kafranbel-aug2011.jpgシリア緊急募金、およびそのための情報源
UNHCR (国連難民高等弁務官事務所)
WFP (国連・世界食糧計画)
MSF (国境なき医師団)
認定NPO法人 難民支援協会

……ほか、sskjzさん作成の「まとめ」も参照

お読みください:
「なぜ、イスラム教徒は、イスラム過激派のテロを非難しないのか」という問いは、なぜ「差別」なのか。(2014年12月)

「陰謀論」と、「陰謀」について。そして人が死傷させられていることへのシニシズムについて。(2014年11月)

◆知らない人に気軽に話しかけることのできる場で、知らない人から話しかけられたときに応答することをやめました。また、知らない人から話しかけられているかもしれない場所をチェックすることもやめました。あなたの主張は、私を巻き込まずに、あなたがやってください。

【お知らせ】本ブログは、はてなブックマークの「ブ コメ一覧」とやらについては、こういう経緯で非表示にしています。(こういうエントリをアップしてあってもなお「ブ コメ非表示」についてうるさいので、ちょい目立つようにしておきますが、当方のことは「揉め事」に巻き込まないでください。また、言うまでもないことですが、当方がブ コメ一覧を非表示に設定することは、あなたの言論の自由をおかすものではありません。)

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2008年11月01日

「公用語」だからって「母語」じゃないという言語をめぐる悲喜劇

今年7月に、akimoto.jpさんで「史上最低の翻訳ミス」というエントリがあって、盛大にお茶をふかせていただいた(まだご覧になってない方、必見です。でもお茶は飲んでから、食べ物は食べてから)。だが、おそらく英語を母語としない地域で「エラーです」を「翻訳結果」と誤認する事故よりも深刻な「事故」が、BBCで報じられている。

事故が発生したのは、英語とウェールズ語を公用語とするウェールズのスウォンジー (Swansea)。行政当局が道路標識を設置したのだが、それがグダグダになってしまったのだ――「翻訳」のせいで。

E-mail error ends up on road sign
Page last updated at 19:08 GMT, Friday, 31 October 2008
http://news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/wales/7702913.stm

まずは、なぜこの標識の「翻訳」が必要になったのか、少し丁寧めに説明しておこう。

ウェールズは法的に決められている公用語が2つあるので(see Welsh Language Act 1993: Wikipedia has a link to the official text of the statuate)、公的な標識などはバイリンガルで(二言語で)表記することになっている。しかるに、20世紀後半の民族主義運動で公用語としての地位を勝ち取って絶滅の危機を脱したウェールズ語は、元々の話者が多いわけでもなく、つまりウェールズ人だからといってみんなが使える/使っている言語ではない。しかも、スコットランド語のように「英語から分離した言語」ではなくケルト語であり(しかもアイルランドやスコットランドのゲール語とは別の系統のケルト語)、英語話者にとっては文字列から何かを推測することすら不可能な言語である。(文字列だけでいえば、フランス語のほうがずっと英語に近い。)つまり、ものすごく「難しい」。

だから、市当局が道路標識を設置するなどで二言語が必要になるときは、「ウェールズ語の翻訳のプロ」に発注する。

というわけで、スウォンジー当局は、こういう文面の標識を作るので、翻訳頼みます、と翻訳者にメールで連絡をした。
No entry for heavy goods vehicles. Residential site only.

「居住者専用につき、大型車進入禁止」というような内容だ。ごく普通の標識である。

そして、返信されてきたメールにあった「ウェールズ語」を、そのまま、標識に書いた。文面は:
Nid wyf yn y swyddfa ar hyn o bryd. Anfonwch unrhyw waith i'w gyfieithu.

私には「タイピング練習」の文字列にしか見えないこのウェールズ語は、「大型車進入禁止」であっても不思議ではないのだが、実際には、「ただいま留守にしております。翻訳ご依頼の件でしたら、翻訳対象のテクストをご送信ください。よろしくお願いします」という意味なのだそうだ。

かくして、
大型車進入禁止
The translator is not available at the moment.

みたいな標識が、道路脇に設置されることとなった。

「市からのお知らせ」のようにいろいろな文面があるものは逐次で翻訳を依頼するしかないにしても、「居住者専用、大型車進入禁止」みたいな基本的な文例はストックしておけばいいのに、と思うのだけど。

ウェールズ語の雑誌、Golwg"view" という意味だそうだ)の編集、Dylan Iorwerthさんは、「ウェールズ語翻訳では、ウェールズ語ができる人にチェックしてもらわないと」と語っている。この雑誌では読者投稿の「間違った翻訳」を掲載しているのだそうだが、Iorwerthさんはそろそろ笑えなくなってきているような雰囲気が感じられる。
Managing editor Mr Iorwerth said: "We've been running a series of these pictures over the past months.

"They're circulating among Welsh speakers because, unfortunately, it's all too common that things are not just badly translated, but are put together by people who have no idea about the language.

"It's good to see people trying to translate, but they should really ask for expert help.

"Everything these days seems to be written first in English and then translated.

"Ideally, they should be written separately in both languages."

つまり、「単に翻訳がまずいということではなく、ウェールズ語について何もわかっていない人がやっているということがあまりにもよくある。翻訳を試みる人がいるのはよいことだが、必ず専門家に見てもらうべきだ。まず英語で書いておいてから翻訳するというのが最近の傾向だが、最初っから2つの言語で書くのが理想的だ」。

そうそう、「翻訳する」っていうと無駄な「翻訳論」みたいなのが絡んでくるから最初っからバイリンガルで書いたほうがいい。条約や法律・条例はちょっと別かもしれないけど。翻訳って、「貞淑な醜女より、不実な美女」みたいな方針でやると、「原文に書いていないことを書くな」とか言い出す奴が出るし(日本語で主語を「明示しない」文について主語を補ったところは、カッコを使えとか。日本語でもカッコで主語を補うような法的文書とかならそりゃ当たり前だけど、「おなかすいたからドーナツ屋行かない?」みたい文でIとかweとかいちいちカッコで補っていたら、まともに読める文にはならんよ。第一その話者が英語を母語としてたらIとかweとかふつうに使うでしょ。ってか英→仏のときにいちいち冠詞をカッコで入れるのか)。って何の話だよ。

閑話休題。ウェールズで上記のマヌケな「翻訳」をやらかしたスウォンジー市当局は、「別な場所の標識の誤訳に気をとられていた」と弁解し、問題の「大型車進入禁止」の標識は撤去し、作りかえている最中だと述べている。(これは行政の無駄だから、インハウスの「トランスレイター」は「ライター」にしたほうがいいと思う。)

ところで、BBC記事の末尾にほかの「誤訳」の例がいくつか列挙されているのだけれど、最後のがすごい。
People living near an Aberdeenshire building site in 2006 were mystified when a sign apologising for the inconvenience was written in Welsh as well as English.

アバディーンシャーはスコットランドです。ウェールズではありません。……あ、ひょっとして「ハギスはウェールズ料理」と思ってる人がイングランドにいて、その人がスコットランドで仕事したのかなあ。(冗談です。)



こちらもどうぞ。ウェールズではなく、珍獣ハギスのふるさとスコットランドでもなく、アイルランドについてのものですが。

2007年01月20日
短編映画:「アイルランドではアイルランド語」という情報に翻弄される若者
http://nofrills.seesaa.net/article/31735632.html

2007年01月20日
短編映画『流暢な失語症』(アイルランド語しか理解できなくなった男)
http://nofrills.seesaa.net/article/31730824.html

2007年01月15日
アイルランド語でアイルランドを旅してみたら……
http://nofrills.seesaa.net/article/31437302.html

※いずれも、映像はもうリンク切れになってるかもしれません。



Dylan Iorwerthさんのコメントにある "they should really ask for expert help" ということについては、技術で世界が狭くなるにつれてそういう基本的なことについて想像もしないような人が気軽に使える「ツール」が出てきたことで、マイナーな言語にとってはますます深刻化してる面があります。例えば日本語はマイナーな言語だけど何となく使ってみたい人が一定数いて、「オンラインで無料で使える機械翻訳」が「日本語もできますよ」っていうことでリリースされていますが、日本語がまともに使える人が開発に関わっていそうにもないサービスが……。その話ははてなダイアリのほうで。例えば下記エントリ。むろん、これは「機械翻訳」自体の問題ではなく、「翻訳」に対する人間の態度の問題です。
http://d.hatena.ne.jp/nofrills/20080909/p2



追記@2日夜中:
はてなブックマークで別なユーザーさんが書いておられたので知りました。AFP BBにきた。(笑)


同じ系統の話で、北アイルランドでもあるんですが、NIはとりあえずthe Irish Language Actがどうにかならないと、という情勢なので今しばらく(たぶんあと数ヶ月。もうNever, never, neverってことはないとは思うんですが、DUPも攻撃材料がなくなってのデッドロックなのでいつ解決するのかまったく不明)。

※この記事は

2008年11月01日

にアップロードしました。
1年も経ったころには、書いた本人の記憶から消えているかもしれません。


posted by nofrills at 09:20 | Comment(1) | TrackBack(0) | todays news from uk | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
ブクマで教えてもらいました……ついにWired Vision (JP) でネタに。

メールの自動返信で、誤訳が道路標識に
2008年11月14日
http://wiredvision.jp/news/200811/2008111418.html

Welsh Road Sign Features Email Auto-Reply Instead of Correct Translation
November 03, 2008
http://blog.wired.com/gadgets/2008/11/welsh-road-sign.html

わたしが気になるのは記事の最後のほうで:
[quote]
ところで、英国人というのは道路標識には奇妙な思い入れがある人たちだ。米国人は道路標識のポールを拳銃で撃ったり野球バットで殴ったりするが、英国人は道路標識を愛している。
私の両親は「Westward Ho!」というさびれた海辺の村の近くに住んでいる(エクスラメーションマークが付いた唯一の村名だ)。最近、この「!」マークが取られた形の道路標識が設置されたのだが、5分とたたないうちに怒った群衆が村役場に集まり、標識はすみやかに修正されたという。

Britons have a strange relationship with their road signs. Instead of shooting at them or smacking them off the pole with a baseball bat, American-style, the Brits love their signage. My parents live near the decrepit seaside town of Westward Ho! -- the only English town with an exclamation mark in its name. Recently, the signs were renewed without the punctuation. It took roughly five minutes for a pitchfork wielding lynch mob to descend on the local council buildings. The sign was quickly fixed.
[/quote]

Keep Britain tidy. :)
Posted by nofrills at 2008年11月14日 20:51

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【2003年に翻訳した文章】The Nuclear Love Affair 核との火遊び
2003年8月14日、John Pilger|ジョン・ピルジャー

私が初めて広島を訪れたのは,原爆投下の22年後のことだった。街はすっかり再建され,ガラス張りの建築物や環状道路が作られていたが,爪痕を見つけることは難しくはなかった。爆弾が炸裂した地点から1マイルも離れていない河原では,泥の中に掘っ立て小屋が建てられ,生気のない人の影がごみの山をあさっていた。現在,こんな日本の姿を想像できる人はほとんどいないだろう。

彼らは生き残った人々だった。ほとんどが病気で貧しく職もなく,社会から追放されていた。「原子病」の恐怖はとても大きかったので,人々は名前を変え,多くは住居を変えた。病人たちは混雑した国立病院で治療を受けた。米国人が作って経営する近代的な原爆病院が松の木に囲まれ市街地を見下ろす場所にあったが,そこではわずかな患者を「研究」目的で受け入れるだけだった。

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