kafranbel-aug2011.jpgシリア緊急募金、およびそのための情報源
UNHCR (国連難民高等弁務官事務所)
WFP (国連・世界食糧計画)
MSF (国境なき医師団)
認定NPO法人 難民支援協会

……ほか、sskjzさん作成の「まとめ」も参照

お読みください:
「なぜ、イスラム教徒は、イスラム過激派のテロを非難しないのか」という問いは、なぜ「差別」なのか。(2014年12月)

「陰謀論」と、「陰謀」について。そして人が死傷させられていることへのシニシズムについて。(2014年11月)

◆知らない人に気軽に話しかけることのできる場で、知らない人から話しかけられたときに応答することをやめました。また、知らない人から話しかけられているかもしれない場所をチェックすることもやめました。あなたの主張は、私を巻き込まずに、あなたがやってください。

【お知らせ】本ブログは、はてなブックマークの「ブ コメ一覧」とやらについては、こういう経緯で非表示にしています。(こういうエントリをアップしてあってもなお「ブ コメ非表示」についてうるさいので、ちょい目立つようにしておきますが、当方のことは「揉め事」に巻き込まないでください。また、言うまでもないことですが、当方がブ コメ一覧を非表示に設定することは、あなたの言論の自由をおかすものではありません。)

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2009年10月15日

この「オンライン・アクティヴィズム」は本当の問題は解決していないけれども―― #Trafiguraの事例が示すもの

前記事:
2009年10月13日 Twitterと政治――英国で、今さっき起きたことの暫定的なメモ
http://nofrills.seesaa.net/article/130200643.html

2009年10月14日 Twitterと「言論の自由」―― #Trafigura, 記事まとめメモ
http://nofrills.seesaa.net/article/130220720.html

2009年10月14日 Twitterと政治、「言論の自由」―― #Trafiguraの経緯
http://nofrills.seesaa.net/article/130263912.html

現地時間で今週月曜から火曜にかけて、ネット上の英国圏(←変な表現だけど)で最も話題となった #Trafigura の一件は、現地時間水曜日にはすっかり落ち着いて、分析や解説などがされる段階に入った。私が見た記事の備忘録は下記URLにて。
http://b.hatena.ne.jp/nofrills/Trafigura/

「分析」や「解説」と呼べるような質のものとは別に、「Twitterすげぇ」というような無邪気な賞賛も多く出ているが、野次馬的な気分でTwitterでこのトピックを盛り上げた人たちも含めてこの運動に参加した人たちが、一山超えたところで単純にやったーと喜んでいるようなものは別として、「Twitterすげぇ」という言説にいかほどの内容があるのかは……。「とりあえず何か盛り上がってるから『Twitterすげぇ』って言っておくか」程度のものもある。

以下、「続きを読む」において、何があったのか、それについてどのような評価がされているのか、またその評価の妥当性は、さらに今回の事態で何が解決し、何が解決していないのか、といったことを、読んだ記事からざーっとまとめておきたい。結論を簡単に言えば、「これはオンライン・アクティヴィズムの勝利である」という言説は安易にすぎる、ということになる。

なお、最新情勢としては、今回の事態の根本的な問題点である "super-injunctions" について、国会(立法府)の側で見直しが進められそうな雰囲気になってきている。

Gordon Brown calls for reform of super-injunctions
Wednesday 14 October 2009 22.39 BST
http://www.guardian.co.uk/politics/2009/oct/14/gordon-brown-superinjunctions-reform-calls

以下はその最新情勢が出る前に書いたものである。

■何があったのか:
詳細は「前記事」として上にURLをはった記事をご一読いただきたいのだが、リンクがクリックされる率は非常に低いので、要点だけかいつまんで。

日本時間で10月13日、英国で、「Carter Ruckという名称の法律事務所が、ある新聞を相手に、ある企業の疑惑について、ある国会議員が国会の場で質問しようとしていたことについての報道を差し止めた(法的な手続で)」という件について、ネット上で一般の人たちによる「真相究明」の動きが発生した。そして、特別なソースにアクセスできるジャーナリストではなく一般人が、元々知っていたことをベースに普通にウェブ検索して判明したのが、Trafiguraという石油商社が問題の中心である、ということだった。Twitter上では "#Trafigura" のハッシュタグが発生し、多くの人々がそのハッシュタグで何かを投稿することによってTrafiguraというワードがTrending Topicsに入り、ますます注目を集めた。(#IranElectionの最初の盛り上がりと同様の経緯。)

判明した「真相」と事態の経緯は、簡単に言うと次のようなことだ―― Trafiguraにとって非常に都合の悪い話が書かれた報告書がある。今週、英国の国会である議員が行なう質問で、Trafigura社とその報告書の名前(「ミントン報告書」)が出される。議員はこの報告書についての報道差し止めの裁判所命令が出されているという状況について、大臣に対し、報道の自由を守るために何をしているかを質問することにしている。いつも通り、議場で予定されている質問のリストは国会によって既に広く一般に開示されており、新聞など各メディアが記事に書こうとすればいつでも書ける状態になっている。しかしTrafiguraが申請して裁判所によって認められた差し止め命令があるから、新聞社はこのことを記事にできない。新聞社はTrafigura社の法的代理人であるCarter Ruckに命令の解除に動くよう要請したが事態は進まず、編集長自身がこの件について、Trafiguraの名前も「ミントン報告書」の名称も出さず、質問に立つ議員の名前も出さずに、「何ともカフカ的な状況」を訴える、「私たちは何も書くことができない」という記事を書き、そういう記事を書いたことを自身のTwitterアカウントに投稿した。それが始まりだった。

編集長の記事とtweetが他の大手メディアでも少し言及され、Twitter上でも、Twitterの外の有名ブログでも取り上げられ、また事態に関心を持った一般人がウェブ検索をして、国会のサイトで「真相」を―― Trafiguraが「ミントン報告書」のことを報道させないように動いた、という事実を――突き止め、自分のTwitterアカウントに投稿した。(国会のサイトには既に、議員たちの質問のリストが公開されていた。このサイトは、ネット環境さえあれば、誰でも見られる。)

彼自身はフォロワー数もさほど多くはないし、影響といっても限定的だったかもしれないが、それがTwitter上で人から人へと伝えられ、また、80万人以上にフォローされている英国の超有名人がこれについてRetweetし、英国の第三党Liberal Democratic Partyの党首も「非常に心配なことだ。国会でそれなりの動きをしたいと思います」とtweetした。また国会では、元々の質問の提出者である議員が、今回のこの事態について議長への質問を行い、各党の議員は、議会で話し合われることについては自由に報じる/語ることができるという、英国の「言論の自由」の大原則を強調した。

そして、最終的には、Carter Ruckが申し立てを取り下げたので、新聞は報道できるようになった。めでたしめでたし……なのかどうかは、このエントリの下の方をご参照いただきたい。

Trafigura社の問題が表ざたになったのは今から3年前、2006年のことだった。この会社はアフリカに有毒物質を不法投棄しており、大規模な健康被害を引き起こしている、大勢が死んでいるという疑惑を、BBCが取材した。「ミントン報告書」は会社の内部資料で、そうやって投棄されていた有毒物質がどのようなものであるかをしっかり分析した報告書だ。報告書では、疑惑発覚当時にTrafigura社が「特に害はない」とか「健康被害との関係が立証できない」などと言っていたその廃棄物が、劇毒物以外の何ものでもない(硫化水素などが含まれている)ということが示されているという。

2006年以後、Trafigura社と、その廃棄物の運搬のためにチャーターされていたProbo Koala号については、BBCやガーディアンなどの大手メディアが報道をしてきた。今年の5月にはまた大きな報道の山があった(私は毎日ガーディアンのサイトを見ているので、大きな扱いだったことをよく覚えている)。でも全体的には、「Trafiguraって何?」という人のほうが多かったはずだ。

しかし今回、大手メディアのサイトや有名政治系ブログのように自分から好んで読みに行かないと接点がないような空間だけでなく、Twitterという、いわば大通りのようなところでみんなが話していたことで、Trafiguraの名前は広く知れ渡った。そして、多くの人の間に、「Trafiguraってのは人が住んでるところで毒を垂れ流して、自分たちは知らぬ存ぜぬで通そうとしていた企業でしょ」という認識が広まった。また、ネット上でログが残る形で人々が書いていることで、「Trafiguraといえば、アフリカで硫化水素放置」とか「Trafiguraといえば、英国で言論の自由弾圧」とかいうことが、一度に大量に記録されてしまった。(言語処理などをやっている人にとっては伝説的な事例になるのではないだろうか、というほどに。)

それもこれもすべて、ガーディアンという小難しいことが好きな左派しか読まないような新聞(と、しつこいBBC)を黙らせようとしての弁護士事務所の策が裏目に出たことによる。黙らせようとしたのに逆に話題騒然となり、右翼のリバタリアンから左翼の環境保護主義な人まで一斉に「これはひどい」の大合唱、さらに普段は科学関連のニュースについて淡々とメモっている保守系の化学者も「Trafiguraは頭を検査してもらったほうがいい」と書いてしまうような状態。こういうのを英語では「ストライザンド効果 Streisand effect」と言うそうだ(2003年に、バーブラ・ストライザンドが自宅の写真を公開させまいとしたことで逆に広まってしまったことに因む)。

そして最後には弁護士事務所側が「折れた」形となり、ガーディアン編集長も、事態を問題視しているとTweetしていたLibDems党首、そして多くの人々にこのトピックを広めた被フォロー数80万以上の有名人が次々と勝利宣言をした。このようなことが、今週月曜から火曜にかけて(12日から13日にかけて)起きた。

■「Twitterの勝利」、「オンライン・アクティヴィズムの勝利」:
このことについては、「Twitterの勝利」、「オンライン・アクティヴィズムの勝利」といったことがよく言われている。このTwitter上の大騒ぎの震源地となった人(国会のサイトから「真相」を見つけてきた人とか)が喜んでいる投稿を単純にReTweetしたものも多いのだが、典型的なtweetとしては、英国の大物政治家による This is a victory for freedom of speech & online activism というものや、英国の一般ユーザーによる A victory for freedom of the press: Carter-Ruck caves in. Further demonstrates the power of digital media. というもの、また英国外の人による Great story on the power of Twitter 2 bring down giants (カナダ) などがある。

ガーディアンは13日付で、事態の展開を説明する記事を出した(→内容を日本語で)のだが、よほど気分がよかったのだろう、この記事には "Trafigura: A few tweets and freedom of speech is restored" (トラフィギュラの件: Twitterにいくつか投稿したら、言論の自由が回復された) という浮かれたタイトルをつけていた。(なお、書いたのは編集長ではなく、ヒラの記者。)

この記事は、あるTwitterユーザーが最初にTrafiguraの名前を突き止めてtweetしたこと、その30分後には政治系ブログの大物が同様にTrafiguraの名前をブログにポストしたこと、LibDems党首がtweetしたこと、被フォロー数80万以上の超有名人がtweetしたことなど、ネット上での動きを軸に事態がどう展開したかをコンパクトにまとめたものだ。特に分析記事らしい要素はない。

ガーディアンは、14日には編集長が記事を出している。これは当事者としての視点から事態を俯瞰する、「横暴な大企業」に対してかなり辛辣な記事だ。

The Trafigura fiasco tears up the textbook
Alan Rusbridger
guardian.co.uk, Wednesday 14 October 2009 18.07 BST
http://www.guardian.co.uk/commentisfree/libertycentral/2009/oct/14/trafigura-fiasco-tears-up-textbook

その中に、Twitterとこの事態がいかに絡んでいたかについての丁寧な説明がある。
It took one tweet on Monday evening as I left the office to light the virtual touchpaper. At five past nine I tapped: "Now Guardian prevented from reporting parliament for unreportable reasons. Did John Wilkes live in vain?" Twitter's detractors are used to sneering that nothing of value can be said in 140 characters. My 104 characters did just fine.
【要旨】話題に火をつけたのは、月曜の晩のたった一件の投稿だった。9時5分、私は「国会のことなのに、ガーディアンは報道できない。その理由は報道できない」という内容の104文字のtweetを投稿した。Twitterをけなしてばかりいる人たちは、140文字で何ができるのか、と言うが、今回の場合、104文字で十分だった。

By the time I got home, after stopping off for a meal with friends, the Twittersphere had gone into meltdown. Twitterers had sleuthed down Farrelly's question, published the relevant links and were now seriously on the case. By midday on Tuesday "Trafigura" was one of the most searched terms in Europe, helped along by re-tweets by Stephen Fry and his 830,000-odd followers.
友人たちと食事をして帰宅したころには、Twitterは大爆発していた。Twitterユーザーは問題の質問(ファレリ議員によるもの)を突き止め、ソースのURLを投稿して、事態を真剣に受け止めている。翌火曜日の昼間には、83万人以上のフォロワーを有するスティーヴン・フライのReTweetにも助けられて、Trafiguraという語が欧州で最も頻繁に検索される語のひとつとなっていた。

Many tweeters were just registering support or outrage. Others were beavering away to see if they could find suppressed information on the far reaches of the web. One or two legal experts uncovered the Parliamentary Papers Act 1840, wondering if that would help? Common #hashtags were quickly developed, making the material easily discoverable.
Twitterユーザーの多くは、単に支援を示すためとか、これはひどいと言うために投稿をしていただけだったが、中にはウェブの限界点で本格的に何かをしようという人たちもいた。1人か2人の法律の専門家が、「1840年国会書類法」を発掘し、これで裁判所命令に対抗できないだろうかと投稿していた。Twitterのハッシュタグもすぐにまとまり、調べたいことが簡単に見つかるようになっていた。

By lunchtime - an hour before we were due in court - Trafigura threw in the towel. The textbook stuff - elaborate carrot, expensive stick - had been blown away by a newspaper together with the mass collaboration of total strangers on the web. Trafigura thought it was buying silence. A combination of old media - the Guardian - and new - Twitter - turned attempted obscurity into mass notoriety.
昼食時、つまりガーディアンが法廷に呼び出されていた時刻の1時間前までには、Trafiguraは降参していた。(MBAの)教科書に書かれているようなことは、ひとつの新聞と、ネット上の相互に関係を持たない多くの人々たちの協力とによって、粉砕された。Trafiguraは、金を出して沈黙を買っていると思っていた。しかし、古いメディア(ガーディアン)と新しいメディア(ツイッター)が、隠蔽しようとしていたものを逆に、衆人環視の白日の下にさらけ出したのだ。


編集長は、火曜日、「勝利宣言」の直後に次のようなことをTwitterに投稿している。
Thanks to Twitter/all tweeters for fantastic support over past 16 hours! Great victory for free speech. #guardian #trafigura #carterRuck
【要旨】Twitter、それからTwitterユーザーのみなさん、この16時間にわたるご支援、ありがとうございました。言論の自由にとって大きな勝利です

http://twitter.com/arusbridger/status/4833204949


よく読むとわかるのだが、編集長は「Twitterの勝利」とは位置付けていない。彼の喜んでいる勝利は「言論の自由の勝利」であり、戦ったのはガーディアンであり(実際に法律事務所を相手にしたのはガーディアンである)、そのために「Twitterは大きな役割を果たした」と認識している。私はこれに100パーセント同意する(もっと厳密にいえば、「言論の自由を巡り、Twitterは応援し、戦って勝ったのはガーディアン」だろう)。

しかるに、Twitter上では、上で少し触れたような「Twitterの勝利」との認識が支配的なように見える(「フラッシュモブ」的な発想としては別に間違いではないのだが、「Twitterの勝利」という言葉は解釈の幅が大きすぎるのが厄介である)。また、タイムズなどは、「Twitterパワーが勝利した」という見出しの短い記事で、「ガーディアンの記事がTwitterで話題になって、数時間で法律事務所が折れた」的な書き方をしている(これはかなりミスリーディングだ)。他にも、IT系メディアで「Twitterすげぇぇぇぇ」的な記事があったし、ハッシュタグをぼんやり見ていると、「ひゅーひゅー、Twitterすごい」、「Twitterで言論の自由獲得!」とかいうものもいくつかある。そういうのをランダムにクリックしてみるとプロフィール欄に「米国のどこどこを拠点とするITコンサルタントです」とか書かれてるのもあったりする(ははは)。

この「Twitterすげぇぇ」の嵐は初めて接するものではない。この6月から7月にかけての「イラン選挙」の最盛期がこうだった。しかし「イラン選挙」は、「敵」が目的を達成することは、いくつかは防いだかもしれないが(例えば「密室化」させないとか、「そうでもなければ聞かれない声を外に出す」とか)、キャンペーンを仕掛けた当事者の目的は、実はほとんど何も達成していない。イラン当局が選挙に不正があることを認めたうえで、しかしそれは大勢には影響しない程度と断じた時点で、彼らの当初の目的の達成は不可能になっているのだ。その後、現在に至るまで続いているのは、それに対する異議申し立てである。(それと並行して、国家による国民への暴力という問題、人権侵害という問題が起きていた。)

#Trafiguraは、「#イラン選挙」とは違って、ゴールがわかりやすいものだった――法律事務所が申し立てを取り下げて、新聞が「それ」をめぐる報道をできるようになること。そして、現実に法律事務所は申し立てを取り下げ、報道はいくらか可能になった。(しかしながら、「それ」そのものについての報道はできない状態が続いているらしい。詳細後述。)その時点で、Twitterユーザーは「Twitterの勝利」を高らかに宣言し、祝うことができた。

回ってくるリンクをクリックして記事を読み、RTして人に伝え、自分でも自分の調べたことや、感情を言葉にして……ということをした個人個人が、今回の件から得たものは(主に「参加の感覚」という点で)、かなり大きいものであるに違いない。その意義は大きい。今回の一件で「ソーシャルメディアのパワー」を知ったという人も多いだろう。

しかしながら、それでもやはり、これを「Twitterすげぇ」という話にしてしまうのは、何かが根本的に違うと思う。

ネットというのはすばらしいもので、当事者ガーディアンを除く大手メディアが――どこまで報道できるのかが微妙な状況では理由のないことではないとはいえ――「Twitterすげぇ」というぼんやりした記事でお茶を濁している淋しい状況で(そして、そういう記事にしか接していなければ、このような重大なことでさえ、「インターネットこぼれ話」的なものとして消費して終わりにしてしまっているかもしれない、という中で)、「これは本当に『Twitterすげぇ』という事象であるのか」を真面目に検討した記事を見つけることができたりもする。英国拠点のオンライン・メディア(IT系中心)、The Registerの記事。

The Twitter storm that saved freedom of speech
But not exactly, not really...
By John Lettice
14th October 2009 14:08 GMT
http://www.theregister.co.uk/2009/10/14/internet_injunction_slayer/

「言論の自由を救ったTwitterの嵐……って、本当にそうだろうか」というような意味の見出しのこの記事は、非常に冷静である。ちょうど、「隣国がミサイル実験を強行するらしい、わが国が危ない、ぎゃーぎゃーぎゃー」という調子での報道が続いているときに(そういう煽り系の記事を書くことで新聞が売れているときに)、誰かが「ミサイル実験は実施しそうですが、今回確認されているものは飛距離的にこっちには届きません」ということを淡々と指摘する、というような感じだろう。The Registerはこういう方向性の記事がけっこうよく出る。

「結局、勝利をおさめたのはTwitterだったって?」という書き出しのこの記事は、「裁判所命令で差し止め」という事の経緯を端的にまとめながら、事態が最終的に(一応は)決着したあとのネット上での反応について、疑問を投げかける。記事を書いたジョン・レティスさんは、法律方面がご専門のようだ。
... "A few tweets and freedom of speech is restored," the Graun itself said, while Tory blogger Iain Dale claimed: "Let there be no mistake. This would not have happened without the online engagement through various blogs and Twitter which has happened over the last 18 hours or so."

Dale is quite often sensible, but it is a good rule to be suspicious of statements that begin 'let there be no mistake.' And in this case, he is indeed mistaken.

「何度かTwitterに投稿したら、言論の自由は回復された」とガーディアン自身が書き、保守党系のブロガーであるイアン・デイルは「誤解のないようにしよう。この18時間かそこらで起きたことは、ネット上のいくつものブログとTwitterを通しての、オンラインでの人々の取り組みがなかったら、起きていなかっただろう」と書いている。

デイルはたいがいの場合は常識的なことを書く人だが、「誤解のないようにしよう」などという書き出しの文章は疑ってかかってみるものだ。そしてこの場合、デイルは誤解している。


上で言及したタイムズの記事をはじめ、どこでも基調が「Twitter大勝利」みたいな感じの中、ジョン・レティスさんは「それは少し違う」と指摘する。今回の問題の中心はある 'super-injunction' なのだ、と。

これについては、大手メディアなどではちゃんと説明されていないのだが(やや専門的すぎるのかもしれない)、この記事ではそれがどのようなもので何が問題なのかをしっかり説明している。そして、今回の場合はその 'super-injunction' が規制したのが、これまでずっと自由に報道されてきた国会の議事での話題だったという点で、メディア法の専門家が「報道差し止めの命令を出した判事は何を考えていたのか、そもそも、Carter Ruckがそれを申請したときに通ると考えていたのか」という点で考えをめぐらせている、といったことも書いてくれている。

そして:
... With or without the Twitter storm, MPs would not have let this one stand. Carter-Ruck agreed to an amendment to the terms of the injunction which would permit the reporting of the question (but still prohibits reporting of other matters related to Trafigura) shortly before a high court hearing on the matter, but parliamentary concern about secret super-injunctions has been heightened by the case.

【要旨】Twitterの嵐があろうとなかろうと、国会議員たちは(議事に対する報道規制という)この事態を看過しはしなかっただろう。Carter Ruckは、この件についての高等法院での審問の直前に禁止命令の条項の修正に応じ、(国会での)質問を報じることはできるようになったが、しかしTrafiguraに関係するほかのことを報じることは依然禁止されている。しかし、super-injunctionsについての国会議員たちの懸念は、今回の件でますます高まった。

「Twitterの嵐」は、硫化水素など毒物をアフリカに不法投棄しているとんでもない多国籍企業があるということを周知せしめた。しかし、そういう企業がsuper-injunctionsというものを使えば報道や発言を封じることができるということは、この「Twitterの嵐」からは確かに、法律についてやや感度の高い人にしか伝わらなかったかもしれない(「硫化水素をそのへんに投棄」などというとんでもないことをしている企業が言論封殺に動いた、というだけで十分に衝撃的、それだけ知らされたらオナカイッパイになってしまう)。記事を書いたレティスさんは、ここでの真の問題点がsuper-injunctionsである場合、Twitterの果たした役割はあまり大きくはない、という考え方だ。なるほど、と思う。(それでも、「このようなことがある」ということを広く知らしめるために、Twitterというプラットフォームはとても「使える」ものだとは思う。)

それと、今回は一般人が何もしなくても国会議員が動いただろう、ということなのだが、逆に言えば、国会議員が動かなければ何にもならない、ということだ。国会での出来事について、主体はあくまで「国会議員」である。彼ら国会議員にTwitterで有権者があれこれ呼びかけた上で国会議員が動いたということがあるなら(そしてそれが実際にあったかどうかはニック・クレッグ宛てのTweetsで確認できるが)、その範囲については「Twitterを使っている有権者の勝利」と言えるかもしれない。

でもそれは、法律事務所の申し立てと裁判所のわけのわからん差し止め命令によって脅かされた「言論の自由」にとっての直接的な「勝利」であるかどうか。

レティスさんの記事は次のように続く。太字は引用者による。
The blogosphere has most certainly had an effect in this case, but claims that it is "a historic victory for the power of the Internet" are overblown. Note that there are in existence numerous super-injunctions whose terms and even existence must be kept secret, and very little has leaked out about them on the Internet. Some MPs - notably Paul Farrelly - are concerned, the media are concerned (but generally aren't permitted to be concerned in public) ...

【要旨】確かに(Twitterのようなマイクロ・ブログを含む)ブロゴスフィアは、今回の件に影響を及ぼした、それは間違いない。だが、「ネットの力にとっての歴史的な勝利」というのは、大げさすぎる。今回問題となったようなsuper-injunctionsというものはこのほかに実際にたくさん存在していて、しかもその条件も、その存在自体すらも公開されていない。それらについてリークされた情報は、ネット上にはまずない。国会議員の中にはこれに懸念を示す議員もいて(今回質問したポール・ファレリ議員はその筆頭格だ)、メディアも懸念を抱いているが、メディアはその懸念を公にすることはできない。

「今回問題となったようなsuper-injunctionsというもの」についての、このものすごい、「ない」「ない」づくし。

つまり、「言論の自由」というものを問題にした場合、真の問題点は「Carter Ruckが高圧的な態度で言論の自由を潰そうとしている」とかいう話ではなく、司法制度で認められている "super-injunctions" というものの存在そのものである。しかし、今回の #Trafigura のブームで、問題点はそれなのだということがどのくらい伝わったのか、というと……。

記事ではさらに冷静な指摘が続く。いわく、super-injunctionsのようなものは、企業にとって使える武器でなくなったら使われなくなるだけ(現状は、都合の悪いことを隠蔽しておくために手軽で効率の良い武器だから使われているだけ)。また、今回のように、名門の法律事務所が派手な自爆を遂げてしまったあとでは、いきなり下火になってもおかしくはないと思わなくもないが、実際はそんなに単純なはずもなく、現存するsuper-injunctionは維持されるだろうし、次のsuper-injunctionは、国会についての報道の自由には触れない範囲のものになるだろう。

そしてレティスさんは、記事を次のように結んでいる。
In this particular case it clearly didn't [keep a lid], and the worldwide publicity won't have helped the reputation of Carter-Ruck, its client or indeed Carter-Ruck's reputation for effective reputation management. But lawyers will still apply for and get super-injunctions, and this will go on until such time as parliament curbs their power. Free speech is only going to be saved when it has been saved for everybody, not just for the bloggers too small to bother with.

【要旨】この件は蓋をし続けておくことはできず、世界中に知られたことで、Carter-Ruck事務所の評判にもそのクライアントの評判にも傷がついた。しかし弁護士たちはこれからもまだsuper-injunctionsを申請し続けるだろう。国会がこのinjunctionsの力を弱められるまで、それは続く。言論の自由は、ごくごく限られたブロガーたちのためにだけではなく、万人のために確保されてはじめて、救われたことになる。

※「ブロガー」云々はこの直前のパラグラフを受けた展開。引用の仕方がまずいのでここだけ読んでもわからないかと思いますがご容赦。

つまり、「この件で『Twitterのおかげで言論の自由が確保されました』とか浮かれてるのは能天気すぎる。言論の自由は、まだ確保されていない」という指摘をレティスさんはしている。それも、悲観論者としてではなく、淡々と、冷静に。

(こういうことに取り組んでいる人たちには、「Twitterすげぇ」論はノイズでしかないだろうな……。あと、一般人には「こんなことを知らせてくれて、Twitterすげぇ」って側面もあるんだけど、今はそこまでは検討できないや。余裕なくて。)

ガーディアン編集長が書いている通り、今回の件で経営学の教科書が書き換えられることになるかもしれない(会社にとって都合の悪い情報をいかに扱うかについて)。今回のCarter-Ruckは派手な自爆、まさにepic failだった。しかし、これが「一般大衆の勝利」かどうかは、微妙だ。とりわけレティスさんのこの記事を読むとその思いが強くなる。根本的な問題は解決などしていないのだから。

■super-injunctionsとは何か:
レティスさんの記事から、super-injunctionsについての説明の部分を見ておこう。
We should note that such injunctions effectively apply to anyone publishing information relating to them in the UK. You might have some defence if you were able to show that you were entirely unaware of the injunction's existence, and had merely published the relevant information by coincidence, but if you knew about the injunction, you published anyway, and what you published was read in the UK, then you were technically in contempt of court. Whether or not those of you not domiciled in the UK and/or whose servers are not in the UK should worry depends on a number of factors. But for the moment we'll just suggest that some of you who're not worried would do well to worry a bit more.

つまり、今回は「TrafiguraとCarter-Ruck対ガーディアン」の構図で、裁判所命令ではガーディアンが「ミントン報告書」について書くことは禁止する、ということになっているが、super-injunctionsの場合、ガーディアン以外の報道機関やブログであっても、ガーディアンに対するinjunctionが存在することを知っている場合は、「ミントン報告書」について書けば法廷侮辱罪に問われる(かもしれない)。書かれたものが英国で読まれるものである場合、という条件がつけられているが、文書が外国のサーバにあるからといっても判断材料はいろいろあるので、それだけでは安心できない。

それと、この記事のコメント欄から(今は手近に、コメント欄からコピペしますが、一連の経緯についてのこの説明は昨日、しっかりしたソースのあるところで見たことと同じです):
http://www.theregister.co.uk/2009/10/14/internet_injunction_slayer/comments/
The injunction in question didn't specifically forbid the Guardian from reporting on the parliamentary question. The injunction forbade the Guardian from reporting anything about the Minton report, and it forbade the Guardian from reporting that it had been injuncted.
この禁止命令は、ガーディアンが国会での質問について書くことを禁止したわけではない。ガーディアンがミントン報告書について書くことを一切禁止している。さらに、禁止命令が出ているということをガーディアンが書くことも禁止している。

... Paul Farrelly's question mentioned the Minton report and the injunction. And so Carter-Ruck sent a letter to the Guardian claiming that reporting on Farrelly's question would constitute a breach of the earlier injunction and thus a contempt of court.
ファレリ議員の質問は、ミントン報告書の名前に言及し、差止め命令が出ていることに言及していた。だからCarter-Ruckはガーディアンに対し、ファレリ議員の質問について記事を書くことは、命令違反となり、法廷侮辱罪になるとの手紙を送った。

The judge, when he/she granted the injunction, didn't know anything about the parliamentary question as it hadn't been asked yet. Nor even mooted.
命令を出したとき、判事は国会でこの件の質問があるとは知らなかった。時系列的にそれを知るのは無理だった。

Paul Farrelly was effectively trying to use parliamentary privilege to draw attention to this disgraceful and ludicrously broad injunction. The Guardian hoped that his question would allow it to effectively reveal to its readers that it had been injuncted from publishing details about the Minton report (available to us all on wikileaks.org).
この不名誉でばかばかしいほど幅広く適用できる差し止め命令について注意を引くために、ファレリ議員は議員という立場を使おうとした。ガーディアンは議員の質問によって、ミントン報告書について同紙は報道できる状況にないということを、間接的に読者に告知できるのではないかと考えていた。(ミントン報告書はwikileaksで誰でも参照可能である。)

Carter-ruck, in sending the letter to the Guardian, have shot themselves in the foot. But presumably, next time, they will be careful to get an injunction forbidding the Guardian from reporting on letters received from Carter-Ruck.
今回、ガーディアンに(ダメ押しの)手紙を送ったことで、Carter-Ruckは見事に墓穴を掘った。しかしこの次はより慎重に動き、Carter-Ruckからレターを受け取ったということを記事にすることも禁止するだろう。

...


つまり、「先のことを考えれば、『Twitter大勝利』とか浮かれてる場合じゃなくね?」という意見。Twitterにもブログ類のコメント欄にも、無邪気な「やった!」という反応だけでなく、こういう意見もちらほらある。「Twitter勝利」と騒ぐだけでなく、現場では何が解決して何が解決していないのか、ということも確認できる範囲で確認することが必要だろう、という立場はかなり広い範囲で共有されているという印象だ。

で、現状どうなのか、という点。とりあえず私が確認できる範囲で、ガーディアンの調査部主任のDavid Leighのtweetから(この人までTwitter使ってたってことのほうが驚きだ。ガーディアンすごすぎる)。
Despite our free speech victory over trafigura, i still cant tell you what the leaked "Minton report" says

Trafiguraに対して言論の自由は勝利をおさめた。けれども私は今もまだ、リークされた「ミントン報告書」の内容についてはみなさんにお伝えすることができない。

http://twitter.com/davidleigh3/status/4858351668


これが現実であって、問題は何も解決していないのだということを踏まえながら、編集長の慎重な「皆様のご支援あってこそ」的な言葉を読みながら、ネット上のサービスを使う「名無し」の1人として、大手メディアにおだてられて煽られていい気分になって「Twitterの勝利」と言いながらTwitterを使い続けることで、世界がほんのちょっとでも「強者の横暴」から解放される方向に向かっていくことを願いたい。

なお、「ミントン報告書」は内部リーク資料を集めているサイトにアップされているそうだが、そういうサイトがあるということを書くだけでも今回は法廷侮辱罪的にまずいので、ガーディアンなどの記事ではそれには触れられていない。TwitterではURLがどんどんRTされている。



ところで、すんごい皮肉な人がこのブログのコメント欄に投稿しているのだけど、ガーディアンはネットの使い方が上手だ。今回は編集長が出てきて「聞いて聞いて」と言い、それを目にした人がそれを他の人に伝え、それだけで終わらせずに事態を見守るという流れが、うまく作られていた。一応の結論が出るまで48時間未満という短さも、Twitterにぴったりだったんじゃないかと思う。



メモ:
ガーディアンの読者投稿のところに、法学のアカデミックの投稿がある。法解釈の話だからこれが「正しい」とかいうのではないのだけれども、興味深いことが書かれている。
http://www.guardian.co.uk/world/2009/oct/15/trafigura-probo-koala-ivory-coast
Your excellent editorial (14 October) missed one essential point about the so-called super-injunction to which you were subject: the order was unlawful.

The courts are public authorities under the Human Rights Act. A court must exercise its remedial jurisdiction in a manner compatible with convention rights. In cases such as yours a court must reconcile competing convention rights. On the one hand is the company's right to privacy, in the form of confidentiality, and on the other is freedom of expression, in this case the freedom of the press to report on matters of public interest, and on parliament. Reporting such matters is the essence of the watchdog role of the press in a democratic society. One would have thought that only a most compelling reason would justify a court issuing a coercive order limiting such an important right. But it is difficult to see what that justification was in Trafigura's case. Remarkably, the court went further, negating the right to freedom of expression by imposing a blanket ban. Such an extreme form of prior restraint is incompatible with Article 10, and thus unlawful.

Richard A Edwards
Principal lecturer, Bristol Law School


※この記事は

2009年10月15日

にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。


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【2003年に翻訳した文章】The Nuclear Love Affair 核との火遊び
2003年8月14日、John Pilger|ジョン・ピルジャー

私が初めて広島を訪れたのは,原爆投下の22年後のことだった。街はすっかり再建され,ガラス張りの建築物や環状道路が作られていたが,爪痕を見つけることは難しくはなかった。爆弾が炸裂した地点から1マイルも離れていない河原では,泥の中に掘っ立て小屋が建てられ,生気のない人の影がごみの山をあさっていた。現在,こんな日本の姿を想像できる人はほとんどいないだろう。

彼らは生き残った人々だった。ほとんどが病気で貧しく職もなく,社会から追放されていた。「原子病」の恐怖はとても大きかったので,人々は名前を変え,多くは住居を変えた。病人たちは混雑した国立病院で治療を受けた。米国人が作って経営する近代的な原爆病院が松の木に囲まれ市街地を見下ろす場所にあったが,そこではわずかな患者を「研究」目的で受け入れるだけだった。

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▼当ブログで参照・言及するなどした書籍・映画などから▼