kafranbel-aug2011.jpgシリア緊急募金、およびそのための情報源
UNHCR (国連難民高等弁務官事務所)
WFP (国連・世界食糧計画)
MSF (国境なき医師団)
認定NPO法人 難民支援協会

……ほか、sskjzさん作成の「まとめ」も参照

お読みください:
「なぜ、イスラム教徒は、イスラム過激派のテロを非難しないのか」という問いは、なぜ「差別」なのか。(2014年12月)

「陰謀論」と、「陰謀」について。そして人が死傷させられていることへのシニシズムについて。(2014年11月)

◆知らない人に気軽に話しかけることのできる場で、知らない人から話しかけられたときに応答することをやめました。また、知らない人から話しかけられているかもしれない場所をチェックすることもやめました。あなたの主張は、私を巻き込まずに、あなたがやってください。

【お知らせ】本ブログは、はてなブックマークの「ブ コメ一覧」とやらについては、こういう経緯で非表示にしています。(こういうエントリをアップしてあってもなお「ブ コメ非表示」についてうるさいので、ちょい目立つようにしておきますが、当方のことは「揉め事」に巻き込まないでください。また、言うまでもないことですが、当方がブ コメ一覧を非表示に設定することは、あなたの言論の自由をおかすものではありません。)

=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=


2017年11月19日

シン・フェイン党首、ジェリー・アダムズの引退

2ヶ月以上前に告知され、「ついに」と思ったことではあるが、実際にそれがニュースとなって流れてくると、改めて「ついに」と思う(人間は繰り返しの生物だとこういうときに思う)。なるべく使いたくないと思う程度に陳腐な表現だが、「ひとつの時代の終わり (the end of an era)」だ。

11月18日(土)、ダブリンで開催されていたシン・フェインの年次党大会(Ard Fheis)をしめくくる党首スピーチで、ジェリー・アダムズは1983年に党首に選ばれてからこれまでの34年間を振り返り、そしてこう述べた。
We have also recast Sinn Féin into an effective all-Ireland republican party, with clear policy and political objectives, and the means to achieve them through democratic and peaceful forms of struggle where none existed before.

Republicanism has never been stronger. This is our time. We will grow even stronger in the future. But leadership means knowing when it is time for change. That time is now.

I will not be standing for the Dáil in the next election.

Neither will my friend and comrade Martin Ferris. I want to thank Martin, Marie and their clann for years of service to the Republic.

This is also my last Ard Fheis as Uachtarán Shinn Féin*.

I will ask the incoming Ard Chomhairle to agree a date in 2018 for a special Ard Fheis to elect our next Uachtarán.

http://www.sinnfein.ie/contents/47265
*Uachtarán Shinn Féin = 「シン・フェインのリーダー(党首)」の意味


※テキストは↑の党のサイトにあるが、アダムズのスピーチは音声で聞きたいという方には党が配信したビデオがFBにある。YouTubeのほうには現時点では、細かく区切られていない2時間ほどのビデオがアップされている。アダムズのスピーチの部分を頭出ししたのが下記。



1983年といえば日本は中曽根内閣(第一次)だ。今、世界的に大注目のジンバブエのロバート・ムガベが大統領になった(というか自身を大統領にした)のが1987年。アダムズはその前から、シン・フェインのトップをやってきたわけだ。冷静に考えれば気が遠くなるようなことだが、あまりにも「シン・フェインといえばこの人」という存在になりすぎているし、正直、シン・フェインを率いるのがジェリー・アダムズでなくなるなどということは想像の範囲外だという人もいるかもしれない。しかし時間は流れるわけで、現在69歳のアダムズは今年を最後に、党代表の座を退き、この何年後かに予定されているアイルランド共和国議会(下院)の選挙にも立候補しない。なお、一緒に引退することが公表されたマーティン・フェリスはアダムズより4歳ほど若いが、非常に端的に言えば、北アイルランド紛争期の「IRAの大物」だ(詳細はリンク先、ウィキペディア参照)。

このことが――そして、今年3月にマーティン・マクギネスが亡くなったことが――意味するのは、「リパブリカン・ムーヴメントにおけるIRA (Provisional IRA) の時代の終わり」だ。アダムズは、本人とその取り巻きだけが認めていないのだが、IRAの最高幹部(のひとり)だった。アダムズとは、それぞれが結婚した相手よりも長い付き合いだった故マーティン・マクギネスについては今更何かを説明するまでもない。そして、2002年にアイルランド共和国で国会議員となったIRAの闘士、マーティン・フェリスの引退。北アイルランドでもこれから、現在政治家になっている「IRAの闘士たち」の引退が続くことだろう。

アダムズの引退の意味については、下記に貼り付けるガーディアンの記事(ヘンリー・マクドナルド)が詳しく、なおかつわかりやすい。アダムズは党首の座を退いても影響力は維持していくと見られており、それはアイルランド(特に北アイルランド)流に読み解くとすれば、1年後も He hasn't gone away, you know! ということになっているという意味だろう。

【続きを読む】
posted by nofrills at 23:00 | todays news from uk/northern ireland | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年11月14日

北アイルランドの「夢」が終わった日

#DareToDream (Dare to dream) という標語を掲げてワールドカップ(ロシア大会)予選のプレーオフまで勝ち進んできたサッカー北アイルランド代表の「夢」が終わった。

daredtodream.png

FIFA(フランス系)と、FA(イングランド)および「英国」を構成するイングランド以外の3つのネイションのサッカー協会との間にある確執というか溝というかそういうものについての《物語》ないし《神話》もあり、北アイルランド代表がプレーオフで当たった相手が、FIFAの本部が置かれているスイス(ブラッター前会長もインファンティーノ現会長もスイス人……後者はイタリアとの二重国籍)だという時点である程度はシニカルな見方がされていたのかもしれないが、私が見ている範囲では、少なくともファーストレッグの試合が終わるまでは、そういうのには気づかなかった。Twitter上で見る北アイルランドのサポさんたちは、いつものごとく「わぁい(お歌歌ってぴょんこぴょんこ)」な感じで明るく楽しくしていた。「ポジティヴなヴァイブを送ります」ってやつだ。

しかし11月9日にベルファストで行われたファーストレッグの試合以降は、空気感が固くなったように感じられた。主審(ちなみにルーマニア人)の意味のわからない判定によってスイスにPKが与えられ、このPKが決勝点となってホームの北アイルランドは0-1で負けを喫したのだ。

結局、このPKによって得たスイスのアウェイ・ゴールが、プレイオフ全体の結果を決めた。12日にスイスのバーゼルで行われたセカンドレッグの試合で、北アイルランドは得点を挙げることができず、試合は0-0のドローで終了。結果、スイスがワールドカップ本大会出場権を手にすることとなった。

この日は英国圏では戦没者追悼の日曜日(リメンブランス・サンデー)で、追悼のシンボルである(というより、ここ2年ほどの間に明確に「愛国心のシンボル」となり「掲げない奴は愛国心がない」という踏み絵のような存在になってきているが)赤いポピーの花輪をささげる儀式が、北アイルランドのサポさんたちが試合のために赴いたバーゼルでも行われていた(映像の最後に注目。これがリハーサルを重ねて行われている儀式ではないことがわかるだろう)。

【続きを読む】
posted by nofrills at 01:00 | todays news from uk/northern ireland | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年11月08日

【「140字」時代の終わり】Twitterの文字数が増えた。

英語圏でTwitterが報道機関の人々の関心を本格的に引いたのは、2009年のイランの動乱のときだった。以来、ユーザーの数も幅も増やしつつ、Twitterはいろいろと機能を追加してきた。2009年夏はRetweetも正式な機能としては備わっていなくて(いわゆる「公式RT」ができるようになる前)、イランの動乱に関する「拡散希望 (plz RT)」のツイートは、手動で全文コピーして、"RT @username:" を冒頭に付け加えて送信していた。URLの自動短縮も備わっておらず、URLの文字数がすべてTwitterの投稿可能な140字にカウントされてしまっていたので、URLを添えて何かを書くということはあまり現実的ではなく、そうしたい人は別個URL短縮サービスを使ってコピペして投稿していた(そのURL短縮機能を内蔵していたのが、現在ではTwitter社に買収されたスタンドアローンのソフトウェア、Tweetdeckだった。Tweetdeckが突出してユーザー数が多かったのは、そういったユーザビリティに関する部分での補助的機能が充実していたからだった)。

それが本当に遠い昔のことのように感じられるようになった。

 ツイッターは11月8日、Twitterのツイートの制限文字数を拡大すると発表しました。

 同社は9月27日から、1つのツイートの制限文字数を、現在の140文字から280文字に拡大するテストを開始していました……。テストは利用者の中から5%のユーザーを対象に、およそ4週間から6週間かけて実施されました。

 テストの結果、「Twitterのスピードとシンプルさを保ちながら、より表現できるようにすること」が達成されたため、制限文字数の拡大に踏み切ったとのこと。

 なお、日本語、中国語、韓国語は引き続き制限文字数が140文字のままです。……

--- Twitter文字数拡大へ 日本は対象外
http://ascii.jp/elem/000/001/583/1583033/


このニュースを見たとき、私は「英語と日本語が混在しているときはどうなるんだろう」と思った。私のツイートの大半は、英語圏の報道機関のサイトのTweet thisボタンを使って記事見出しとURLを取得し、文字数に余裕がある範囲で日本語のメモを書き添えるというスタイルだ。なので、140字のままだと今回の変更の恩恵は全く受けられないということになるのだが、もし280字にしてくれているのならとても嬉しい。英語の見出しで文字数を食いすぎてしまって日本語ではほとんど何も書けないということが頻発しているのだ。

というわけで、8日の昼間に使ってみながらキャプチャでメモを取っていた。昼間は投稿している時間がなかったものを今(同日23時過ぎ)、アップしているのが本エントリである。

今回の変更に伴い、Twitterのウェブ版では投稿画面での文字数確認方法が変わった。まず、これまで入力欄の右下、Tweetボタンの隣に表示されていた文字数が消えている。

twittermojisuu-min.png

まさか何の指標もなくえぐるように打つべし、打つべしということになるのだろうかと一抹の不安を覚えつつ適当な文字列を入力していくと、入力欄の右隅(これまで絵文字のアイコンが表示されていたところ……絵文字は右の上の角に引っ越した)に円形の文字数インディケーターが表示されている。

twittermojisuu2-min.png

このインディケーターが、文字の入力にともなって変化していく。

twittermojisuu3-min.png



【続きを読む】
posted by nofrills at 23:37 | 雑多に | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年10月29日

英国からシリアに行ってイスイス団に加わったと思われる白人青年がクルド人地域で起訴されたが、英国政府は本音としては「殺害」方針支持に傾いていることだろう

「ジハーディ・ジャック」が起訴されたという報道が、10月28日、メディアに出ている

「ジハーディ・ジャック」と呼ばれているのはジャック・レッツという名の英国人の青年だ。現在21歳の彼は、まだティーンエイジャーだったころ、2014年にヨルダン経由でシリアのイスイス団支配地域に入った。「Aレベル」取得を断念して(「Aレベル」は日本の制度でいうとおおむね「高卒の資格」と「センター試験」を兼ね備えたものなので、「高校を中退」のような感じ)英国を発った彼は、「何が起きているのか、この目で見たかったからシリアに行った」ということを述べているようだが、実際のところはそうではなくイスイス団に加わるためにシリアに行ったのだろうという疑いがある。彼の「起訴」はその疑いについてのものである。

さて、その裁判だが、彼の出身地である英国で行われるわけではない。シリアで行われる。しかし「シリア」といってもダマスカスの中央政府の統治下ではない。北部のクルド人支配域だ。

シリア北部のクルド人支配域は、今もなお公式にはシリアの一部(つまりダマスカスの統治下)であるのかもしれないが、実態としては「自治区・自治領」になっている(英語では "de facto autonomous region" ということになる)。なぜそうなったかを簡単に振り返っておくと、だいたいこういう感じ――2011年2月から3月にかけてシリアで民主化要求運動(拷問の廃止など人権運動を中心としていた点では、エジプトの「革命」の過程とよく似ていた)が起こり、政権側がそれを武力で鎮圧したことで「平和的な改革要求」という道が閉ざされ、シリアは「内戦」の状況に陥った。アサド政権の軍や民兵と、反政権の諸勢力(民主化要求運動からイスラム主義まで幅広い政治・思想的バックグラウンドを有していたが「アサド政権反対」という点で英語圏報道では一様に "rebels" と称されていた諸勢力)が戦闘を重ね、非戦闘員が暮らす市街地に政権側が空から攻撃を行なってクラスター爆弾や即製の「たる爆弾」を投下して多大な犠牲者を出し、さらにはいわゆる「アルカイダ系」のサラフィー・ジハード主義の集団が「シリアの政治」という枠組みを超えた「イスラムの国を作る」とかいう主張を掲げて民主化要求運動が主導した「革命」に便乗し、さらにそれを乗っ取る形で我が物顔をするようになるという、シリアの内戦化・内戦の激化の過程で、アサド政権があまり注意を払っていそうになかったのが北部のクルド人の多い地域だった。比較的早い段階からこの地域の動向に注目していた英語圏のジャーナリストを私はTwitterでフォローしていたのだが、そういう人でもない限りは、大手メディアや国連のような機関の中の人たちを含めて大半は、「シリア情勢」といえば「アサド政権は(も、エジプトのムバラク政権やリビアのカダフィ政権のように)崩壊するのか」ということ、および「アルカイダ(後にイスイス団となった集団も含む)にどう対処すべきか」と「アサド政権の非人道行為・戦争犯罪行為にどう対処すべきか」ということに意識が向いていた。BBCのような国際メディアの人も、ワシントンDCのシンクタンクの人も、北部のクルド情勢についてはあまり注目していなかったのだ。そういう状況下、2013年11月に「シリア北部民主連邦 (the Democratic Federation of Northern Syria: DFNS)」(通称Rojava)の設立が宣言された。英語版ウィキペディアにマップがあるのだが、DRNSは、シリアとトルコの国境線に沿った地域を、地中海に面した西部のごくわずかな部分を除いてだーーっと支配下に置いている(マップでオレンジ色になっているアレッポ県北部はどうなんすかね)。このRojavaについて説明することはここでの本題ではない。詳細は2017年7月に勝又郁子さんが書かれた詳しい記事が、シノドスに出ているのでそれをご参照いただきたい(が、「バランス」という点では別の視点からの記事も参照する必要があると思う。例えば「アラブ人への差別」についてなど、一方のスポークスマンの発言だけで事実を決め込まない程度に慎重を期す必要があることは多い)。

さて、2014年に英国からヨルダン経由でシリアに入った英国人青年、「ジハーディ・ジャック」ことジャック・レッツが2017年10月に起訴されたのは、このRojava (DFNS) でのことだ。そのことを報じるBBC記事には次のようにある。

【続きを読む】
posted by nofrills at 23:36 | i dont think im a pacifist/words at war | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年10月18日

イスイス団が、勝手に「首都」としていた都市ラッカから、放逐された。

湯川さん、後藤さん、終わりましたよ。おふたりが他の人質と一緒に拘束されていた都市、イスイス団が勝手に「首都」としてきたラッカから、イスイス団がほぼ放逐されました。米軍の作戦担当スポークスマンによると、まだ完全に一掃されたわけではなく、残党がまだ少し市内に残っているようですが(完全にいなくなったという確認が取れていない)、米国が支援するクルド人などによる部隊、SDFがラッカでの戦闘の終了を宣言しました。正式な制圧宣言もほどなく出されるようです。

Raqqa: IS 'capital' falls to US-backed Syrian forces
http://www.bbc.com/news/world-middle-east-41646802

A US-backed alliance of Syrian Kurdish and Arab fighters says it has taken full control of so-called Islamic State's one-time "capital" of Raqqa.

Syrian Democratic Forces (SDF) spokesman Talal Sello said the fighting was over after a five-month assault.

Clearing operations were now under way to uncover any jihadist sleeper cells and remove landmines, he added.

An official statement declaring victory in the city and the end of three years of IS rule is expected to be made soon.


bbcnews17oct2017-min.png

以下、Twitterのログの貼り付け。Seesaaで提供されている簡易的な埋め込み機能を使うので、ちょっと読みづらい部分もあると思うが、ご容赦いただきたい。
【続きを読む】
posted by nofrills at 00:49 | i dont think im a pacifist/words at war | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年10月15日

Brexitを59:41で支持した町で、140年以上も存在してきた町のシンボルが消えるとき(プールの製陶・タイル産業)

イングランドの南西部、コーンウォール半島が突き出ていく根元の部分に位置するドーセット州に、プール (Poole) という町がある。海に面した港湾都市で、歴史は古く、16世紀には米大陸の植民地との交易で栄え、産業革命期には人口が増大したが、ここの港は水深が浅く、船舶の大型化にともなって港湾都市としての役割は縮小、代わって近隣のリゾート都市ボーンマスで消費される物資の生産拠点として繁栄した。第2次世界大戦時には、ノルマンディー上陸作戦で3番目に大きな連合軍の出発地点となり、作戦後は欧州大陸にいる連合軍のための物資供給拠点となった。このためドイツ軍の空襲は頻繁で、戦後はしばらく荒廃した時期が続いた。1950年代から60年代の再開発で荒廃した地域の古い建物は取り壊され、現在ではあまり古い町の面影をとどめてはいないようだ。1960年代には製造業が栄えたが、80年代から90年代にかけてサービス産業の拠点が多く移転してきたため製造業の重要性は相対的に薄れた。とはいえ、ヨットメーカーなどの大きな製造拠点が置かれていて、地域の経済を支えている。東京の地下街に漂う強烈な香りで存在感抜群の化粧品・トイレタリーのLushは本社と工場をこの都市に置いている。プール出身の著名人としては小説家のジョン・ル・カレ、映画『ホット・ファズ』などのエドガー・ライト、エマレクのグレッグ・レイクといった人々がいる。現在の人口は15万人ほど(2016年半ば、推計)。東京でいうと中央区程度だ(中央区は昼間の人口は多いが、住民として登録している人は少ない)。
https://en.wikipedia.org/wiki/Poole

ざっとそのような都市なのだが、ここにはひとつ、ロンドンととても縁の深いものを生産していた歴史がある。地下鉄駅に使われているタイルだ。

大英帝国が栄えていた19世紀後半の1873年、プールの波止場の地域で "Carter's Industrial Tile Manufactory" というタイル製造業者が事業をスタートさせた(この会社が、後に "Poole Pottery" となる)。ヴィクトリア時代のタイルといえばミントン・タイルが有名だし、英国の製陶業といえばそのミントンも製造拠点を置いていたストーク・オン・トレントが有名だが、南部のプールにも大きなメーカーがあったわけだ。

Swiss Cottage TilesそのPoole Potteryは、20世紀に入ると、欧州のアール・デコや当時の前衛絵画を取り入れた大胆なデザインで有名なトゥルーダ・カーターなどのデザイナーを擁し、また、1930年代に建設されたロンドン地下鉄駅で使われているタイルの多くを製造した。そのひとつが、今もベスナル・グリーン駅、スイス・コテージ駅などで見られる、ロンドン各地のシンボルを刻んだレリーフのタイル(右写真 via R~P~M's flickr. デザイナーはピカディリー・ラインのマナーハウス駅などにはまってるかっこいい換気口カバーをデザインしたハロルド・ステーブラー)。これらのタイルの中にはヴィクトリア&アルバート博物館に入っているものもある(V&Aでは製造業者名を "Carter & Co." と記載している)。

第二次大戦後はそういった実用的な産業製品というより家庭内で使う装飾的な色の濃い陶器(花瓶、飾り皿など)で有名なようだ。創業以来の波止場地区の工場は1999年に街中に移ったが、その工場は2006年に閉鎖され、Poole Potteryの生産拠点はプールの町を離れてスタフォードシャーに置かれるようになり、創業の地はPoole Quay Studioという観光施設となり、同社製品の博物館となっているほか、製陶体験講座の開設や、同社製品の販売が行われていた。
https://en.wikipedia.org/wiki/Poole_Pottery

(と、さらっと書いているが、21世紀に入ってからの同社はなかなか大変な経緯をたどっている。ウィキペディアでだいたいのことはわかる。現在は実用的テーブルウエアの製造で有名なデンビーなどとともに、Hilcoの傘下にある。)

そのPoole Quay Studioが、今日10月15日に閉鎖されることになっていて、BBCにその閉鎖がプールの街にどういう影響を与えるかということについての記事が出ている。

【続きを読む】
posted by nofrills at 18:00 | todays news from uk | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年10月14日

Twitter、暴言・嫌がらせ対策強化&サスペンド(凍結)についてより透明性が確保されていく方向で動くかも?

DL_VeDEV4AAc_5x.jpg13日、「今日はTwitterボイコットだ」というハッシュタグが流行り、14日、TwitterのCEOであるジャック・ドーシーが反応したということが、早くもIT Mediaの記事になっている。13日のボイコットは女性たちが主導したもので(賛同した男性たちも多い)、長い話を短くすれば、Twitterのダブル・スタンダード(だとユーザーには見えるもの)についての抗議行動。14日のジャックの反応は、その点についての取り組みを行っていくとする見解の表明。

こういう流れを短期間でオープンな場に生じさせた #WomenBoycottTwitter のハッシュタグについて、少し見てみたので、以下はその記録。ベースにあるのは今月に入ってから米芸能界(映画界)をがんがん揺さぶっているあの「大物のセクハラ・強要」のニュースだ。

10月上旬、米映画界の大物が、自分が大物であることを利用して、映画界を職場とする女性たちに「ひとりの男」というか「一匹のオス」として迫りまくっていたということが暴露された。すぐに、その大物が仕事をクビになったことがニュースになった。それから1週間の間に、何が起きたのかに関して非常に下品で下世話なディテール(日本語圏でニュース的な要素のある記事になっているものには含まれていないような下品で下世話なディテール)に、ネット上を歩いていれば犬が棒に当たるレベルで遭遇してしまうような状況になっている。

何があったのかというとこういうことだ。
「英国王のスピーチ」や「恋に落ちたシェイクスピア」など数々のヒット映画を手がけてきたハリウッドの超有名プロデューサーが、何十年にもわたって女優やスタッフに性的嫌がらせをしてきたことが明らかになり、大きな波紋を呼んでいる。

問題になっているのは、映画会社「ミラマックス」を設立したプロデューサーのハーヴェイ・ワインスタイン。

……

ワインスタインのターゲットになった人たちのほとんどは、若い女優や映画業界で仕事が欲しい人など、弱い立場にある人たちだった。

被害にあった女性のひとりは「私は28歳。生活費をかせぎ、キャリアを築こうとしていた。ハーヴィー・ワインスタインは(当時)64歳。世界的に有名な男であり、私は彼の会社で働いていた。パワーバランスは私が0、ハーヴィー・ワインスタインは10だった」と綴っている

--- 全米が怒っている。ハリウッド大物プロデューサーが女優たちにセクハラをしていた。アンジェリーナ・ジョリーも被害に。
2017年10月11日
http://www.huffingtonpost.jp/2017/10/11/harvey-weinstein_a_23239499/


この「大物プロデューサーのセクハラ」が世界的なニュースになっているのは、上に引用したハフポJPの記事見出しにあるとおり、最初にメディア(NYT)が報じて数日後には世界的な大スターたちが被害を告白するようになっていたからだが、最初期に被害にあったことが明らかになっていたのはアンジェリーナ・ジョリーやグウィネス・パルトロウのような大スターたちではなかった。

10月5日付のNYT記事には何人かの被害者の実名が出ているが、その中で、今からさかのぼること20年前の1997年にワインスタインの性犯罪行為の被害者となり、和解に応じた女優として名前が挙がっているのが、当時23歳だったRose McGowan(ローズ・マッゴーワン、ローズ・マクガワンなどカナ表記は複数ある)だ。

彼女は米国では『スクリーム』など数多くの映画・テレビ作品に出演しており、決して「無名女優」ではないが、アンジーのような、世界的にだれもが顔と名前が一致するような大スターではない。個人的にホラー映画見ないし、アメリカの映画・テレビドラマには疎いので私の感覚は当てにならないのだが、この人どんな女優だっけとウィキペディアを確認して、ああ、あの人かとわかったのは、Fifty Dead Men Walking(邦題は『インファナル・ミッション』)という実在のIRA潜入スパイの手記をかなりがっさりと映画化した作品に出演したときに「もし自分がベルファストで育っていたら、確実にIRAに入ってたと思う」と発言して物議をかもしたということを読んだときだ(その発言自体、何も物議をかもすようなものではないと個人的には思う。そのくらい北アイルランドの状況はひどく、IRAのプロパガンダは強力だったのだし)。あと、昔マリリン・マンソンと婚約してたことがあるとかいうのも聞いたことがあるような気はする。

そのくらいうっすらとしか知らなくても、23歳という若さで力関係を前提にした性暴力の被害にあい、法的には和解という道をとった(というより、とるよりなかったのだろう)ということだけ把握できれば、ワインスタインの件についての記事は読める。

【続きを読む】
posted by nofrills at 21:30 | i dont think im a pacifist/words at war | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年10月02日

警棒が振り下ろされる、投票しにきた人々の上に。

日本語圏では「暴徒鎮圧」という四字熟語や、「暴徒化したデモを警察が鎮圧」というフレーズがあらかじめセットしてしまうナラティヴが支配的になっていてもおかしくないので、がっつり防具で身を固めた警察官が人々の上に警棒を打ち下ろしているところやそのあとの状況をとらえた写真(静止した写真)が流れると、それを見た人の頭に真っ先に浮かぶのが「暴徒」なる熟語で、その連想が根拠のない思い込みにつながり、そのあとは何を見ても「これは暴徒である」という決め付けに基づいて判断されていくかもしれないと、私自身特にこの事例について明確な根拠を持っているわけでもないのに何となく思っているのだが、その点、映像は強いと思わされる映像が、カタルーニャ独立可否レファレンダム投票日の今日(10月1日)のTwitterには何本も流れてきている。

映像は、何か板状のものにあけられた四角い穴から撮影されている。最初はその穴がふさがれている。

catalanref01.jpg

穴をふさいでいるものがすっと取り去られると、四角い穴の向こうに人々が立っているのが見える。

catalanref02.jpg

20歳くらいの女性や白髪の男性など、多種多様な人々が立っているが、「暴徒化」でおなじみのブラック・ブロックのような黒ずくめは見当たらないし、覆面をしている人もいないし、手には何も持っていない。

catalanref03.jpg

最前列の人たちが画面の右に向かって何かを言い、群集の3列目くらいから後ろのあたりで次々と何も持っていない手のひらが上がる。

catalanref04.jpg

次の瞬間、四角い穴が左方向にパンして、群衆の3列目、4列目あたりの様子を映し出す。

catalanref05.jpg

四角い穴が元の位置に戻ると、群集の中から「せーの」という掛け声のような雰囲気の声があがり、最前列の人々も何も持っていない手のひらを画面右に向かってかかげる。

catalanref06.jpg

そしてさらに多くの手のひらがかかげられ、歌が始まる。

catalanref07.jpg

次の瞬間(歌はまだ2小節も歌われていないくらい)、画面の右からライオット・ギアの警察官が助走をつけて踏み込んでくる。

catalanref08.jpg

画面手前の人々の影になっているが、踏み込んできた警官は群集の最前列の人に警棒を振り下ろしている。

catalanref09.jpg

そして次の瞬間には、画面手前でも右側から警官が突撃してくる。最前列に立っている女性が思わず手を下げて防御の体制をとる。

catalanref10.jpg

勢いをつけて踏み込んできた警官は、思い切り突撃する。その盾でぶつかられているのは、最前列にいる若い女性だ。

catalanref11.jpg

女の人の悲鳴と思われる声が手前でして、潰されそうになった女性は両手で盾を押し返す。

catalanref12.jpg

そしてその一瞬後にはますます多くの警官が画面の中に、つまり群集の最前列に向かって雪崩れ込む。

catalanref13.jpg

群集を散らすことを目的としたノン・リーサルの武器を持って雪崩れ込んできた警官が「バン」と何かを発射する。画面の中ほどでは別の警官が警棒を何かに打ち付けている。

catalanref14.jpg

catalanref15.jpg

catalanref16.jpg


【続きを読む】
posted by nofrills at 01:45 | i dont think im a pacifist/words at war | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年09月28日

【訃報】シェイマス・ケルターズ(北アイルランドのジャーナリスト)

Lost Livesという大著がある。北アイルランド紛争でのひとつひとつの死を淡々と記録した1600ページ以上の本で、5人のジャーナリストが共著者としてクレジットされている。シェイマス・ケルターズはそのひとりだ。

何度か版を重ねているが、Goodreadsに掲載されているデータによると、最初に出たのは1999年10月。1998年の和平合意(ベルファスト合意、通称「グッドフライデー合意」、略称GFA)で暴力が停止したということが、おそらくまだ事実として確信されていなかったのではないかという時期。今から18年前。というか、ほぼ20年前。

そのときにあのような大きな仕事をしたジャーナリストのひとりが、現在まだ54歳だということを、その人の訃報で知った。

Seamus Kelters, BBC journalist and author, dies aged 54
http://www.bbc.com/news/uk-northern-ireland-41423147

twittertrendsbelfast28sept2017-min.png同じ日に雑誌Playboyを創刊したヒュー・ヘフナーの訃報(91歳)があり、そちらがBBC Newsウェブ版のトップニュースになり、TwitterでもUKやWorldwideのTrendsの上位に入るなど非常に大きな扱いを受けている一方で(私はヘフナーについては別に関心はないので訃報記事を読んでもいないのだが……別に「お世話になった」記憶もないし、むしろ「男たち」のPlayboyについての語り、ヘフナーの「偉人」化というナラティヴを、万人が読むものとして押し付けられるのが――トップニュースになっているということは、そういうことだ――、うっとうしくてたまらない)、ケルターズの訃報はBBCにおいては「英国の一地域」と扱われている北アイルランド面で何番目かという扱いだ(TwitterのBelfastではTrends上位に入っているが)。


bbcnewsni28sept2017-min.png

訃報の記事では、今のところ(このあと更新されるかもしれないが)、亡くなったのが水曜日であるということしかわからない。そのほかに書いてあるのは故人の経歴・業績と、突然の死を受けてのBBCのジャーナリストたちの反応で、死因はおろか、「長年の闘病の後に」とか「つい先日病に倒れ」とかいった情報もない。ただ、事実として、彼は54歳で亡くなった。伝えられているのはそれだけだ。急なことだったのだろう。

Twitterを見ると、9月27日付けのツイートをRTしているのが最後だ。RTされているツイートのタイムスタンプは、日本時間で27日午後4時すぎ。それから24時間も経たないうちにBBCに訃報記事が出ていたことになる。急なことだったのだ。

sktw-min.png

Twitterでお名前を検索してさかのぼっていくと、下記のようになっていた。


【続きを読む】
posted by nofrills at 21:00 | todays news from uk/northern ireland | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年09月15日

今日のロンドンのボムは、攻撃者が意図した通りには爆発しなかったようだ。

北朝鮮のミサイル発射で始まり、ロンドンのボムで終わる一日だった

DJwBkpAXcAA1BZK.jpg今日のロンドンのボムは最近のニュースというより、遠い日の「ボム・スケア」を生々しく思い出させるようなものだったが、攻撃者にとって「成功」と呼べるような爆発には至らず、爆発現場となった地下鉄車両の写真は「真っ黒く焦げた車体」や「ぐにゃりと曲がった扉」のような、ある意味「わかりやすい写真」ではなく、死者はなく、22人が病院に搬送されているという負傷者のうち誰も命に関わるような怪我をした人はいない。多くは火傷だそうで、車内に乗り合わせていた人々は「火の玉がこちらに向かってきた」、「四方八方に炎が」といった証言をしていたが、報道機関のサイトでビデオを見ても、例えば2005年7月7日の攻撃のあとのような様相の人はいなかった。つまり、今日は攻撃された側(地下鉄やその利用者、広く見れば一般の社会)が「ラッキー」だったのだ――そんな言葉を、どうしたって思い出さずにはいられない。

Today we were unlucky, but remember we only have to be lucky once. You will have to be lucky always.

https://en.wikipedia.org/wiki/Brighton_hotel_bombing#IRA_statement


警察や報道機関のツイートと、自分でガーディアンとBBCのLive blogを見ながらツイートしたものを中心に、一覧できるようにしてある。情報の追記もそちらで。

ロンドン、地下鉄車両内で爆発、22人が負傷で病院に搬送(2017年9月15日)
https://matome.naver.jp/odai/2150547472625257001

爆発物が仕込まれていたのは、建築現場などでよく使われている作業用バケツのようだ。それが激安系スーパーマーケットLIDLの何度も使えるショッピングバッグ(エコバッグ)に入れられていた。そういう荷物を持って誰かが地下鉄に乗っていても、それらしい服装や年恰好の人だったら特に目立ちはしなかっただろう――今日までは。

2005年7月7日のあと、ロンドナーの個人ブログで「電車の中で、iPodの白いイヤフォンコードを背中のリュックから出して音楽を聴いている人を見ると、ドキっとするようになった」という個人の言葉を読んだことを思い出す。


【続きを読む】
posted by nofrills at 23:43 | todays news from uk | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年09月09日

非実在「イケメン戦場フォトグラファー」の件、あれこれ記事を読んでわかったことのメモ(&「アミナ」の連想)

「アミナ・アラフ」のことを思い出すが、「アミナ」を軽く超える詐欺だ。アミナは、プロフィール写真などは全然関係のない人がFacebookにアップしていた写真をパクってはいたが、基本的に、テキストベースで、「創作」を「事実」として、個人ブログやネット上の掲示板、Facebookのような場で語っているだけだった。しかし今回発覚したのは、架空の「戦争写真家」が、どこかからパクってきた写真を左右反転するなど加工して自分の写真として大手に売り込み、採用されていたという事案である。「アミナ」の実在を疑わなかった大手メディアも問題だが、実在しない「戦争写真家」の写真を配信・掲載した大手メディアはもっと問題だ。

他人の写真をパクって加工して自分の写真と偽っていただけではない。その架空の「戦争写真家」は、自分の顔(&ボディ)写真として、全然関係のないイケメンの写真をパクってきて、それを別のところからパクってきた戦地の写真と合成して「取材中の僕」を捏造してさえいた。それだけでも呆れて物も言えなくなる話だが、「若い頃に白血病にかかって生還した」とか、「フォトグラファーであると同時にサーファーで、世界を回っている」とか、「国連機関で人道支援をしている」とか、全てが嘘。バファリンの半分はやさしさでできているかもしれないが、このオンラインの人格の半分は虚偽、半分は捏造だ。そしてその「自分自身の悲劇を乗り越え、他者の悲劇を記録し、人々に伝えているヒロイックな人道主義者♂(しかもイケメン)」というペルソナで、オンラインで女性をたらしこんで、自分に都合のよい環境づくりをしていたらしい。それも複数。

「アミナ」は正体がばれてさらし者になったが、この「戦争写真家」は詐欺がばれれば話は終わりで、「中の人」は名乗り出ることもなく、Instagramの彼のアカウントが消えたように、ただ消えてしまうだけだろう。

instagram-edu-martinsp.png

この話を知ったのは、いつも巡回しているガーディアンで見た記事だった。

War photographer who survived leukaemia exposed as a fake
Dom Phillips in Rio de Janeiro
Tuesday 5 September 2017 19.04 BST
https://www.theguardian.com/world/2017/sep/05/war-photographer-eduardo-martins-survived-leukaemia-exposed-fake?CMP=share_btn_tw

問題の人物は「Eduardo Martinsという32歳のブラジル人フォトグラファー」を名乗っており、シリアのアレッポやイラクのモスル、ソマリアのモガディシオに取材に入っていると語って/騙っていた。

【続きを読む】
posted by nofrills at 07:46 | i dont think im a pacifist/words at war | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年09月01日

暴力と憎悪の連鎖、そしてテロリズム……非主流派リパブリカンに武器・爆薬を流すなどしていた英軍兵士の件(UTVのドキュメンタリー)

前項「たった1人で北アイルランド和平をひっくり返していたかもしれないテロリストが英軍内に浸透していた件」の続き。

■判決から1ヶ月経過し、UTVがドキュメンタリー番組を制作
さて、判決が出てから1ヵ月後、8月31日に北アイルランドのTV局UTV(現在はITV傘下)の "Up Close" という番組枠で、キアラン・マックスウェルの事件と現在のディシデント・リパブリカンについてのドキュメンタリーが放映された。ウェブで誰でも見ることができる(英国内からの接続でなくてもOK。ただしBrightcoveなので要Flash)。長さは約45分。見終わるとぐったりするような内容だ。

「まるでスパイ小説のようですが、今日の番組でお伝えすることには、一切、フィクションの要素はありません」と導入部で述べるレポーターは、UTVのシャロン・オニール記者。アイリッシュ・ナショナリズムの研究者として有名なエイモン・フェニックス博士や、元軍人といった人々の解説も要所要所に入っている。

Up Close - Marine Maxwell the Traitor
http://www.itv.com/utvprogrammes/utv-up-close/up-close-marine-maxwell-the-traitor

最初の3分半は番組オープニングと導入部で、特に冒頭1分40秒までは「海兵隊とはどのような組織か」を説明するパート(映像は英軍のプロモビデオ)なので飛ばしてもよい。

本編はキアラン・マックスウェルの生い立ちの説明から始まるが、ここで驚いたのは、「カトリック」である彼のお父さんが英軍人だったという事実だ。

現在31歳の彼が生まれたのは、1985年か1986年、北アイルランド紛争のど真ん中で、「カトリック」のコミュニティにとって英軍は基本的に「敵対的勢力」であった時代だ。番組のナレーションは言う。「当時、カトリックが治安当局で働くことは通常ではなかった。しかしラーンにおいては事情が違っていた」。

「数」があること、「過半数」を取ることがストレートに「正しさ」を意味するかのような単純化された世界観が支配する土地の、圧倒的に「プロテスタント」ばかりの地域で、常に「少数派(マイノリティ)」である「カトリック」。労働者階級のカトリックにとっては、思想や理念より働き口が重要だ。そして2002年、16歳のキアラン・マックスウェルは、ロイヤリスト(UDA)のモブにぼこられ重傷を負い、心的外傷も受ける。そのとき、彼はシン・フェインの機関紙であるAn Phoblachtの取材を受けているが、その時代にはもうシン・フェインにとって暴力(フィジカル・フォース・リパブリカニズム)は過去のものとなっていたわけで、ここで彼がAnPの取材を受けていたことは、彼の暴力的な過激主義への道とは関係なかろう。

暴行事件のあと、キアランの両親は変化を求め、息子にカウンセリングを受けさせるなどした。そして暴行から7年後の2009年に息子が志願したとき、両親は息子は完全に立ち直ったと認識した。2010年、24歳で軍隊に入った彼は起訴訓練を終えてイングランド南西部サマーセット州トーントンを拠点とするようになる。この町は軍隊とのつながりが非常に強い町で、「父親も兄も弟もみな海軍」といった家も多くあるし、人々は軍を大切に思っている。そのような町を拠点とする軍人の1人が、英軍と敵対する暴力主義の組織(テロ法に指定された「テロ組織」でもある)のためにあのようなことを行なっていたという事実に、人々は驚愕と怒りを隠さない。

番組はここから、「キアラン・マックスウェルの2つの顔」に迫っていく(ここまでで10分)。

【続きを読む】
posted by nofrills at 23:00 | todays news from uk/northern ireland | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

「蚊を脅迫してTwitter凍結」なる話題、BBCは裏取った上でサイトに載せてるのかな。FakeNewsではないという確証が持てないんだけど

BBC News Japanのこんな記事が話題になっている(このサイトの記事は、英語記事からの翻訳である)。

何カ所も刺されて蚊に「死ね!」とツイート……アカウント凍結
2017年08月31日
ポール・ハリソン、BBCソーシャルニュース
http://www.bbc.com/japanese/41105014

私はBBC Newsは英語で読むので、BBC News Japanはほとんど見ないのだが、何となく見てみたこの記事のページには、何かとっても違和感がある。何だろう……と数秒眺めて気がついた。

この記事、ほかのニュース記事(例えば "「対話は答えではない」 北朝鮮対応でトランプ米大統領" っていう超シリアスな記事)などと完全にフラットに並んでいるように見えているのが、違和感の原因だ。

mosquitotwitter01-min.png


ちなみに原文(BBC Newsの英文)はこう。記事セクションの上にBBC Trendingというヘッダーが入っていることに注目。これがBBC Newsサイト内での「コーナー」を表す。

mosquitotwitter02-min.png

本来BBC Newsにはコーナーの区分があって、「シリアスなニュース」の記事と、いわゆる「こぼれ話」「珍ニュース」や「ネットで話題」を扱うブログ的な記事とは区別ができるようになっている。それを示しているのが記事セクションの上にあるヘッダーなのだが、仮にBBC News Japanのサイトで閲覧した場合のようにそのヘッダーがない状態でも、内容的に考えて、この記事は誰がどう見ても後者(「こぼれ話」「ネットで話題」系)だ。

BBC Newsのサイトをよく知らない人にその違いを言葉だけで説明するのはとても難しいので、さらにキャプチャ画像を見ていただきたい。左が普通の「シリアスなニュース」(この記事……何かえらいことになってますね)、右が「珍ニュース」(この記事)。

ordinarynews-min.png newsfromelsewhere-min.png

右側のキャプチャ画像のヘッダーに書かれているNews from Elsewhereは「世界のどこかからのニュース」というような意味で、この記事の執筆者クレジットは、"By News from Elsewhere...as found by BBC Monitoring" と記されている。で、このBBC Monitoringというのは、英国(というか英語圏)以外のメディアの報道をモニターする部門、つまり外国の新聞やテレビで報道されている「小ネタ」的な話題を英語で紹介する部門のことだ。BBC Monitoringの記事は、BBCに所属するジャーナリストが裏取り・取材をしたものとは違い、基本的に「外国のメディアが何を報道しているか」を英訳したもの。だからこのコーナーの記事は、BBCのサイトに出ているからといって「BBCの報道」と考えるわけにはいかないし、「BBCだから内容もしっかりしているだろう」と前提することも、厳密には、できない。

このような、BBCのジャーナリストが裏取り・取材をしたわけではない記事が出るコーナーが、BBC Newsのサイトにはまだ他にある。それが「ネットで話題」系の記事が掲載されるBBC Trendingのコーナー(今回の「蚊への脅迫でTwitterサスペンド」の記事の掲載コーナー……BBC News Japanのサイトではそういうコーナーに掲載されていることがわからないのだが)である。

trending-ugc-min.png

このコーナーのページには、PCで見た場合は右肩(iPadだとページの一番下)に "About this Blog" として、 "The BBC bureau on the internet. Reporting on what's being shared and asking why it matters." という説明がある。「このブログは、BBCのインターネット支局です。何が話題になっているかを報告し、なぜそれが重要性を持つのかを問います」という意味。つまり「ネットで話題になっていることを解説する」ということだ。簡単にいえば、基本的には「ツイッターのまとめ」のようなものである(そういう記事は、英語圏では大手報道機関が量産している。インディペンデント系列のindy100.comが具体例としてわかりやすいだろう)。

このコーナー(ブログ)が取り上げるトピックが英語圏のものである場合、また英語圏外のものでも最初から英語で書かれている場合は、専門家のコメントが添えられていたり、何らかの分析が行なわれていることも多い(単なる「まとめ」のことも多いが)。時には非常にしっかりした仕事がなされていることもある。例えば2014年11月、シリア内戦に際しどっかの「意識高い系」のアーティスト気取りが、役者を使って撮影したフィクションのビデオを「実際の映像」としてネットにアップするというとんでもない出来事があったとき、デイリー・テレグラフなど大手メディアのアカウントも含め、非常にたくさんのアカウントが映像を真に受けてそのまんま拡散する中、ファクトチェック専門業者と組んでがっつりと冷静な検証を行ない、ビデオの作者を突き止めていたのがこのBBC Trendingだ。ごく最近も、極右による反Antifaの情宣で、事態とは無関係な家庭内暴力についての写真が勝手に利用されていたことについての調査・検証記事を出している(こちらは検証は外部の人が行なっている)。

だから、BBC Trendingのコーナーの記事だからといって即「BBCが取材せず、ネット上の情報をまとめている記事だ」と決め付けることはできないのだが、それでも、このコーナーの記事については、「BBCがこのように報じている」として他人に伝えること(拡散すること)ができるクオリティがあるかどうか、かなり慎重にならなければいけない。

というところでようやく本題だが、「蚊を脅迫してTwitterアカウントをサスペンドされた日本人」の記事は、BBC News Japanのサイトではわからないが、BBC Newsのサイトでは絶対に見間違いようがないくらいはっきりと、BBC Trendingと表示されている。
http://www.bbc.com/news/blogs-trending-41097947

【続きを読む】
posted by nofrills at 11:00 | 雑多に | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年08月31日

たった1人で北アイルランド和平をひっくり返していたかもしれないテロリストが英軍内に浸透していた件

英軍に、今なお武装闘争を信じて活動を続けているアイリッシュ・リパブリカニズム信奉者が浸透していた、ということになる。それも単なる「英軍」ではない。海兵隊だ。軍隊でのエリート集団に非主流派リパブリカンのテロリストが入り込んでいたのだ。唖然とするよりないよね。

テロリストの名前はキアラン・マックスウェル。30代に入ったばかりでFBなども普通に使っている「いまどき」の若者だ。FBには軍隊での訓練中に笑顔を見せる写真などがアップされていた。



2016年に発覚したこの事件の判決が出たのが、今からちょうど1ヶ月前の2017年7月31日だった。そのときからずっとブログに書こうとしていたのだが、どうにもまとまらずにずっと下書きのままになっていた。判決から1ヶ月になるし、そのタイミングでUTVのドキュメンタリーも出たので、もう無理にでも公開しておこうと思う。以下、事件発覚時までさかのぼってみていくので、記述はとっちらかったものになるかもしれない。

これは「ディシデント・リパブリカン組織のやったこと」というより、「ディシデント・リパブリカン組織に参加する個人のやったこと」だ。そしてその個人は、もしも何も発覚せずに活動を続けていたら、たった1人でも北アイルランド和平プロセスをひっくり返していたかもしれない。大げさに煽るのではなく、彼、キアラン・マックスウェルのやっていたことは、本当にそういう重大性を持っていた。

判決を受けて、英国政府の北アイルランド担当大臣は、この件を解決に導いた捜査当局に敬意を表し、「人命を救ったことは間違いない」と評価し、「この個人(被告)がなそうとしていた害は、(禁固18年と保護観察5年の計23年という)量刑を見れば、いかほどの規模になろうとしていたかがわかる」と述べている(原文は下記)。



本来ならば、判決のあったタイミングで北アイルランド自治政府の2トップ(ファーストミニスター&副ファーストミニスター)からも自治政府の司法大臣や各党の警察担当者からもコメントが出るところだが、あいにく北アイルランドの自治議会・自治政府は、今年1月に瓦解して以来、ストップしたままだ。その自治のシステムを再起動させる話し合いも、7月のプロテスタントのパレード・シーズンを前に決裂し、そのまま夏休みに入っていた。北アイルランドの政治家たちは、この厄介なテロ事案について、特に発言する必要に迫られることなく過ごしているということになる。

ただ、仮に、キアラン・マックスウェルの判決が出たときに自治システムが通常通りに稼動していたとしても、政治的にはさしておおごとにはならなかっただろう。「IRA」という看板につい目を奪われて、「シン・フェインの身内」と思ってしまうかもしれないが(実際、そのように位置づけてわめきたてているロイヤリスト過激派もいる)、今「IRA」という看板で武装活動を続けているのは、北アイルランド紛争期に「IRA」だったProvisional IRAではない。Provisional IRAの方針に反対し、離反していった分派組織だ。キアラン・マックスウェルが関わっていたContinuity IRAは、そういった「非主流派リパブリカン武装組織 (dissident Republicans)」の主要組織のひとつだが、そういった非主流派のことは、ユニオニストだけでなく、シン・フェイン(リパブリカンの主流派)も厳しく非難している。実際、「厳しく非難」などという言葉では生温いほどだ――2009年3月、時代遅れの「武力至上主義」を貫こうとして警官を撃ち殺した非主流派に対し、故マーティン・マクギネスが発した言葉は、これ以上厳しい非難の言葉はないというくらいに厳しいものだった。
http://www.irishnews.com/news/2017/01/21/news/widow-of-murdered-officer-stephen-carroll-hails-mcguinness-for-denouncing-traitors--895619/
Mr McGuinness, speaking as deputy first minister, received a death threat after branding the killers "traitors".

He said: "These people, they are traitors to the island of Ireland. They have betrayed the political desires, hopes and aspirations of all of the people who live on this island."


マクギネスはそれまでにも何度もディシデンツから脅迫を受けていたのだが、この発言のあとはますます深刻な脅威にさらされることとなっていた。ネット上には今も、自分たちを「アイルランドにとっての裏切り者」呼ばわりしたマクギネスに対するディシデンツの反発・中傷・脅迫の言葉が残っている(新聞記事の一部として、あるいは彼ら自身のブログやYouTubeなどに)。

閑話休題。

事件が発覚したのは2016年3月だった。その後容疑者が逮捕・起訴され、最初の報道から約1年4ヶ月後の2017年7月に裁判が終わり、禁固18年という刑が言い渡され、事件の全貌が明らかになったのだが、当初は軍人が絡んでいるなどということは誰も思いもしなかっただろう。私もだ。

■発端〜武器庫の発見
1916年のイースター蜂起から100年という記念の年である2016年の3月、北アイルランドの自然公園(Carnfunnock Country Park)内、雑木林みたいなところの地面に掘られた穴に、ガチでやばいものがいろいろ蓄えられているのが発見された。発見は(垂れ込みなどによるものではなく)偶然で、通りすがりの人が異状に気がついて警察に通報した、と報じられていた。

北アイルランドには、周知の通り、今でも活動を続けている武装組織がいくつか(いくつも)ある。往時に比べれば規模は小さいし、社会における広範な支援もないが、紛争終結後の武装解除最終期限を過ぎても、武装を放棄していない集団が複数ある。また、かつての紛争期に密かに作られた「武器庫」がそのまま忘れ去られていたケースもある(そういうのが発見され、70年代のソ連製のRPGが出てきたりとかしたことも実際にある)。だから最初に「武器庫発見」のニュースの見出しを見たときは「紛争期の遺物かなあ」と私は思った。紛争期どころか、ひょっとしたら100年前の異物かもしれない、とも。

しかし、記事を読んでみたら明らかにそうではなかった。この脅威は現在のものだった。

Weapons cache found in Carnfunnock country park, Co Antrim
Sunday 6 March 2016 14.42 GMT
https://www.theguardian.com/uk-news/2016/mar/06/weapons-cache-found-in-carnfunnock-country-park-co-antrim

【続きを読む】
posted by nofrills at 23:30 | todays news from uk/northern ireland | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年08月28日

「立て続けのテロ」と「過剰反応」が乱れ飛び、「情報操作」も加わって、何が何やら……という日々

欧州では夏も終わりつつある8月第3週、理不尽な暴力が多くの命を奪い、地域社会に傷を負わせた。8月17日にスペイン、カタルーニャのバルセロナとカンブリス(カンブリルス)で車を使った攻撃があり(この事件に関わったテロリストのグループは、現時点で全員死亡もしくは逮捕・起訴されている。バルセロナの事件の前日にアルカナーという町にあるガスボンベ・ボム工場が誤って爆発したため、ボムを使った大規模な攻撃計画が頓挫し、代わりに車突入という手段がとられたと思われる)、その詳細な状況もまだわかっていないうちに18日にはフィンランドのトゥルクで刃物を使った攻撃がなされた(殺傷の容疑者は1人で起訴済みのほか、現時点で逮捕されていない国際手配者あり)。カタルーニャのテロで尊い命を奪われた被害者は、現時点で16人(事件後ずっと入院していたドイツ人女性が亡くなって1人増えた)、フィンランドでは2人。

続く8月第4週は、犠牲者が出たという話は聞かなかったものの、やはり「テロ」やそれに類する事件が、立て続けに複数個所で起きた。23日(水)の夜にオランダのロッテルダムで行なわれる予定の米バンドAllah-Lasのライヴに対して何かが行なわれるいう情報をつかんだスペイン当局からオランダ当局に連絡があり、結果、ライヴは中止となった(このときに、たまたまそのライヴハウスの近くを「ガスボンベを積んだ車」がふらふらと走っていたため、運転手のスペイン人が逮捕されたので情報が混乱し、Twitterなどでは「欧州のシェンゲン・エリアをdisる会」みたいなBrexit支持のアカウントなどが根拠も示さず自分たちの主張をわめきたてていたが、その車はライヴの中止とは無関係であることが判明している)。この事件では翌24日にはロッテルダムからあまり離れていないブラバント州の町で、22歳の容疑者が逮捕され、さらに2人目の容疑者も逮捕されたが、その後起訴されたとかそういう報道は私は見ていない。そもそも「Allah-Lasという名前のバンドに脅迫」などという事実があったのかどうかも判然としない。スペイン当局がオランダ側に緊急事態を告げるきっかけとなったのはチャットアプリTelegramの投稿で、Telegramはイスイス団メンバーやその支持者が使っていることで有名ではあるが、イスイス団以外の一般の人々も普通に使っている。

【続きを読む】
posted by nofrills at 23:20 | i dont think im a pacifist/words at war | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

「想像の共同体」を背負った拳が巨額のマネーを生む。

普段、アイルランド&英国のニュースが入ってきやすいようにしてあるので、格闘家(総合格闘技)のコナー・マクレガーの話題は非常に頻繁に見かける。マクレガーは、私がモニターの中で見ている世界では誰もが知るスポーツ界のスーパースターで、ファッション・アイコンでもあり、格闘技に興味がなくてもいつの間にか顔と名前が一致するようになってしまっているような人だ。だから、米国時間で26日(土)夜、日本時間で27日(日)昼間にラスヴェガスで行なわれた「世紀の一戦 the Fight of the Century」のことは、開催が決まったときから日常的に記事見出しなどを見かけていた。

ちなみに「世紀の一戦」という表現は、1971年に行なわれたボクシングのモハメド・アリとジョー・フレイジャーの試合について使われたのが一番有名なようだが、実際にはそう銘打たれた試合は、20世紀には1910年、1921年、1938年に行なわれており、フレイジャーとアリの試合は「世紀の一戦、その4」だったようだ(ここに記載がないだけで、他にもそう銘打たれていた試合はあったのかもしれないが)。21世紀に入ってからは、2015年のフロイド・メイウェザーとマニー・パッキャオの試合が「世紀の一戦」とされており、今回、2017年のメイウェザー対マクレガーの試合は21世紀2度目&メイウェザーにとって2度目の「世紀の一戦」だった。これからもきっと何度でも「世紀の一戦」は行なわれるのだろうが、メイウェザーはこれで引退してしまったので、メイウェザーにとっての「世紀の一戦」はこれが最後となるようだ。

なお、私は個人的に格闘技には特に関心はなく、試合も見ていない。本稿は試合そのものについては扱わない。この試合をめぐるムードというかナラティヴについてのメモである。

それにしても、この試合の事前の過熱っぷりはすごかった。BBCのようなメディアでも、普段、ボクシングであれ総合格闘技であれ、こんなふうに試合が話題になることはないというくらいに大きな話題になっていた(だから、総合格闘技にもボクシングにも特に関心のない私でも、いつどこで行なわれる試合で、どんな選手がこぶしを交えるのかといったことは自然と把握していた)。試合で動く金もハンパではなく、何かもうみんながギラついた感じで見つめているという感じだった(マクレガーの試合がいかにカネを生むかということについてはスポーツナビの高橋テツヤさんの記事が詳しい。UFCデビューの前週まで役場に並んで生活保護を受けていたマクレガーが、巨額のマネーを叩き出すようになるまでを振り返っている)。

だがアイルランドでの熱狂は、そういうギラつきとはちょっと違っていた。コナー・マクレガーは、本人がアイリッシュ・トリコロールの旗(アイルランド国旗)を多用するなどしてアピールしまくっている通り「アイルランドの息子」だ。「うちのコナー・マクレガー」だ。

かくして、ラスヴェガスは、試合前にこういうことになっていたという(撮影地点はマンダレイ・ベイ・リゾートのようだ)……サッカー系の大手Twitterアカウントが「アイリッシュがその場を掌握したときには何もなすすべなどなくなる。そのことを、アメリカのセキュリティは素直に受け入れるべきである」と述べるような状態に。

【続きを読む】
posted by nofrills at 20:30 | todays news from uk | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年08月21日

【訃報】リズ・マッキーン(ジミー・サヴィルの性犯罪について、BBCで調査報道を行なった記者)

「ジミー・サヴィル Jimmy Savile」という名は、現在、日本語圏ではどのくらい記憶されているだろうか。

1926年に生まれ、2011年に没したサヴィルは、1960年代から2000年代にかけて、BBCテレビの音楽番組や子供番組の司会者として活躍した国民的なTVパーソナリティだった(テレビのほか、ラジオの仕事もある)。1971年にOBE, 1990年にナイト爵という栄誉に輝いてもいる。

誰も文句の付けようのない名士にしてスターだったはずのこの著名人が、その立場を利用して多くの年少者を傷つけた汚らわしい性犯罪者だったことが公になったのは、本人が死んでから1年になろうとするころだった。

2012年10月10日 「お茶の間の人気者」で「名士」だった人物の公然の秘密は、あまりにおぞましいものだった。
http://nofrills.seesaa.net/article/296724178.html

実際には、サヴィルがセクシャル・プレデターだったことは、業界では公然の秘密だったという。それを、サヴィルは人格者であると思い込んでいる世間一般に知らしめたのは、2012年のITVの番組と、BBCの調査報道だった。

この「BBCの調査報道」は、局内ですさまじい抵抗を引き起こしていた。

「疑惑」が公になったあと、BBCはしばらく、「ことを荒立てない方向」で何とかしようとしていたようだ。自局の調査報道の看板番組、Newsnightではサヴィルの件は放送しないと決定したりしていた。しかし、事の深刻さゆえ、その方針は1週間もしないうちに撤回され、もう一つの看板番組であるPanoramaでサヴィルの件を扱うことにしたという。
http://www.guardian.co.uk/media/2012/oct/09/jimmy-savile-bbc-sex-abuse-allegations

http://nofrills.seesaa.net/article/296724178.html


BBC - The Editors: Jimmy Savile and Newsnight: A correction http://bbc.in/VjeB4l サヴィルの疑惑についてNewsnightで放映しないことにした件でのディレクターの説明が不正確なものであったという声明

https://twitter.com/nofrills/status/260330536831176704


ジミー・サヴィルの真の顔を調査し、その報道によって英国の人々に衝撃を与え、その後、「ギョーカイ」ではびこってきた同様の卑劣な性犯罪を刑事事件化する道を拓いたBBCの記者とディレクターは、「勇気あるジャーナリスト」として同僚から尊敬され、「重要な仕事をした社員」として上司から評価されて当然だった。「さすがBBC、身内にも遠慮せず、すごい報道をする」といった外部の賞賛の声が当時あったが、それはそのような尊敬や評価があって当然という思い込みとセットだった。

だがそのような思い込みは、実際には「思い込み」に過ぎなかった。ジミー・サヴィルの「公然の秘密」を調査し裏取りして番組にしたジャーナリストたちは社内で干され、その調査報道には上層部からの妨害があったことが大きく報じられたのは、2015年夏のことだった。調査報道班のプロデューサーはBBCをクビになり、記者は自発的にBBCを辞めざるをえなくなった。閑職に追いやられた者もいた。

そのような経緯でフリーランスとなった記者は、この年代のジャーナリストの多くと同じように、北アイルランド紛争関連の取材を経験していた。複雑で微妙な武力紛争のなかの取材を重ねて実績を作ってきた有能な記者だ。彼女を追い出すBBCって……とドン引きするのが普通の反応だろうが、そんな反応などものともしないのがBBCなのかもしれない。

ともあれ、その記者、リズ・マッキーンの名前が、18日(金)に久々にBBCのサイトに出ていた。死亡を告知する記事だった。

サヴィルの性犯罪を暴いたリズ・マッキーンは、52歳の若さで急死した。死因は脳卒中(脳血管の病気は本当に怖い。私の周囲にも、20代で朝起きてこないので家族が見に行ったら……といった事例がある)。

Ex-BBC reporter Liz MacKean dies after stroke
http://www.bbc.com/news/uk-40981585

Ex-BBC News correspondent Liz MacKean has died after suffering a stroke.

MacKean, 52, worked for the corporation for more than 20 years but left in 2013 amid a row over the decision to shelve her investigation for Newsnight about disgraced DJ Jimmy Savile.

She began her career at BBC Hereford and Worcester, before presenting on Breakfast and reporting from Northern Ireland and Scotland.

MacKean went on to work on Channel 4's Dispatches programme.

BBC director of news James Harding paid tribute to MacKean, saying she had earned a reputation as a "remarkably tenacious and resourceful reporter".

"In Northern Ireland, she won the trust of all sides and produced some of the most insightful and hard-hitting reporting of the conflict," he said.

"It was as an investigative reporter that she really shone, shining a light on issues from the dumping of toxic waste off the African coast to Jimmy Savile, the story for which she is probably best known."

...


以下、Twitterの貼り付け。

【続きを読む】
posted by nofrills at 03:00 | todays news from uk | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ケンブリッジ大学出版局がジャーナル『チャイナ・クオータリー』の記事の一部を中国国内からアクセスできなくした件(リンク集)

標題の件。ブログの地の文を書いている余裕がないのですが、記録のため、Twitterに投稿したものをざっと貼り付けておきます。本稿は、内容的にはリンク集です。

この件、何より必要なのは、原文(英語)でケンブリッジ大学出版局(Cambridge University Press, CUP)のステートメントを読むことです。英語報道ではpull out, remove, blockといった表現が錯綜していて、正確に何があったのか、どういうことが行なわれたのかがよくわかりません。ましてやそれが日本語に翻訳されるとますますわけがわからなくなります(変な例しか思いつかないのですが、911陰謀論で "pull it" というこなれた英語表現の意味をめぐって話が混乱したことを想起していただければと)。

CUPのステートメントへも下記でリンクしていますので、各自、リンク先でご確認ください。

日曜日(20日)には中国の検閲対象となったジャーナル、『チャイナ・クオータリー』の編集長や、検閲対象とされて中国国内からはアクセスできないようにされた論文の著者(研究者)のインタビューも出ています。それも下記にリンクしてありますので、各自、リンク先でご確認ください。

なお、本稿については、リンク先をお読みにならない場合は、SNSやはてブでのコメントは、ご遠慮いただきますよう、お願い申し上げます。

何があったのかについては:
Cambridge University Press blocks readers in China from articles
Richard Adams Education editor
Friday 18 August 2017 19.14 BST
https://www.theguardian.com/education/2017/aug/18/cambridge-university-press-blocks-readers-china-quarterly
Cambridge University Press has blocked readers in China from accessing hundreds of academic articles – including some published decades ago – after a request by Chinese authorities, arguing that it did so to avoid its other publications from being barred.

The publisher confirmed that hundreds of articles in China Quarterly, a respected scholarly journal, would be inaccessible within China, after a letter from the journal’s editor protesting against the move was published.

“We can confirm that we received an instruction from a Chinese import agency to block individual articles from China Quarterly from within China,” CUP said. “We complied with this initial request to remove individual articles, to ensure that other academic and educational material we publish remains available to researchers and educators in this market.”


【続きを読む】
posted by nofrills at 00:22 | todays news from uk | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年08月14日

ロンドン、国会議事堂のビッグ・ベンの鐘の音が、来週月曜から2021年まで聞けなくなる。

ロンドン、テムズ河畔に立つ国会議事堂の時計塔についている時計、愛称「ビッグ・ベン」には鐘があり、毎日時を告げている。また、「毎日正午に奏でられるビッグベンの鐘のメロディは、四つの音で奏でられる日本の学校でお馴染みのチャイムのメロディの基となった」ことでも知られている。

英国会のYouTubeアカウントがアップしている映像で、その「チャイムのメロディ」も、時を告げる鐘の音も確認できる。


この鐘の音が、しばらく聞けなくなるということが、今日発表された。大掛かりな修理を行なうため、来週月曜日(21日)から、4年間(2021年まで)止まるそうだ。英国のことだから、「2021年まで」というのが「2022年まで」になり、「2023年まで」になるかもしれない。 (^^;)

詳細は以下にて。

【続きを読む】
posted by nofrills at 23:19 | todays news from uk | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年08月13日

米シャーロッツヴィルでのネオナチのデモについて

ネオナチのすることは、基本的にちょっと書き留めるくらいでスルーするようにしているのだが、今回のこれはちょっとスルーできないような気がするのでブログに記録しておく。といっても、ブログの文を書こうとするとまた時間がかかってしまって結果的に塩漬けにしてしまうので、基本的にTwitterのログの貼り付け。

昨年の英国でのEUレファレンダム(6月)、米国での大統領選挙(11月)のあと、「反グローバリズムで移民排斥主義のアンチ・オーソリティーの勢力(極右勢力)が投票で勝つ」ということが、英米だけでなく欧州各国で起きるのではないかと予想され、英語圏メディアが「パニック報道」的なものを展開していたことをご記憶だろうか(英語圏メディアの日本版の一部でも見られたが)。米大統領選のあと、オーストリア大統領選挙(前回の結果が僅差だったため、再投票という判断が法的に下された)、オランダ総選挙、フランス大統領選挙……という具合に欧州各地で大きな選挙が行なわれ、そこで英国のUKIPや米国のトランプ支持者的な「アンチ・オーソリティの勢力」が、ある意味「ドミノ現象」的に勝利をおさめるのではないか、という予想がなされ、オーストリアの自由党(故ヨルグ・ハイダーの党、というと前回のパニック報道を思い出す方も多いだろう)、オランダのヘルト・ウィルダース(PVV)、フランスのマリーヌ・ルペン(FN)といった政党・政治家や、その側近(キングメイカー)たちが「次はこの人だ!」的に、BBCなど大手メディアで注目された。しかし結果は、誰も勝たなかった。「アンチ・オーソリティ」が勝利を収めたのは英米だけだ。

上に述べた国々のほか、今年総選挙が行なわれる欧州の大国で昨年から注目されていたのがドイツだが、選挙は9月に迫っているというのに、今、「国際報道」と呼ばれる報道機関はめっちゃ静かだ。というのも、「極右」ブームでパニック報道が繰り広げられていたときに「英米の次はオランダか、フランスか、ドイツか〜〜〜〜っ!」ときぃきぃ声で騒がれていた「アンチ・オーソリティ」の政党、AfDが、現実的に勝つ見込みがなくなったからだ。フランスのマリーヌ・ルペンと同様に若くて(40代)「いかつくて暴力的な極右勢力」のイメージとは遠い女性党首がこの4月に選挙戦出馬を見合わせると決断し、それによってAfDは「今までも常にどこかにいたような極右政党」的な存在になりそうだと報じられている。つまり、もう全然注目されていない。「欧州難民危機」と騒がれたころに英語圏でパニック報道を引き起こしていたPegidaなど、今は英語圏では名前を見かけることもない。あれらのパニック報道は組織の宣伝の役割を果たし、英国ではEDL創設者の通称「トミー・ロビンソン」や、EDL以上に過激な反イスラム団体「シャリーア・ウォッチ」を立ち上げたアン・マリー・ウォーターズ(この人、アイルランド人なんだよね。ブロガーで煽動家の「グイド・フォークス」もアイルランド人だけど)などがPegida UKなる団体を立ち上げたが、ニュースで名前を見ることはない。

だがそういったことだけで「よかった、極右はメディアの注目を失い、おとなしく、元いた巣窟に戻ったんだ」と短絡することもできない。英国でいえば、UKIPは政党としては溶け去ったが、UKIPが撒いた種は枯れずに「草の根」を構成しているし、フランスでは、中央は確かにエマニュエル・マクロンのEMが席捲しているかもしれないが地方議会などFNが一定の勢力を有しているといった具合だ。

というわけで、極右勢力にとっては、思い描いていたシナリオ(極右版の「世界同時なんちゃら」を描いていたと思われる)通りには行っていないかもしれないが、ガッカリするような結果を得ているわけでもない。何しろ、世界一の超大国アメリカが彼らの手中にあるのだ(と彼らは思っている)。

だから、オーストリアで負け(もしここで極右が勝ってたらえらいことになってたと思う……他の国とはシンボリズムが違う)、オランダで負け、フランスで負け、ドイツで戦う前から負けるなど、欧州でシケった結果しか出せていなくても、アメリカでは極右は元気だ。これまで社会の片隅で細々と「言論の自由がある!」ということを根拠に発言をしては無視され、「われわれを無視するのは、奴らにとってわれわれの言う真実が都合が悪いからだ」などと強がって支持者の間だけで盛り上がっていた地下組織が、政権の中枢に代弁者を持っている。そのことは、私は2016年11月までは想像してもいなかったが、彼らを非常に強くエンパワーしたのだと思う。メディアだってもう彼らのことを無視できないのだ。普通の大統領なら、ネオナチのスローガンを唱えるような連中のことはばっさりと非難する発言をするし、そんなことはほとんどニュースにもならない(なるとしてもベタ記事だ)。しかしトランプは「普通の大統領」では全然なく、ネオナチのスローガンを唱えるような連中をばっさり非難することはしない。そして、そのこと自体がニュースになり、それがまたネオナチを勇気付ける。「俺たちの大統領だ」、「アメリカは、自分たちが望む方向に変わりつつある」と。

bbcnews13aug2017.png

US President Donald Trump is facing criticism for his response to the violence at a white supremacist rally.

A woman was killed and 19 people injured when a car ploughed into a crowd of counter-protesters in Charlottesville, Virginia.

Mr Trump condemned violence by "many sides" - but stopped short of explicitly condemning the far-right.

http://www.bbc.com/news/world-us-canada-40915569


以下、シャーロッツヴィルで何があったかの経緯を含め、Twitterのログ。

【続きを読む】
posted by nofrills at 23:56 | i dont think im a pacifist/words at war | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

【2003年に翻訳した文章】The Nuclear Love Affair 核との火遊び
2003年8月14日、John Pilger|ジョン・ピルジャー

私が初めて広島を訪れたのは,原爆投下の22年後のことだった。街はすっかり再建され,ガラス張りの建築物や環状道路が作られていたが,爪痕を見つけることは難しくはなかった。爆弾が炸裂した地点から1マイルも離れていない河原では,泥の中に掘っ立て小屋が建てられ,生気のない人の影がごみの山をあさっていた。現在,こんな日本の姿を想像できる人はほとんどいないだろう。

彼らは生き残った人々だった。ほとんどが病気で貧しく職もなく,社会から追放されていた。「原子病」の恐怖はとても大きかったので,人々は名前を変え,多くは住居を変えた。病人たちは混雑した国立病院で治療を受けた。米国人が作って経営する近代的な原爆病院が松の木に囲まれ市街地を見下ろす場所にあったが,そこではわずかな患者を「研究」目的で受け入れるだけだった。

……全文を読む