kafranbel-aug2011.jpgシリア緊急募金、およびそのための情報源
UNHCR (国連難民高等弁務官事務所)
WFP (国連・世界食糧計画)
MSF (国境なき医師団)
認定NPO法人 難民支援協会

……ほか、sskjzさん作成の「まとめ」も参照

お読みください:
「なぜ、イスラム教徒は、イスラム過激派のテロを非難しないのか」という問いは、なぜ「差別」なのか。(2014年12月)

「陰謀論」と、「陰謀」について。そして人が死傷させられていることへのシニシズムについて。(2014年11月)

◆知らない人に気軽に話しかけることのできる場で、知らない人から話しかけられたときに応答することをやめました。また、知らない人から話しかけられているかもしれない場所をチェックすることもやめました。あなたの主張は、私を巻き込まずに、あなたがやってください。

【お知らせ】本ブログは、はてなブックマークの「ブ コメ一覧」とやらについては、こういう経緯で非表示にしています。(こういうエントリをアップしてあってもなお「ブ コメ非表示」についてうるさいので、ちょい目立つようにしておきますが、当方のことは「揉め事」に巻き込まないでください。また、言うまでもないことですが、当方がブ コメ一覧を非表示に設定することは、あなたの言論の自由をおかすものではありません。)

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2006年10月23日

「女性のヴェール」から「人種暴動の懸念」まで。

「ムスリマ(女性のイスラム教徒)のヴェール」の話が、まるで雪だるま式にでかくなってきている。発端はジャック・ストロー下院議長(元外相)の発言だ。
http://en.wikipedia.org/wiki/United_Kingdom_debate_over_veils

発言が報じられたのは10月5日。
Straw's veil comments spark anger
Thursday, 5 October 2006, 22:37 GMT
http://news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/politics/5410472.stm

ジャック・ストローはブラックバーン選挙区選出の議員であるが、このブラックバーンに拠点を置く地域紙the Lancashire Evening Telegraphに寄せた文章で、ムスリマの着用する全身を覆って顔も目を除いてはすっかり覆ってしまう服装について「私たちはあなたたちとは違うということを主張している(visible statement of separation and of difference)」とし、「コミュニケーションを阻害するものだと思う」というようなことを述べ、女性たちに対して「口や鼻を出して、顔の表情がわかるようにしてもらいたいと私は要請し、それが断られることはない」というようなことを書いた。

ジャック・ストローという人は弁論術に非常に長けた人である(計算し尽くして発言する)。ゆえに、この「ヴェール談義」が出てきたときには、ストローは何がやりたいのだろう?という点を考えさせられたのだが、今のところ私には「何がやりたくて」という点がまったくわからない。ひとつ確かなのは、「口をすべらせてつい本音を」とかいった話ではない、ということだ。口頭での発言ではなく新聞に寄せた文章だし(ケン・リヴィングストンみたいな「売り言葉に買い言葉」的な発言ではない)、第一に、「あの」をつけて呼ぶのがふさわしいジャック・ストローだ。

発言の意図がどうであれ、事実として、この発言による波紋はどんどん広がっている。

議論の発端となった文章、つまりthe Lancashire Evening Telegraphに掲載されたジャック・ストローの文章は、ガーディアンに転載されている。
http://politics.guardian.co.uk/labour/story/0,,1888847,00.html

内容を要約すれば次のような感じだ(非常によく書かれた英文なので、ぜひ原文も読んでいただきたい):
1年ほど前、ある女性が夫を伴ってブラックバーンの事務所に相談に訪れた。彼女はイングランドで教育を受けた人で、ランカシャー訛りで話していたが、目のほかはすべて覆っていた。相談は無事に終了したが、非常に話しづらかった。そして、全身をヴェールで覆った女性と話したのはこれが最初ではなかったが、このときに考えさせられた。むろんヴェールは何らルール違反ではないし、第一にこの国は自由の国だ。

直接会って話をする上でよいのは、電話や書面とは違って、相手の表情が見えるということだ。それゆえ、同じ話をするのであっても、女性がヴェールを外してくれれば、より充実した会話になるだろう。そう考えて、その後はヴェールの女性と面談したときに要請(request)をしている。嫌がられるだろうと思っていたが、実際にはヴェールを取ることを拒む人はいない。

先週の金曜日には、私が口を開くやいなや、相手の女性はヴェールを取った。そして相談が終わった後は女性とその夫と私とで、ヴェール着用について非常に興味深い議論を行なった。そこでわかったのだが、夫は妻のヴェール着用に一切関与していない。妻自身が決めている。彼女は自分で本を読んで考えたのだという。そして外出するときはヴェールをつけているほうが楽だと言う。

私は彼女に、ヴェール着用はクルアーンによって必要とされているのかと尋ねた。多くのイスラム法学者がヴェール着用は義務ではないと述べている。メッカ巡礼の際は男も女も頭に何もつけない。すると夫が「これは宗教的なものというより文化的なものです」と説明した。私は、すっぽり覆ってしまうヴェールは、2つのコミュニティの間の関係をよりよいものにするうえで、よい方向には作用しないと考えていると彼女に言ったのだが、彼女はそれを真剣に考えてくれるだろうか。あのヴェールは、私たちはあなたたちとは違うということを主張するものだ。

1年前、この件を持ち出すときには熟考を重ねた。今もこれを書くに当たってそれ以上に考えている。しかし私が言わねばだれが言うだろう。そう考えてあえて問題を提起する。


ひとりの人の個人的な体験を綴るエッセイとしては、別にどうということもない。基本的には、この人がそう感じているということを相手に伝え、相手もそれに同意して行動すれば丸く収まる(「ヴェールを取っていただけませんか、表情を見て話をしたいので」→「いいですよ」みたいなふうに)という話だ。映画館の座席に荷物を置いている人に「すみません、ここ空いてます?」と声をかけるとかいった話と、本質的にそんなに大きな違いはなかろう。

しかしここでは、議員という立場にある人が、「2つのコミュニティの間の関係」について、このパーソナルなエピソードを持ち出して問題を提起しているわけだ。

ブラックバーンはイングランド北部、西岸の町で、2001年のセンサスによると、白人が77.9%、インド系が10.7%、パキスタン系が8.7%と、イングランドの中でもとりわけ白人の比率が低い。宗教でいえばキリスト教が63.3%、イスラム教が19.4%(16.6%が無宗教・回答なし)。ロンドンの次にイスラム教徒の比率が高いということになる。
http://en.wikipedia.org/wiki/Blackburn#Demographics

この統計は5年前のもので、現在ではもっとイスラム教徒の比率が増えているという(30%という記述もあれば40%という記述もある)。

で、こういう町で、イスラム教徒の女性たち(単純に計算して、2001年時点で人口の約10%)が全身真っ黒で目しか出していないという場合には、その服装のことを「私たちはあなたたちとは違うということを主張している(visible statement of separation and of difference)」と解釈してそう言明することも、問題提起としては有効なことかもしれない。(100歩くらい譲っていますが。)

でもこのストローの文章が雪だるま式に膨らんでいるのは、「5人に1人がイスラム教徒」という環境にない場所においてまで、これが「よくぞ言ってくれた」的に受け取られているからだ。

はっきり言えば、multiculturalismのことをmulticultとか言い換えて愉快がっているような人たちが「祭り」状態になってしまっている。同時に、ヴェール着用を是とする人たちも過剰防衛気味になってきている。

具体的な問題も生じている。小林恭子さんのブログの記事@10月15日から:
http://ukmedia.exblog.jp/4732977/
ベール問題がさらに発展

 イスラム教徒の女性たちの顔を隠すベールだが、これまでは「受け入れるべきかどうか」に関して、理論的な話ばかりだったが、ある中学校の英語の先生がベール着用を理由に勤務停止となり、新たな議論が始まっている。
http://news.bbc.co.uk/1/hi/england/bradford/6050392.stm

これは、ウエスト・ヨークシャーのデュースベリー(Dewsbury)という地区での出来事だ。人口の3割がイスラム教徒という地域である。
http://en.wikipedia.org/wiki/Dewsbury

この地名で私が最初に思い出したのは、2005年7月7日のロンドン地下鉄&バス爆破事件だ。4人の自爆者のうち2人がこことつながりを持っている。1人はここに家がある。ただしデューズベリーのモスクはあの事件とは関係していない。
http://www.timesonline.co.uk/article/0,,22989-1693739,00.html
Hasib used to make a seemingly unnecessary 20-mile round trip to Dewsbury to worship. Mohammad Sidique Khan, the oldest suicide bomber, had a home in the town.

このことがデューズベリーというコミュニティに与えたショックを思うと、中学校の先生の事例もまた、いろいろな「意味」をつけられて膨らんでいくのではないかと心配だ。

そして現状は、ストローの発言、ヴェールの女性教師(教諭助手という報道もある)の勤務停止、「イスラモファシスト」という言葉を平気で使うような人たちの「祭り」などが、「2001年5月のような人種暴動の予感」になりつつあるということだろうと思う。

Warning over UK race riot danger
Sunday, 22 October 2006, 14:36 GMT
http://news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/politics/6074286.stm

the head of the Commission for Racial Equalityが「人種暴動の懸念」を表明している、という記事だ。この記事の中に、デューズベリー選挙区選出の労働党議員、シャヒド・マリクの発言が引用されている。
Mr Malik (= Labour MP Shahid Malik) called the debate over the past couple of weeks "raw and ill-informed".

He said: "The main beneficiaries from this debate - because it is having a corrosive impact - will be the far-right, the British National Party, and organisations like al-Ghurabaa and al-Muhajiroun.

"They would want to divide this society and to exploit it and to create mayhem, and our job, mainstream Britain, mainstream society, is to obviously not allow them to do that."


マリク議員は2001年のバーンリー暴動(<BNPのデモが発端)のど真ん中にいた人である。
http://en.wikipedia.org/wiki/Shahid_Malik

なお、ストロー発言に関しては、イスラム教組織でも考え方はわかれている。10月5日のBBC記事によると:
http://news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/politics/5410472.stm
The Islamic Human Rights Commission said the Commons leader's request was selective discrimination.

But the Muslim Council of Britain said it understood Mr Straw's discomfort.

The Islamic Human Rights Commissionについては:
http://en.wikipedia.org/wiki/Islamic_Human_Rights_Commission

The Muslim Council of Britain(英イスラム評議会)については:
http://en.wikipedia.org/wiki/Muslim_Council_of_Britain

ジャック・ストローほどのディベイターがこういう結果を予想せずにあの発言を行なったとは考えにくい。同時に、こういう結果を引き起こしたくてあの発言を行なったとも考えられない(サルコジじゃあるまいし)。ただし、自分の言葉がどのように言い換えられて広がっていくかはほとんど考えていなかったかもしれない。

・・・あるいは、the Heraldのイアン・ベルの言うように、this new and dangerous gameなのかもしれない。というかその可能性が高いかもしれない。「ジャック・ストローの存在感」を示すための。ディベート屋としてはとにかくやってみたかったとか。いやな話だけど、これかもしれないねぇ。。。

日曜日、マンチェスターでモスク襲撃事件が発生した。2人の襲撃で4人が負傷した(1人は病院で手当て、3人はごく軽い怪我)。

Four assaulted in mosque attack
http://news.bbc.co.uk/1/hi/england/manchester/6075306.stm

この襲撃について、マンチェスターのイスラム教団体の人は「国会議員の発言がきっかけとなった」との見解を示している。これはジャック・ストローの発言と、それを受けた別の議員の発言を指している。

Mosque assault 'fuelled by MPs'
http://news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/england/manchester/6076074.stm
Mohammed Shafiq, of the Ramadhan Foundation, said comments from Jack Straw and Phil Woolas were to blame.

Mr Woolas had said wearing veils could provoke "fear and resentment".

The Oldham East and Saddleworth MP, who is also the Communities and Local Government Minister, was talking in support of Mr Straw, who began the debate by saying he preferred Muslim women not to wear full veils at his constituency surgeries.


ストローはヴェール着用について、「2つのコミュニティの関係構築を難しくするだろう(be bound to make better, positive relations between the two communities more difficult)」、「私たちはあなたたちとは違うということを目に見える形で主張している(such a visible statement of separation and of difference)」と述べた。しかし、「恐怖と敵意(fear and resentment)を引き起こす可能性がある」とは述べていない。

「恐怖と敵意」と述べた労働党の(<確認済み)フィル・ウーラス議員は、デューズベリーの女性教諭のヴェールについて「解雇が当然」と発言している。
http://news.bbc.co.uk/1/hi/england/bradford/6050392.stm

オールダム暴動(2001年5月)のときにはすでにこの選挙区の議員だったわりには・・・ですね。
http://en.wikipedia.org/wiki/Phil_Woolas



■追記
オールダム暴動といえばこれ:
http://news.bbc.co.uk/1/hi/programmes/hooligans/1962503.stm
Darren Wells is a known hooligan who used to be involved with the extreme far-right group Combat 18. He was associated with the notorious Chelsea Headhunters in the 1980s and was among the hundreds of England fans deported from Belgium during Euro 2000.

He was present at the Oldham riot last year - with other Combat 18 activists and football hooligans. Wells had been working as an informer for the anti-fascist magazine, Searchlight, for the past two years. At the end of last year, he went to start a new life abroad - where Hooligans interviewed him.




■追記2
ストローの発言をネタにしたSteve Bellのマンガが、Lenin's Tombで紹介されている。「あなた、今あっかんべーしてませんか。あなたの目しか見えないので私は話がしづらくてたまりません」と言うストローに、女性が「あなた、めがね取らないでください。めがねを取られると私は話がしづらくてたまりません」と女性が言う。その後はSteve Bellらしい展開。(笑)



■追記3
小林恭子さんのブログ「英国メディアウォッチ」の10月19日記事、「デイリースターのデイリーファトワ」。
http://ukmedia.exblog.jp/4756756/

the Daily Starという、タブロイドの中でも最も低俗であることを売りにしているthe Sunの二番煎じみたいなタブロイド(芸能とスポーツとどうでもいいゴシップばかり)が何をやろうと驚くべきことはないが、Private Eye的なお笑いのセンスの「風刺」の矛先がほんとうの権威とか権力をスルーして、「我々に対する見えない圧力」という偽の「権力」に向かうとき(今のイスラモフォビアは「陰謀論」とまったく同じ形式だ)、こういうバカな企画が形になる。
http://en.wikipedia.org/wiki/Daily_Star

NUJの対応は当然のことだ。小林さんは、「もちろん、デイリースターの意図は、笑い・茶化す・販売数を増やしたい、であって、表現の自由のためではないことは、英国に住んでいる人ならば、ピンとくる、という点もあるのだが」と最後に書き添えておられるが、これ以上同意できないくらいに同意する。少なくとも、「表現の自由」という美しい言葉を自己正当化のために貼って回るようなことは、英国の社会では許容されていないというのは、ある意味で安心材料だ。というか、2001年のオールダム、バーンリー、ブラッドフォードなどの暴動(極右の煽動があった)の記憶は、その後の「対テロ戦争」の嵐のなかでも、まだ忘れられていないのだと私は思う。IRAのテロの記憶が、WTC崩落で忘れ去られることがなかったのと同じように。




■追記4
関連記事クリップ:
http://b.hatena.ne.jp/nofrills/veil%20row/

※この記事は

2006年10月23日

にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。


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【2003年に翻訳した文章】The Nuclear Love Affair 核との火遊び
2003年8月14日、John Pilger|ジョン・ピルジャー

私が初めて広島を訪れたのは,原爆投下の22年後のことだった。街はすっかり再建され,ガラス張りの建築物や環状道路が作られていたが,爪痕を見つけることは難しくはなかった。爆弾が炸裂した地点から1マイルも離れていない河原では,泥の中に掘っ立て小屋が建てられ,生気のない人の影がごみの山をあさっていた。現在,こんな日本の姿を想像できる人はほとんどいないだろう。

彼らは生き残った人々だった。ほとんどが病気で貧しく職もなく,社会から追放されていた。「原子病」の恐怖はとても大きかったので,人々は名前を変え,多くは住居を変えた。病人たちは混雑した国立病院で治療を受けた。米国人が作って経営する近代的な原爆病院が松の木に囲まれ市街地を見下ろす場所にあったが,そこではわずかな患者を「研究」目的で受け入れるだけだった。

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