kafranbel-aug2011.jpgシリア緊急募金、およびそのための情報源
UNHCR (国連難民高等弁務官事務所)
WFP (国連・世界食糧計画)
MSF (国境なき医師団)
認定NPO法人 難民支援協会

……ほか、sskjzさん作成の「まとめ」も参照

お読みください:
「なぜ、イスラム教徒は、イスラム過激派のテロを非難しないのか」という問いは、なぜ「差別」なのか。(2014年12月)

「陰謀論」と、「陰謀」について。そして人が死傷させられていることへのシニシズムについて。(2014年11月)

◆知らない人に気軽に話しかけることのできる場で、知らない人から話しかけられたときに応答することをやめました。また、知らない人から話しかけられているかもしれない場所をチェックすることもやめました。あなたの主張は、私を巻き込まずに、あなたがやってください。

【お知らせ】本ブログは、はてなブックマークの「ブ コメ一覧」とやらについては、こういう経緯で非表示にしています。(こういうエントリをアップしてあってもなお「ブ コメ非表示」についてうるさいので、ちょい目立つようにしておきますが、当方のことは「揉め事」に巻き込まないでください。また、言うまでもないことですが、当方がブ コメ一覧を非表示に設定することは、あなたの言論の自由をおかすものではありません。)

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2011年07月06日

ポーランド、妊娠中絶の全面禁止に向けた法的整備の動きについて。(付:アイルランド共和国の例)

4日、はてなブックマークで知ったのだが、ポーランドで妊娠中絶の全面禁止に向けた法的整備の動きがあるという。「全面禁止」とは、いかなる事由をもってしても、妊娠したら中絶することはまかりならんというもの。病身で出産が女性にとって生命を脅かすほどのものになりえるケースだろうが、レイプ被害の結果の妊娠であろうが、とにかく中絶はダメだという法律を国家が制定しようとしているという。21世紀に、EU加盟国(←ここ重要)で。

「そんなバカな」と言いたくなる事態だが、AFP BBの記事に添えられている「中絶全面禁止推進派」のポスターのポピュリスト的煽動を見て、心底げんなりする。



んで、これについて自分がブクマするときに調べたことを、100文字の制限のない場(ブログ)で書いてアップしておくことはまったく役に立たないわけではないと思うので、そうすることにした。閲覧するのに登録などを必要としない(=誰でも簡単にできる)範囲内での《事実》の確認方法のひとつの例、ということでもご参考までに。


はじめにおことわり。私はポーランドについては、常識的なこと以外には何も知らない(似たような状況があったアイルランドについては、「学校とカトリック教会の関係」など調べているので「常識」レベル以上の知識があるが、ポーランドについてはそうではない)。単に検索して見つけた報道などのテクスト(英文)を、書かれている通りに読むことしかできない。よって、私は私のベストを尽くしているが、元の報道が間違っていたり、ミスリーディングだったりする場合も、私には気づくことはできない。以下が元の報道を反映して間違っていたりミスリーディングだったりする場合はその旨ご指摘いただけるとたいへんにありがたい。

4日付のAFP BB記事に対する自分のブクマのコメント欄より:
日付が異なるし(1日付)スタイルも異なるが、ベースの記事はこれか→ http://is.gd/M0AKEw GVに非常に優れたアップデートが来ている→ http://is.gd/AeK2SE AFP BB記事写真のポスターのポピュリストっぷりとGVを重ね合わせると怖い。

これ↑について説明。

まず、AFP BBの場合は元がAFPの報道(英語およびフランス語だが、AFP BBに来ているものはほとんど全て英語記事ベース)なので、AFPの報道を探してみた。使うのはAFPの記事の配信があるGoogle News(英語)で、単にキーワードを入れて検索すればよい。この件では、「Poland abortion」の2語で検索する。(絞りきれなかったらここに配信元のサイト名、この場合は「AFP」を加える。)

ブクマした日(5日)とキャプチャを取った日(6日)が異なるので内容が若干違うが、検索結果が下記のように表示される。(画像クリックで原寸)



私がブクマしたときに参照したのは、まずはAFP BBの日本語記事の元となったであろうAFPの記事(1日付で、AFP BBの日本語記事とは体裁もずいぶん違うのだが、このトピックでAFPではこの記事しか見つからない)と、Global Voices Online (GV) の記事だ。

これらのほか、「どういうサイトがどういう方向で報じているか」の確認のため、Life Siteというサイトの記事も見てみるだけ見てみた。ここは初めて見るサイトだが、サイト名からも明白なとおりPro-life(妊娠中絶反対)のサイトで、中絶(の是非)に関するニュース(というか、「中絶禁止が世界のトレンド!」的なおそろしく偏向した記事)のほかは、典型的といっていいほどに「宗教右派」(避妊、安楽死、同性愛、幹細胞……)。ページの一番上に「米国、カナダ、インターナショナル」の区分があり、ページの一番下にある「行動を起こそう」的な文脈での「議員連絡先一覧」のリンクがカナダと米国の国会議員なので、北米の宗教右派のサイトだということも確認できる。要するに、EU/欧州のサイトではない。まるっきりの外野だ。

なぜこのサイトについて長々と書いているかというと、5日にブクマしたときにGoogle Newsで「ポーランド 中絶」で探した際、このLife Siteというサイトの記事ばかりがやたらとたくさん並んでいたからだ。ほかにもChristian News WireやBeliefnet.comなど、配信元サイト名を見ただけで「宗教系ニュースサイト」と判断できるものが並んでいる。一方で、NYTやWashington Post, BBC, Guardianといった英語圏の有力な「一般メディア」は見当たらない。通信社でも、これを伝えているのはReutersやAPもなく、AFPだけだ。

英語圏ではない国の国内政治ニュース、それも「国会にこのような法案が提出される見込み」といった細かいニュースが、英語圏の一般メディアで報じられることは、実はあまりない。報じられる場合は何か特別のテーマや関心事に関わっている場合だ。

で、大体の様子として、このポーランドの妊娠中絶全面禁止法案については、英語圏では宗教系のメディア、宗教右派のメディアが注目している、ということが確認できた。

あとは個別に記事の内容を確認する。

最初に、1日付のAFPの記事。「ポーランド国会、妊娠中絶の包括的禁止に近づく Polish lawmakers move closer to blanket abortion ban」という見出しである。大まかな内容は:
金曜日(1日)、ポーランド国会は理由を問わず妊娠中絶を一切禁止するという法案の策定に向けて動くということを決定した。

妊娠中絶に関しては、ポーランドは現時点でも既に、欧州で最も厳格な法律を有しているが、今回、レイプ、先天性異常、妊婦に健康上の問題がある場合などについて(これまでは例外的に認められてきた)も含め、全面的に非合法とする法律の制定が検討されている。左派政党はこれにストップをかけようとしたがその動議は否決された。法案は委員会に送られ、さらに作業(検討)が進められることになった。

法案を提出したのは妊娠中絶に反対する活動家たち。保守の野党勢力、連立与党の中の右派で自由主義の党から、45万筆の署名を集めた(原文: drawing support from about 450,000 petitioners from the conservative opposition as well as a rightist, liberal party in the ruling coalition)。

現行法の下でも、病院が妊娠中絶を拒否することは珍しくない。公式の統計では合法的中絶手術は毎年わずか数百件だが、ポーランドの女性団体によると毎年最大で18万件の非合法手術が行われているという。

この実情で、何をどうしたくて妊娠中絶を全面禁止するのか、意味がわからないのだが(ましてや「保守主義者」ならプラグマティズムで動くもんじゃないのかと思うのだが←英国脳の恐怖)、まあとりあえず書いてある通りに。

で、ポーランドについて何も知らない自分には本文にある "a rightist, liberal party" がわからない。報道ではいちいち政党名を明示してほしいんだが……これって「センター・ライト」って意味だよね。要領が悪いのでかなりあっちこっちした挙句、ウィキペディアの「2007年ポーランド議会選」の項(→日本語)で "The Civic Platform formed a coalition majority government with the Polish People's Party" という記述を見て、まあそのどっちかなのだろう、と。ちなみに下院460議席中、Civic Platformは209議席、Polish People's Partyは31議席だそうだ。今のポーランドは、大統領も首相も、Civic Platformの人である。

Civic Platform(市民プラットフォーム)は中道右派、Polish People's Party(ポーランド農民党)は「新農村主義とカトリックに依拠した中道政党」(ウィキペディア日本語版)。なので記事にある "a rightist, liberal party" はCivic Platformと考えられる。

で、AFPの記事にある "the conservative opposition as well as a rightist, liberal party in the ruling coalition" は、「連立与党の片割で下院で最大議席数を押さえているCivic Platformと、下院での議席数では同党に続く勢力(166議席)で保守派のLaw and Justice」の意味だと思う。(そうならそうと最初っから明示してくれればいいのにと心底思う。)

なお、Law and Justice(法と正義)はキリスト教民主主義である。キリスト教民主主義というのは(カトリックでもプロテスタントでも)キリスト教の価値観が中軸にあり、「男と女と子供から成る家族が社会の基本」とか「妊娠中絶反対」といった価値観を政策として実現しようとする。

上のほうで見たLife Siteという北米の宗教右派のニュースサイトの記事に「討論での注目すべき発言まとめ」があるのだが、紹介されている国会議員の発言のほとんど全てが、Law and Justiceのもので、全部は読んでいないが見たものは、米国やアイルランドなどで私でもかなり馴染みのある「宗教を背景とした中絶禁止論」の主張と基本的に同じである。「14歳の少女がレイプされ妊娠した。絶望のふちにある彼女を救ったのは中絶ではなく尼僧であった。現在21歳となった彼女は、7歳の子供に惜しみない愛を注ぎ、幸せに暮らしている」など、「何が《不幸》であるかは社会が決めることではなく本人が決めること」といった、「起きていることはすべて善である」系の思想が背景にあるのだろうなと思うようなものもある。

一方、連立与党のCivic Platformのほうはそういう宗教色は表に出されていない(個々の成員がどう考えているかは別として)。

なので、AFPの記事の "the conservative opposition as well as a rightist, liberal party in the ruling coalition" は、上述の対比を前提に、「ポーランド国内の宗教的保守勢力と保守ではない勢力のそれぞれ最大の政党が、中絶全面禁止に賛成している」と解釈すべきだろう。

つまり「問題は宗教性云々ではない」というメッセージがある。だがそれを鵜呑みにすることができるかどうか。現にLaw and Justiceが完全に宗教勢力であるときに。(宗教保守が「これは宗教による支配ではなく、民意による自主的選択である」という形式を積極的に選択することは、珍しくない。)

そこで次。5日付のGlobal Voices Online (GV) の記事、「ポーランド:市民主導での包括的中絶禁止 Poland: Citizen Initiative for Complete Abortion Ban」を見てみよう。

まず、AFPの記事で「左派政党」と表されていたのは、the Democratic Left Alliance Party であるということがGVの記事で確認できる。なお、GVはいわゆる「市民メディア」で、クリエイティヴ・コモンズを採用し、多言語での翻訳を自由にしあうという方針で運営されている。私はここの翻訳ポリシー(要約すれば「直訳命」で、他言語の話者に説明するための語句の補足などはしてはならない/すべきでないとのこと。あと最初からこのサイトに投稿されたわけでもない翻訳されることを前提としない文章を翻訳する際に、情報源を守るための、情報の質に影響しない改変を加えることもすべきでないとか)にまったく賛同しないので、「翻訳」はしないが。

で、ポーランドってややこしいのね、このthe Democratic Left Alliance Party は選挙ではLeft and Democrats (LiD) としてほかの3つの社会民主主義政党と一緒になって登録している。国会(下院)での議席数は53で、野党としては第二位……なのだが、ええっと、下院の議席数(定数460)を箇条書きにしてみると:
  Civic Platform: 209 →連立与党
  Law and Justice: 166
  Left and Democrats: 53
  Polish People's Party: 31 →連立与党
  German Minority: 1

このように、「野党として第二位」といっても、野党第一党の「法と正義」の3分の1の勢力でしかない。(そのような勢力の提出した動議が可決されなかった、というニュースが、国際的に注目されないのは、まあ普通だろう。)

「市民メディア」が本領を発揮するのは、そのようなニュースでも書いて伝える価値があると判断した誰かが書けば、伝わる、という点だ。ただし今回のケースでは、私は「市民メディア」ではなく「メインストリーム・メディア」であるAFPが伝え、それを日本語サイトのAFP BBのデスクが翻訳すべきと判断したことで、このトピックについて知ったのだが。

GVの記事から、AFPにはなかった情報の部分を少し引用する。
The draft amendment was submitted by the Citizen Legislative Committee created by PRO–Right to Life Foundation [pl]. It is officially supported by the clergy [pl] and has caused many protests. According to a a survey [pl] ordered by PRO–Right to Life Foundation, 65 percent of the Poles are for protecting life from the moment of conception.

On Facebook [pl], PRO-Right to Life Foundation's page states:
We believe that abortion is a murder committed on an innocent person. We believe that at this moment the phenomenon takes features of a genocide. We believe that abortion in a civilised world is a scandal. That it why we take action.

この法案について「市民がイニシアティヴを取った」と言われているが、実際にはどういうことかという説明だが、読んでちょっとびっくりした。何という「羊の皮をかぶったオオカミ」状態かと。要は、Pro-life系の団体が「市民立法委員会」という名称の団体を作って活動しているということだ。「市民」が固有名詞かよ。

この記事の書き手が法案に反対する立場、例えば社会民主主義政党の党員、もしくはその賛同者であると仮定しても(投稿者詳細のページを見てもそういうことが判断できる記述はない)、法案を作成・提出した「市民立法委員会 the Citizen Legislative Committee」が、宗教勢力(教会)の支持を得ている「生命の権利支持基金 PRO-Right to Life Foundation (Fundacja Pro-prawo do zycia)」(←ポーランド語の部分はアクサンが入力できていない)によって設立された、いわば「フロント団体」的なものであるという《事実》の持つ意味は、何ら変わらない。

このPRO-Right to Life FoundationがFacebookに投稿しているという文章(英訳)は、よくある「宗教右派のアジ演説」そのものという印象だ。

GVの記事はこのあと、法案に反対する立場のブロガーと大学教授の意見を紹介し、法案に賛成する立場のジャーナリストの意見を紹介している(なんかこれ、「外国人による凶悪犯罪が激増しているので入管を厳しくしよう」論にそっくり。「妊娠中絶は殺人であるが、その件数は年々増加して昨年はついに549件だ。だから禁止しよう」とのこと。ヤミ中絶? 「ヤミ中絶などない!」by サハフ情報相)。

また法案に賛成した与党Civic Platformの議員の多くが採決に欠席したこと、そのなかで出席した議員の多くが法案に対する賛成の票を投じたことが、地の文で説明されている。

一連の議論に対する教会の影響については:
While many voices focus on the excessive influence of the church in the debate, reakcjonistka argues [pl] on her blog:

Today nobody wants to have discussions with abortion opponents. It is enough to associate their beliefs with Catholic religion and here you go, you can reject their demands without any problems. […] Even if at the source of the opposition to abortion there is the Catholic worldview, that doesn't mean that there are no arguments behind it.

このように、ポーランド国内でもかなり面倒な状況にあるようだ。つまり「中絶全面禁止なんて、宗教勢力じゃあるまいし」的なことを言うだけで終わりだ、と。おそらく、「自分は宗教には無頓着なほうですが」と言いつつ、中絶全面禁止には賛成、という人も相当数いるのだろう。

正直、宗教の関わり方については「証明」は極めて難しいと思われる。ある社会の中で多くの人がその価値観を持っているとかそのように考えているという場合、どのようにしてそう考えるようになったのか(何がその原因なのか)を仮定したり推測したり検討したりすることはできても、特定することは難しい。誰かがガンになった主要な原因は、ストレスなのか、喫煙なのか(ただし肺癌ではない場合は?)、飲酒なのか、食生活なのか、それとも環境なのか、あるいは遺伝なのか(ガン家系)、絶対にこれだというものを特定することが難しいのと同様かもしれない。

しかし、ポーランドの「妊娠中絶全面禁止、例外は認めない」という動きについて、「宗教が無縁」というのは、これまで見てきた《事実》に照らして、嘘である。その「宗教」が「教会(の権力)」ではなく「(個人の内面のことである)宗教的価値観」であるにしても。

GVの記事はこのあと、ポーランドで「女性の権利」を主張することがいかに難しいかについて、「誰も放映しようとしなかったドキュメンタリー」の例で語られている。

さて、「中絶禁止」といえばアイルランド共和国である。

その前に、前提として、「妊娠の人工中絶」が各国で法的にどう扱われているかを確認しておこう。
http://en.wikipedia.org/wiki/File:Leis_do_aborto.png

色分けされたこの地図は、青が「法的制限なし」、赤が「完全に非合法」で、程度によってグラデーションで示されている。

まず、完全な青(英、仏、スペイン、イタリアなどEU各国、トルコ、ロシア、中国などと北米など)は、可能な時期には幅があるが、中絶そのものについての法的な制限はない。

青緑(日本、ドイツと……ザンビアですね)は、原則違法だが、レイプ、母体の生命、身体的健康、精神的健康、胎児の先天性障害、および/または社会経済的要因による例外を認めている。

黄緑(ポーランド、韓国、コロンビア、ガーナなど)では、青緑の国での「例外」から「社会経済的要因」が除かれる。

オレンジ(ブラジル、エクアドル、ボリビア、タイなど)ではさらに、「胎児の先天性障害」が除かれる。

アフリカ大陸の大半とアラブ、東南アジアから、南米のアルゼンチン、パラグアイなどを塗りつぶしているくすんだサーモンピンクのような色の国は、さらに制限が厳しくなり、例外は母体の生命に危険がある場合や、一部の国では母体の精神的・身体的健康を損なうおそれがある場合に限って妊娠中絶が例外的に合法となる。欧州で唯一この色で塗られているのが、アイルランド共和国である。

赤は全面的に非合法としている国で、現状、ウルグアイ、チリ、ドミニカ共和国、エルサルバドル、ニカラグア……ポーランドはこの枠に入ろうとしている。

さて、アイルランド共和国だが、かつてアイルランドと連合していた連合王国(英国)では「中絶は殺人である」との方針がとられていた。英国でも20世紀半ばまでは中絶は非合法だった。(映画『ヴェラ・ドレイク』等参照)

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1921年から49年にかけて連合王国からの独立を手にしたアイルランド共和国での中絶禁止は、時代が進むにつれてだんだん弱まった……のならわかりやすいのだが、実際には1983年の第8次憲法改正で決定付けられたものである。(1983年! U2とか既にトップクラスの人気者でしたがな!)

83年の憲法改正では、第40条に新たに次の項が付け加えられた。大雑把にいえば「生まれていない子供は一人前の人間である」との内容だ。
Insertion of new Article 40.3.3:
The State acknowledges the right to life of the unborn and, with due regard to the equal right to life of the mother, guarantees in its laws to respect, and, as far as practicable, by its laws to defend and vindicate that right.


1998年8月15日のオマー爆弾事件での犠牲者数について2通りの記述があるのは、被害者の1人が妊婦だったためである(「29名」とするのが通例だが、おなかの中の双子の赤ちゃんを数えれば「31名」)。

the Pro-Life Amendment Campaign (PLAC) という学者などによる団体が呼びかけて実現されたこの改正に賛成したのは、ウィキペディアによると、宗教勢力のほか、アイルランド共和国の二大政党ではまずFF、そしてFGの一部(先日亡くなったギャレット・フィッツジェラルドも)……いずれの政党も「右派」であるという点が、今回のポーランドのケースに似ているように思う。一方反対したのは労働党など「左派」政党と、フェミニストたち。

シン・フェインも中絶禁止には反対する立場だった。とはいえ、基本的にカトリックの民族主義の人たちが集まった政党で、党内は割れていたという。少しあとのことだが1987年の様子。

 (1987年のシン・フェインの党)大会で堕胎の問題が論じられ、シン・フェイン党は大きな亀裂をみせた。堕胎は否定されたが40%ほどが賛成したからだ。

――鈴木良平、『IRA』、1988年、彩流社、p. 330


1983年の憲法改正のあと、1992年、2002年と2度にわたり、さらに条件を厳しくする方向(例外から「自殺のおそれ」の除外)での改正案があったが、いずれも国民投票で否決された(02年は51%対49%よりも僅差という結果だった)。このように憲法では「例外を認める」ようになっているのだが、実際の法律が作られていないとのことで(どの政党もそれに着手しない)、現在は、「アイルランド共和国内で人工中絶手術を受けることはできないので、それを希望する人は外国に出て手術を受ける」ということになっている。
http://en.wikipedia.org/wiki/Abortion_in_the_Republic_of_Ireland

この現状について、EUが「問題である」との判断を示したのは、昨年12月である。

Irish abortion ban 'violated woman's rights'
16 December 2010 Last updated at 17:42 GMT
http://www.bbc.co.uk/news/world-europe-11342247

The European Court of Human Rights has ruled that Irish abortion laws violated the rights of one of three women who sought terminations in Britain.
欧州人権裁判所が、アイルランドの中絶に関する法律は、英国(ブリテン)で中絶手術を受けようとした3人の女性のうちの1人の権利を侵害した、と裁定した。

The woman, who was in remission for a rare form of cancer, feared it might return as a result of her pregnancy.
この女性は、症例の少ないガンからの寛解期にあり、妊娠したことでガンが再発するのではないかと恐れていた。

While abortion in the Republic is technically allowed if a woman's life is at risk, the court said that was not made possible for the woman involved.
理論上はアイルランド共和国での中絶は、女性の生命が危険にさらされている場合は認められているのだが、当該の女性にとっては可能ではなかった、と法廷は結論した。

But it ruled two other women in the case had not had their rights breached.
しかしながら、同時に申し立てていたほかの2人の女性については、権利侵害を認めなかった。

The court said the Irish government had failed to properly implement the constitutional right to abortion if a woman's life was in danger.
欧州人権裁判所は、アイルランド政府は憲法で保障している女性の生命に危険がある場合の中絶の権利を形にするための手を講じるべきであるのにそうしていないと述べた。

Correspondents say the ruling is likely to force the Dublin government to introduce new legislation or bring in new guidelines.
特派員らは、この裁定で、アイルランド政府はこれでやむなく新たな法を策定するか、新たなガイドラインを導入することになるだろうと述べている。

...

これが、はてなブックマークで何人かが言及している「EUの介入」(の現実的なもの)である。

昨年12月にこのような判断があったのだが、その後、アイルランド共和国でこの件について何か動きがあるということは、私は把握していない。昨年12月から今年2月にかけては、IMF/EUによるベイルアウトと、アイルランド国会の解散・総選挙、その結果としての政権交代(FGと労働党という新たな連立政権)という大きな動きがあったが、中絶についての法的枠組みの整備という話はなかったと思う。

なお、BBC記事でマーク・シンプソンが書いている解説コラムにあるように、この問題は欧州人権裁判所に行く前に、アイルランドの最高裁でも「憲法にある通り、生命が危険にある女性は中絶手術を受けることを許されるべき」との判断が下されている(1992年)。それがいまだに放置されている、ということになる。

※この記事は

2011年07月06日

にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。


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【2003年に翻訳した文章】The Nuclear Love Affair 核との火遊び
2003年8月14日、John Pilger|ジョン・ピルジャー

私が初めて広島を訪れたのは,原爆投下の22年後のことだった。街はすっかり再建され,ガラス張りの建築物や環状道路が作られていたが,爪痕を見つけることは難しくはなかった。爆弾が炸裂した地点から1マイルも離れていない河原では,泥の中に掘っ立て小屋が建てられ,生気のない人の影がごみの山をあさっていた。現在,こんな日本の姿を想像できる人はほとんどいないだろう。

彼らは生き残った人々だった。ほとんどが病気で貧しく職もなく,社会から追放されていた。「原子病」の恐怖はとても大きかったので,人々は名前を変え,多くは住居を変えた。病人たちは混雑した国立病院で治療を受けた。米国人が作って経営する近代的な原爆病院が松の木に囲まれ市街地を見下ろす場所にあったが,そこではわずかな患者を「研究」目的で受け入れるだけだった。

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▼当ブログで参照・言及するなどした書籍・映画などから▼