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2008年08月20日

「間違えられた男」が天安門広場で

アルフレッド・ヒッチコック監督の作品に『間違えられた男』という映画がある。大変に優れたあらすじ&解説を読んでいただけるとわかりかと思うが、こわい、こわい映画ですね、と淀川さん風に言いたくなるような映画だ。

B001525JCG間違えられた男 特別版
マックスウェル・アンダーソン アンガス・マクファイル
ワーナー・ホーム・ビデオ 2008-04-11

by G-Tools


一方北京で、やはり「間違えられた男」が出現しているのだが、こちらは全然こわくない。むしろ可笑しい。それもボディブローのようにじわじわと来る可笑しさである。とりあえず、迫真の映像レポートをどうぞ。

Video - Fans mob Parry thinking he is Phelps
http://news.bbc.co.uk/sport2/hi/olympics/7569430.stm

男の名はスティーヴ。スティーヴ・パリー。1977年、イングランド、リヴァプール生まれ。身長194センチ。2000年シドニー五輪出場、2004年アテネ五輪男子バタフライ200メートルで銅メダル。

アテネを最後にスティーヴは競技から引退し、今回の北京五輪ではBBCの解説者として現地に入っている。事件はその北京で発生した。

notphelps.pngその日、スティーヴは、北京五輪でなんだかやたらとたくさんの金メダルを取ったマイケル・フェルプス(米国人、身長193センチ)の等身大の厚紙の人形(って言うの?)を小脇に抱え、BBCのクルーとともに天安門広場に繰り出した。BBCのことだ、アテネで銅を取ったTeam GBの一員にマイクを持たせ、天安門をバックに、「フェルプスすごいっすねー」と感嘆する人民のインタビューをとり、「アメリカとの対抗心はうんちゃら」という方向で気のきいたことを言おうとかいう企画だったのだろう(憶測)。

しかし事態はコントロール不能に陥った。

その白人の大男の周りに、カメラを持った市民が群がった。

男はカメラに向かって言う。「どうやらみなさん、僕のことをマイケル・フェルプスだと勘違いしているようです。」

そしてアテネの銅メダリストは、天安門広場を歩き出す。「私の名前はスティーヴ・パリー。イングランド出身、英国人です。マイケル・フェルプスではありません」と、まるで選挙カーかたけやさおだけの車のように連呼しながら。

「自分がフェルプスだったらこんな感じなのだなあと思います。ほんとうにフェルプスがここにきたらいったいどれだけ混乱することか」と語りながら歩く横には、入れ替わり立ちかわり、カメラを持った人、人、人。「ひょっとしたらみんな僕がアテネで泳いでたことを知ってるとか?」と軽くジョークをかます。

横をフェルプスの厚紙人形を抱えて歩くスタッフの姿が余計に可笑しさを増して、このへんからじわじわくる。

Steve Parry, from Great Britain. Steve. I came third in the Olympics. I didn't win.


こういって彼はずんずん歩いていく。何しろ身長2メートル級だから目立つ目立つ。周囲にはハメルンの笛吹き状態で人が群がり、彼が移動すれば群がった人も移動する。そして絶好の撮影ポイント(天安門の正面)で人垣は壁となり、いきなり記念撮影大会。

I've never felt a bigger flow in all my life, but ... No, no, no! I'm not Phelps! I'm not Michael Phelps. I'm NOT Phelps! I'm NOT Phelps!


彼の悲痛な叫びをよそに、群がった人々は大騒ぎで大撮影大会である。BBCのカメラと彼の間にも何枚もの壁ができる。

誰かの麦藁帽子にさえぎられ、BBCのカメラがスティーヴの姿をとらえることができないなか、「私はフェルプスではない I'm not Phelps」という彼の声だけがこだまする――というより、彼がそれを念仏のように繰り返しているのだが。

My name is Steve Parry, from Great Britain. Steve Parry, Great Britain. Not Phelps.


こう絶叫しながら、団体さんの記念撮影に取り込まれて、人々のカメラに向かって微笑むリヴァプール出身、31歳、スティーヴ・パリー。そしてついに諦めがその瞳に浮かぶ。

You don't care, do you? NOT Michael Phelps.


その後も彼は「私はスティーヴ、英国人」と連呼しながら、人々を引き連れて、天安門広場を歩く。

彼はこれまで生きてきて、こんなに自分の名前を連呼したことはなかっただろう。



いや、おそらく天安門広場の人民のみなさんも、身長2メートル級の大男がテレビのカメラクルーを引き連れているということで、「よくわかんないけど有名人らしい」ってことで集まったんじゃないかと思いますけどね。で、誰かが「ひょっとしてフェルプスじゃね?」と言い出したところから「フェルプスがいるんだって、行こう行こう」でわーっとなった、ということは十二分にあると思うけど。

あと、スティーヴの悲痛な叫びは、耳には入っても聞き取られていない(言語としてデコードされていない)可能性は、ちょっとあるかも。いくらNOTがついていても、あれだけ「フェルプス、フェルプス」と言っていたら、そこだけ聞き取られてるかもしれない。

なんか閉会式では2012年大会の会場であるロンドンを代表して、「やっぱりbafoonだった」としか言いようがない市長と、ロンドンへの招致活動で活躍した「様」が北京入りするとかいう話があるんだけど、もしそれが本当なら、天安門広場では、白人でイケメンで坊主頭で金髪の人はとりあえず囲まれる、ということになりそうな気が。
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posted by nofrills at 23:45 | Comment(0) | TrackBack(0) | todays news from uk
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