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2008年11月21日

「米国の覇権の終わりの始まり」――NIC報告書(日本の新聞はほとんど報道してないのかな)



米国のthe National Intelligence Council (NIC) が "Global Trends 2025: A Transformed World" (世界的潮流2025年――変容した世界)という報告書を発表したことが、英各メディアでは今日のトップニュースだった。その内容は、一言でまとめるならば「米国の覇権の終わりの始まり」――2025年には米国の覇権は消え、米ドルは基軸通貨ではなくなり、多極化は進行し、資源戦争は増加し(今のDRコンゴもそうだけど)、核拡散は進行、テロリズムでの利用も想定の範囲内となり……というもの。

ガーディアンやタイムズ、テレグラフで私がこの報道を確認したのは、今日(21日)の昼過ぎ、午後1時くらいだったかな。それから8時間経過してBBCにも来た。(インディペンデントがまだ記事を出していないのだが、インディはガーディアンから20時間遅れということが珍しくないし、明日見ればいいかって感じ。)

というわけで、英国の報道からそれについて下記にメモっておきたいと思うのだが、その前に日本の報道。日本での報道が少なすぎるのにお茶ふいたんで。

まず、古式ゆかしくポータルサイトで確認してみたのだが、gooニュースで「国際ニュース」のカテゴリを見てみたところ、21日午後9時過ぎの時点で、この件の関連記事は時事通信の1件のみ。

核兵器使用の危険増大=25年までの近未来世界−米情報機関分析
2008年11月21日(金)16:30
 【ワシントン21日時事】米中央情報局(CIA)など各情報機関を統括する国家情報長官室は20日、2025年までの近未来世界を予測する報告書を公表し、紛争に際して核兵器が使用される危険性が著しく増大するとの分析を明らかにした。……

http://news.goo.ne.jp/article/jiji/world/jiji-081121X881.html

この記事は、上に引いた部分の下に画面で3行の段落があるだけのとても短いものだ。第2段落は、報告書のタイトルと総ページ数(約120ページ)と作成者(国家情報評議会)を記載したあと、これから20年足らずで核拡散が進むとして警鐘を鳴らしている、といった説明。

ガーディアンやタイムズなどで大々的に書かれている「米国の覇権の終わり」については、一言も書かれていない。

ではもう1件のポータルサイトで、Yahoo! Japanはどうか。

「海外」のトピックスのトップページの「主なトピックス」にあるのは、経済情勢(米ゼロ金利導入か、米ビッグ3支援決まらず、など)、海賊問題(BBCでも最近多くのニュースが伝えられている)、国連総会第3委員会で死刑執行の一時停止が可決された件、米国の政治の話(大統領選挙で最後まで結果が出てなかったミズーリ州が集計完了、アルカイダが声明を出した件、オバマの通話記録が見られていた件など)、oddly enough系……ええと、バックナンバーに回ってるのかなと思ってみても、バックナンバーは完全に昨日のニュース(シリアの核についてのIAEA報告書、湾岸戦争症候群、ロシア・グルジアの対話など)。じゃあ「北米」のカテゴリにあるのかなと思うと、これが細分化されすぎていてどこを見たらいいのやら……そこまでYahoo! Japanでつっこんで見る気にはならないのでここでやめるけど、要するに、Yahoo! Japanではこの報道にはまったく注目していないということはわかる。

では、というわけでGoogle Newsの日本版でキーワード「CIA」で見てみると、共同通信、産経新聞、東京新聞の記事が上がっている。関連記事は「27件」になっているが、共同通信の記事が地方紙に配信されているのを含めての数値のようで、クリックして出てくるのは共同通信が2件、産経が1件、東京新聞が1件の計4件である。少なっ。

2025.png

トップに表示されているのは共同通信の記事だ。引用部分末尾のタイムスタンプにあるように、かなり早い段階で出されている。
米中印「3国時代」が到来と予測 2025年の世界

 【ワシントン20日共同】米中央情報局(CIA)などで組織する国家情報会議(NIC)は20日、2025年の世界情勢を予測した報告書を発表した。米国の影響力が衰える一方で、中国やインドが著しく台頭し、米中印の3国が並び立つ時代の到来を予見した。日本については「米中両大国の板挟み」になり、大幅な外交戦略の見直しを迫られるなど、埋没感が強まる可能性を指摘している。

 ……

 報告書は今後の20年間が「新秩序への移行期間」で「危険に満ちている」と指摘。第2次大戦後に続いた米国中心の世界秩序が崩壊し、国際情勢が不安定化することを警戒した。米国は相対的な優位を維持するものの、中国とインドが多極化時代の新たな大国として、米国と影響力を競い合う存在になるとした。

 ロシアはそれら3国と並ぶ勢力を確保できるかどうか不透明としている。

 ……

2008/11/21 10:20
http://www.47news.jp/CN/200811/CN2008112101000082.html

省略した部分には、前回、2005年に出された「2020年の世界」との違い(前回は「アメリカはまだまだイケる」的だった)についての記述と、日本がどうなのかという点についてのさほど長くはない記述があるが、最後が「自民党一党支配の時代の終わり」という話なので、一読して最も印象に残るのはそれかもしれない。英国の報道を見る限りでは、報告書全体としては「アメリカの覇権の終わり」がメインらしいのに。

なお、共同通信は「要旨」の記事も出している。
http://www.47news.jp/CN/200811/CN2008112101000327.html

「第二次世界大戦後に構築された米国中心の国際秩序は、2025年にはほとんど姿を留めていないだろう」、「米国は経済面、軍事面では相対的優位を維持するが、中国とインドが台頭し、影響力を米国と競い合うほどになるだろう」、「特に中国は、今後20年間で世界で最も影響力を強め、2025年までには世界第二の経済大国となるだろう。また軍事力でも世界をリードする存在になるだろう」、「欧州の影響力は失われるだろう」、「2025年までに朝鮮半島は南北が統一されている可能性があり、統一国家でなくても緩やかな連合国家が形成されているだろう」、「ロシアについてはよくわかりません」といったことが書かれている。あと、日本についても(ここでは割愛する)。でもタイムズの報道と見比べると、「テロリズム」がスルーされてる。(この点はガーディアンも同じ。terrorでページ内検索してもスカ。)

産経新聞は下記。全部で6段落の短い記事だが、ポイントがよくまとまっていると思う。

「米は地位低下、中国が台頭、朝鮮統一」米国家情報会議が予測
2008.11.21 19:03

 【ワシントン=山本秀也】……中国、インドの台頭など世界の多極化が進むなか、相対的に米国の影響力が低下すると悲観的な判断を示している。また、韓国と北朝鮮は25年ごろの国家統一が予想されるものの、核開発の放棄が実現できるのかは「不確実だ」としている。

 この報告書は、米中央情報局(CIA)などの情勢分析を踏まえたもので、5年ごとに世界の未来像を描いている。今回の報告書では、金融危機の影響や原油の先高傾向を織り込み、これまでの情勢予測を修正。向こう20年ほどが「新秩序への移行期にあたる」として、不安定化を警戒している。

 米国は、経済力や国際的な影響力低下が避けがたい半面、軍事技術の進歩に支えられて、なお世界トップの大国にとどまるとみている。さらに、「中東とアジアでは、依然バランサーとしての役割を求められる」と指摘した。

 世界が多極化するなかで、ライバルとなるのは、中国、インド、ロシアなどの新興国だと分析。とりわけ中国については、25年までに「世界2番目の経済規模と主要な軍事力を獲得する」と予測している。

 テロ組織は、25年までに組織再編を経てなお存続するとみている。大規模テロ事件は、生物・化学兵器の使用が懸念されるとしている。核兵器や放射性物質によるテロの可能性はやや低いものの、インド、パキスタンなどに続く実質的な核保有国の増加で、核拡散が進むことを懸念している。

 ……

最後の部分は日本についての記述。

最後に東京新聞の記事を見てみたが、これは共同通信配信の記事で、つまり日本では共同、時事の通信社2社と、産経新聞の合計3社しか報じていないのだろうか。

何か出てるかもしれないけど、現状、なさげ。
朝日の「北米」カテ http://www.asahi.com/international/namerica.html
読売の「国際」カテ http://www.yomiuri.co.jp/world/
毎日の「南中北アメリカ」カテ http://mainichi.jp/select/world/america/

なんていうかさ……紙面には共同なり時事なりの記事が掲載されるのかもしれないけど。

というところで英メディア記事だ。以下、記事を見た順に。

ガーディアン:
2025: the end of US dominance
Julian Borger, diplomatic editor
Thursday November 20 2008 19.05 GMT
http://www.guardian.co.uk/world/2008/nov/20/barack-obama-president-intelligence-agency

リード文は:
* US intelligence: 'We can no longer call shots alone'
* European Union will be 'hobbled giant' by 2025
* Triumph of western democracy not certain


リード文とクレジットと冒頭の写真のすぐ下に音声解説が埋め込まれているので、英語の聞き取りがOKの人はそれを聞いたほうが早いかもしれない。長さは2分24秒で、たぶん記事を書いたジュリアン・ボージャーが喋ってるんだと思う。(英語としてはかなり聞き取りやすい。聞き取りの教材に使えるような感じ。)

概要:
西洋型デモクラシーの進展が当たり前のものではなくなり、いくつかの国は「犯罪ネットワークに乗っ取られる」危険性があるという不安定で予期できない時代の到来――米NIC (the National Intelligence Council) が、4年ごとに出す「グローバル・トレンド・レビュー」でそう警告している。

NICは米国のすべての情報機関からの分析をまとめる機関。2025年を見据えたこの報告書、"Global Trends 2025: A World Transformed" によると、世界がますます多極化していき、米国はその影響力を弱め、もはや単独で「支配できる (call the shots)」国ではなくなる。稀少な資源をめぐる紛争は増加し、「崩壊寸前の (ramshackle)」国際機関はそれを押し留めることがほとんどできない。一方で核拡散は特に中東で深刻化すると見られ、核を使った紛争すら想定内の事態となる。

また、ブッシュと米国のネオコンが当然の前提としてきた西洋型の民主主義的資本主義の拡大は、もはや当たり前のものと受け取れなくなる。

「前もって定められた通りになるものは何もないと思われる。例えば西洋型の経済的自由主義、民主主義、非宗教主義は、少なくとも中期的には、その輝きを失うかもしれない」と報告書は警告する。

また、「こんにち、富は単に西から東へ動くだけでなく、より多くが国家の支配下に集まっている」とし、例としてロシアや中国を挙げている。「2008年の世界的経済危機の余波で、世界各地で経済における国家の役割がより重視ようになるかもしれない」

同時に、米国は「支配的な立場を弱め (less dominant)」るとされ、冷戦終結後常に比肩する者のない超大国だった米国は、流動性と均衡を高めた世界において、「同等な力を持つ者の筆頭 (first among equals)」になり、ブッシュ政権時代における単独主義はもはや維持しえなくなる。

また、この先20年においては「影響力を持った立場の者の多様性と、大国の不信により、米国が強いパートナーシップの支援なしで支配できる余地は少なくなる」。

これはオバマ次期大統領の他国主義とかみ合った結論であるが、NICの報告書の内容は、米政府がその目的を追うために「有志連合 (coalitions of the willing)」をまとめることは、歳月の経過とともに、難しくなるかもしれないとしている。

気候変動や石油、食糧、水といった資源が希少化していくことによる危機がいくつも生じる可能性がある時代において、国連のような国際機関は、米国の影響力の衰退で残される空白を埋められるほどの準備がなく、「その指導者たちが一致団結して努力しない限りはこれらの危機に立ち向かうことができないように見受けられる」。

将来像としては尋常ではなくショッキングなものだが、NICの報告書には架空の「大統領の日記」が収録されている。2020年10月1日付のこの文面は、地球温暖化によりものすごい勢力となったハリケーンが、国連総会の最中にニューヨークを襲ったという出来事を綴ったものだ。「まるで第二次大戦の記録映像のような場面もあった。違いといえば、それが欧州ではなくマンハッタンだということだ。大洪水が起こり、アメリカの航空機や船舶が何千という人々を避難させていた光景は脳裡に焼きついている」

大統領は、航空機上での国連のレセプションに向かいながら、「災害に次ぐ災害があり、永久凍土が融け農産物の収穫が減少し、病気が蔓延し、そういったことで恐ろしく多くの人々が命を失った。20年前に考えていたのよりずっと多くの人々が」と書く。

前回のNIC報告書は、2004年12月に出された。ブッシュ大統領が再選を果たしたばかりで、ネオコンサーヴァティズムの最高潮となるブッシュ政権2期目が始まろうとしていた。このときのNIC報告書は当時のムードを反映したもので、"Mapping the Global Future" (世界の将来像)と題され、2020年までの世界は「米国の支配的地位は揺るがない」と見ていた。

今回のNIC報告書ではこの自信は跡形もなく消えている。また、「地中にある」石油・ガスは「全世界の需要を満たすのに充分である」との信念もかき消え、代わりに、よりクリーンな燃料への移行は避けられないことであり、問題になるのはスピードだけだ、と見ている。

NICは、石油・ガスの涸渇に技術は立ち遅れるだろうとの見方をしている。しかしながらあまりに急な移行は湾岸地域とロシアでの不安定化を招き、それはそれで問題であるとしている。

中国、インド、ブラジルといった新興経済は米国にとって代わって影響力を強めるとされるが、欧州についてはそうは見られていない。NICは、EUは2025年までには「影響力を失っている (losing clout)」だろうということを比較的強く確信しているようだ。EU内部での争いや、ブリュッセルと欧州の有権者とを分かつ「デモクラシー・ギャップ」のために、EUは「身動きの取れない巨人 (a hobbled giant)」となり、その経済的な影響力を世界的に拡大することができない。


……とまあ、ガーディアンはこんな感じです。

ガーディアン記事に出てこないことが書かれているのがタイムズ。

November 21, 2008
National Intelligence Council report: sun setting on the American century
Tim Reid in Washington
http://www.timesonline.co.uk/tol/news/world/us_and_americas/article5202497.ece

リード文は:
The report said that global warming will aggravate the scarcity of water, food and energy resources

これに、イメージ写真として、映画『デイ・アフター・トゥモロー』から、凍りついたNYCの写真がついている。やはり「気候変動」の件がインパクトが強いということかもしれないが(ブッシュ政権があれだけゴネていたのに、ブッシュ時代の終わりになったらこれかい、みたいな)、記事本文ではその件についてはあまり大きな扱いではない。

概要(ガーディアンとかぶる部分は省いてありますが、そんなにたくさんは省いていない):
次の20年間、世界は核戦争の脅威、環境悪化によるカタストロフィー、世界を支配する米国というものの失墜とともに生きていくことになる――米国の情報機関はこんな見方をしている。

NICのアナリストたちは、今回の報告書はバラク・オバマの就任に間に合うよう用意されたと言う。就任すれば彼は、着任早々の米国の新大統領としては最も難しい課題に直面することになるだろう。

「技術に手が届くことが多くなり、限定攻撃のための選択肢が増えることで、核兵器が使用される可能性は増大する」と報告書は述べる。アナリストたちは、既にエスカレートしている中東での核武装競争に注目し、より多くのローグ・ステイト(ならず者国家)がテロ集団に核技術を伝授する体勢をととのえるようになる、と見ている。「今後15から20年は、イランが核計画についてどう決定するかで、複数の同地域の国家が核開発を進めるよう動き、核兵器を手にしようと積極的に活動することになるかもしれない (could)。これにより、地域内での影響力を強めようという競争に、新たにより危険な面が加わることになるだろう (will)」

「核能力を有する国の数が増えれば、他の国、もしくはテロリストに核についての支援を与えようという国の数も増加する」と報告書は述べる。

また、地球温暖化で水、食糧、エネルギー資源の不足は一層深刻化する。英国での研究を引用し、NIC報告書は気候変動のために移住を余儀なくされる人は2億人にも達すると述べている。「出生率と貧富の差の比率が開き、気候変動の影響を受け、緊張はさらに悪化するかもしれない」

「新興国の台頭、グローバル化する経済、西から東への富の移動、国家ではない勢力の影響力の拡大により、2025年までには、国際システムはほとんど形が見えないものになっているだろう。米国は最も影響力のある国家ではあり続けるだろうが、その相対的な強さは、軍事面においてでさえも衰退していくだろう」

インドや中国の台頭で世界は多極化し、朝鮮半島は何らかの形で統一されているだろう。現在の経済状況については、ウォール街の金融危機は世界的な経済のリバランス (rebalancing) の始まりだとしている。

米ドルの基軸通貨としての役割は弱まり、「対等な勢力のものの一番 (first among equals)」になるだろう。

「貿易、投資、技術開発では、戦略的対抗関係が発生する可能性が最も高いが、19世紀的な軍拡競争、領土拡張、軍事的対抗関係というシナリオも除外することはできない」

今回の報告書は、米国の地位についてこの前の報告書よりも暗い見通しを示しているが、結果は部分的には政治指導者たちの行動にかかっているともしている。「次の20年間は新たなシステムへの移行の時期であり、さまざまな危険に満ちている」

アナリストたちはまた、ロシアで蔓延しているような組織犯罪が東欧や中欧の国の政府を乗っ取る可能性があること、治安が悪化し、資源が枯渇して国家の力が弱まったアフリカや南アジアの国々が無政府状態になる可能性があることを警告している。

また同報告書は、テロリズムは2025年になっても残っているが、少し形を変えているだろうと見ている。「アルカイダは広範な支持を集めることができず、一般に考えられているよりも早期に衰退するかもしれない (might)」

一方で、2025年までには石油の代替となるものが実用化されているかもしれないという明るい話もある (on a positive note)。


次、テレグラフ:
US influence to decline, NIC intelligence report predicts
By Alex Spillius in Washington
Last Updated: 6:35AM GMT 21 Nov 2008
http://www.telegraph.co.uk/news/worldnews/northamerica/usa/barackobama/3492802/US-influence-to-decline-NIC-intelligence-report-predicts.html

リード文:
The political, economic and military influence of the United States will substantially decline over the next two decades, according to a report by the country's leading intelligence organisation, which forecasts an unpredictable world in which the advance of western-style democracy is far from guaranteed.


記事は、ガーディアンとタイムズを足したのを要約したような感じなのだけど、概要:
NICの "Global Trends 2025: A Transformed World" はオバマ次期大統領にとって冷静さを促すものとなろう。新大統領の就任は来年1月、イラクとアフガニスタンでの戦争があり、ロシアは(補記:たぶん軍事・地政学の点で)復活しており、イランは核爆弾を作る決意を貫こうとしているし、パレスチナをめぐる不安定な情勢が続く中でのことだ。

核兵器が使用される可能性は、2025年までにどんどん高まり、世界は戦争の影のさす緊張した不安定なものとなっているだろう。

また同報告書では、アフリカと南アジアの国々では政府がすっかり衰えているかもしれないとし、中欧では少なくとも1カ国が組織犯罪に乗っ取られるかもしれないとしている。

明るい点を見つけようとして、報告書では、もしも「中東で経済成長が続き、若年層の雇用問題が改善されれば」テロリズムは減退するかもしれない、と結論付けている。

しかしながら、「技術が拡散し、核開発計画が広がり、大量の死傷者を出す生物・化学テロ攻撃、また可能性はそれより少ない者の核兵器を用いたテロ攻撃が起きる可能性は高まる」と結論付けてもいる。

世界各地の米情報機関による分析を基にまとめられたこの報告書は、これまでに公表された4件の将来図のどれよりも、米国の超大国としての地位について悲観的である。

「新興国の台頭、グローバル化する経済、西から東への歴史的な富の移転、国家ではない勢力の影響力の増大により、第二次大戦後に築き上げられてきた国際システムは、2025年にはほぼ消滅しているだろう」とするこの報告書は、(訳注:ガーディアン、タイムズとかぶるのではしょりますが)米国の影響力が衰えるとの見通しを示している。

また、「国際システムが完全に崩壊する方向に向かっているとは考えていないが」としつつ、「次の20年は新たなシステムへの移行期間となり、さまざまなリスクにあふれている」と警告している。

中国、インドが多極化する世界において米国と並ぶ存在になるとされている。ロシアの潜在能力についてはそこまで確定的なものとは見られていない。一方でイラン、トルコ、インドネシアは影響力を増してきていると見られている。

「企業 (businesses)、部族 (tribes)、宗教組織、判事組織」の相対的な影響力は増大しつづけるだろうとも結論付けられている。

また、太陽エネルギーや風力のようなリニューアブルな技術が開発され、石油への依存に代わるエネルギー源が早く、安価で実現されるだろうとの予想もある。


これら新聞各紙から何時間も遅れて出たBBCの記事は:

US global dominance 'set to wane'
Page last updated at 11:38 GMT, Friday, 21 November 2008
http://news.bbc.co.uk/2/hi/americas/7741049.stm

ガーディアン、タイムズ、テレグラフでは言及のなかった点というと:
Washington will retain its considerable military advantages, but scientific and technological advances; the use of "irregular warfare tactics"; the proliferation of long-range precision weapons; and the growing use of cyber warfare "increasingly will constrict US freedom of action", it adds.

すっげー不気味なんですけど。科学技術の進展によって「非正規戦」に長距離兵器にサイバー戦争、これらによって「米国の行動の自由がますます制限されるようになる」。つまり、ワシントンが優位に立ついわば「表の軍事」と、そうではない「裏の軍事」になるという話だと思うし、それは「何を今さら」な話なような気もしなくはないんだけど。

それからアルカイダについて、BBCは少し詳しく抜粋している。
"The prospect that al-Qaeda will be among the small number of groups able to transcend the generational timeline is not high, given its harsh ideology, unachievable strategic objectives and inability to become a mass movement," it says.

うん、何より「スンニ派だけ」だから、アルカイダは。

米情報当局といえば、一時期強引にアルカイダ(スンニ派)とイラン(シーア派)が関係あるんだと言ってみたりしていたけど、その方向で情報戦を展開するのはさすがに諦めたのかも。(そんなふうに展開しようとする前に気付けという点ではあったと思う。)

それと、記事の最後のほうにNICの中の人のコメント。世界の政治指導者の行動如何でこの将来見通しはいくらでも変わりうるとかいう文脈で:
"It is not beyond the mind of human beings, or political systems, [or] in some cases [the] working of market mechanisms to address and alleviate if not solve these problems," said Thomas Fingar, chairman of the NIC.

……なんでここで「市場メカニズム」なのかがよくわかりませんが。

BBCの記事で一番すごいのは最後の締めの一文:
And, our correspondent adds, it is worth noting that US intelligence has been wrong before.

そして、とBBC記者は付け加える。米国の情報は前にも間違ったことがあるということは注目しておいてもいいかもしれません。

BBCのニュース映像の記者レポートの最後でこういう締めがあるのは別に普通なのだけどね、記事の締めでこれはない。(笑)

BBCではもう1件、ポール・レイノルズの解説記事が出ている。

Analysis: US Global Trends report
By Paul Reynolds
World affairs correspondent BBC News website
http://news.bbc.co.uk/2/hi/americas/7741237.stm

たぶんすっごく読みやすくまとめられていると思うけど、まだ最初の方しか読んでない。

First, a note of scepticism about these reports.

In 1980, when Ronald Reagan was campaigning against President Jimmy Carter for the US presidency, he did so on the basis that the United States was about to be overwhelmed by the Soviet Union and Japan. At that time, Japan filled the role that China does now - it was going to take over the world with its economic muscle.

牛肉・オレンジ自由化、内需拡大、日米自動車摩擦……80年代の基本っていったらDuran Duranとサウンドストリートと日米貿易摩擦。こういう非常に重要なことをさくっと書いてくれるのがポール・レイノルズなので、これは読まないとね。

なお、NIC報告書そのものは下記からDL可能。33MBもあるけどね!
http://news.bbc.co.uk/1/shared/bsp/hi/pdfs/21_11_08_2025_Global_Trends_Final_Report.pdf
http://image.guardian.co.uk/sys-files/Guardian/documents/2008/11/20/GlobalTrends2025_FINAL.pdf

※本家本元のdni.govのURLもタイムズとかで紹介されてるんだけど、全然つながりません……。
http://www.dni.gov/nic/NIC_2025_project.html

一応目次だけ、コピペしておきます。
GLOBAL TRENDS 2025: A TRANSFORMED WORLD
Contents

Executive Summary ... vi

Introduction: A Transformed World ... 1
  More Change than Continuity ... 3
  Alternative Futures ... 3

Chapter 1: The Globalizing Economy ... 6
  Back to the Future ... 7
  Growing Middle Class ... 8
  State Capitalism: A Post-Democratic Marketplace Rising in the East? ... 8
  Bumpy Ride in Correcting Current Global Imbalances ... 11
  Multiple Financial Nodes ... 12
  Diverging Development Models, but for How Long? ... 13

Chapter 2: The Demographics of Discord ... 18
  Populations Growing, Declining, and Diversifying―at the Same Time ... 19
  The Pensioner Boom: Challenges of Aging Populations ... 21
  Persistent Youth Bulges ... 21
  Changing Places: Migration, Urbanization, and Ethnic Shifts ... 23
  Demographic Portraits: Russia, China, India, and Iran ... 24

Chapter 3: The New Players ... 28
  Rising Heavyweights: China and India ... 29
  Other Key Players ... 31
  Up-and-Coming Powers ... 35

  Global Scenario I: A World Without the West ... 37

Chapter 4: Scarcity in the Midst of Plenty? ... 40
  The Dawning of a Post-Petroleum Age? ...41
  The Geopolitics of Energy ... 45
  Water, Food, and Climate Change ... 51

  Global Scenario II: October Surprise ... 57

Chapter 5: Growing Potential for Conflict ... 60
  A Shrinking Arc of Instability by 2025? ... 61
  Growing Risk of a Nuclear Arms Race in the Middle East ... 61
  New Conflicts Over Resources? ... 63
  Terrorism: Good and Bad News ... 68
  Afghanistan, Pakistan, and Iraq: Local Trajectories and Outside Interests ... 72

  Global Scenario III: BRICs' Bust-Up ... 76

Chapter 6: Will the International System Be Up to the Challenges? ... 80
  Multipolarity without Multilateralism ... 81
  How Many International Systems? ... 82
  A World of Networks ... 84

  Global Scenario IV: Politics is Not Always Local ... 89

Chapter 7: Power-Sharing in a Multipolar World ... 92
  Demand for US Leadership Likely to Remain Strong, Capacities Will Shrink ... 93
  New Relationships and Recalibrated Old Partnerships ... 93
  Less Financial Margin of Error ... 94
  More Limited Military Superiority ... 97
  Surprises and Unintended Consequences ... 98
  Leadership Will Be Key ... 98
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米国
posted by nofrills at 23:55 | Comment(4) | TrackBack(0) | todays news from uk
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読売が2008年11月21日23時13分付けで記事を出しました。長さで見れば産経より短い程度の記事です。

2025年「世界は多極化」…米国家情報会議が予測
http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20081121-OYT1T00828.htm

米国が環境政策で舵切ったこととかはスルーして、国際関係というかinternational relationshipsな面を日本視点で解説した記事です。
Posted by nofrills at 2008年11月22日 07:52
時間かけて出した朝日新聞:

2025年、国民国家システムは消滅 米情報機関が予測
2008年11月22日11時52分
http://www.asahi.com/international/update/1122/TKY200811220034.html

「日本については、総論の中での言及は少ない」と明示していること、記事の最後(2ページ目)に次のような記述があることなど、全体的にいい仕事だと思います。(もちろん、私も120ページ全部に目を通したわけではないけど。)

[quote]
 NICによるこの種の報告書は97年に始まり、今回が4回目。外部の学識経験者らとの意見交換も踏まえて作成された。機密情報に基づき断言する予測文書ではなく、あくまで複数のシナリオを提示するのが目的としている。
[/quote]

ただ、見出しがキャッチーすぎる気がします。実際にNIC報告書にはそういうことが書かれてはいるのだけど、この記事では字数が足りなかった模様で、記事本文では「国民国家システム」云々についてさらっと流されているのが残念です(「経済のグローバル化などによって、国民国家で構成される国際社会システムはほぼ形をとどめなくなる」という記述はあります)。

NIC報告書から (pp. 3-4):
In constructing these scenarios, we focused on critical uncertainties regarding the relative importance of the nation-state as compared with nonstate actors, and the level of global cooperation. In some of the scenarios, states are more dominant and drive global dynamics; in others, nonstate actors, including religious movements, nongovernmental organizations (NGOs), and super-empowered individuals play more important roles. In some of the scenarios, key players interact in competing groups, through partnerships and cross-border affiliations. Other scenarios envision more interaction as autonomous players operate independently and sometimes conflict with one another.

※冒頭しか目を通していないので、抜粋するのがここでいいのかどうか、実はあまりよくわかっていません。ご容赦。
Posted by nofrills at 2008年11月22日 19:31
■2025年、国民国家システムは消滅 米情報機関が予測−この予測の信憑性は?
こんにちは。私もこの「Global Trend 2025」を読んでみました。でも、なんだか腑に落ちなかったので1997年に同じ機関がだした「Global Trend 2010」も読んでみました。その結論は、やはり予測などはあてにならないということです。「Trend 2010」には、当たり障りのないことに関してあたっていることも多いのですが、今回の金融危機や、危機の懸念なども、全く触れられていないということです。1997年といえば、投資家のソロス氏も経営学の大家であるドラッカー氏もアメリカ流の過度な自由主義経済に対して警鐘を鳴らしていました。「Global Trends 2025」に関しても、全く納得がいかない点もあります。詳細は是非私のブログをご覧になってください。
Posted by yutakarlson at 2008年11月23日 15:07
World Trend 2025には、「ありうるシナリオを複数書いた」と明記してあります。それは「今の時点で予測されること 」(likelyということばで語られること) ではあっても「あてにすることができる予言」ではありません。確かにその点については、エントリ本文の報道のいずれでも、扱いが薄いかもしれませんが。
Posted by nofrills at 2008年11月23日 23:35
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