点でバックアップしていたのは「正義の人々」なのか? それ以前に、「悪」に「立ち向かう」のは、常に「正義」なのか? こんなの、いまどきハリウッドでも買わないんじゃないかと思うのだけど、それ以上に、こういう善悪二元論でこの事件を見ること・語ることは、ロシア政府側の態度の硬化とか、妙ちきりんな「陰謀論」の繁殖だとか、そういうばかばかしい結果を生むだけではないかと思います。

もちろん、リトビネンコの書いたことのすべてが「事実無根」ということはないと思います。ただ、善悪二元論でこの事件を見ること・語ることは、間違っている、というだけで。

アンナ・ポリトコフスカヤ殺害のようなケースが、ロシアの人たちにとって「自分たちの問題」ではなく、「連中の問題」(つまり「ベレ氏一味の問題」とか「西側の息のかかった連中の問題」とか)になってしまうことが、一番よくないことだと思うんで、90年代以降のロシアの状況を、単純な善悪二元論の物語(凶悪な政府と、弾圧される一般市民、声を上げた勇気ある人々/政府にNOと言う人々は全員例外なく「善」であるという図式)で語ってしまうことは避けるべきでは、と思うしだい。

※この記事は

2007年01月23日

にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。


posted by nofrills at 18:43 | Comment(6) | TrackBack(0) | todays news from uk | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
今週の月曜夜、英国メディアはリトビネンコ祭りといった様相でした。

まず、夜8時半からのパノラマ枠で「スパイはなぜ死んだのか」とかいったタイトル(正確なタイトルはいま手元に資料がないのでわかりません)の検証ドキュメンタリーがあり、これと連動するかたちで深夜、ロシア人ドキュメンタリー作家の「我が友、リトビネンコ」というドキュメンタリーがありました。両方とも生前の本人の映像(以前のインタビューと病床)と近親者、友人、クレムリンの報道官などなどのインタビューが主だった構成で、「我が友」の映像がパノラマのなかで使われてました。

この2本はずいぶん前から予定されていた番組だったので、先週末のタイムスの記事(リトビネンコ暗殺犯判明)もこの放送を前にしての動きだったと思われます。

上記2本のドキュメンタリーのあいだにニュースを見ていたところ、ITVの夜10時半のニュースで、独占スクープの形で1年以上前のITVによるリトビネンコへのインタビューが(なんでいままで放送しなかったのかわかりませんが)突然放送され、その中でリトビネンコはイタリアのプロディ首相がKGBのスパイだったと暴露していました。ITVでは、この件についてプロディは否定しているとしながら、リトビネンコとすしバーで会ったイタリア人が、ロンドンでの取り調べを終えて帰国した途端に逮捕され、それっきり収監されたままであることを思わせぶりに付け加えておりましたことよ。

ではでは。
Posted by 在英のチコ at 2007年01月25日 05:30
間違いに気づいたので再び。

プロディがKGBのスパイだったと暴露していたのはITVによるインタビューではなくて、リトビネンコといっしょにポロニウム210に被曝した(と言われる)イタリア人スカラメラ(という名前だった?)によるリトビネンコへのインタビューで、同じ映像のなかにスカラメラも写ってました。

「我が友、リトビネンコ」のなかで、リトビネンコは以下のようなことを言っていました。

ソビエトには2つのイデオロギーがあった。共産主義と犯罪者(クリミナル)のそれだ。ソビエトがなくなってロシアになって、クリミナルだけが残った。

KGBのFSBもたいした違いはない。ただひとつ違うのは、KGBはイデオロギーを殺していたのに対し、FSBは人間そのもの(ヒューマン)を殺している。
Posted by 在英のチコ at 2007年01月25日 05:41
>在英のチコさん
どもー。

> 今週の月曜夜、英国メディアはリトビネンコ祭りといった様相でした。

BBCがOneとTwoで2本立てしてましたよね。(それぞれ、Panoramaと、ネクラーソフのフィルム。)そういう番組があるという話は聞いてて(読んでて)、ブログにアップする記事の概略だけは書いてあるんですが、Panoramaの現物のスクリプト(下記)を見てからアップしようと思ってます。
http://news.bbc.co.uk/2/hi/programmes/panorama/6294771.stm

ざーっとだけ見ましたが、Panoramaらしいといえばらしいのかな。基本的にまじめな調査報道でありつつ、微妙に下世話な好奇心を満たすあたりが。

Panoramaは、UKからの接続なら、次回の放送までの間はオンラインで視聴できます。日本からでは無理。orz
http://news.bbc.co.uk/2/hi/programmes/panorama/

ざっと見た限り、リトビネンコがお茶を飲んだのは、ミレニアム・ホテルのバーで、ということになっていますね。タイムズの報道の「客室でウラジスラフなる男に会い、そのときにお茶を出された」という話は出てない。(この報道が「正しい」のかどうかもさっぱりわからんわけですが。)

あと、ポロニウム210がいかにステルスな毒物であるかがかなり詳しく扱われているようですね。

> 「我が友、リトビネンコ」のなかで、リトビネンコは以下のようなことを言っていました。

Panoramaのスクリプトにもあります(ネクラーソフの映画を引用した部分だと思いますが):
LITVINENKO: There were two ideologies in the Soviet Union. Communist, and criminal. In 1991 the Communist ideology ceased to exist, and only the criminal remained. The KGB was renamed, it became the FSB. But nothing really changed. Everything stayed the way it was before. The only difference was that a KGB officer killed for his ideology, while an FSB officer kills for money.
(ソ連には2つのイデオロギーがあった。共産主義のイデオロギーと、犯罪者のイデオロギー。1991年に共産主義のイデオロギーは死に、犯罪者のイデオロギーだけが残った。KGBは名前を変え、FSBになった。だが実際には何も変わらなかった。すべてが以前と同じだった。たったひとつ違うのは、KGB職員は自身のイデオロギーのために殺していたが、FSB職員は金のために殺す、ということだ。)

プロディへの「疑惑」とスカラメッラとリトビネンコのつながりについては、詳しくはイタリアのプレスの記事を読まないとわからないところもあるのですが、要は「プロディはKGBのスパイだ。証拠はないが」という話で、この件について最も詳しく知っている人物のひとりは、ベルルスコーニじゃないでしょうかね。時期的にはイラクへの派兵でイタリア国内の左派が相当活発に反対の論陣を張り、自身の首相の座が危なくなってきていたときに、ベルルスコーニ以下フォルツァ・イタリアのみなさんは、ミトロヒン委員会(2002年〜2006年)で「左翼の連中はKGBの支配下にある」と立証しようとしていたわけで。(この際のUKからの援護射撃がUKIPだけだった、というのはかなり高度にお笑いだと思います。)

リトビネンコはソ連&ロシアの内情を知る人物として、それに巻き込まれた(積極的に)だけだと思いますが、リトビネンコとスカラメッラが一緒にいるところの映像があるというのは少々びっくりです。(というか、一緒に取材を受けていたのですね。)映像残してOKだったんですね。

> リトビネンコといっしょにポロニウム210に被曝した(と言われる)イタリア人スカラメラ

同日のPanoramaによると、被曝してなかったとのことです。

Panorama has discovered that Aldermaston (the atomic weapons research centre which tried to locate the source of the polonium) got Scaramella's test results wrong and that he wasn't contaminated with polonium.
http://news.bbc.co.uk/2/hi/programmes/panorama/6276225.stm
Posted by nofrills at 2007年01月25日 13:40
> ITVの夜10時半のニュースで、独占スクープの形で1年以上前のITVによるリトビネンコへのインタビューが(なんでいままで放送しなかったのかわかりませんが)突然放送され

ITVのサイトを見てわかりましたが、これは「ITVによるインタビュー」ではなく、イタリア当局のインタビュー(審問)@2006年2月のようです。

Footage has emerged showing Litvinenko being interviewed by an Italian prosecutor in February 2006
http://www.itv.com/news/index_de20839cb1d32bc0891bbbd13c6a4c1e.html

映像がこれまで公開されなかったのは、リトビネンコの意向によるもの。友人のAnatoly Trofimovが殺害され(これ誰よ?)、リトビネンコの家族にも脅迫があった、との理由。

というわけで、メディアのインタビューなら公開されていないのは不思議なのですが(さらにスカラメッラも一緒となると!)、イタリア当局の審問の映像なら、これまで公開されていないのも特に不思議ではありませんね。
Posted by nofrills at 2007年01月25日 13:55
 こちらを読まずに、次の記事にコメントしてしまいました、すいません。
Posted by N・B at 2007年01月26日 10:10
英国での本の売れ行きなどについて、「在英のチコ」さんからコメントで教えていただいたことを転記します。-- nofrills

▼▼▼▼▼▼▼▼

わたしがスーパーマーケットで買い物をしているあいだ、息子は隣の本屋でマンガの立ち読みをしてたんですが、買い物を終えて拾いに行ったついでに新刊の棚を見てきました。けっこう売れてるみたいですよ、BROWING UP RUSSIA。まだ出たばっかりなのに、あと2冊しか残ってなかったです。15ポンドもするので、もし読みたくなっても値下がりするまで待つかアマゾンのマーケットプレイスで買うことにします。

冒頭だけ立ち読みしてきましたが、共作者のYuri Feistinskyによる後日談のかたちで、11月頭に病院にいるリトビネンコの携帯に電話をかけて話したことなどが書かれていました。その時のリトビネンコの声は力強くて、必ず回復すると言っていたそうです。

2007-01-26 06:19

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前書きの、共著者の書いた「後日談」の一部は、改訂新版を出した出版社(本文にリンクあります)のサイトに載っていたような気がします。。。別のところかな。二度読むものでもないと思ったので、どこで読んだか控えていません。
Posted by 在英のチコ(nofrills代理投稿) at 2007年01月27日 01:21

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【2003年に翻訳した文章】The Nuclear Love Affair 核との火遊び
2003年8月14日、John Pilger|ジョン・ピルジャー

私が初めて広島を訪れたのは,原爆投下の22年後のことだった。街はすっかり再建され,ガラス張りの建築物や環状道路が作られていたが,爪痕を見つけることは難しくはなかった。爆弾が炸裂した地点から1マイルも離れていない河原では,泥の中に掘っ立て小屋が建てられ,生気のない人の影がごみの山をあさっていた。現在,こんな日本の姿を想像できる人はほとんどいないだろう。

彼らは生き残った人々だった。ほとんどが病気で貧しく職もなく,社会から追放されていた。「原子病」の恐怖はとても大きかったので,人々は名前を変え,多くは住居を変えた。病人たちは混雑した国立病院で治療を受けた。米国人が作って経営する近代的な原爆病院が松の木に囲まれ市街地を見下ろす場所にあったが,そこではわずかな患者を「研究」目的で受け入れるだけだった。

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▼当ブログで参照・言及するなどした書籍・映画などから▼