kafranbel-aug2011.jpgシリア緊急募金、およびそのための情報源
UNHCR (国連難民高等弁務官事務所)
WFP (国連・世界食糧計画)
MSF (国境なき医師団)
認定NPO法人 難民支援協会

……ほか、sskjzさん作成の「まとめ」も参照

お読みください:
「なぜ、イスラム教徒は、イスラム過激派のテロを非難しないのか」という問いは、なぜ「差別」なのか。(2014年12月)

「陰謀論」と、「陰謀」について。そして人が死傷させられていることへのシニシズムについて。(2014年11月)

◆知らない人に気軽に話しかけることのできる場で、知らない人から話しかけられたときに応答することをやめました。また、知らない人から話しかけられているかもしれない場所をチェックすることもやめました。あなたの主張は、私を巻き込まずに、あなたがやってください。

【お知らせ】本ブログは、はてなブックマークの「ブ コメ一覧」とやらについては、こういう経緯で非表示にしています。(こういうエントリをアップしてあってもなお「ブ コメ非表示」についてうるさいので、ちょい目立つようにしておきますが、当方のことは「揉め事」に巻き込まないでください。また、言うまでもないことですが、当方がブ コメ一覧を非表示に設定することは、あなたの言論の自由をおかすものではありません。)

=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=


2006年09月02日

言語と制度

Belgian town bans school French
http://news.bbc.co.uk/2/hi/europe/5305484.stm

ベルギーのMerchtemという市の市長が、学校でフランス語を用いることを禁止した、という報道。

Merchtemというのがどこにあるのかすら私は知らないが、記事にはthe Flemish town near Brussels(ブリュッセル近くのフラマンの町)とある。つまり、オランダ語(フラマン語)とフランス語とドイツ語に分かれたベルギーのうち、オランダ語圏の街。

ベルギーについて学校とかで詳しく習ったことのある人は日本では少ないんではないかと思う。私もほとんど習っていない。テレビアニメの『フランダースの犬』は見ていたし、「フランドル絵画」というのはよく見てきたが、では「ベルギー」とは、ということになると、ほとんど知らないまま教育を終えてしまったように記憶している。(そういう場合は、とりあえずウィキペディア。)

それでも、仕事でいろいろ調べものとかをした結果として、ベルギーが特に「フラマン語か、それともフランス語か」でけっこうな対立をみてきたということは、知識としては知っている。

http://members.aol.com/Naoto1900/langues/gengo-jokyo.html
ベルギーの言語状況を考えると、まずは「言語戦争 (conflits linguistiques)」という言葉を思い浮かべるのではないだろうか。この言葉はフラマン語とフランス語の言語的対立、ひいてはフラマン人とワロン人の経済的、文化的な民族的対立を表している。


そして、ベルギーにおいては「言語」はただの「言語」以上の何かである、ということも。

ウィキペディア:
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%99%E3%83%AB%E3%82%AE%E3%83%BC
ベルギーは1993年の憲法改正により連邦制に移行した。連邦は、ブリュッセル首都地域圏、フランデレン地域圏、ワロン地域圏の3つの地域と、フラマン語共同体、フランス語共同体、ドイツ語共同体の3つの言語共同体の2層、計6つの組織で構成される。


外務省サイト:
http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/belgium/data.html
ベルギーは、同じ言語を話す住民の集合体を示す概念である共同体(蘭語、仏語、独語)、領域を示す地域的概念である地域(フランドル、ワロン、ブリュッセル)及び連邦とで構成される複層的な連邦国家。共同体は、教育、文化を、地域は経済事項を主として所管している。


さて、今回市長が「フランス語禁止」としたMerchtemは、フランデレン地域圏のフラームス・ブラバント州にあり、フラマン語共同体に属している。

ウィキペディア英語版から:
http://en.wikipedia.org/wiki/Flemish_Brabant
The official language in Flemish Brabant is Dutch (as it is in the whole of Flanders), but a few municipalities are allowed to use French to communicate with their citizens; these are called the municipalities with linguistic facilities.


というわけで、municipalities with linguistic facilities(言語面で融通のきく地方自治体)についても参照してみる。
http://en.wikipedia.org/wiki/Municipalities_with_linguistic_facilities
The municipalities with linguistic facilities or municipalities with facilities ... are Belgian municipalities with special law provisions to protect rights of their (historic) linguistic minorities. They are so-called 'municipalities with a special status'.

つまり、言語的マイノリティーの権利を守るための特別の条例を有する自治体、ということになる。

なぜそのようなものができたのかは長い歴史と人々の権利の話になるのだが、ここで注目したいのは、「言語」が「制度」になっているということだ。

で、本気で注目するとすれば、とてもじゃないがこんなブログとかで中途半端に扱えることではなかったりする。(^^;)

よって、BBC記事に書かれていることだけで考えることにする。

BBC記事には次のようにある。
"What we want is to teach children to speak Dutch," Mr de Block told the BBC News website.

"It's not a great problem," he said, adding that only about 8% of some 1,400 pupils in the town's four schools spoke languages other than Dutch.

つまり市長(Mr de Block)は「子供たちにオランダ語を教えたいというだけである。そんなに大きな問題ではない。街の4つの学校の全学童1400人のうち、オランダ語以外の言語をしゃべっているのは約8パーセントに過ぎない」と述べている。また記事のあとの部分では、外国語としてのオランダ語を教える専門家が2人、市によって雇用されている、と市長は述べている。(そこまでするか、とちょっと思うんだけど。)

ベルギーのフラマン圏のような環境で実際にどうなのかは、正直、想像もつかないのだけれども(お菓子を買いに行けばオランダ語だったりするだろうし)、その「約8パーセント」にとっては「オランダ語以外の言語」が100パーセント、もしくは8パーセントによりは100パーセントに近い、ということは、こういった物言いからは消されてしまう。

さらにBBC記事によると、学校でフランス語が禁止されるということは、生徒も親も学校ではオランダ語しか使えないということになり、オランダ語以外の言葉を使っているのが発見されると、教師から罰則を科されるという。親は保護者会などでオランダ語が理解できない場合は通訳を使ってもよい。

うーん。

これはどうツッコミを入れたらいいのか困ってしまう。

まず、「この地域の子供はオランダ語を使うべき」ということが前提になっている。で、それが制度化されている。

例えば親がフランス語圏のベルギー人であるという子供の場合、自分が学校に行ってオランダ語ができないと困るから、結果として、自ら/自然にオランダ語をしゃべれるようになる、というかたちではない。

子供にとっては、「学校ではオランダ語以外の言語を使うと罰される」から、オランダ語を使う以外の選択肢はない、というのが市長が導入した制度だ。。。よね?

うーん。

しかもこの街、バイリンガル都市のブリュッセル(首都)の近郊だから、ブリュッセルに通勤するフランス語話者も多いという。ということは、ブリュッセルの会社に勤めるフランス語話者の子供も多い。その子たちにとって「自分の言語」はフランス語であって、学校で強制される(「習わされる」のではなく)オランダ語はforeign languageだよね。(こういうときに「外国語」という日本語は本当に不便だ。)「習わせる」とか「使えるようにする」んなら話はわかるけど、親まで対象にして、構内ではオランダ語以外は一切禁止ってことにまでするか? 

これは、どう考えても「地域の独自性」を守ろうと躍起になっているってことだよね。

実際この市では、オランダ語とフランス語のバイリンガル表記だったマーケットの看板を、オランダ語だけのモノリンガルにするという条例を出して、それがフランデレン地域圏の内務大臣からダメ出しされているという。

つまり、「純粋にオランダ語」を追求したいんだよね。それでこそフランドルである(オランダ語が完全に用いられなければフランドルではない)、という“思想”だね。

なお、ベルギーはEU加盟国どころか本部のお膝元で、EUは域内の人の移動を自由化している。

んで、このBBC記事には読者からのコメントがつけられている。「第二言語習得にはよい方法だ」みたいなのがあって、いやそーゆー問題じゃなくって、と言いたくなるんだけど、いくつか、こういう話に興味がある人にとっては、読むとよさそうなコメントがある。

例えば「この10月に選挙があるから、市長は強い印象を与えたいだけだろう」という非常にプラグマティックなもの(アントワープの人から)。

「ブリュッセル生まれのフランス語話者ですが、オランダ語話者と通信するときは英語を使ってます。そうすれば外国人だと思ってくれるんで」というサバイバルめいたもの。

「この市長の判断はよいものだ。最近、フランデレンに引っ越してくるフランス語話者は、オランダ語を使えるようにしようという気がない。周りが自分たちに合わせてくれると思い込んでいるし、学校もフランス語での教育をしてくれると思っている」というもの。

フレマン語圏の学校の授業がオランダ語で行なわれること自体はまったく問題ないと思う。そのために学童がオランダ語を身につけなければならないのなら、語学習得のサポートがあることはものすごくいいことだと思う。しかし、親までを対象として「構内ではオランダ語以外は禁止」というのを条例で出すというのは、別の問題だ。私も教室内では英語しか使えないという授業を経験しているが、それはその言語を習得するという目的のための方法のひとつで、制度とかアイデンティティとかには関係ない。コメント欄ではそれを混同しているものもある。

あと、「フランデレンの首相がフランスのリベラシオンで、『フランス語話者はオランダ語を習得するための知的能力がないのだ』と発言して大騒ぎになったところだ」というコメントがあるのだけど(下に引用)、これについては事実確認が必要。リベラシオンを見てみればわかるかもしれないけど、私には言語の壁が(フラ語)。orz
This ridiculous decision comes in the wake of the Flemish Premier saying in the French daily Libération that the French-speakers did not have the intellectual capacity to learn Dutch, sparking a huge row. The few Flemish-speaking inhabitants of Brussels enjoy an officially bilingual region, whereas the French-speaking inhabitants of some Flemish towns have few rights.

これが事実だとすれば、受け取られ方としては都知事の「数字が数えられない」発言と同種のものだろうな。。。そういえば都知事、東大教授つかまえて「怪しい外国人が出てきてね。生意気だ、あいつは」って言ったらしいけど・・・まあ、文脈も文脈だし(東京対福岡の対決)、発言の全文を見ないことには何とも言えないけれども(特に「生意気だ」って言葉は世代によってシニフィエが違ったりするから)、基本、ゼノフォビアだよなぁ。

言語ってのは安易にゼノフォビアと結びつきがちなもののひとつだ。私の中にもそういうのはあって、だからこそリービ英雄さんとかアーサー・ビナードさんとかの書いたものについて、「アメリカ人が書いた日本語の文章」として読んでみようという気になったりもするわけだ(で、読んだあとは「とてもアメリカ人が書いたものとは思えない」と思ったりね)。

ベルギーの場合はベルギー人同士なのだから「外国人」嫌いではないけれども、ゼノフォビアってのはfear or dislike of foreigners or in general of people different from one's selfというものだ。学校ではオランダ語しか使えないという条例を出した側の考えは、「彼らにフランス語を喋らせておくと、我々の地域が破壊される」という恐怖心だろう。

ちなみにベルギーでは今年の5月に、あまりに類型的とさえいえるヘイト・クライムが発生し、フランドルの極右のことが大きく報じられた。
http://b.hatena.ne.jp/nofrills/Belgium/racism/

■参照:
http://en.wikipedia.org/wiki/Irish_Gaelic#Northern_Ireland
Although the language was taught in Catholic secondary schools (especially by the Christian Brothers), it was not taught at all in state (Protestant) schools and public signs in Irish were effectively banned under laws by the Parliament of Northern Ireland, which stated that only English could be used.


http://www.bwrdd-yr-iaith.org.uk/cynnwys.php?pID=125&langID=2
The passing of the 1536 and 1542 Acts of Union brought a significant change in the official use of Welsh, and the language would not be used as an official language again until after the passing of the 1942 Welsh Courts Act – four hundred years later.

The purpose of the Acts of Union was to make Wales part of England, and therefore English became the official language of business and administration in Wales. Following the Acts it was not possible for any monolingual Welsh speaker to hold official office in Wales, and although the language was not banned, it lost its status, and brought with it centuries of steady linguistic decline.


松岡正剛の千夜千冊>リービ英雄『日本語を書く部屋』2001 岩波書店
http://www.isis.ne.jp/mnn/senya/senya0408.html

※この記事は

2006年09月02日

にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。


posted by nofrills at 21:28 | Comment(0) | TrackBack(0) | todays news from uk | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント

この記事へのトラックバック





【2003年に翻訳した文章】The Nuclear Love Affair 核との火遊び
2003年8月14日、John Pilger|ジョン・ピルジャー

私が初めて広島を訪れたのは,原爆投下の22年後のことだった。街はすっかり再建され,ガラス張りの建築物や環状道路が作られていたが,爪痕を見つけることは難しくはなかった。爆弾が炸裂した地点から1マイルも離れていない河原では,泥の中に掘っ立て小屋が建てられ,生気のない人の影がごみの山をあさっていた。現在,こんな日本の姿を想像できる人はほとんどいないだろう。

彼らは生き残った人々だった。ほとんどが病気で貧しく職もなく,社会から追放されていた。「原子病」の恐怖はとても大きかったので,人々は名前を変え,多くは住居を変えた。病人たちは混雑した国立病院で治療を受けた。米国人が作って経営する近代的な原爆病院が松の木に囲まれ市街地を見下ろす場所にあったが,そこではわずかな患者を「研究」目的で受け入れるだけだった。

……全文を読む
▼当ブログで参照・言及するなどした書籍・映画などから▼